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大聖堂の鐘が鳴り響く。
透き通るような青空の下、イライアスとシェリルの結婚式が執り行われた。
大聖堂の階段下の広場には、二人の姿を一目見ようと大勢の人が集まっている。
広場へつながる階段を、二人は腕を組んで、一歩、一歩、下りていく。
「おめでとう、シェリル。悔しいけれど、お兄様もね」
二人に向かって花びらをふんわりとまいたのはクローディアだった。そんな彼女の隣には、マクシムの姿がある。
この二人の婚約も先日発表されたばかりだ。
「ありがとうございます、クローディア様」
シェリルは手にしていたブーケを、クローディアに押し付けた。クローディアは目を丸くして驚いたものの、それを手にして嬉しそうにマクシムと顔を見合わせる。
「兄上、シェリルさん。おめでとうございます」
「ありがとう、フランシス」
「ありがとうございます、フランシス様……」
イライアスは弟のフランシスと仲が良い。それはシェリルすらうらやましく思ってしまうくらいに。
「シェリルさん。ですが、本当に兄上でよかったんですか? 後悔していませんか?」
「おい、何を言い出すんだ?」
フランシスの言葉にイライアスが慌て始める。
「え? 何をって事実をきちんと伝えておこうかと。兄上がシェリルさんを好きすぎて、父上がもってきた縁談をことごどく断り。それでも兄上はなかなかシェリルさんに気持ちを伝えていないだろうし……だから父上があのような無茶な要求を……」
「んっ?」
フランシスが片眉をあげた。
「なんの話だ?」
「そうやって周りにも気持ちがバレバレなのに、本人になかなか伝えることができず、挙げ句、命令で結婚しろと言うような男でよかったんですか?」
「おい、フランシス。その話、後で詳しく聞かせろ」
そんな兄弟のやりとりがほほ笑ましく、シェリルは笑顔で答える。
「はい、後悔なんてしておりません。イライアス様のおかげでわたしは前に進むことができましたから……」
それを耳にしたイライアスは、どうだと言わんばかりに胸を張っていた。
そしてまた一歩、歩を進める。
「シェリル、おめでとう」
「お父様……お兄様もありがとうございます」
ルークは手を振って、イライアスを呼んでいる。兄は何かイライアスの耳元でささやいたようなのだが、それはシェリルの耳には届かない。
内緒話を終えたイライアスが、ルークと頷き合う。男同士の内緒話というものだろうか。
広場まで下りていく間、たくさんの人に「おめでとう」と声をかけられ、シェリルも嬉しいやら恥ずかしいやら、なんともいえない感情に包まれた。
だが、この場にキャサリンの姿は見えない。
彼女はあのときのお茶会での件が公になり、公爵から蟄居を言い渡されたのだ。それが明けたら、どこかに嫁ぐとも聞いている。
*~*~*~*
さわりと風が吹いて、薄紅色の小ぶりの花を揺らした。太陽の光はやわらかく地上へと降り注ぐ。
「これを食べてみるか? ほら、口を開けろ」
庭園にある円筒屋根の東屋では、一組の親子がお茶の時間を楽しんでいる。
「おとうさま、もっとくださいな。あ~ん」
イライアスの膝の上に座っているのは、今年三歳になった愛娘のマリルだ。豊かに波打つストロベリーブロンドの髪は、母親に似たものだ。
「マリルは、本当にイチゴが大好きね」
「マリル、イチゴ、すきよ」
唇にはイチゴの果汁がついて、真っ赤になっている。
「おかあさまは、イチゴ、きらい?」
「ええ、大好きよ。イチゴはね。お父様とお母様にとって、大事なものだから」
イチゴを摂取することで発情していたシェリルだが、マリルを産んでからというもの、それがパタリと止まった。
今ではこうやって、普通にイチゴを楽しむことができる。幼いころから大好きだったイチゴを、心配することなく心行くまで堪能できるようになるとは、あのときは思ってもいなかった。
ルークが言うには、出産で体質がかわったのだろうとのことだ。出産を機に、大きく体質がかわるのは、珍しいことではないらしい。
どうやらイライアスは、それを結婚式の日にルークから聞いたようだ。
「おとうさまも、あ~ん」
マリルのふくふくとした手がイチゴをつまみ、イライアスの口の前に差し出す。
「あ~ん」
そう言って口を開けているイライアスだが、彼はそのままのイチゴが苦手だ。今も、眉間にしわを寄せつつ、イチゴを食べている。
「おとうさま、おいしい?」
「ああ、おいしいね」
「もっと、あ~んしてあげる」
無邪気なマリルは、イライアスにイチゴを食べさせるのが面白くて仕方ないのだろう。
「マリル。お母様がイチゴを食べたそうな顔をしているぞ?」
マリルの身体がふわっと浮いて、シェリルの膝の上にうつった。
「お父様は、お腹がいっぱいみたい。お母様と一緒に食べましょうね」
にっこりとほほ笑んで、シェリルはマリルの口の前にイチゴを差し出した。
「マリル、はい、あ~ん」
そんな二人の様子を、イライアスが幸せそうに見つめていた。
