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第2話 女性の扱いにはお気をつけて
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特待生寮の一室は一人分には大きすぎた。
屋敷にいた頃はメイドがいたから、何かしらの物音がしたものだったが、今はそれもない。静けさはより深かった。存在感を放つものと言えば、飾られた鞘に納まった剣くらいだ。
コンコンとドアを三回たたく音がする。
「ベッシュです、開けてくれますか」
遮るものが何もない部屋を歩き、ドアを開きに行く。
困ったような表情をしたベッシュ先生の顔があった。
「どうされたのですか?」
「実は……アヴァル君に折り入ってお願いがありまして」
「はあ……」
「今度のダンスパーティーの司会の挨拶――」
「無理です」
「――は別の人に任せることにするとして、しばらくの間あなたの部屋を他の生徒にも貸してあげたいのですよ。というのも、その子の部屋が事故で壊れてしまいましてねぇ、かといって他に空き部屋があるわけでもないので、この部屋に住まわせてやりたいのですよ」
「……そんなことを言われましても」
「そんなこと言わずに……そうだ、その生徒というのはね、実は! ……女の子なのですよっ」
「お断りします。失礼します」そっとドアを閉じようとするが――
「待ちなさいッ!」――足で止められた。
静寂の中に奇妙な膠着状態が生まれる。見かけによらず、ベッシュ先生の力が強いせいでドアが大きく開いた。
「ところで、エフティア君のことはどう思っていますか?」
「足をどけてくださいよ……どうって、あのへらへらした子でしょう? 才能もなく努力も怠っていて心も弱い、剣使になる気もないくせに学園にいる……周りから笑われているだけの女子――」
「ちょっ、アヴァル君……」
「――まさか、彼女と同居しろなんて言うんじゃないでしょうね! 願い下げですよ! それに女の子を餌に男子生徒を釣ることで部屋が足りないという学園側の不備を帳消しにしようだなんて虫がいいにもほどが……あり――」
力が抜ける。二人とも、ドアの開け閉めで争うことはやめた。
「アヴァル君……言いそびれましたが、承諾をもらう前提で、エフティア君にも来てもらっていました。ほら、荷物も持ってるでしょう? ね……?」
「先に……言ってくださいよ……だったら僕だって――」
――あそこまできつく言うはずはなかった。
息をのみ、エフティアの反応をうかがう。
うつむいた彼女の目元は隠れていて、その表情も読み取れない。でも、この静寂は……ものすごく胸が痛い静寂だった。
一滴……雫が落ちる。
彼女はそのまま、持っていた荷物も置いて駆け出した。
どんどん遠く離れていく。
これは……だめだ!
「失礼します!!」
「あ、はい。女性の扱いにはお気をつけて」
だ、誰のせいだと……言ってる場合じゃない。
エフティアの脚は意外と速く、追いつくのは骨が折れそうだった。
屋敷にいた頃はメイドがいたから、何かしらの物音がしたものだったが、今はそれもない。静けさはより深かった。存在感を放つものと言えば、飾られた鞘に納まった剣くらいだ。
コンコンとドアを三回たたく音がする。
「ベッシュです、開けてくれますか」
遮るものが何もない部屋を歩き、ドアを開きに行く。
困ったような表情をしたベッシュ先生の顔があった。
「どうされたのですか?」
「実は……アヴァル君に折り入ってお願いがありまして」
「はあ……」
「今度のダンスパーティーの司会の挨拶――」
「無理です」
「――は別の人に任せることにするとして、しばらくの間あなたの部屋を他の生徒にも貸してあげたいのですよ。というのも、その子の部屋が事故で壊れてしまいましてねぇ、かといって他に空き部屋があるわけでもないので、この部屋に住まわせてやりたいのですよ」
「……そんなことを言われましても」
「そんなこと言わずに……そうだ、その生徒というのはね、実は! ……女の子なのですよっ」
「お断りします。失礼します」そっとドアを閉じようとするが――
「待ちなさいッ!」――足で止められた。
静寂の中に奇妙な膠着状態が生まれる。見かけによらず、ベッシュ先生の力が強いせいでドアが大きく開いた。
「ところで、エフティア君のことはどう思っていますか?」
「足をどけてくださいよ……どうって、あのへらへらした子でしょう? 才能もなく努力も怠っていて心も弱い、剣使になる気もないくせに学園にいる……周りから笑われているだけの女子――」
「ちょっ、アヴァル君……」
「――まさか、彼女と同居しろなんて言うんじゃないでしょうね! 願い下げですよ! それに女の子を餌に男子生徒を釣ることで部屋が足りないという学園側の不備を帳消しにしようだなんて虫がいいにもほどが……あり――」
力が抜ける。二人とも、ドアの開け閉めで争うことはやめた。
「アヴァル君……言いそびれましたが、承諾をもらう前提で、エフティア君にも来てもらっていました。ほら、荷物も持ってるでしょう? ね……?」
「先に……言ってくださいよ……だったら僕だって――」
――あそこまできつく言うはずはなかった。
息をのみ、エフティアの反応をうかがう。
うつむいた彼女の目元は隠れていて、その表情も読み取れない。でも、この静寂は……ものすごく胸が痛い静寂だった。
一滴……雫が落ちる。
彼女はそのまま、持っていた荷物も置いて駆け出した。
どんどん遠く離れていく。
これは……だめだ!
「失礼します!!」
「あ、はい。女性の扱いにはお気をつけて」
だ、誰のせいだと……言ってる場合じゃない。
エフティアの脚は意外と速く、追いつくのは骨が折れそうだった。
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