下士官の歪な愛の運び方

サクラギ

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5 対極の華

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 年に二度、聖殿に集められ、身の穢れを祓う儀式が執り行われる。

 今夜は新月で、月明かりもない暗い道を行き、軍人全てが神殿に集う。

 第一から第九までの軍が神殿前に集い、神殿内には王軍と軍上位の者が入って行く。

 祭壇と客殿の間には御簾が下げられ、さらにその奥に座する聖帝は顔を覆う布が下げられた衣装を着けている。

 俺はただの警護兵だが、秘密の立場上なのだろう。御簾の左脇の警護兵として立たされている。

 とても不幸な位置だ。

 視界の先にマルスがいる。
 軍最高位の祭礼用軍服を身に着け、礼儀正しく座し、見つめる先は御簾の奥で——御簾の奥から聖帝の視線が感じられる気がする。

 きっと彼らは年に二度、御簾越しに秘密の逢瀬をしている。

 腹の奥がジンと痛む。
 両手を固く握り、爪が皮膚に刺さっても、身の震えが我慢ならず、隣に立つ兵に身の不調を告げ、静かに退出した。

 彼らは毒だ。
 この世の美しさの、白黒、善悪、表裏、それら対極にある彼らに挟まれ、身を捧げて尽くす事の理不尽さが心を蝕み、あってはならぬ感情を引き連れている。

 神殿を出て、走る。
 誰もいない神殿の中庭で、足を止める。

 深紅の薔薇が咲き乱れ、甘い香りに包まれた庭は、月もない夜の闇に沈んでいたが、歪んで泣く無様な表情を見られずに済む一点に於いて、安堵の息が吐ける——筈だった。

「ミシェル」

 暗闇から足音が聞こえ、背後から抱き締められる。

「マルス? なぜ?」

 参列の最前に座した最上位の者が席を離れたと言うのか?

「気分が悪いのか?」

 体を返され、顔を至近距離で見られた。泣き顔など見られたくはない。逃げようとして、腕を取られた。

「なぜ泣く。体がつらいのか?」

「おまえ、儀式は? 挨拶があるんだろう? 一番近づける、聖帝と、——なぜ……んっ」

 唇を唇で塞がれ、困惑する。
 舌を絡められ、吸われ——甘い痺れに、思考が支配されて行く。

「ミシェル、愛している」

 吐息の合間の言葉に頷きそうになり、意識が戻る。

「——なにを、なにを言っている……——ありえない、んっ——」

 言葉を口付けで奪われ、強く抱きしめられている。

 体の良い人形を逃さない為の施しか?
 この後、俺に聖帝と会えという指示か?

「泣くな、ミシェル、愛しい俺のミシェル」

 わからない——なぜ? それなのに痺れる体は悦びを噛み締め、震えている。

 誰もが欲する極上の男が、たかが一兵に気の迷いとはいえ愛を囁く。その光輝に酔い続けた。
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