現実に獣人がいるって異世界転移して来たんだろ?だったら俺もいつか行ける?

サクラギ

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3章

2 三月半

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 毎日同じ時間に医師が診察に来る。患部を診て消毒して包帯を巻く。その様子をニアは不思議そうに見て、医師がいなくなると志津木の横に添い寝をする。5日もすると痛み止めも軽い物になっていて、眠気もさほどでは無くなり、少しずつベッドから出て廊下の椅子に座ったりしている。どんな時にでも、それこそトイレにもニアは付いて来る。話はしない。本当に付いて回って世話をしたがるだけで、何かを要求したりはしない。
 6日目の夜、クリスが部屋に来た。

「そろそろ退屈か?」

「別に、そうでもない」

 あまりに怒涛の日々だったから、脳内であれこれ考えるのに忙しい。もっぱらは異世界での出来事が現実か夢かを考えている。

「船室から出ようとしないのはなぜだ? 別に行動の制限はしていないよ?」

「現実逃避中」

 食事は勝手に運ばれて来るし、診察もベッドの上で終わる。シャワートイレは隣にあるし、船室の廊下に給湯器も無料の自動販売機もある。

「なるほど現実逃避か」

 クリスの手には書類がある。書き留める用のノートとペンも。志津木を観察対象にしている事を隠しもしない。かと言って志津木もニアが側にいる以上、失うものも失って困るものもない。

「俺はさぁ別荘のプライベートビーチの沖で撃たれて海に沈んだだろ? なぜ俺まで助けられている? あの時はニアだけが必要だったはずだ。それにいったい何日航海している? この船はどこへ向かっているんだ?」

 クリスは軽く笑うと手を広げる。

「どこへと聞かれても困るね。この船は世界一周の航路上にある。まさに現実逃避に打ってつけだ。ただ船室はクルー専用の最下層だけどね」

「意味がわからん。何がしたい」

 隠れるにはもってこいの場所だとは思う。どの規模の客船か分からないが、世界一周をする船は豪華客船なのだろう。その船底など気にも留めない位置で、次の目的地に停泊にならなければ、船上の人員に変化はない。

「意味が分からないと言われるとは心外だな。俺の方が言いたいセリフだ」

 クリスが呆れるようにそう言った。
 ニアはベッドの足元に座っている。船内で目を覚ましてから、ニアは志津木の側から離れない。チップが戻り、精神支配されているのだろう。そう思った志津木は、チップに支配されないニアの姿も自身の妄想なのかと混乱する。

「どういう意味だ?」

「海に沈み、浮き上がるまでの三月半は何だったんだ? まぁそのおかげでお前は死んだ事になったから都合は良いんだが」

「三月半?」

 クリスがタブレットの画面を見せて来る。そこには8月10日とある。
 ニアを引き取ったのが4月。引き取ってから海に落ちるまで半月ほど。それから三月半が経過している?

「不思議な事はある。ニアの首輪がお前に付いていた。三月半海に沈んでいたのに当時のまま。銃痕は新しくまるでタイムスリップしたようだったよ」

 ニアの首には志津木が贈った首輪がある。海に浸かったのにサビのひとつもない綺麗なまま。耳のピアスはダイヤが片方のみ。あとはどこかへ無くしたようだ。

「向こうへ行っていたのか?」

 クリスの問いにビクッとする。

「その反応は当たりか?」

 クリスを見て首を振る。分からない。でもそうでなければ記憶が鮮明すぎる。志津木は横で志津木を見続けているニアの髪に触れ、頬を撫でた。
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