魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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MMM(トリプルエム)の夏休みミステリー計画

トリプルエムの事件簿2

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 真っ暗な夜の山奥。そこには、山中の風景には全く似合わない大きな館が建っていた。嘘つき天気予報士は相変わらず嘘をつくのが好きなのか、その日の夜も予報では月が見えると言ってたクセに雷が轟いて耳を塞ぎたくなるような雷雨だ。
 だが今の俺たちに耳を塞いでいる余裕なんてなかった。望月が勢いよく開けたドアの先に倒れている西田のおばあさんの身になにがあったのだろうか。
 仰向けに倒れていたおばあさんは首を掻きむしるように手を仰いで、苦しそうな歪んだ顔をこっちに向けていた。目はカッと見開いていて、顔は醜く歪んだまま頬は青色に染まっている。相当暴れたのか、足元にある椅子や家具は落ちたり倒れたりと散乱していて酷く足が曲がっている。腰の骨が折れそうなほど曲がった腰がおばあさんの姿をよりいっそう醜く見せていた。そのすぐ近くには割れたグラスが転がっており、床に小さな水たまりのようなものができている。服は着替えていて、動きやすそうなラフな服だ。手のすぐ近くにある首筋には引っかき傷のようなものがついており、血が滴っている。よほど苦しんでいたのだろう。
 これほど詳しく西田のおばあさんの様子を詳しく説明出来るのは、しばらく呆然と立ち尽くしていたからだ。ただじっと見つめていただけなのだが、これほど衝撃的なことを目の当たりにすると細かいことまで覚えているというものだ。
 俺たちが部屋の中にも入らずフリーズしていると、悲鳴を聞きつけた西田の親戚類が続々と集まってきた。
「お、おい。なにが起こってんだ? なんでバーさんが倒れてんだ? 」
「えぇっと……なにかあったんですか? 」
「おい川谷! 何が起こった? 説明しろよおいっ!」
「申し訳ありませんが、私たち執事共もなにが起こったのかさっぱりでございまして、この場の説明も一切出来かねます」
 さすがに場が混乱してきているようだ。みんな何が起こったのか分からない恐怖で冷静さを失っている。
 1人が部屋に入ろうとすると、執事の1人がそれを制止した。
「お待ちください里中様。現場を荒らしてしまっては、警察が来た時に正確な現場検証を行うことができませぬゆえ」
「じゃあおばあ様をほおっておけというのか? っていうか警察は? 警察との連絡どうした? 」
「この雷雨のせいで電話線が断線しております。警察はおろか、外部との連絡を絶たれてしまいました。また携帯電話も圏外ですし、Wi-Fiも飛んでおりません」
「じゃあどうするんだ? 電話線の復旧にはどれくらいかかるんだ? 」
「現在我々が全力をあげて復旧に尽力しておりますが、なにせこの大雨の中での作業は不可能です」
「なら、誰か車を出してくれ。麓の街まで降りて電話を貸してもらうんだ」
「申し訳ありませんが、それも不可能でごさいます。唯一この館から麓まで車で通ることが出来る道も、倒れた木々に塞がれて通行不可能です」
 執事の言葉にみんな黙りこくった。あまりにも絶望的な状況だ。外部との連絡は雨が止むまで出来ないし、外に出ることすらままならない。
「あの……外に出られないのであれば、食料はどうするのですか? 」
 望月が遠慮がちに言った。たしかにそうだ。この状況じゃ食料の確保も難しいだろう。それにここにいる人の数も多い。
「心配ない。ここは万が一の事態が起こっても大丈夫なように、100人が5日は食ってける食料が保管されている。食料については問題ない」
 執事さんの代わりに若いオッサンが答えた。どんだけ多いんだ食料。さすがは西田家だ。金の力に感謝せねば。
 そういや西田の姿を見てないな。なにかあったのだろうか。
「執事さん。西田はどうしたんです? 」
「今回の事態は勇人坊っちゃんには辛すぎます。部屋で待機するよう伝えております」
 そりゃそうだな。自分のばあさんがこんな醜い姿で倒れているなんて辛すぎる。
「執事さん、ビニール袋を3つ貸してもらえませんか? 使い古したやつでもいいので」
 早瀬は執事の1人に頼んでビニール袋を持ってこさせた。それを両足と利き手に被せて、部屋の中に入っていった。その姿にみんな唖然とした。
「早瀬! 何やってんだ? 現場を荒すなって執事さんにも言われただろ? 」
「現場を荒すつもりはないわ。とりあえず現場の状況把握と西田くんのおばあさんの生死確認よ。このビニール袋は足跡と指紋をつけないためのもの」
