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第4話 ふつつかものですが……?
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「おっ、お世話になります……」
「こちらこそ」
「ふつつかものですが……?」
「なんか……違うと思いますが」
世話をするつもりはないが――部屋に入るように促すと、エフティアはおそるおそるといった様子で部屋に入った。
なんだか心臓がうるさくてしょうがないけれど、今は耐えるしかない。
彼女は興味深そうにリビングを見回すと、「ふぇー」とか「ふぁー」とかふわふわした声を出していた。
「とっても広い!」
エフティアは両手を広げて表現する。
何だか見た目以上に幼い人だな。
「エフティアさん、大事なことをまず話しておきますね。実はベッドは4人分あるにはあるんですけど、全部同じ部屋にあるんですよ」
そう伝えて、僕は寝室のドアを開く。
「わぁー!」
エフティアは本当に嬉しそうに寝室に入っていった。
彼女とすれ違う時、不意に甘い香りがしたが、彼女の香りだと気が付くのに時間がかかった。
「二段ベッドだ! すごい! アル君はどこで寝てるの?」
「アル君……? 入って右の……それです」
「じゃあ、わたしはその上のベッドにする!」
「……なんで!?」
「? ……何となく?」
「……普通、嫌じゃないですか。全然知らない男の近くで寝るの」
「アル君は、知ってるよ?」
「知っているうちに入らないですって」
「もう、手だって……つないだし」
「なっ……あれは、君が泣いていたからで……」
「ねえ、アル君! ベッドで寝ながら訓練場の方が見えるんだね! 窓がついてる!」
「……あの」
「どうしたの?」
「アル君って、何ですか?」
「何だかそう呼びたくなって! ……嫌だった?」
「いや……別に。慣れなくて」
「じゃあ、うれしい?」
「……よく、分からないですよ」
「えへへー、じゃあアル君で!」
遠くで眺めていた少女とはまるで違うようだった。よく喋り、息をつく暇がない。
相手のペースに飲まれてはいけないと、父さんもよく言っていた。
「じゃあ、エフティア……って、僕もそう呼ぶね。
エフティア、君っていつもそんなにおしゃべりなのかい。君は何というか、あまり喋らない人だと思っていた。いつも……にこにこ笑っているけど、君自身はあまり喋っていないというか……つまり、何が言いたいかというと、驚いているんだ」
自分でも何が言いたいのか分からないまま口が動く。
「……アル君も無口だと思ってたけど、ほんとはたくさん色んなこと考えてたんだね」
エフティアはベッドに腰かけた。僕のベッドなのだけれど。
「わたし、みんなの前ではあまり話さないんだ。みんなが何を言っているのかよく分からなかったり、何で笑っているのか分からないってこと、よくあるんだ。みんなが笑っているから、わたしも笑わなきゃって思うんだけどね……笑いながら、すごく悲しくなることがよくある……」
「分からないんだったら、合わせなくてもいいじゃないか」
エフティアは目を見開く。
余計なことを言ってしまっただろうか。
彼女は何度か口を開きかけては、言葉を探しているようだった。
「……わたし、強くなりたいんだ。強くなるためには、相手がいないといけないから、よく分からなくても……みんなが笑ってくれるなら、それがわたしのお返しだと思ってた」
「それは――」
――笑われているだけじゃないか。
「……でも、わたしはアル君の言うようにへっぽこで、才能もなくて全然努力が足りなくて……心も、弱くて……」
「……ごめん」
「ううん。ほんとのことだと思ったし、みんなもほんとはそんな風に思ってるんだろうなって思うと……悔しくて、情けなくて……わたし、それでも強くなりたいって思うと――涙が止まらなくなって」
「……」
