1 / 45
第1話 僕には無理です
しおりを挟む
両親を殺した剣をなぞるのが、アヴァルの日課だった。
どうやって切って――
どうやって刺して――
どうやって殺したのか――
手に取るように覚えている。
父と母の剣は全く覚えていないというのに、あの男の――剣鬼の剣だけは忘れられなかった。
遠くの方で生徒たちが賑やかに刃引きの剣を振るっている。
彼らはどうして、剣を振るっているのに笑えるのだろうか。
「ちょっとエフティア、あんた構えふらふらしすぎ」
「立つしかできないエフティア~」
「あははは!」
エフティアと呼ばれる子は、「えへへ……」とへらへらするばかりだ。
上段を構えても何かに怯えるようにまともに剣を打ち込めない。
中段を構えてもどこにも意識がない。なぜ間合いを支配しようとしない。
下段を構えても――
――もういい、うっとうしい、視界の端にも入れたくない。
きっと、何不自由なく生きてきたんだろう。
剣など志さずに、そのまま何不自由なく生きればよかったんだ。
「いつだって人を苦しめるのは思い込みですねぇ、アヴァル君。あなた、こんな訓練場の端の端で一人で訓練って……もういっそ別の場所で訓練するのはいかがです?」
木陰から忍び寄るように現れたのは剣術の講師――『雷霆のベッシュ』と呼ばれるその人だった。丁寧な話し方をする小柄な男性だが、実力は本物だ。白いもじゃもじゃ頭が迫力を削いでしまうのがいたたまれないけれど。
「……ベッシュ先生。いえ、別の場所だと無断欠席になってしまいますので」
「やはり、特待生だけあって根っこの部分は真面目ですねぇ……感心しますが、今のあなたのふるまいには感心しません。ここは学び舎……学び、心を強く変容させる場です。そのためには、同じ目線の学友同士で剣を重ねることが必要です」
「……おっしゃることは、理解できます。ですが、僕の剣は……その……みんなの剣とは違うんです……同じじゃない。それに、ここを卒業する条件にはみんなとの交流は含まれてはいないのではないでしょうか」
「ふむ、あなたの言うことはある意味では正しいのでしょう。他の者とは違う剣という言葉が意味するところが、そう単純なものではないことも分かります。ただ、卒業する条件に関してですが、それについては勘違いしているようなので訂正させていただきましょう。
まず、ルールには明記されていない暗黙の了解というものがあります。別に理不尽を言うつもりはありません。今は自主訓練の時間ですが……自主訓練など日々自分で行うものです。が、なぜ自主訓練の時間が設けられてるのかを考えれば明白なのですが、他者と切磋琢磨する機会を与えるためなのですよ」
「僕には無理です」
「お黙りなさい。まだ途中です。第一、あなたは特待生。面接の時に私が言ったことを覚えていますか? 『あなたを特待生として正式に迎えます。その力を存分に育て、また他者の模範となれるように努めてください』と言いましたねぇ」
「……覚えて……ます。そうでしたね。ですが……」
「思い込みとは本当に恐ろしいですねぇ。いいですか?
