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第五話

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「お酒くさい。ちょっと離れて」

 ユリアはぐいぐいと彼の身体を押した。だが、マレクはびくともしない。

「ユリアは、こんな俺が嫌いか?」

 捨てられた子犬のような目で見つめられたら、拒むことなどできない。
 策士だ。完全に策士である。ユリアの弱いところを確実についてきている。

 このタイミングで愛を告げるのもずるい。そして、こうやって求めてくるのも悔しい。
 彼は学生時代から頭がよかった。

「俺は、君と結婚したときから君が欲しかった。だけど、きちんと気持ちを伝えていないのに、身体を求めるのはどうかと……一人、悶々としていた……」

 悶々と言われてしまうと、その様子を想像してしまう。

「もしかして、結婚をしてから今まで、私に触れなかったのは……」
「そんなことをしたら、我慢ができなくなるだろう? 同じ寝台で寝るのが、俺にとってどれだけ拷問だったか、君にわかるか?」

 悶々の次は拷問だった。

「だから、端っこに?」
「う、うるさいっ」

 とうとうマレクは耳の上まで真っ赤にしてしまった。

「なぁ、ユリア。俺は君が欲しい……」

 その言葉は間違いなく彼の本音だろう。そして、ユリアを愛していると言ったその気持ちも。

「……はい」

 そう答えるのも恥ずかしく、ユリアは顔を彼の胸元に埋めていた。
 首筋に何か生温かいものが触れる。

「なっ……ちょ、ちょっと。何を……」

 箍がはずれたのか、マレクはユリアに唇を押し付けていた。

「ユリア……今から君を抱いてもいいか? 初夜のやり直しだ。むしろ、結婚式からやり直したいくらいだが……」

 その言葉には悔しさが滲み出ている。

 結婚式――あれも義務的な式だった。父親が生きているうちにという気持ちが強く働いた。

「ありがとう、マレク。きっと、私のせいでもあるよね。お父様が生きているうちにって……」

 ユリアも自然と言葉がくずれた。これは、学生時代のあのときと同じような、そんな懐かしい口調でもある。今までつけていた、愛されない妻という仮面が外れたのかもしれない。

「その想いは俺も同じだ。俺たちの仲を認めてほしいという気持ちは強くあった」
「結婚式のやり直しはできないけれども、私たちの関係はいつからでもやり直せると思う」
「そうか……君は昔からかわっていないな……」

 ふわっとユリアの身体が浮いた。マレクによって抱き上げられている。

「マレク……」

 おろされた先は寝台だ。心臓が激しく打ちつけている。

 これから起こることに期待はしている。だが、不安でもあり、怖い。

「俺が、信じられないか? そう思われても仕方ないとは思っている。だが、これだけは信じて欲しい。俺は、ユリアを……愛している。君が俺を愛していないと言うのであれば……」

 そこで彼は苦しそうに顔をしかめる。

「君を閉じ込めて、俺を好きになるように躾けてやる……」

 唇が重なる。これだって、結婚式の義務的な誓いの口づけ以降、初めてである。

「……んっ」

 鼻から抜けるような甘い息に、ユリア自身も驚いた。
 それに機嫌をよくした彼は、閉じている唇の隙間から舌を入れてくる。

「……ぁっ……」

 こんなに激しい口づけは生まれて初めて。
 舌はすぐに絡めとられ、自由を奪われる。苦しくて顔を背けようとしても、彼はそれを許さない。
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