【R18】あなたを不能にした娼婦は私です、ごめんなさい。

澤谷弥(さわたに わたる)

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昨夜はお楽しみでしたね(4)

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 図書館の入口に立つと、ガラスの扉がウィンと勝手に開く。自動扉があるのに、全自動洗濯機はない。むしろ、魔法扉とか全魔法洗濯機とか言ったほうがいいのだろうか。

 カウンターにいる係の人は、王宮文官と呼ばれる人らしい。王宮文官とは、公務員みたいなものだろう。

「こんにちは」

 いつもの女性が声をかけてくれた。私も「こんにちは」と返す。
 なんとなく暇つぶしに足を運んでいる図書館なのだが、今日は目的がはっきりとしていた。

「あのぅ。マナーとか行儀の本ってありますか?」
「ありますよ」
「僕が案内しましょう」

 第三者の声が、割って入る。

「あ、えっと」

 誰だっけ?

 よく、図書館で顔を合わせる男性。さらさらと流れ落ちるような砂金のような髪。この世界で金髪は珍しくはないけれども、ここまでさらさら金髪はあまり見ない。みな、どこか癖があるのだ。さらさら金髪といえば、私が知っているかぎりでは、ウィルフォードとオルガー大公と国王くらいである。

「イライアスです。ライと呼んでほしいと、以前にもお伝えしたはずですが」

 そうだっけ? と首を傾げると、イライアスは少しだけ淋しそうに微笑んだ。

「僕って、そんなに印象が薄いですかね?」
「そ、そんなことないですよ。私が忘れっぽいというか、物覚えが悪いというか」

 覚えが悪い自覚はある。

「ご、ごめんなさい」

 それは何度もあそこで口にした言葉。

「いえ、僕も意地悪しすぎました。でも、これからは覚えていただけると嬉しいです」
「わかりました、ライさん。これから、よろしくお願いします」

 その言葉で、イライアスは明るい笑みを作った。後ろにキラキラとお星様が見えるような笑みである。

「はい。では、書棚に案内しますね」

 私が彼の後ろをついていこうとすると、カウンターの女性が小さな握りこぶしを作って微笑んでいる。それはまるで「頑張って」と何かを応援しているようにも見えるのだが。

 案内された場所は、一番奥に並んでいる書棚。

「マナーとか行儀の本でしたよね?」
「あ、はい。その、挨拶の仕方とか、まぁ、そういった基本的なところから学びたいのですが」
「なるほど。健気ですね」

 何に対して健気なのか、さっぱりとわからない。

「こちらにあります。アイリさんなら、この辺の本がよろしいのではないでしょうか?」

 イライアスは書棚から一冊の本を抜き取り、中身をパラパラと確認する。それを私が横からのぞき込む。

 イラストが多くてわかりやすい。

「あ、まずはこれにしてみます」
「よかった。気に入ってもらえて。他にもオススメの本があるのですが、どうですか?」

 オススメしてくれるのなら、その行為をありがたく受け取る。なんだかんだで、まだこの国、いやこの世界には疎いのだ。もしかしたら、私の常識とは異なる隠れたマナーがあるかもしれないし。

「是非とも、お願いします」
「では、こちらに」

 マナーの本はこの書棚にあると言っていたのに、違う書棚に案内される。

「あの、こちらにはどんな本があるのでしょう?」
「伝説の異界人について、ですかね?」

 ドッキンと心臓が大きく動いた。

「えぇと? 私はそういった本ではなくて、マナーの本が読みたかったのですが」
「伝説の異界人には興味がないのですか?」

 イライアスがセルリアンブルーの瞳で見つめてくる。

「え、あぁ、そうですね。今は興味がありません」
「なるほど。今は、ね」
「ちょっと、覚えることがいっぱいありすぎまして。ただでさえ物覚えが悪いのに」
「でも、そうやって努力する女性は好きですよ?」

 イライアスは、私を励ましてくれているのだろう。この世界の人は、みんな優しいなぁとしみじみと感じた。

「他にも、何かお探しの本はありますか? あ、と。すみません」

 身体の向きを変えたイライアスは、何かにつまずいたのか、よろりとよろめいた。その時に慌てたようで、私のスカーフに触れてしまう。

 ハラリとスカーフが落ちる。

「あぁ。次から次へとすみません」

 ささっとスカーフを拾い上げるだけなのに、それすら絵になるような男性だ。

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