魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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バレンタイン宝探しツアー

宝の地図捏造疑惑

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 節分という名の悪夢から解放されて10日くらい過ぎたこの日は、おそらく世界中の男が同点9回裏2アウト2ストライク満塁みたいな緊迫感に包まれているのであろう。
 そう、今日はバレンタインデーなのだ。
「マスターマスター! バレンタインデーって知ってる? 」
 登校中に望月がそんなことを言ってきた。
「知らないはずがない。この世界の男性はほとんどがこのイベントに関心を抱いている」
 ボソッと立花が呟いた。
 偏見だ。と言いたいところだが、間違ってないので反論できない。
「そりゃ知ってるけど、それがどうしたんだ? 」
 節分の時と同じくキラキラした目で俺を見てきた望月は、バレンタインデーという名の天国と地獄をまだ理解していないのだろう。
 今や時代は本命チョコを渡して告白なんてどベタ展開はやり尽くされて誰もやらなくなっている。義理チョコを渡して相手に感謝の気持ちを伝えるなんて日になりつつあるのだ。男としては、チョコが渡される確率が大幅アップしたわけである。
 しかしそれは、日頃の行いが女子にどう思われているのか、ということである。貰えるチョコか多ければ多いほど女子ウケがいいってことだ。逆に少ないと、女子がそいつに対してあまり良い印象を持ってないってことになる。
 まぁ要するに何が言いたいのかというと、チョコが欲しい。その一言に尽きる。俺だってそのへんにいる一般的な男子高校生だ。こういったイベントに過敏に反応するのも当たり前だ。
 いや、今のも正確には本音じゃないな。
 正直に言うと、我が家のおやつ代節約のためだ。
 自分で食費を出してるってことになってより食欲が増大した望月と立花は、晩メシが終わると必ずおやつを請求してくる。しかしそのおやつの量が凄いのだ。ラーメン定食1.5人前ぐらいあるのだ。
 どんな胃袋してんだ、全く……。
 おかげであいつらが支給されている金は全て食費として霧散し、結局あいつらの生活費と俺の食費&生活費は俺が払うことになった。前よりマシだが今も家計は火の車が暴走運転をして高速道路の反対側車線で追突事故を起こしているくらいなのだ。
 足しとしては微々たるものかも知れないが、家計を助けると思って誰か俺にチョコください。ってか金ください。
 とりあえず、今日貰えるチョコの量で今後の生活が変わる可能性があるのだ。まさに天国と地獄である。
「マスターって、毎年チョコどれくらい貰えるの? 」
 望月が俺を現実に引き戻した。
「だいたい……2個か3個ってとこだな。貰えない年もあるけど」
 俺は望月の顔が一瞬ニヤリとしたのを見逃さなかった。
「ふーん、そうなんだ~。マスター、これあげる」
 望月から渡されたのは、チョコではなくこの街の地図だった。駅前広場と思われる場所には箱に入った大量の玉が描かれたイラストがあった。また、西、南東、北東の部分に四角の枠があった。そこにはそれぞれ2~4の数字が割り振られていた。
「なんだこりゃ」
「えへへ~、お宝の地図だよッ! 」
 腰に手を当ててドヤっとキメ顔をする望月は、褒めて欲しいと言わんばかりである。
「宝? 」
「うん、クローゼットを漁ってたら出てきたの。今日はみんな用事があって一緒に行けないから、マスターが探してきて」
 西田に影響されたな。ついでに言うと宝の地図なんて家にあったらとっくの昔に宝探しに行ってるに決まってるだろ。
「放課後に探しに行ってね! その地図、期間限定で今日しか有効じゃないからね! 」
「そう。今日以外の日に見つけても意味がない。なぜなら……」
「わあぁーっ! 立花さん言っちゃダメだって~っ! 」
