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竜の渓谷
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「今日もすごい可愛かった」
いつも側にいる黒竜、ツヴァイと竜人の街へ食事に行く。
竜の渓谷は子育ての場だ。異世界の繋がる場所から見えるのはほんの一部分。渓谷の上部は主に大人の竜が辺りを警戒している場所だ。渓谷の深くでは卵を守る姿や幼な子を守る姿が見られるが、同じ立場の竜以外は入り込まない掟がある。
「それは良かったな」
渓谷を離れた場所に竜人の街がある。物資は船で人の大陸へ行き、運んで来る。
「早く慣れて欲しいよ」
「連れて来る気か?」
果物を発酵させて作った酒を飲む。アテは小鳥を焼いたものと、虫の唐揚げだ。
「うーん、もう少し先かな? 他の奴らもまだ通ってるから、あいつらが飽きる頃までには、かなぁ」
「やっぱ飽きると思っているだろ」
ツヴァイがそういうと、シャルは笑った。
「人の子に興味があるだけだろ? 怯えたりするの見ておもしろいって。そういうのは飽きるのかな~って」
「おまえの為に俺らが付き合ってやってるんだろ? そりゃあ本気になれる相手と出逢いたいって気持ちもあるけどな」
黒竜は種族として、竜族の中で力が一番強い。だから他種族の竜にも好かれる。ただ竜人だとしても、元の竜の性質がある。従順に従うような性質ではない。だが子の強さを求めるのなら、黒竜同士で番うのが一番だ。だが竜は基本、小さくて可愛いものが好きだ。その辺りの見極めは、個体の出会いや考え方である。
ただ白銀の竜の相手は見つかりにくい。この機会を逃せば、次に始祖の血の匂いをさせた者がいつ現れるのかわからない。だから若い内から出会えたシャルには思いを遂げさせてやりたかった。できることなら人により与えられる心の傷を負って欲しくない。一度、知ってしまえば、次の出会いを負の感情で迎えてしまう。出会わずに弱る個体もあったと聞く。白銀の竜は尊い存在だ。心静かにいてもらわなくては竜族が困る。
「その相手のこと、好きになれなかった?」
シャルにツヴァイの気持ちはわからない。種族の在り方が違うからだ。
白銀の竜には始祖の相手がいる。初めから好みど真ん中の、誘う匂いを持つ人が。だから迷うことがないし、逆らうこともない。
「良くわかんねえよ。おまえみたいに惹かれる匂いがあるわけじゃねえし、種族も環境も違いすぎて訳がわかんねえ」
「もうちょっと我慢したら良いのに。ツヴァイは短気だね」
「わかんねえよ、気持ちいいのはわかるが、だったら同族でいいだろ? ヤルのはかわんねえし」
「えーそうかな? あの小さい所とか、柔らかい肌とか、怯えて震える所とか。同族にはない良さだと思うけど?」
「俺はダメだ。潰しちまいそうで怖えよ」
「あーそういう理由? でもツヴァイの子も大きめだったよね? 俺の子と同じ黒い髪の子」
「さあ、知らねえ。っていうか、お前の子の今を知らねえけど、俺の相手は黒髪だが青い目をしている。肌が焼けていて可愛いが、変にスれているからな。怯えて震えてくれたら少しは可愛いかもしれねえけど」
こんな話を大っぴらにできるのは、白銀の竜が遠巻きにされているからだ。
大衆屋台の一角の席を使っているのに、周りの席は空いている。だが反対側の奥からは盛況な声が聞こえて来る。こちらの席を探しに来る者もいるが、ツヴァイのひと睨みで去って行く。
白銀の竜は竜族の中の方が生きにくい。だが嫌われている訳ではない。畏怖されているだけだ。だが寂しさはある。だから愛し子を求める。シャルが生まれてすぐに護衛として側にあるツヴァイでさえ、シャルの機嫌を気にして、言葉を選んでいる。普通の付き合いのように、肩を組んだり、体を叩きあって本心を語る相手ではない。
