普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?

サクラギ

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本編

5 住み込みのお仕事

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 次の日、クロードが指定した馬車に乗り、ひそかに神殿を出た。神殿の入り口付近に、馬に乗るブラッドを見つけたけど、馬車を止めてもらう気にはならなかった。とても綺麗な姿だった。寂しそうに見られていたなと思うのは、俺の願望だ。ブラッドには俺がどこにいるか伝えてないし、馬車の中にいる俺を見つけられるとは思えない。

 クロードは仕事でついて行けない、御者に全て任せてあるから安心してと言っていた。住み込みで働ける場所があると聞いている。
 馬車が通って行く道は、貴族街から一般街を通り越して、さらに遠くへ行く。感覚で行くと1時間くらい馬車に揺られていて、ずいぶん遠くまで行くのだなと思ったけど、ブラッドから離れられるのならその方が良いと思えた。

 山と湖がある。緩やかな山肌に点々と動物がいるのがわかる。馬だ。馬の飼育場所なのだろうか。小屋があるのは馬屋なのか。その奥に施設がある。四角い三階建ての建物が四つ。十字に切る形に建っている。ひとつひとつの建物が大きい。その一つの棟に馬車が近づいて行き、建物の前で停まった。御者がドアを開けてくれて、建物の中へ行くように言われた。馬車が去って行くのを見送り、建物に向き合った。

 建物のわきには干し草が積んである。肥料のような袋も積まれていて、動物のにおいがしている。懐かしい感じがする。たぶん修学旅行で行った北海道を思い出している。のどかな風景。異世界だけど、少し元の世界に近い感じがしてホッとする。

「いらっしゃい」

 後ろから声を掛けられて驚いて振り返ると、薄緑色のツナギを着た男が麻袋を担いで立っていた。どさりとわきに降ろすと、軍手を取りながら近づいて来る。

「ここの施設長をしているアイザックだ。クロードに紹介されて来たんだろ? 聞いていたよりもはるかに可愛いな」

 差し出された大きな手を掴む。握手という制度がこの国にあるのか、どうなのか。出された手を取るのは習慣だった。

「シンと言います。よろしくお願いします」

 手を引かれて、胸に抱きこまれた。
 すごく大きくて胸板が厚くてびっくりする。っていうか、抱き締めるのもこの国の習慣なんだろうか。

「驚くわ、無防備すぎて」

 背中をポンポンと叩かれて、そんなことを言われた。やっぱり抱き締めるのは特殊なことなんだろう。だったらしなければ良いのにと思う。

「すみません、こちらに慣れていなくて……」

「いや、俺は役得だから全然良いんだけどよ、やっぱその顔は隠した方が良い」

「隠す、ですか?」

 ふむっと顔を見られ、手を引かれて連れて行かれる。手を繋ぐのもこちらの習慣か? と思い、これも異世界で俺が綺麗な基準だからなのかと思うと、申し訳ない気持ちになる。

「どこに行くんですか? 放してください」

 もう好き勝手に抱かれたりするのは嫌だ。良く知って、ちゃんと好きになって、好きになってくれる人と付き合ってみたい。最初があれだと……と思い出して背中がゾクッとした。いや、忘れるんだと強く思う。

 連れられて行った先は、奥の棟で、そこは金属の良くわからない物が建物のわきに置いてあるのか落ちているのか。そこのドアを開けたアイザックに連れられて中に入り、さらに奥に連れて行かれて、一番奥のドアを開けて入って行く。

「よう、ハリー、おまえのさ、顔につけるアレ、こいつにやってくれないか?」

 部屋の中は物が溢れていて、本が積みあがっている。人がどこにいるのかわからない。入り口にアイザックと立ち、アイザックを見上げた。身長が190㎝以上ありそうだ。鍛えられた体に筋肉。でもボディービルダーのようではなく、軍人といった感じだ。必要な筋肉がついている。肌は日焼けしていて、髪は濃いグレー。ツーブロックにしていて、上部が癖毛っぽく、濃い色と薄い色が良い感じに入り混じり陰影を作っている。すごく精悍な顔立ちで怖そうにみえるけど、笑うと目じりにしわが寄って可愛い感じになる。

「ザック、なんだよ、忙しいんだよ」

 本の向こうから声がした。ひょっこり顔を出したのは眼鏡をかけた小柄な男で、俺を見ると唖然とし、それからにんまりと笑った。

「これはこれは、見たこともない美形じゃありませんか。ザック、役得ですねえ」

「そうだろ? 顔も体もイイが、この従順さがイイよな?」

 繋いだ手を上げられて、アピールされた。すごく恥ずかしくてアイザックを見れば、人好きのする笑顔を向けられ、嫌だと言えない。

「それはそうと、その顔は隠した方がよさそうですね。こちらに住み込みですか? ですよね。では念入りに痣など付けてみましょうかね」

「そうだな、この綺麗さは俺らの秘密で良いだろう。誰かに見つかる前にやってくれ」

「えっと、何をするんですか?」

 思わず俺は声を上げていた。痣を付けるとか何とか言っていたが、状況が良く呑み込めない。

「ああ、悪い、この男はハリーと言って、ここでいろんな研究をしているんだが、主に馬の飼育に便利な道具を中心に開発している。以前に馬の色を変えたり柄を変えたりするものを作っていてな、それを応用できないかと思って連れて来たんだが」

「簡単だよ、大丈夫、痛くないし、肌に定着するものじゃない。顔の四分の一隠せば、美形というより痣に目が行くから、迫られることがなくなる。でも迫られたいのならお勧めしないけどね」

 指を立ててウインクされた。ハリーの見た目は小動物な感じだ。研究者というだけあって頭が良さそうな容姿だけど、気難しそうでもある。歳は若そう。20代前半ってところだろうか。アイザックは20代後半? と思って口に出してしまったら、アイザックとハリーは同い年で28歳だそうだ。ハリーは童顔だな。

「恋人は欲しいけど、不特定多数に言い寄られるのは嫌です」

 そう言うと、アイザックは破顔して声を上げて笑った。思わす恥ずかしくなる。願望を言い過ぎた。

「それは良い、だったら俺が立候補する。俺なんかどうだ、シン」

「……ちゃんと知り合ってからの方が良いです」

 そう言うと、またアイザックは笑う。手は相変わらず繋いだままだ。

「わかった。存分に構ってやるから、俺に惚れろ」

 よしよしって頭を撫でられる。見上げると温かな笑みで見下ろして来る。

「ちょっと、俺、忙しいんですけど、やるの? やらないの?」

「お願いします」

 俺はすぐに頭を下げる。すぐに取ることのできる化粧のようなものらしい。
 俺の顔には左の目の三分の一端から耳に掛けて大きな痣が刻まれた。頬を横切り、耳下まである。やけどの跡に似せた痣は、本当に痣があると思えるほど見た目もだし、手触りもある精巧さだった。
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