【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

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第二章(2)

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「昨日、言うのを忘れていましたが。おはようのキスは、それほどしつこくやる必要はありません。唇と唇を合わせるだけでいいのです」
「そうなのか? 一昨日、君は濃厚にキスをすればいいと言っていなかったか?」

 興奮状態にあったというのに、あのときの言葉はきっちりと彼の耳に届いていたようだ。

「それは、相手が恋人とか奥様の場合です。私と団長さんの関係はそういうものではありませんよね? 呪いを受けた人とその呪いを治療する人。つまり患者と治療者。それだけの関係ですから、軽いキスで問題ありません。むしろ……」

 そこでリネットは太ももに当たる硬いものを意識する。

「朝から濃厚なキスをしたら、呪いが緩和されているのに、別の意味で元気になりませんか?」
「ああ、これは朝だから仕方ない。これくらいであれば問題ない。先ほどまでの勃ち具合と今はまったく違う」
「左様ですか……それではおやすみなさい……」

 おはようのキスを終えたリネットは、二度寝のために毛布を肩まで引き上げた。

 昨日の朝、ラウルと初めて「おはようのキス」を交わした。だが、リネットは魔法院にある自分の部屋にいたのだ。

 朝からしつこいくらいに扉を叩かれ、それでもリネットが起きないとわかれば、ブリタの権力によって扉の鍵は開けられ、ラウルが部屋に押し入ってきた。

 まだベッドの中にいたリネットだが、これまたブリタの許可が出たことでラウルは寝ぼけているリネットに「おはよう」と声をかけ、濃厚なキスをして立ち去っていった。キスをするのは事前合意されているためなんら問題はない。問題があるとしたら、リネットがまだ寝ている時間にラウルがキスを求める必要があることだろう。

 そして彼は、これだと効率が悪いと言い出した。仕事の前に「おはようのキス」をしたいラウルは、仕事の前にリネットの部屋を訪れる必要がある。しかし、肝心のリネットは寝ていて部屋を開けてくれない。となれば、ラウルはブリタに助けを求め部屋を開けてもらわなければならない。どこからどう見ても効率は悪い。

 その結果、ラウルが目覚めてすぐ側にリネットがいれば問題ないと、そう口にしたのが昨日の夕方。するとブリタもそのほうがいいだろうと言い、エドガーにいたっては笑っているだけ。

 他の魔法師たちはブリタには逆らえないため、ブリタがいいと言えばいい。
 昨夜のうちにリネットはラウルの部屋へと移ることとなった。荷物はまだ鞄の中で整理できていない。

「こら。二度寝をするな。起きろ」

 勢いよく毛布が剥ぎ取られた。

「え? ええ? ちょっと、何をするんですか! おはようのキスはしたじゃないですか。あとは今日一日、団長さんは自由に過ごしてください。それでは、また明日。おやすみなさい」

 ラウルから毛布を奪い返そうとするが、力では彼に敵うわけもない。

「君の生活は不摂生だ」
「へ?」
「昨日、俺は君の部屋に行った。だが、何度、俺が扉を叩いても君は目を覚まさない。仕方なく魔法師長にお願いしたが……。本来であれば、起きていておかしくない時間だ。あの時間は人間の活動時間に入っている。その時間に目が覚めないのは、君の生活が乱れている証拠!」
「はぁ……」

 リネットは、好きな時間に寝て好きな時間に起きる。だから太陽が沈んでから目を覚ますこともあれば、太陽が真上にあっても寝るときもある。そして食事の時間も決まっていない。お腹が空いたら食べるし、空かないときは食べない。

 リネット自身は不摂生だとは思っていない。非常に効率的な生き方なのだ。

「だからこれから、毎朝きちっと食事をしなさい。一緒に食堂へ行く」
「ええ?」

 二度寝する気満々のリネットにとって、今から食事とか考えられない。

「いいか? 君が不摂生な生活をして倒れてしまったら、俺と毎日『おはようのキス』ができなくなるだろう? そうなれば俺は死んでしまう。つまり、君が健康で文化的な最低限度の生活を送ることで、俺の命が守られるというわけだ」

 彼の言うこともよくわかるし、理にかなっている。だがリネットとしては、今までと同じように自由に生きたい。

「君のせいで俺が死んでもいいのか? 俺が死んでしまえば、君は一生、自分を責めるだろう。君はそういう人間だからな。そうでなければ、俺のキスの相手など引き受けない」
「私が団長さんの相手を引き受けたのは、この呪いを調べるためです。深い意味はありません」
「動機がなんであろうがかまわない。だが、俺が死んでもいいのか?」
「そ、それは……」

 何度も「俺が死んでもいいのか?」と聞かれると、罪悪感がひしひしと生まれてくる。
 きっとこれが彼の作戦なのだろう。とうとうリネットは彼の圧に負けてしまった。
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