それをシャルは寂しいと思っているが、それを態度や言葉に出来ない立場にある。竜殺しを黙認される地位は、当然、無慈悲に孤独を伴う。
いつも側にいる黒竜、ツヴァイと竜人の街へ食事に行く。
竜の渓谷は子育ての場だ。異世界の繋がる場所から見えるのはほんの一部分。渓谷の上部は主に大人の竜が辺りを警戒している場所だ。渓谷の深くでは卵を守る姿や幼な子を守る姿が見られるが、同じ立場の竜以外は入り込まない掟がある。
「それは良かったな」
渓谷を離れた場所に竜人の街がある。物資は船で人の大陸へ行き、運んで来る。
「早く慣れて欲しいよ」
「連れて来る気か?」
果物を発酵させて作った酒を飲む。アテは小鳥を焼いたものと、虫の唐揚げだ。
「うーん、もう少し先かな? 他の奴らもまだ通ってるから、あいつらが飽きる頃までには、かなぁ」
「やっぱ飽きると思っているだろ」
ツヴァイがそういうと、シャルは笑った。
「人の子に興味があるだけだろ? 怯えたりするの見ておもしろいって。そういうのは飽きるのかな~って」
「おまえの為に俺らが付き合ってやってるんだろ? そりゃあ本気になれる相手と出逢いたいって気持ちもあるけどな」
黒竜は種族として、竜族の中で力が一番強い。だから他種族の竜にも好かれる。ただ竜人だとしても、元の竜の性質がある。従順に従うような性質ではない。だが子の強さを求めるのなら、黒竜同士で番うのが一番だ。だが竜は基本、小さくて可愛いものが好きだ。その辺りの見極めは、個体の出会いや考え方である。
ただ白銀の竜の相手は見つかりにくい。この機会を逃せば、次に始祖の血の匂いをさせた者がいつ現れるのかわからない。だから若い内から出会えたシャルには思いを遂げさせてやりたかった。できることなら人により与えられる心の傷を負って欲しくない。一度、知ってしまえば、次の出会いを負の感情で迎えてしまう。出会わずに弱る個体もあったと聞く。白銀の竜は尊い存在だ。心静かにいてもらわなくては竜族が困る。
「その相手のこと、好きになれなかった?」
シャルにツヴァイの気持ちはわからない。種族の在り方が違うからだ。
白銀の竜には始祖の相手がいる。初めから好みど真ん中の、誘う匂いを持つ人が。だから迷うことがないし、逆らうこともない。
「良くわかんねえよ。おまえみたいに惹かれる匂いがあるわけじゃねえし、種族も環境も違いすぎて訳がわかんねえ」
「もうちょっと我慢したら良いのに。ツヴァイは短気だね」
「わかんねえよ、気持ちいいのはわかるが、だったら同族でいいだろ? ヤルのはかわんねえし」
「えーそうかな? あの小さい所とか、柔らかい肌とか、怯えて震える所とか。同族にはない良さだと思うけど?」
「俺はダメだ。潰しちまいそうで怖えよ」
「あーそういう理由? でもツヴァイの子も大きめだったよね? 俺の子と同じ黒い髪の子」
「さあ、知らねえ。っていうか、お前の子の今を知らねえけど、俺の相手は黒髪だが青い目をしている。肌が焼けていて可愛いが、変にスれているからな。怯えて震えてくれたら少しは可愛いかもしれねえけど」
こんな話を大っぴらにできるのは、白銀の竜が遠巻きにされているからだ。
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白銀の竜は竜族の中の方が生きにくい。だが嫌われている訳ではない。畏怖されているだけだ。だが寂しさはある。だから愛し子を求める。シャルが生まれてすぐに護衛として側にあるツヴァイでさえ、シャルの機嫌を気にして、言葉を選んでいる。普通の付き合いのように、肩を組んだり、体を叩きあって本心を語る相手ではない。
それをシャルは寂しいと思っているが、それを態度や言葉に出来ない立場にある。竜殺しを黙認される地位は、当然、無慈悲に孤独を伴う。
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