【完】
透き通るような青空の下、イライアスとシェリルの結婚式が執り行われた。
大聖堂の階段下の広場には、二人の姿を一目見ようと大勢の人が集まっている。
広場へつながる階段を、二人は腕を組んで、一歩、一歩、下りていく。
「おめでとう、シェリル。悔しいけれど、お兄様もね」
二人に向かって花びらをふんわりとまいたのはクローディアだった。そんな彼女の隣には、マクシムの姿がある。
この二人の婚約も先日発表されたばかりだ。
「ありがとうございます、クローディア様」
シェリルは手にしていたブーケを、クローディアに押し付けた。クローディアは目を丸くして驚いたものの、それを手にして嬉しそうにマクシムと顔を見合わせる。
「兄上、シェリルさん。おめでとうございます」
「ありがとう、フランシス」
「ありがとうございます、フランシス様……」
イライアスは弟のフランシスと仲が良い。それはシェリルすらうらやましく思ってしまうくらいに。
「シェリルさん。ですが、本当に兄上でよかったんですか? 後悔していませんか?」
「おい、何を言い出すんだ?」
フランシスの言葉にイライアスが慌て始める。
「え? 何をって事実をきちんと伝えておこうかと。兄上がシェリルさんを好きすぎて、父上がもってきた縁談をことごどく断り。それでも兄上はなかなかシェリルさんに気持ちを伝えていないだろうし……だから父上があのような無茶な要求を……」
「んっ?」
フランシスが片眉をあげた。
「なんの話だ?」
「そうやって周りにも気持ちがバレバレなのに、本人になかなか伝えることができず、挙げ句、命令で結婚しろと言うような男でよかったんですか?」
「おい、フランシス。その話、後で詳しく聞かせろ」
そんな兄弟のやりとりがほほ笑ましく、シェリルは笑顔で答える。
「はい、後悔なんてしておりません。イライアス様のおかげでわたしは前に進むことができましたから……」
それを耳にしたイライアスは、どうだと言わんばかりに胸を張っていた。
そしてまた一歩、歩を進める。
「シェリル、おめでとう」
「お父様……お兄様もありがとうございます」
ルークは手を振って、イライアスを呼んでいる。兄は何かイライアスの耳元でささやいたようなのだが、それはシェリルの耳には届かない。
内緒話を終えたイライアスが、ルークと頷き合う。男同士の内緒話というものだろうか。
広場まで下りていく間、たくさんの人に「おめでとう」と声をかけられ、シェリルも嬉しいやら恥ずかしいやら、なんともいえない感情に包まれた。
だが、この場にキャサリンの姿は見えない。
彼女はあのときのお茶会での件が公になり、公爵から蟄居を言い渡されたのだ。それが明けたら、どこかに嫁ぐとも聞いている。
*~*~*~*
さわりと風が吹いて、薄紅色の小ぶりの花を揺らした。太陽の光はやわらかく地上へと降り注ぐ。
「これを食べてみるか? ほら、口を開けろ」
庭園にある円筒屋根の東屋では、一組の親子がお茶の時間を楽しんでいる。
「おとうさま、もっとくださいな。あ~ん」
イライアスの膝の上に座っているのは、今年三歳になった愛娘のマリルだ。豊かに波打つストロベリーブロンドの髪は、母親に似たものだ。
「マリルは、本当にイチゴが大好きね」
「マリル、イチゴ、すきよ」
唇にはイチゴの果汁がついて、真っ赤になっている。
「おかあさまは、イチゴ、きらい?」
「ええ、大好きよ。イチゴはね。お父様とお母様にとって、大事なものだから」
イチゴを摂取することで発情していたシェリルだが、マリルを産んでからというもの、それがパタリと止まった。
今ではこうやって、普通にイチゴを楽しむことができる。幼いころから大好きだったイチゴを、心配することなく心行くまで堪能できるようになるとは、あのときは思ってもいなかった。
ルークが言うには、出産で体質がかわったのだろうとのことだ。出産を機に、大きく体質がかわるのは、珍しいことではないらしい。
どうやらイライアスは、それを結婚式の日にルークから聞いたようだ。
「おとうさまも、あ~ん」
マリルのふくふくとした手がイチゴをつまみ、イライアスの口の前に差し出す。
「あ~ん」
そう言って口を開けているイライアスだが、彼はそのままのイチゴが苦手だ。今も、眉間にしわを寄せつつ、イチゴを食べている。
「おとうさま、おいしい?」
「ああ、おいしいね」
「もっと、あ~んしてあげる」
無邪気なマリルは、イライアスにイチゴを食べさせるのが面白くて仕方ないのだろう。
「マリル。お母様がイチゴを食べたそうな顔をしているぞ?」
マリルの身体がふわっと浮いて、シェリルの膝の上にうつった。
「お父様は、お腹がいっぱいみたい。お母様と一緒に食べましょうね」
にっこりとほほ笑んで、シェリルはマリルの口の前にイチゴを差し出した。
「マリル、はい、あ~ん」
そんな二人の様子を、イライアスが幸せそうに見つめていた。
【完】
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