魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

文字の大きさ
12 / 114
MMM(トリプルエム)の見守り計画

いちっ!

しおりを挟む
 5月まであと数日となったある日、過ごしやすい季節だというのに今だ俺は花粉症とかいう地獄のような病に脅かされてスギとヒノキの全滅を国連に直訴でもそろそろしてやろうかと試行錯誤を重ねまくっていた。
 モクモクマンとの一件以来、望月はどこから持ってきたか知らんが、毎日のように早瀬を家に招いて4人で人生ゲームに興じるのだった。まぁ何度やっても結果はほとんど変わらず、望月が俺に大量の負債を押付けて人生の栄華を極めまくるというパターンなのだが。
 石油王となった望月は見つけ出したお宝が全て高額な金に変わり、人生ゲームのなかにあった十万円札を全て使い切るという暴挙を達成していた。俺はというと、職業はフリーター(良くてビジネスマン)にしかなれずあらゆるアクシデントのせいで無職になり、結婚して子どもができたがいつの間にか妻に夜逃げされギャンブルで負けまくったせいで大量の負債を抱えて破産するというろくな人生を送れなかった。人生観が変わりそうだ。
 さて、少し長くなったがこれはいわゆる前置きというやつだ。別になくてもよかったんだが、まぁあったってそこまで問題ではないだろう。
 話はゴールデンウィークを控えた5月の初めから始まる。クラスの皆はゴールデンウィークが近づくにつれて徐々にテンションが上がっていることが手に取るようにわかる。皆それぞれの予定でも有るのだろうか。担任の山下が呆れるほどクラス内のテンションは上がりきっており、例えばテンションを温度だとすれば氷なんて一瞬で空気になるだろう。
 神性のアホ西田は1時間おきにテンションを上げている。
「おいマスター! ゴールデンウィークまであと何時間だと思う? 」
「さあな。あと何時間なんだ? 」
「なんとあと14時間16分だ! どうだ? もうすぐって感じだろ? 」
 ふーん。全然そんな気がしない。それに全然興味がない。
 西田よ。焦ったってゴールデンウィークは予定をはやめて来てくれるわけでもないし、遠ざかることもないんだ。焦ることもないだろう。時間の流れがどうにでもしてくれるさ。俺たちはじっくりと静かにその時を待てばいい。
「バーカっ! 俺はじっくりと待ってる暇はないんだ。なにせ、この俺様はゴールデンウィークにデーートゥッ! するのだからな」
「なに? あの西田に彼女がいたというのか? 」
「おうよ! 1年生旅行の時に告ったら見事OKを頂いたのさ! 」
「ってことは、この学年の中に彼女がいるのか? 」
「まぁな。あーゆー時はトイレから出てきたところが狙い目よ。班のメンバーはその時いないだろうし、1番油断している時だ。この俺様の知恵と魅力にコロッと魅了されちまったようだな。ワハハハハ! 」
 完全に調子に乗っている。こんなヤツと付き合おうと思った女子がいたとは。
「で? その彼女ってのは誰なんだ? 」
「他のクラスのやつなんだけどよ。立花咲夜さんっていう人なんだ。いい名前だよなぁ」
 驚天動地だ。俺もさすがにその名前を聞いて驚いた。思わず声を出しそうになったがなんとか踏みとどまったほどだ。
「立花って……あの髪の短い人か? 」
「なんだ? マスター知ってんのか。まさか狙ってたとか? フフン。残念ながらあいつは俺の彼女になったんだ。お前より俺のほうがいいってことさ。しっかし立花さんっていい人だよな。マスターにしては目のつけ所がいいと思うぜ」
 これほどリア充のことをうざったく思えた事はない。
 おのれリア充(西田)め。五臓六腑巻き散らせて爆発しやがれ!
 西田の立花語りはまだ続いた。
「立花さんってホントいい人だよな。クールで物静かで賢そうで、なにより超絶めちゃんこ美人だし! 」
 確かにその意見には賛成する。しかし立花はなんでこんなアホと付き合おうという気になったのだろうか。脅されたりしたのだろうか。帰り道と家で事情聴取をするしかあるまい。
 こうして学校が終わるまで一日中西田の立花語りは止まることを知らなかった。帰り道も西田はあろうことか俺の家までついて来た。というより立花の家までついていった。
