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竜の渓谷
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今日のカレンはいつもと違う。いつもより緊張している。思い詰めた匂いがする。でもいつもより積極的な気もした。だけどカレンの一言で、全てが暗く塗り潰された。
「子どもが欲しいのか?」
そう聞かれた時は、カレンに求められているのかと嬉しく思う反面、子種を無くしていることがバレたのかと思う後ろめたさがあった。でもいつかは、と思う気持ちに偽りはない。シャルの相手はカレンしかいない。だからシャルは「はい」と言った。思えばカレンの前で言葉を発したのはこれが最初かもしれない。思わず発した言葉に恥ずかしくなる。カレンの耳にシャルの言葉が届いたのだと思うと、良くわからない高揚感がうまれた。
「だったら捨ててくれ」
それなのにカレンはシャルの望まない言葉を紡いだ。言葉の意味がわかった時、シャルの気持ちが欠片も伝わっていないのだと知った。シャルにとってカレンは無二の存在だ。でもカレンには違ったのだろうか。ずっとただの義務だと思っていたのだろうか。いずれはシャルが飽きると思って付き合ってやっていた。だからシャルを見もしない。イイ声も聴かせてくれない。求めてもくれない。いつかシャルと共に生きたいと言ってくれるのだと信じていた。それが白銀の竜と始祖の血の繋がりだと……。
逃げることしか出来なかった。
シャルにとってカレンは絶対であるのに。
「何も伝えなくて良いのか? 人は次を用意するんじゃねえの?」
いつもの屋台の隅で酒を飲んでいたシャルの横に、ツヴァイが並んで座ってから長く時が経っている。シャルが独り言のようにカレンに言われた言葉と後悔を口にするから、ツヴァイも酒が不味くて仕方がなかった。
「まだ断りも、次の話もしていない。大丈夫。カレンはきっと機嫌が悪かったんだよ。次の時には絶対にあんなこと言わせない。もう少しゆっくり近づいて行くつもりだったけど、カレンには伝わらないから」
シャルの前には飲み終わった瓶が5本もある。さらに手にも瓶があって、直接瓶に口を付けて飲んでいる。それでも少しも酔ったようには見えない。ただシャルは後悔の中に沈んでいるだけだ。
「もし仮におまえの相手が本気でおまえに捨てられたと思っていたらどうするんだ?」
ツヴァイはただの過程で言ってみただけだった。シャルの相手があの世界にいるから、世界を繋げたままにしている。ただ白銀の竜の相手があの世界にいるという理由だけだ。それがなくなるというのなら、あの世界は危険だ。繋がっている時間が長ければ長いほど、相手側が有利とする思考を持ち始める。それは過去の歴史から学んだ事実だ。竜の渓谷に他はいらない。ただ白銀の竜のみが欲する始祖の血を持つ者のみへの干渉にすぎない。
「手に入れるよ、当たり前だろ? カレンは俺のだ。他はない」
飲んでも酔わないシャルは可哀想だ。しかも相手はたったひとり。ひとりへの執着が激しすぎて誰も近づけない。ただの竜人であったなら、こんなに魅力的な存在もないと思う。そんな感情を秘めた存在が遠巻きから視線を送っている。
「子どもが欲しいのか?」
そう聞かれた時は、カレンに求められているのかと嬉しく思う反面、子種を無くしていることがバレたのかと思う後ろめたさがあった。でもいつかは、と思う気持ちに偽りはない。シャルの相手はカレンしかいない。だからシャルは「はい」と言った。思えばカレンの前で言葉を発したのはこれが最初かもしれない。思わず発した言葉に恥ずかしくなる。カレンの耳にシャルの言葉が届いたのだと思うと、良くわからない高揚感がうまれた。
「だったら捨ててくれ」
それなのにカレンはシャルの望まない言葉を紡いだ。言葉の意味がわかった時、シャルの気持ちが欠片も伝わっていないのだと知った。シャルにとってカレンは無二の存在だ。でもカレンには違ったのだろうか。ずっとただの義務だと思っていたのだろうか。いずれはシャルが飽きると思って付き合ってやっていた。だからシャルを見もしない。イイ声も聴かせてくれない。求めてもくれない。いつかシャルと共に生きたいと言ってくれるのだと信じていた。それが白銀の竜と始祖の血の繋がりだと……。
逃げることしか出来なかった。
シャルにとってカレンは絶対であるのに。
「何も伝えなくて良いのか? 人は次を用意するんじゃねえの?」
いつもの屋台の隅で酒を飲んでいたシャルの横に、ツヴァイが並んで座ってから長く時が経っている。シャルが独り言のようにカレンに言われた言葉と後悔を口にするから、ツヴァイも酒が不味くて仕方がなかった。
「まだ断りも、次の話もしていない。大丈夫。カレンはきっと機嫌が悪かったんだよ。次の時には絶対にあんなこと言わせない。もう少しゆっくり近づいて行くつもりだったけど、カレンには伝わらないから」
シャルの前には飲み終わった瓶が5本もある。さらに手にも瓶があって、直接瓶に口を付けて飲んでいる。それでも少しも酔ったようには見えない。ただシャルは後悔の中に沈んでいるだけだ。
「もし仮におまえの相手が本気でおまえに捨てられたと思っていたらどうするんだ?」
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