アラサー喪女騎士ですが、護衛対象の年下王子に押し倒されました

澤谷弥(さわたに わたる)

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 彼の指が、私の涙を拭う。
 目頭が熱い。

「私も……。殿下のことをお慕いしております」

 彼の指の熱に触れ、つい言葉が漏れてしまった。
 ずっと隠していた気持ちを。ずっと誤魔化していた気持ちを。

 いつからだなんてわからない。だけど、いつでも目が離せなかったし、気になる存在だった。専属騎士という地位を利用して側にいられるだけで幸せだった。

 彼とは十歳も年の差があり、しかも私のほうが年上だ。王妃様と殿下の間の年齢。彼の恋愛対象になるはずはないと、そう思っていた。
 だから彼を好いている気持ちも、恋とか愛とかではなく、庇護欲からくるものだと思っていた。そう思っているほうが楽だった。

 成人したレインハルト殿下は、私ではない誰かと結婚をする。

 ずっとずっと、そう思っていた。そうなる前に、自分の結婚を決めておきたいという気持ちと、彼の成人を見届けるまではという気持ちが交錯していて、流れに身を任せていた。

「今日のパーティーだって、お前だって候補の一人だったんだ。そう、お前の両親には伝えていたんだが……」
「あっ」

 だからあのとき、お母様は困った顔をしていたんだ。
 私が「いつもと同じ式典用の騎士服を着る必要がある」と、頑なに口にしていたから。

「今日のパーティーも僕たち関係者にとっては、僕とアンリのためのパーティーだったんだけどね。今日のあの場で僕はアンリに求婚するつもりだった。だけど、デラクス辺境伯との話を勝手に進めているし。こうなったら、力づくでお前を僕のものにするしかないと思った」

 殿下は私の乳房を下から包み込んだ。

「君を、抱いてもいいか?」

 そんな顔で言われてしまったら、胸が軋む。だけど、婚約もしていないのに『はい』とは言えない。

「ダメですよ……。婚約もしていないですし」
「婚約、したらいいのか?」
「それは……」

 婚前交渉だって珍しいものではないけれど、やはりその辺は節度を持ちたい。
 と思って二十八年。見合いに十四回も失敗していたら、もちろん、ぺっかぺかの処女。そこだけは胸を張って言える。
 レインハルト殿下は、拘束していた私の手を解いてくれた。
 押し広げられたシャツも上着も、そっとかけ直してくれる。上着の鉤を二つだけ、閉じた。

 寝台からおりると、机の引き出しから何かを取り出す。
 うん、なんとなく予想はつくけれど、用意周到すぎない?

「ここにサインをしろ。僕の両親からも、お前の両親からも、サインはもらっている。お前がサインしたら、すぐに出してくる。それなら、問題ないだろ?」

 国王まで認めているなら、問題はないだろう。だが、それよりも。

「なぜ陛下たちからサインまでいただいているのですか。あ、こっちは、私の両親の分まで……」
「僕が、ずっとアンリと結婚すると言い続けていた賜物だな」

 そのようなことをどや顔で言われても、困る。
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