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医務官から薬の注意点を確認したラウニは、急いでオリベルの執務室へと戻る。
形だけのノックをして、すぐさま奥の部屋へと向かった。
寝台に横たわっているオリベルは、やはり苦しそうに「うんうん」と唸っていた。だけど、ラウニが来ると平気な振りをするのだ。
先ほどだって、水を飲んだだけで楽になっただなんて、ラウニを心配させないようにと振舞っていた。
ラウニがそれに気づいたとしても、知らんぷりするのも必要だろう。
「オリベル団長……薬をもらってきました。飲み薬と、あとは塗り薬です」
今だって苦しそうに唸っていたのに、ラウニが声をかけただけでその表情を少しでも引き締めようとする。
「身体、起こせますか?」
支えるように手を伸ばすと、ラウニの助けなど不要だとでも言うように身体を起こす。
「君には……みっともないところばかり……見せているな……」
「怪我をして寝ているのは、みっともないところではありませんよ」
まずは飲み薬を手渡した。黒い小瓶に入っている液体の薬だ。それを見ただけで、顔をしかめるオリベルが、少しかわいらしく見えた。
「この薬か……不味いんだよな……」
「良薬は口に苦しと言うじゃないですか。ほら、くいっといってください。くいっと」
まるでお酒の一気飲みのようなラウニの言い方に、オリベルも心を決めたのか、一気にくいっと飲み干した。
「……不味い」
「お口直しの果実水です」
すぐさま、さわやかな果実水の入ったグラスを手渡した。
「ありがとう」
オリベルは、それも一気に飲んだ。
「はぁ……」
「では、傷口の手当てをしますね。出血は止まっているようですけれども、毒の中和をしなければなりませんから」
手当をするために、ラウニはオリベルのシャツを脱がしにかかる。
「お、おい……何をするんだ」
「何って……手当をするんですよ? そのためにはシャツを脱がないと。団長、手もふるえているから、釦をはずすのが難しいのかと思ったのですが……」
「な、なるほど。そうか……だったら、お願いする……」
いったい何を考えたのだろうか。
そんな気持ちを胸に秘めて、チラリとオリベルを見やる。ほんのりと頬が赤く染められているのは、まだ熱が高いからだろうか。
先ほど、新しいシャツに着替えさせたばかりだというのに、それもまた、汗でしっとりと濡れていた。
「先に、身体を拭きますね。汗をかいて気持ち悪いですよね」
てきぱきと動くラウニを、オリベルは黙って視線で追っていた。
それをどこか誇らしく感じたラウニは、余計に張りきって動き回る。
オリベルは、ラウニを信頼している。それが感じられるからだ。
桶にためてある温湯に新しい手巾を浸して、きつく絞る。
「まだ、身体はお辛いですか?」
「いや。あの苦い薬が効いてきた、ような気がする」
「それは、よかったです」
ほっと安堵のため息をつき、今度は傷口に塗り薬を塗って、綿紗をあてた。そこをぐるぐると包帯を巻くのだが、場所が場所なだけに巻きにくい。どうしても、オリベルに抱きつくような形になってしまう。
汗ばんだ肌からする雄々しいにおいにすら、ドキリとしてしまう。背中にまで手を伸ばして包帯を巻こうとすれば、その胸板の厚さに心臓が跳ねる。
緊張のあまり、ゴクリと喉を上下させたがその音が彼に聞かれてしまったのではないか。
だが、オリベルはされるがままだった。
「はい、オリベル団長。終わりました。こちら、新しいシャツです」
「ありがとう」
それでもオリベルは着替えにくそうだった。ラウニが手を出すと、オリベルは驚いたように目を見開いた。
「オリベル団長。一人でできないときは、私を頼ってください。私だって、事務官なんですから」
「だが、事務官の仕事に俺の着替えの手伝いは入っていないだろう?」
「そう……かもしれないですけど? ですが、今さらですよね」
他の事務官も、ラウニがオリベルを起こして、身支度を整えさせ、朝ご飯を食べさせ、仕事をさせているというのを知っている。
むしろ、あのオリベルを扱いこなせるのはラウニしかいないのでは? と言われているくらいだ。
ただでさえ、他の事務官たちは近づきたくない第五騎士団。
そのなかでも、ラウニだけはどの騎士団に対しても平等に接していた。と、周囲からはそう見えるのだ。
ラウニにとっては第五騎士団が贔屓の騎士団なのだが、他の事務官がまったく第五騎士団を気にとめないため、ラウニが贔屓して平等になるという扱いを受けている。
とにかく事務官は、騎士らの補佐をするのが仕事。広義に解釈すれば、オリベルの着替えも事務官の仕事ととらえても問題ないのだが、それを大々的に認めてしまうと、第一騎士団に所属する彼らの貞操が危ぶまれる。