 期間限定宝の地図ってのがあってたまるか。しかも今日だけって。暇そうな西田を誘って一緒に探すか。
「うっす、マスター」
 教室に入って真っ先に声をかけてきたのは西田である。
 普段よりもソワソワと落ち着きがないのは、あいつも健全な男子高校生である証拠だ。
 だがスグに俺の横にいた望月に気づいて、
「いいよな~マスターは。ご近所さんの望月とか立花さんとかがチョコくれるんだろ? どうせ」
 ヤレヤレとデカイ溜め息をつく西田であった。
「そう言うがな西田。俺は今日チョコを見てすらいないんだ。誰からも貰ってなんかいない。多分母さんが家にチョコ送ってくれるだろうけど」
「んじゃ貰えるじゃねえか。俺も母さんから貰うけどよ、そんなことはどーでもいいんだ」
 嘘つけ。お前と知り合ってからこのイベントに関わらなかったことは無い。
「問題は今年はチョコ貰えないかもしれないってことだ! 」
 大声で言うな。ついでに今年『は』ではなく今年『も』の間違いだろ。
「ロッカーの中は5分おきに確認してるし、机の中はしょっちゅう確認してる。なんで1個も入ってないんだよ! おぉ神よ、俺にチョコという名の天の恵みをさずけてくれ~」
 おぉ神よ、こんな奴のいうことを頼むから聞いてくれるな。
 西田とアホな会話をして、スリーピングタイム(授業)を夢に逃げて過ごしているうちに、あっという間に放課後を迎えた。
 戦果はあんまり良くないかな。2個ちっこいチョコを貰っただけに留まった。足しにもならん。
「んじゃマスター、よろしくね! 」
「なにを? 」
 望月が見せた満面の笑みは、真夜中の満月もビックリするようなとびきりの笑顔だった。
「お宝! 」
 そう言った望月は、魔法少女みんなの手を引っ張って走っていった。
「お宝? マスター、お宝ってなんだ? 」
 そういやこいつを誘うんだったな。
「望月がクローゼットから宝の地図を見つけたんだとよ。なにかの事情で探しに行けなくなったらしいから、俺が代わりに探しに行けって言われたんだ」
 宝と聞いて目をランランとさせる西田の様子を見ると、俺が誘うまでもなさそうだった。
「俺も一緒に探しに行っていいかっ? お宝! 」
 なんて単純なヤローだ。完全に俺の読み通りじゃねーか。
「いいぜ、1人じゃ寂しかったからな」
 西田は顔をパーっと輝かせて携帯電話を取り出した。どうやら執事さんと話しているらしい。
「おう、スグに頼む。そそ、学校前な。んじゃよろしくー」
「執事さんか? 」
「ん? そうだ。車呼んでもらったんだ」
「リムジンか? 」
「よく分かったな。ちょっとデカイリムジンだ」
 冗談のつもりだったんだがまさかホントにリムジンだったとは。あいかわらずどんだけ金持ちなんだよこいつ。
 しばらくすると、西田曰く『ちょっと』デカイリムジンが到着した。
 リムジンの長さの相場なんて知ったこっちゃないが、25メートルくらいあるぞ。中学の時に背泳ぎのテストで溺れかけたプールとほぼ同じくらいの長さである。これのどこがちょっとなんだ?
「ん? マスター、なにぼーっとしてるんだ? はやく乗れって」
「……お、おう」
 俺の家にあるソファがパイプ椅子なんじゃないかと思いたくなるくらいクソでかくてフッカフカのソファに寝っ転がった西田は、執事さんに例の宝の地図を渡した。
「なぁー堀山ー、その地図に書いてある場所分かるか? 」
 執事さんはしばらく静かに考える様子を見せると、
「おそらく駅前広場にあるパチンコ屋のことでございましょう。このイラストは、おそらくパチンコ玉のことでございましょう」
 そこに行ってはいお宝ってわけじゃないのだろう。
 それにしても宝探しなんてなんとなくデジャヴだとか考えていたら、プライベートアイランドに行った時もこんなことしてたな。
「堀山、とりあえずそこ行ってみてくれ」
「かしこまりました」
 めちゃくちゃ目立ってるリムジンは、ゆっくりと発車した。
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