「……だから、笑われてもみんなと訓練するんだ。実を言うとね、アル君と同じ部屋で暮らすことになるって話を先生から聞かされた時にね、『やったー』って思ったんだ。ひょっとしたら一緒に訓練するきっかけになるかもしれないって思ったの。でも、アル君は実はわたしとなんて一緒に居たくないって知って……わたし、わたしが自分のことばかり考えているから罰が当たったのかなって……」
彼女はうつむくと、うつむいたまま続けた。
「アル君、わたしの手を握ってから、急に優しくなったのはどうして……? だって、明らかに雰囲気が変わったから許してもらえたのかなって……」
「許すも何も……悪いのは僕だ。それに、優しくなったわけじゃないよ。正しい態度を取るべきだと思ったんだ」
「……よく分かんないや」
「あぁ……つまり、その、なんていうべきかな……」
この子が、父さんや母さんと同じだと感じたんだ。つまり、その感触はとても硬くて……でも、それこそが尊ぶべきことであって……つまり――
「――君の手が、剣使の手だったからだ。少なくとも、僕が知っているこの世界で最高の剣使の手だ」
「……………剣使?」
「僕は愚かにも、勝手な思い込みで君を軽んじていたんだ。恥ずべきことだ。だから、正しい態度を取るべきだと思った」
「……えっ?」
「まだ分からないかな。僕は君の手が好きだ。尊敬しているんだ。それだけの話――」
「ぎゃわぅッ!」
エフティアは急に立ち上がろうとして二段目のベッドの裏に頭をぶつけた。顔を真っ赤にして泣いている。
「――大丈夫……?」
「はぃ……」
エフティアはベッドに倒れこんで置いてあった枕に顔をうずめた。僕の枕……。
「アル君……」
「はい」
「……なんでもないです」
「……うん。ところで、そこ、僕のベッドなんだ」
「はっ! ぎゃぅ!」
ゴンッ……という音。
彼女に同じ過ちを繰り返させるという過ちを犯してしまった。
「あぁーっ! アル君笑ったでしょ!? ひどい!」
「ひどいのは君だ。僕のベッドと枕をぐしゃぐしゃにしているんだから」
彼女がまた立ち上がろうとする前に、頭に手を置くそぶりを見せた。
エフティアは自分の頭を押さえると、恥ずかしそうに笑うのだった。
「こちらこそ」
「ふつつかものですが……?」
「なんか……違うと思いますが」
世話をするつもりはないが――部屋に入るように促すと、エフティアはおそるおそるといった様子で部屋に入った。
なんだか心臓がうるさくてしょうがないけれど、今は耐えるしかない。
彼女は興味深そうにリビングを見回すと、「ふぇー」とか「ふぁー」とかふわふわした声を出していた。
「とっても広い!」
エフティアは両手を広げて表現する。
何だか見た目以上に幼い人だな。
「エフティアさん、大事なことをまず話しておきますね。実はベッドは4人分あるにはあるんですけど、全部同じ部屋にあるんですよ」
そう伝えて、僕は寝室のドアを開く。
「わぁー!」
エフティアは本当に嬉しそうに寝室に入っていった。
彼女とすれ違う時、不意に甘い香りがしたが、彼女の香りだと気が付くのに時間がかかった。
「二段ベッドだ! すごい! アル君はどこで寝てるの?」
「アル君……? 入って右の……それです」
「じゃあ、わたしはその上のベッドにする!」
「……なんで!?」
「? ……何となく?」
「……普通、嫌じゃないですか。全然知らない男の近くで寝るの」
「アル君は、知ってるよ?」
「知っているうちに入らないですって」
「もう、手だって……つないだし」
「なっ……あれは、君が泣いていたからで……」
「ねえ、アル君! ベッドで寝ながら訓練場の方が見えるんだね! 窓がついてる!」
「……あの」
「どうしたの?」
「アル君って、何ですか?」
「何だかそう呼びたくなって! ……嫌だった?」
「いや……別に。慣れなくて」
「じゃあ、うれしい?」
「……よく、分からないですよ」
「えへへー、じゃあアル君で!」
遠くで眺めていた少女とはまるで違うようだった。よく喋り、息をつく暇がない。
相手のペースに飲まれてはいけないと、父さんもよく言っていた。