「細かいことは気にせずに、お休みください」
ラウニはもう一度横になるようにと、オリベルを促した。
形だけのノックをして、すぐさま奥の部屋へと向かった。
寝台に横たわっているオリベルは、やはり苦しそうに「うんうん」と唸っていた。だけど、ラウニが来ると平気な振りをするのだ。
先ほどだって、水を飲んだだけで楽になっただなんて、ラウニを心配させないようにと振舞っていた。
ラウニがそれに気づいたとしても、知らんぷりするのも必要だろう。
「オリベル団長……薬をもらってきました。飲み薬と、あとは塗り薬です」
今だって苦しそうに唸っていたのに、ラウニが声をかけただけでその表情を少しでも引き締めようとする。
「身体、起こせますか?」
支えるように手を伸ばすと、ラウニの助けなど不要だとでも言うように身体を起こす。
「君には……みっともないところばかり……見せているな……」
「怪我をして寝ているのは、みっともないところではありませんよ」
まずは飲み薬を手渡した。黒い小瓶に入っている液体の薬だ。それを見ただけで、顔をしかめるオリベルが、少しかわいらしく見えた。
「この薬か……不味いんだよな……」
「良薬は口に苦しと言うじゃないですか。ほら、くいっといってください。くいっと」
まるでお酒の一気飲みのようなラウニの言い方に、オリベルも心を決めたのか、一気にくいっと飲み干した。
「……不味い」
「お口直しの果実水です」
すぐさま、さわやかな果実水の入ったグラスを手渡した。
「ありがとう」
オリベルは、それも一気に飲んだ。
「はぁ……」
「では、傷口の手当てをしますね。出血は止まっているようですけれども、毒の中和をしなければなりませんから」
手当をするために、ラウニはオリベルのシャツを脱がしにかかる。
「お、おい……何をするんだ」
「何って……手当をするんですよ? そのためにはシャツを脱がないと。団長、手もふるえているから、釦をはずすのが難しいのかと思ったのですが……」
「な、なるほど。そうか……だったら、お願いする……」
いったい何を考えたのだろうか。
そんな気持ちを胸に秘めて、チラリとオリベルを見やる。ほんのりと頬が赤く染められているのは、まだ熱が高いからだろうか。
先ほど、新しいシャツに着替えさせたばかりだというのに、それもまた、汗でしっとりと濡れていた。
「先に、身体を拭きますね。汗をかいて気持ち悪いですよね」
てきぱきと動くラウニを、オリベルは黙って視線で追っていた。
それをどこか誇らしく感じたラウニは、余計に張りきって動き回る。
オリベルは、ラウニを信頼している。それが感じられるからだ。
桶にためてある温湯に新しい手巾を浸して、きつく絞る。
「まだ、身体はお辛いですか?」
「いや。あの苦い薬が効いてきた、ような気がする」
「それは、よかったです」
ほっと安堵のため息をつき、今度は傷口に塗り薬を塗って、綿紗をあてた。そこをぐるぐると包帯を巻くのだが、場所が場所なだけに巻きにくい。どうしても、オリベルに抱きつくような形になってしまう。
汗ばんだ肌からする雄々しいにおいにすら、ドキリとしてしまう。背中にまで手を伸ばして包帯を巻こうとすれば、その胸板の厚さに心臓が跳ねる。
緊張のあまり、ゴクリと喉を上下させたがその音が彼に聞かれてしまったのではないか。
だが、オリベルはされるがままだった。
「はい、オリベル団長。終わりました。こちら、新しいシャツです」
「ありがとう」
それでもオリベルは着替えにくそうだった。ラウニが手を出すと、オリベルは驚いたように目を見開いた。
「オリベル団長。一人でできないときは、私を頼ってください。私だって、事務官なんですから」
「だが、事務官の仕事に俺の着替えの手伝いは入っていないだろう?」
「そう……かもしれないですけど? ですが、今さらですよね」
他の事務官も、ラウニがオリベルを起こして、身支度を整えさせ、朝ご飯を食べさせ、仕事をさせているというのを知っている。
むしろ、あのオリベルを扱いこなせるのはラウニしかいないのでは? と言われているくらいだ。
ただでさえ、他の事務官たちは近づきたくない第五騎士団。
そのなかでも、ラウニだけはどの騎士団に対しても平等に接していた。と、周囲からはそう見えるのだ。
ラウニにとっては第五騎士団が贔屓の騎士団なのだが、他の事務官がまったく第五騎士団を気にとめないため、ラウニが贔屓して平等になるという扱いを受けている。
とにかく事務官は、騎士らの補佐をするのが仕事。広義に解釈すれば、オリベルの着替えも事務官の仕事ととらえても問題ないのだが、それを大々的に認めてしまうと、第一騎士団に所属する彼らの貞操が危ぶまれる。
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