魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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MMM(トリプルエム)の年越しトレジャーハント

ホントの事言っちゃうとそこまでビーチバレーしたくなかったんだけどね……

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 凄まじい轟音と共にめり込んだボールを見て、俺は生命の危機を見事回避できたことに喜びを感じていた。このミニサイズクレーターの餌食になるくらいだったら、家についてる油汚れの数を数えている方がよっぽどマシである。
 コートはすぐに修復されたが、あんなもん見せられてビビらない方がおかしいというものだ。頭の中を見てもらった方がいい。
「マスターマスターっ! 得点! 」
 俺は望月の呼びかけによってなんとか我に返った俺は、言われるがままに得点板に得点を記入した。
「もうっ! ちゃんとしなさい防衛対象さん! そんなんだからテストの点も悪いんでしょ? 」
 それとこれとは関係ない。俺のテストの点について文句をつけたいのであれば、俺に勉学の才能を与えなかった神に言ってくれ。才能に恵まれなかった凡才たる俺にテストの点が悪かったことを誰が責められようか。
 なんて屁理屈を考えている間に試合はスタートしていた。
「やぁっ! 」
 やっぱり運動神経がいい人並のサーブを打った望月は、白鳥に威圧をかけるためか知らんがキッと睨んだ。
 冗談めいたものを感じるので大丈夫だろう。
「ひいぃっ! 」
 白鳥はライオンを見たウサギみたいに怯え始めた。どんだけビビりなんだこの人は。
「もうっ! 怯えている場合なの? ほら弥生! ボール来てるわよ! ボール! 」
 工藤の声にビクッと反応してヨロヨロとボールを打った白鳥だが、あんなの俺でも返せる。
 マヌケにも当たった瞬間から狙っていたであろう軌道から見事にはずれ、工藤が全力(?)ダッシュをするハメになった。
 工藤はコートから大きく飛び出したボールに追いついたかと思うと、
「シャインアロー! 」
 体を地面に滑り込ませて矢を放った。さっきまでの勢いの5倍返しくらい凄いスピードで望月たちのコート側に飛んでいった。
 もうそれアタックでいいだろ。
 だがそういうわけにもいかないだろう。光り輝くボールよりも高い位置にジャンプした白鳥は(多分)全体重を振り下ろした腕にかけて、さっきよりも(多分)強いスマッシュを打った。
 俺がまともにくらったら全身粉砕骨折だけでは済まなそうである。
 だがそれを望月はビビることなく、
「『アクセルレイド・1』! 」
 ボール並みの速さで動いた望月はボールが落ちるであろう場所に回り込んでトスをした。
 俺は体育の時間にトスのやり方のコツを爆弾を触ってる感じでやれと教師に教えられたのだが、目の前で行われている少年マンガ的トスを見てそんなもん無理だと確信できた。
 完全に勢いを殺されたボールはフワフワと上空から落下し始めた。
 早瀬は素早くそれに反応して、
「『召喚』! 」
 ゴツイライフルを取り出した。
「いくよ愛果ちゃん! 『マジックライフル・バーンブラスト』! 」
 ボールは赤い火によって燃え始めて小隕石みたいになった。
 さっきよりもデカイクレーターが出来そうだ。
 小隕石ボールのスピードよりも素早く動ける望月はネットの前まで回り込み、ボールがネットの上空に来た時にボールの高さまで大ジャンプした。目算でおよそ5メートルだ。
 どうなってんだ、相変わらず。
「おりゃっ! 」
 はたくように振り下ろした腕にヒットしたボールは工藤たちのいるコートにクレーターを作ろうとやる気満々のようで、ものすごいスピードでコートに向かっている。
 轟音。
 この空間全体がぶっ壊れるんじゃないかと本気で心配したくなるようなデカイ音が響き渡った。
 工藤たちのいるコートはさっきのミニサイズクレーターよりも1回りか2回りほどの大きさのクレーターが家のソファでくつろぐ猫のような堂々とした雰囲気でデカデカと居座っていた。
 こんなもん顔面にくらわなくても髪の毛1本とてこの世に残ることはなさそうだ。
 それにしてもよくあのボールは破れたり破裂しないなと感心する。多分made in立花のボールなんだろうけど。
 そんな雑貨店の商品を全て1人で製造しそうな立花がホイッスルを吹いた。俺は慌てて得点板に得点を記入する。
 魔法少女たちの顔を見る限り、これは当たり前の光景らしい。クレーターを作りまくるビーチバレーのなにがいいのか俺にはさっぱりわからないが。
 コートはすぐに修復され、試合再開のホイッスルが高々となった。
 今度は工藤たちがサーブをする番だ。白鳥の打つサーブは勢いはあったものの、そのへんのヤツらにサーブを打つよう要求したら打ってきそうなサーブだった。
 当然の結果ではあるがあっさりと返され、しばらくは平和なラリーの応酬が始まった。
 うん。これが普通のビーチバレーってヤツだよな。クレーターをコートにガンガンつけまくるようなもんじゃないよな。
 だが、クレーターをコートにつけるようなヤツらが、そんなありきたりの平凡ビーチバレーに満足するわけがなかった。
 白鳥のスマッシュを望月は普通に早瀬の方向にパスして、
「『マジックライフル・サンダーストーム』! 」
 早瀬がボールに雷を帯びさせた。触れたら死にそうだ。
「猛スピードで決めちゃうからね! 『アクセルレイド・2』! 」
 俺の動体視力ってのはあの時から全く成長していないらしく、文字通り比喩なしで望月が消えたように見えた。ただコートに激しい砂煙が上がるのを見るとコートの端から端まで何往復も超スピードでしているらしい。
 シャトルランの練習でもしているのだろうか。そんなわけなかった。
「望月さん! はやく動きすぎでしょ! これじゃどこからアタックするのかわからないじゃない! 」
 どうやらそれが目的らしい。
 俺には激しい粉塵から察するにシャトルランの練習を熱心にしている真面目な光景にしか見えない。スピードが異常なだけで。
 と、そんなことを呑気に思っているとデカイ破裂音が響いた。どうやらボールがぶっ叩かれたらしい。
 ボールはあまりのスピードに消えたようにしか見えないが、空気を切る音が恐ろしく聞こえる。
「なにビビってんの弥生! 私がなんとかするから、あなたが決めちゃいなさい! 『シャイン・ゴルドブラスト』! 」
 工藤が放った矢にボールがぶち当たったらしく、爆発音を上げて辺りが白い光に包まれた。
 眩しい光に微かに見える立花が相変わらず無表情なので安心する。
 目の前に太陽を設置したような眩しさから解放された俺の視界に真っ先に飛び込んできたのは、ホンモノの隕石が落ちたようなバカでかいクレーターと吹き飛ばされた魔法少女たちだった。
 目算でおよそ10メートルは吹き飛んでるが、4人とも気絶してしまっているように見える。
 どうやら双方共にマジになってやりすぎてしまったらしい。コートもコートのラインもネットも消え去っていた。ネットの柱が折れ曲がった黒焦げ状態で見つけることが出来たが、アレでは修復できるのか心配だ。
 あれ……? 
 そういえば立花の姿が見当たらない。どこにいるのだろうか。
 辺りを見回すと、俺の真後ろに立花がなんの気配もなく立っていた。
 さすが立花だ。CIAかスパイにでもなっちまえばいい。そのへんの木々やなにかと同化しすぎて全っ然気付かなかったぞ。潜入調査とか楽勝でできそうだ。
「大丈夫? 」
 疑問符を付けていることがかろうじて分かるくらい分かりにくいイントネーションの聞き方である。
「あぁ、どうやら俺は無傷らしい」
「……そう」
 そう言うと立花は興味を失せたようにナチュラル忍び足で吹き飛んだ望月の所まで行った。
 立花に起された望月は、立花の話を聞くと抗議の声をしきりに上げている様子だった。だがついに観念したかのように立花の話に首を縦に振ったらしい。
 そして残りの3人の魔法少女たちにも同じようなことを話したらしく、3人の様子を見る限りスグにそれを承諾したらしい。
 それが終わると立花はナチュラル忍び足を披露して俺のところにまで来た。ほかの4人もそれに続く。
「もぉー……立花さんがこれ以上ビーチバレーを続けると危ないからって言ってビーチバレーの試合は審判として続けられないって。もっとやりたかったなあ……ビーチバレー……」
 今回はさすがに立花の意見に賛成だ。
 夢中になった挙句コートそのものを吹き飛ばして、自分たちも大きく吹っ飛ばされるなんて普通あっちゃいけないことだろ。
「『空間魔法・十式』解除」
 さざ波のような音を立てて、俺たちは元の西田島に戻ってきた。
 西田は俺の隣でしきりになんかを話しているが、どうせどうでもいいようなくだらん話に違いない。
「なぁマスター、男子禁制ビーチバレーをあの人たちがするんだったら俺たちも女子禁制ビーチバレーを始めようぜ! 執事たちにも言ってメンバーを集めるんだ。そしたら絶対面白いことになるって! 」
 おいおい……。勘弁して欲しいね。
 ビーチバレーは観戦するのもしばらくは控えたいと思う。冬だからやってる奴らなんていないだろうけど。
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