魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

文字の大きさ
85 / 114
花見の思い出は命懸け

2年生スタート

しおりを挟む
「『アクセルレイド・3』! やあぁっ! 」
 大きくジャンプした望月は、桜の木を踏み台にして一瞬で魔人の背後に回った。
 真っ青なツインテールをたなびかせ、それを予期していたかのように横にそれて回避した。
「甘いっちゅーねんアホ! 『召喚』! 」
 魔人の手に握られたのは、矢である。
 弓はどうした? 弓は。
 腕を弧を描くように横に振った魔人だったが、望月は後方に大きくジャンプして信号機の上に飛び乗った。
「逃げんなボケ! 『身体強制超速化アクセルフォーム』! 」
「えっ! あれって……? 」
「はにゃっ? 」
 望月と白鳥がほとんど同時に驚きの声をあげた。
 それもそうだろう。俺だってかなり驚いたさ。魔人が能力を発動した時、長方形と丸い2つの魔法陣が左右から挟み込むように現れたのだ。
「私たちの……」
「魔法陣……? 」
 どうなってんだ? 能力の名前も2人の能力を合わせたような名前である。
「これで最期や。捕獲対象はん、パクらせてもらうで……」
 魔人の黄色く光る目が、この状況のヤバさを物語っていた。

さて、いきなりバトルシーンなんてされたら誰だって戸惑うかもしれない。
 俺としてはこのまま最後まで突っ切ってもいいのだが、どうしてこうなったのかを説明しないとダメだろう。
 遡ること昨日。
 その日は入学式だった。

 桜が舞い散る景色の日に入学式なんて幻想的で、1度は体験してみたい日である。
 ところが現実ってのはドライだ。非常に厳しい。
 桜吹雪はもう見れそうに無かった。昨日降った大雨のせいで、この辺一帯の桜はほとんど散ってしまったのだ。
「マスターマスター! 早く行こ! 遅刻するよー」
 あと10分遅れて出ても遅刻にはならないのだが。
「ゆっくり行かせてくれよ、まだ時間あるんだし」
 朝っぱらから大量の朝メシを作らせてその片付けも全部こなさにゃならんのだ。休憩くらいしないとさすがに死ぬ。労災保険に入った方がいいかもしれないな。
 まだ学校に行ってるわけでもないのに、既にクタクタになった体をダラダラと動かして俺は登校するハメになった。
 通学路には新品のピカピカな制服を着た若々しい顔が何人か見える。今日は入学式なのだ。
 今からちょうど一年前の俺も、あんな感じのウキウキ顔だったのだろうか。そう考えると結構恥ずかしいもんである。
 思えば、一年前のこの日に俺は望月と出会ったんだよな。猫に化けた望月を家に入れて、わけのわからん中学生の黒歴史ノートみたいな設定を聞かされて、中華鍋との戦いを観戦して……。
 あの日以来、俺の人生は大きく変わった。
 毎日育ててたサボテンに向かってただいまとか話しかけるような寂しい日々は、望月たちと出会ってすっかり変わった。
 頭の中で勝手に今までのあらすじを総集編みたいなまとめをして回想する気はないが、脳裏から中々離れない刺激的なものばかりである。油汚れよりタチが悪い。
「あれ? マスター、あれって西田クンじゃない? 」
 望月が指さしている先には、確かに西田がいた。だがなんだか気持ちが沈んでいるようだ。
「オッス西田、どうしたんだ? 今日から2年生になったからって緊張してんのか? 元気なさそうだけど」
 振り向いた西田の顔は、病院に連れていきたくなるくらいやつれていた。目のクマはバカでかいし、いつもよりゲッソリとしていた。
「どうした? マジでなにかあったのか? 救急車かお前ん家の執事さん呼ぼうか? 」
「いや……大丈夫だ。最近なんだかネガティブなことばっか考えるようになっちまってよ。ロクに眠れもしねえんだ」
「ネガティブなこと? 」
「そうだ。アレやったらダメなんじゃないかとか、そんなことばっかし考え始めてよ。俺、もうダメかもしれない……。このままこんなネガティブなこと考えて挙句の果てには自殺とかするかも……」
 こんな時にもスイッチが入ったらしい。西田からただならぬネガティブオーラが漂っている。
 だが俺は西田がネガティブになるなんて藁人形100連発並に不吉なこの現象になんとなく心当たりがある。
 未来から来た俺が言ってたことだ。三好がなんとかエネルギーを発生させ続けて今から1ヶ月後くらいにやばい事態が起こるってやつだ。
 もしかしてこれはその前兆とかじゃないのか? 
 もしもそうだとしたら、マジでとっととあの日にタイムスリップしたい。
 実際、俺は時間遡行から帰った後に立花にスグにあのことを説明した。