「じゃあ、エフティア……って、僕もそう呼ぶね。
エフティア、君っていつもそんなにおしゃべりなのかい。君は何というか、あまり喋らない人だと思っていた。いつも……にこにこ笑っているけど、君自身はあまり喋っていないというか……つまり、何が言いたいかというと、驚いているんだ」
自分でも何が言いたいのか分からないまま口が動く。
「……アル君も無口だと思ってたけど、ほんとはたくさん色んなこと考えてたんだね」
エフティアはベッドに腰かけた。僕のベッドなのだけれど。
「わたし、みんなの前ではあまり話さないんだ。みんなが何を言っているのかよく分からなかったり、何で笑っているのか分からないってこと、よくあるんだ。みんなが笑っているから、わたしも笑わなきゃって思うんだけどね……笑いながら、すごく悲しくなることがよくある……」
「分からないんだったら、合わせなくてもいいじゃないか」
エフティアは目を見開く。
余計なことを言ってしまっただろうか。
彼女は何度か口を開きかけては、言葉を探しているようだった。
「……わたし、強くなりたいんだ。強くなるためには、相手がいないといけないから、よく分からなくても……みんなが笑ってくれるなら、それがわたしのお返しだと思ってた」
「それは――」
――笑われているだけじゃないか。
「……でも、わたしはアル君の言うようにへっぽこで、才能もなくて全然努力が足りなくて……心も、弱くて……」
「……ごめん」
「ううん。ほんとのことだと思ったし、みんなもほんとはそんな風に思ってるんだろうなって思うと……悔しくて、情けなくて……わたし、それでも強くなりたいって思うと――涙が止まらなくなって」
「……」
「……だから、笑われてもみんなと訓練するんだ。実を言うとね、アル君と同じ部屋で暮らすことになるって話を先生から聞かされた時にね、『やったー』って思ったんだ。ひょっとしたら一緒に訓練するきっかけになるかもしれないって思ったの。でも、アル君は実はわたしとなんて一緒に居たくないって知って……わたし、わたしが自分のことばかり考えているから罰が当たったのかなって……」
彼女はうつむくと、うつむいたまま続けた。
「アル君、わたしの手を握ってから、急に優しくなったのはどうして……? だって、明らかに雰囲気が変わったから許してもらえたのかなって……」
「許すも何も……悪いのは僕だ。それに、優しくなったわけじゃないよ。正しい態度を取るべきだと思ったんだ」
「……よく分かんないや」
「あぁ……つまり、その、なんていうべきかな……」
この子が、父さんや母さんと同じだと感じたんだ。つまり、その感触はとても硬くて……でも、それこそが尊ぶべきことであって……つまり――
「――君の手が、剣使の手だったからだ。少なくとも、僕が知っているこの世界で最高の剣使の手だ」
「……………剣使?」
「僕は愚かにも、勝手な思い込みで君を軽んじていたんだ。恥ずべきことだ。だから、正しい態度を取るべきだと思った」
「……えっ?」
「まだ分からないかな。僕は君の手が好きだ。尊敬しているんだ。それだけの話――」
「ぎゃわぅッ!」
エフティアは急に立ち上がろうとして二段目のベッドの裏に頭をぶつけた。顔を真っ赤にして泣いている。
「――大丈夫……?」
「はぃ……」
エフティアはベッドに倒れこんで置いてあった枕に顔をうずめた。僕の枕……。
「アル君……」
「はい」
「……なんでもないです」
「……うん。ところで、そこ、僕のベッドなんだ」
「はっ! ぎゃぅ!」
ゴンッ……という音。
彼女に同じ過ちを繰り返させるという過ちを犯してしまった。
「あぁーっ! アル君笑ったでしょ!? ひどい!」
「ひどいのは君だ。僕のベッドと枕をぐしゃぐしゃにしているんだから」
彼女がまた立ち上がろうとする前に、頭に手を置くそぶりを見せた。
エフティアは自分の頭を押さえると、恥ずかしそうに笑うのだった。
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