 そう言いながら早瀬は西田のおばあさんの首筋に手を当てて、こちらに悲しそうな顔で首を振った。どうやら西田のおばあさんは死んでいたようだ。
 早瀬は必要最低限の動作でテキパキと状況を確認していた。まずは死体の口に鼻を近づけて臭いを嗅いだ。その後近くにあった割れたグラスを動かさないように眺め、こぼれたシャンパンの臭いも嗅いだ。そして部屋の中にあるタンスやクローゼットの中を確認し始めた。最後に死体のポケットの中身と指を細かく確認して、部屋の外に戻ってきた。
「なにしてきたんだ? 」
「まずハッキリさせないといけないことをハッキリさせたの」
「ハッキリさせないといけないこと? 」
「西田くんのおばあさんは殺されたのか自殺なのか、そしてその死因と、殺されたのであれば犯人の目的はなんなのか」
 立花のように淡々と早瀬は答えた。なにかのスイッチでも入ったのだろうか。
「なにか分かったか? 」
「それよりもう一つ確認したいことがあるんだけど、執事さん。シャンパンってパーティー以外で飲める機会はありました? 」
「いいえ、ございません。菊子様も飲めないようにしております。菊子様の健康上アルコールの摂取を出来るだけ少なくするために」
「ありがとうございます。おかげで知りたいことが分かりました」
「なにが分かったんだ? そろそろ説明してくれよ」
「うん、分かった。まだ曖昧なところもあるけど、説明出来るところはすべて説明します」
 早瀬は全員の前に立った。その自信たっぷりな顔つきは、まるでどこぞの小さくなった名探偵かどこぞの名探偵の孫のように輝いていた。
「まずハッキリさせないといけないことは、菊子さんは死んでいるということ。これを前提に話していきます。ではなぜ死んでしまったのか。他殺か自殺かハッキリさせる必要があります」
「そんなの他殺に決まってるじゃないか。こんな苦しそうな顔してるってことは、多分毒盛られたからだろ? 」
「そうね。たしかにパッと見そう見えると思うし、今回の場合はそれであってる。でも自殺の可能性だってあったはずよ。毒を盛られたってマスター言ったよね? でも自殺の場合、自分のすきなタイミングで水に毒を解かして飲めばいい。でも床に転がっているグラスの中に入っていたのはおそらくシャンパンよ。だからこれは他殺であることが分かります」
「なんでだ? 水じゃなくシャンパンで毒を解かして飲んだって可能性もあるじゃないか。人生の最後は一番好きな飲み物で死ぬって考えなくもないだろ? 」
「執事さんは言ってたわ。パーティー以外で人にシャンパンは飲ませていないって。それにパーティーの時に持ち出して飲もうとしたとしても、執事さんや周りの人が止めていたはずなの。だから菊子さんの部屋にシャンパンがあることなんてありえないはずよ。誰かが持ってこない限りね」
「なるほどな。じゃあなんで菊子さんは殺されたんだ? 金か? それとも他になんかあるのか? 」
「犯人の動機は分からないけど、個人的な恨みによるものであることはたしかよ。この部屋にはキレイな宝石や菊子さんの財布もあった。目に付く金品だけを盗っていった可能性もあるけど、そうだとしても犯行が雑すぎるわ。お金目当てで殺したのだったらもっと徹底しているはずだからね。だからお金目当てではなく個人的な恨みによるもので間違いないわ」
「誰が犯行なんだ? 」
「それはまだ分からないわ。でもハッキリ言えることはパーティー会場で犯人はシャンパンを持ち出したってこと。私はシャンパンを持ち出した人を3人知っている。そしてシャンパンを置いてあるところをパーティー中にずっと見ていたけど、その3人以外シャンパンを持ち出してはいない。またそれ以前にシャンパンを持ち出した人はいない。おそらくだけどね」
「なぜだ?早めに持ち出しておきたかったって場合があるだろ」
「それはないわ。おそらくだけど。早めにシャンパンを持ち出したら、パーティー終了までシャンパンをずっと持っておかないといけないのよ? 途中でシャンパンを持ったままパーティー会場を抜けようとすると目立っちゃうし。そんな危険なことを犯人はしないはずよ。もっと慎重に行動するはずだからね」
「して、その3人はどなた方でございましょう? 」
 人の良い執事さんも興味津々に早瀬の話を聞いていた。というかその場にいた全員が感心して聞いていた。
「その3人は……」
 妙に間を開ける早瀬。間を別にためなくたって問題ないぞ。
「中村美樹さん、木島蓮夜さん、山岡拓人さん! あなたたちです! 」
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