魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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片思いフレンズ 第1章

Why are you watching me? Why am I loving you?

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 外に広がる景色を見て、俺の睡魔は完全に吹っ飛ばされた。

 街全体が黒煙に包まれていたのだ。

「なぁー望月……こいつはいったい……どうなってんだ? 」
「さ、さぁ……」
 小刻みに震える望月の代わりに、立花が答えてくれた。
「分からない……けど、この街全体が強い魔力で包み込まれている。天界との通信も断絶された」
 逆に今まで天界と連絡取れてたのかよ。しかしそれも出来なくなったってことは、相当マズイ展開になってるんだな。
「現在の状態で、天界との通信を復旧させることは極めて困難。不可能と考えてくれていい」
 窓の景色を眺めながら、立花は無表情で言った。まるで心ここに在らずって感じの口調だ。今までもなんとなくそんな感じだったが、今はそれ以上である。
「つまりめっちゃヤバイってことか? 」
「……そう」
 やっぱりそうだよなぁ……。
 それでもイマイチ実感がないのは何故だろうか。全身が震えるような恐怖は感じていない。今まで通り魔法少女たちがなんとかしてくれる、そんな気がしてならないのだ。
「なにせ天界に援軍要請とか出来なくなったからね、ピンチになっても誰も助けに来てくれないの」
 その声に反応して後ろを振り返った見ると、そこにはお隣さん3人組がいた。
 いつの間に入ってきたんだよ。
「それどころか、この空間だと私たちの実力が充分に発揮出来ないの。……ってそれくらい防衛対象さんでも理解出来ると思ってたけど……」
 うるせぇ。普通はこんな状況に陥っても、お前ら魔法少女たちと違って冷静に分析出来るもんじゃねーよ。
「ものすっごいマイナスエネルギーですね……。私たちのプラスエネルギーが、まるで押しつぶされるみたいな圧迫感を感じます……」
 白鳥の言葉に立花がコックリと頷く。
「まさにその通り」
「なにが? 」
 立花はゴキブリの巣を見つけた時のような、無表情なままでも剥き出しの嫌悪感を窓の外に向けた。
「通常では有り得ないほどのマイナスエネルギーがこの街全体を覆っている。そのおかげで、私たちのプラスエネルギーは本来の力を発揮できなくなっている。逆に魔人が出現した場合、魔人はより強くなる。この街で戦うことは私たちにとって相当不利」
「じゃあどっか別の街に行くとか、お得意の空間魔法とやらで戦えばいいんじゃねえのか? 」
 もはや小学生くらいの知恵で提案した俺に、工藤がヤレヤレとばかりに溜め息をついた。
「見ればわかるでしょ。この空間はすでに隔離空間、つまり空間魔法内空間と大して変わりないのよ。マイナスエネルギーに覆われたこの空間は実質空間魔法と同じ、他空間から干渉されないようになってるってわけ」
 工藤のドヤ顔説明を補足するかのように立花が付け足した。
「空間魔法内空間で空間魔法を使うことは不可能。同時展開で無理矢理繋ぎ足すことは出来る」
 空間って言葉を人生で一番聞かされた日だと確信出来たってことくらいしか具体的にわかったことは無い。
 俺の理解力を使ってわかったことは、とりあえず空間魔法とやらを使うことはなんだかんだでうんぬんかんぬんの事情により不可能ってことくらいだ。
 まあヤバいってことだな、現状は。
「っ! みんな見て! 魔人が動いた! 」
 望月の言葉に反応してみんなが窓の外に駆け寄った。黒煙がなにかに取り付いて魔人になったり、モクモクマンと同じ演出をして人型の魔人が現れたりとヤバイ状況が見てわかる。
「あれなに? 立花さん、あれなにか分かる? 」
 望月が指さした方向には、黒く禍々しい円柱みたいなヤツが立っていた。
 見慣れた区役所や近所の島とを繋ぐバカでかい吊り橋を遮って異常な存在感を放っている。その円柱は、まるで葉をすべて刈り取った大樹かのような姿をしていた。雷みたいに曲がりくねった枝みたいなやつが円柱から何本も生えてきて、さらにそいつが枝分かれしている。
 禍々しいという言葉をそのまま形にして表したみたいな形である。
 だがよくよく目を凝らして見てみると、その円柱の真ん中近くに小さなピンクとも白とも言えるような小さな点が1つだけあった。あの点だけが唯一禍々しさを放っていない。
 場所的には駅前広場のど真ん中っぽいな。待ち合わせ場所としてよく使われるあの噴水らへんだろうか。
「あれは…………」
 立花ですらその円柱の姿に息を飲んでいるらしい。いつも通りの無表情ではあるが。
 立花は(相変わらずの無表情のままで)じっくりと目を凝らして、その円柱を瞬時に分析した。
「ある意味でこの騒動の犯人」
「え? それってどういうこと? 」
 立花以外その場にいた全員が望月の放ったセリフと同じような表情をしていた。
 立花に全員の視線が集まる。
 それを受け流すかのような無表情をしている立花はその口を開いて説明し始めた。
「あれは簡単に言えば魔力を貯蔵している貯蔵庫のようなもの。というより魔力の塊。何らかの原因でこの地域に短期間で溜まった超多量の魔力が魔界で貯蔵しきれなくなり溢れこの世界にあの形で出現したと思われる。そしてその超多量の魔力がある人物と強制捕縛型魔力的四肢結合を果たしこの街全体を円形隔離型マイナスエネルギー包囲陣にした」
 あの~立花さん? もうちょい句読点を増やした話し方をしてくれたら助かったんだが……。最後の方はやたらと難しい単語の羅列ばっかしだったのでよく分からなかったし……。
「つまり……あの超多量なマイナスエネルギーの塊がこの世界の誰かとくっついて、さらにその誰かさんが持つマイナスエネルギーと結びついて、この街全体を隔離するほどの魔力に拡大したってこと? 」
 全くわからんみたいな顔の俺を見た早瀬がわかりやすくて噛み砕いた説明をしてくれた。早瀬の説明を聞いて立花はコックリと頷き、補足説明を始めた。
 情報量が多すぎてついていけないんだが。
「最低限の説明だけで大丈夫だぞ俺は。これ以上はついてけねーよ……」
 白鳥がアハハと苦笑し、工藤がヤレヤレと言わんばかりに呆れ顔を見せる。
「あなたも聞いて。これはあなたにとってとても大切なこと」
 おいおいマジかよ。まさかこの騒動の直接的な犯人は俺とか言い出すんじゃねえだろうな。心当たりもクソもないんだが。
「あれを見て」
 立花が俺にマイナスエネルギーの円柱を見るよう促してきた。
「目を凝らして。薄いピンク色の点が1つ見えるはず」
「あぁ、真ん中らへんにあるやつだよな」
 一呼吸の間が流れる。
「アレがこの騒動の直接的な犯人」
「アレが……? 」
 ピンクの点をさらにじっくりと見る。だが、この距離ではあのピンクの点がなにか分かりっこなかった。
 立花はそんな俺に向かって説明を始めた。
「アレは、あることをキッカケに超多量のマイナスエネルギーを生み出した。現在この空間を覆っているマイナスエネルギーとあのマイナスエネルギーの塊は全てアレが生み出したマイナスエネルギー」
 すげえ、マイナスエネルギーって言葉がめちゃくちゃ連呼されてる……。
「魔界ですら貯蔵不可なほどの膨大なマイナスエネルギーは、数値化するとおそらく天文学的数字になる。それほどの強大で巨大なマイナスエネルギーをアレはたった1人で発生させた」
 なんじゃそりゃ。どんだけやばいんだよそいつは。
「ってことは、お前のいう『アレ』にとって自殺級のショッキングな出来事があったってことか? 」
 立花は俺の目を見て一呼吸置いたあと、コクんと頷いた。
「通常なら自殺だけではすまないほど。おそらくマイナスエネルギーに取り憑かれ発狂して何人かを巻き込んだ自殺をする。それ以上のことをしでかすかもしれない。しかしここまで超多量なマイナスエネルギーを生み出すのはいくらなんでも不可能。ここまで生み出せたのはマスター、あなたの影響が大きい」
 俺の……? 
 俺があの魔力を生み出すのに関係してるってのか? 
「じゃあ立花……俺が関係してるって言いたいんだよな? ってことは、俺の知り合いってことか? 俺はお前のいう『アレ』を知ってるのか? 」
 やや間があった。一呼吸程ではないが。
「あなたも十二分に知っている」
「立花さん……マスターは知らない方がいいんじゃ……」
 早瀬が俯き気味にそう言った。
「えぇ、防衛対象さんがマイナスエネルギーを発生させたら面倒よ」
 工藤までそれを隠そうとするのか? 『アレ』の正体を。白鳥と望月は頭にハテナマークを浮かべている。
「あなたたちも察した? でも、だからといって隠した方が面倒になるかもしれない。いずれは分かることだから」
 立花は俺を見て無表情な口を開いた。
「三好奈々」
「……え? 」 
「それが『アレ』の正体」
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