「じゃあ。私はここで」
「え? 立花さんってマスターと同じマンションに住んでるんですか? 」
「そう」
「へ……へぇ。そうなんだ。じゃあ、明日駅前で! 」
「了解した」
 変に緊張しすぎてガチガチな西田は来た道を引き返してやっとこさ自分の家に向かって行った。
 俺と同じマンションに住んでいると分かった時の西田の表情は額縁に飾って置きたいくらいのもんだった。心底驚いているが、それを相手に悟られないようになんとか隠しているような感じだ。
 家に着くなり俺は立花に事情聴取を開始した。
「立花さんよ。ちょっといいか? 」
「なに」
「1年生旅行の時、西田に告られたって本当か? 」
「本当」
「なんて言われたんだ? 」
「明日、デートして付き合って欲しいと」
「その時の言葉を覚えているか? 」
「覚えている」
「なんて言われたか言ってみてくれ」
「今度のゴールデンウィークにデートしたい。付き合ってくれ」
「OKしたのか? 」
「そう」
 なんてこった。西田の嘘であると思っていた節もあったが、これで嘘ではないと確信せざるを得なかった。立花が俺に嘘をつくとは思えない。西田と立花は本当に付き合っていたのか……。
 俺が心底ショックを受けていた時、掃除当番の望月が家に帰ってきた。
「たっだいまーっ! あれ? どうしたのマスター。そんなシリアスな顔をして」
 とりあえず望月を俺の部屋まで連れていき、事情を説明した。
「え? じゃあ立花さんって……付き合ってるのっ? 」
「そういうことだ」
「じゃあ私たちはトリプルエムのメンバーの1人を見守らないわけないないよねっ! 」
「見守るだと? 」
「うん! トリプルエムのメンバーの1人の恋路を見守ることも私たちトリプルエムの仕事の1つだからね! 」
 そんなこと初めて聴いた。望月はてきぱきと早瀬にも事情を説明し、あっという間に早瀬の家で作戦会議が始まった。途中立花が無表情のまま俺たちを不思議そうに見つめていたのでなんとなく罪悪感もあったのだが。
 作戦会議といってもやはり望月が考えた作戦を実行するにはどうすればいいかみたいなことしか議論されなかった。
 作戦はこうだ。3人が別々の場所からそれぞれ立花を尾行するという至って単純かつわかりやすい無計画な計画だ。
「決行は立花さんがデートを始める明日の朝9時5分前! 念のために軽く変装していってね。連絡は携帯で取り合うこと。もちろんバイブレーション設定ね。コール2回で電話に出てね。万が一見失った場合コール1回で切ること。オーケー? 」
 望月の計画は変なところできっちりしようとしている。いや、カッコつけようとしているな。
 というわけで次の日。駅前の公園でパチンコ屋の開店を待つおっさんどもの列に紛れて立花の到着を待った。
 西田は、俺が来た8時45分の時にはもうソワソワとして集合場所に立っていた。ふと何を俺はしているのだろうと不安になって来るのだが、ここで逃げたら俺の立場がなくなりそうだ。
 比喩ではなく1秒の狂いもなしに9時ちょうどに立花が姿を表した。長袖のシャツにスキニージーンズを履いて、白い薄手の上着を羽織っている。いつも家で着ている服と対して変わりなかった。
 一言二言西田と言葉を交わし、駅に向かった。どこに行くのか分からないので、俺はとりあえず『春得! 1日乗りパス切符』とかいうあまり得した気分にならない値段の切符を買っておいた。
 目標の2人はどうやら上り列車に乗るようだ。ということは行き先はおよそ2つに絞られる。市内の港街か、隣の県の中心街だろう。
 2人が電車に乗ろうとしたところで、俺の携帯がブーッと鳴った。と思ったらブチっと切れた。この『トリプルエムの恋の行方を見守る大作戦』の発案者望月が、立花たちを見失ったようだ。
『ごめーん! 道に迷っちゃったよーっ! 』
 今の道筋に迷う要素がどこにあったのだろうか。
 立花たちのことは早瀬に任せて、望月を助けに行くことにした。この作戦の行く末を案じながら。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...