「……ってわけなんだ。だから立花、予備の『タイム』を使わせてくれ」
 立花はしばらく考え込むような動作をして、俺に向き直った。
「不可能」
 ポツリと、聞き取れるかどうかの狭間くらいの大きさの声だった。
「へ? 」
「それは不可能」
「どうしてだ? 」
 立花は無表情のまま、淡々と述べて言った。
「『タイム』のような強力な魔力が封じられているカードは、同じく種類のカードをもう一度使う時に、しばらく時間がかかる」
「どれくらいかかるんだ? 」
「『タイム』の場合、約2ヶ月」
 俺の顔から血の気が引いていくのを、俺はその時ダイレクトに感じた。
「それじゃ意味無いんじゃ……。どうすりゃいいんだよ……! 」
「どうしようもないこと。仕方がない」
 俺は地面に突っ伏して頭を抱えた。
「立花、なにか良い方法はないか? 俺に出来ることならなんでもやるから……」
 しばらく沈黙が流れた。と言っても、急斜面を流れる流しそうめんみたいな速さでそれは幕を引いたが。
「今のところ良い方法があるわけではない。現状維持が精一杯と思われる」
 俺はもう声すら出せなかった。
 じゃあ、望月たちが死ぬ運命も変えられないってのか……。
 俺の反応を見たあと立花はさらに続けた。
「だから出来るだけその人にプラスエネルギーを発生させる又はマイナスエネルギーの発生を最小限に抑えることに尽力して。それが現状で出来ること」

 というわけで、現状維持を申し渡された俺だが、今んとこやってることと言えば、2、3日に1回くらいのペースで電話会談してるくらいだ。
 こんなもんで現状維持出来るとは思ってないし、かと言って有効な手段があるわけでもない。
 大富豪で例えるなら、7以上のカードを持ち合わせていない状況だ。革命とかも起こせない。将棋なら飛車角落ち、オセロなら端っこ全部取られたって感じだ。
「どうしたの? マスター、随分浮かない顔してるけど。あ、おはよ3人とも。それと西田クンも」
 背後から現れた早瀬によって、俺はボードゲームでこれ以上わかりやすい比喩がないかと探す旅から現実に引き戻された。
「早瀬か……。なんでもねえよ。ほら、たまにあるだろ? ふとしょーもないことでも真剣に考えたくなること」
 俺のとっさにしては中々のクオリティーの言い訳を聞いた早瀬は呆れた顔をして溜め息をついた。
「マスターって……厨二病? 」
 そ~来たかー……。
「なんでそうなるんだよ」
「いや、なんとなくだけど」
 俺はジト目の早瀬の視線に恐怖を感じながら学校までの道のりを歩んだ。早瀬がこうなるとなんて言うか分からんからな。
 ちなみに、俺は立花以外みんなにあの出来事を伝えていない。
 これは俺の単なるワガママである。もしも未来の俺と同じ運命を辿るようなら、せめてそれまでの日々をいつも通り過ごしてその日を迎えたいのだ。
 こうして学校へ辿り着いた俺たちだが、全然中に入れない。
 校門から校舎に繋がる通路で生徒がごった返していたのだ。新入生たちの集いではなさそうである。
 ホワイトボードに貼られたチープな紙を、2年生以上のヤツらが我先にと眺めていた。
 クラス発表のアレか。
 俺は周りの生徒をかき分けてなんとか眺めるくらいの距離まで近づけた。
 えーっと、俺の名前が……。あったあった。
 2年5組だ。西田も望月も三好もいる。結局去年と大して変わってない気がするな。
 その他のメンバーも大きく変わったわけじゃない。ほとんど去年と同じクラスだ。
 せめて西田だけでも違うクラスがよかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

処理中です...