昨日でも今日でもありません。明日へと進む意志こそが、あなたを剣使たらしめるのですよ」
ベッシュ先生はそれだけ言うと立ち去って行った。
剣使――神剣に認められし存在――父と母がそうだったが、僕にはなれそうもなかった。
ふと、遠くで訓練している少女を眺める。
見苦しいほどに他の生徒からあしらわれ、地面に倒れこんでいた。まともに食らいつくことすらできないのに、必死に立ち上がろうとしている。
彼女も到底、剣使には届かない――
どうやって切って――
どうやって刺して――
どうやって殺したのか――
手に取るように覚えている。
父と母の剣は全く覚えていないというのに、あの男の――剣鬼の剣だけは忘れられなかった。
遠くの方で生徒たちが賑やかに刃引きの剣を振るっている。
彼らはどうして、剣を振るっているのに笑えるのだろうか。
「ちょっとエフティア、あんた構えふらふらしすぎ」
「立つしかできないエフティア~」
「あははは!」
エフティアと呼ばれる子は、「えへへ……」とへらへらするばかりだ。
上段を構えても何かに怯えるようにまともに剣を打ち込めない。
中段を構えてもどこにも意識がない。なぜ間合いを支配しようとしない。
下段を構えても――
――もういい、うっとうしい、視界の端にも入れたくない。
きっと、何不自由なく生きてきたんだろう。
剣など志さずに、そのまま何不自由なく生きればよかったんだ。
「いつだって人を苦しめるのは思い込みですねぇ、アヴァル君。あなた、こんな訓練場の端の端で一人で訓練って……もういっそ別の場所で訓練するのはいかがです?」
木陰から忍び寄るように現れたのは剣術の講師――『雷霆のベッシュ』と呼ばれるその人だった。丁寧な話し方をする小柄な男性だが、実力は本物だ。白いもじゃもじゃ頭が迫力を削いでしまうのがいたたまれないけれど。
「……ベッシュ先生。いえ、別の場所だと無断欠席になってしまいますので」
「やはり、特待生だけあって根っこの部分は真面目ですねぇ……感心しますが、今のあなたのふるまいには感心しません。ここは学び舎……学び、心を強く変容させる場です。そのためには、同じ目線の学友同士で剣を重ねることが必要です」
「……おっしゃることは、理解できます。ですが、僕の剣は……その……みんなの剣とは違うんです……同じじゃない。それに、ここを卒業する条件にはみんなとの交流は含まれてはいないのではないでしょうか」
「ふむ、あなたの言うことはある意味では正しいのでしょう。他の者とは違う剣という言葉が意味するところが、そう単純なものではないことも分かります。ただ、卒業する条件に関してですが、それについては勘違いしているようなので訂正させていただきましょう。
まず、ルールには明記されていない暗黙の了解というものがあります。別に理不尽を言うつもりはありません。今は自主訓練の時間ですが……自主訓練など日々自分で行うものです。が、なぜ自主訓練の時間が設けられてるのかを考えれば明白なのですが、他者と切磋琢磨する機会を与えるためなのですよ」
「僕には無理です」
「お黙りなさい。まだ途中です。第一、あなたは特待生。面接の時に私が言ったことを覚えていますか? 『あなたを特待生として正式に迎えます。その力を存分に育て、また他者の模範となれるように努めてください』と言いましたねぇ」
「……覚えて……ます。そうでしたね。ですが……」
「思い込みとは本当に恐ろしいですねぇ。いいですか?
昨日でも今日でもありません。明日へと進む意志こそが、あなたを剣使たらしめるのですよ」
ベッシュ先生はそれだけ言うと立ち去って行った。
剣使――神剣に認められし存在――父と母がそうだったが、僕にはなれそうもなかった。
ふと、遠くで訓練している少女を眺める。
見苦しいほどに他の生徒からあしらわれ、地面に倒れこんでいた。まともに食らいつくことすらできないのに、必死に立ち上がろうとしている。
彼女も到底、剣使には届かない――
0
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
氷結の夜明けの果て (R16)
ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン)
よくある異世界転生?
使い古されたテンプレート?
――そうかもしれない。
だが、これはダークファンタジーだ。
恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも――
まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。
穏やかな始まり。ほのかな優しさ。
だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。
その時が来れば、闇は牙を剥く。
あらすじ
失われた魂――影に見つめられながら。
だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか?
異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。
生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。
――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。
冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、
彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。
だが、栄光へと近づく一歩ごとに、
痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。
光の道を歩んでいるかのように見えて――
その背後で、影は静かに育ち続けていた。
――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。
🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。
🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。
🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。
ヴェイルは進む。
その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。
それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる