グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人

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第31話 お友達

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リゼは教室の真ん中の席に、一人でぽつんと座っていた。
ミルラとイルマは教室のどこにもいない。
エフティアは相変わらず最前列に座っているが、その後ろ姿はどこか機嫌が悪そうだった。
レディナは心ここに在らずといった表情をしている。窓の外ばかり見ていた。

「にゃあ、結局どうなったんかにゃ」
「授業が終わったら、聞いてみよう」
「にゃあ……」
「君の好きな授業なのに、元気ないね」
「おいらの気持ち、分からにゃい……?」
「キルナ先生は好きだけど、今日ばかりはリゼさんを当てて欲しくない?」
「分かってるなら『元気ない』とか言うにゃあ……」
「言わなきゃ分からないこともあるから」

今分かっていることは、ミルラとイルマが最近全く現れないということだ。

「にゃあ、ヴァルっちは大丈夫なんにゃ?」
「何が?」
「……なんでもないにゃ」
「君は曖昧過ぎることがある。そういうところはいけないよ」
「曖昧なのはヴァルっちの記憶にゃ」
「なにそれ」

時々分からないことを言うな、ソーニャは。

「先生来ちゃったにゃ」
「なんか、寝不足そうだね」

教壇に立つキルナ女史は頭を抱えながら教室全体をにらんできた。

「あなたたちがなぜ剣を持つべきでないか分かる?」

彼女の問いは、剣《エイドス》を扱う者には理解しがたいものだった。おそらく、この場にいるほとんどが首を傾げただろう。
先生は哀れむようにかまわず続ける。

「子どもの手には余るからよ! いつでも現せる剥き出しの刃なんて、理性のない者の手に渡ったらどうなるか……想像してみてごらんなさい! 馬鹿が大馬鹿に化けるのよ! ……市場で売られている刀剣の類になぜ鞘《さや》があるのか、考えたことがあるかしら。ディアストラさんミスター・ディアストラ

僕か……自分なりの完璧な回答の準備はできてますよ、先生。

「刀身を保護するためです。次に――」
「はいおバカはっけーん。剣使いあなた達が最初に口にすべき言葉は『危ないから』、その一言よ! 何が危ないかって? 全てよ! 心と体、己と他者、世界の全てを傷つけないためにあると心に刻みなさい! 後回しにしている場合じゃないわ!」

――なるほど、後回しにするのがいけないと、そういうのもあるのか。

「刻みます」

座ってソーニャと目を合わせる。

「ばかって言われた」
「特待生にはもったいにゃきお言葉、有難くいただくにゃ」
「それもそうだね」

キルナ先生のお言葉は説教が前提だから、お言葉をいただいている方としてはむしろ落ち着く。それに、リゼさんに当たらなくてよかった。
ひとまずの安堵もつかの間、聞きなじみのある声が教室全体に響いた。

「先生! アル……アヴァル君は、ばかじゃありません!」
「あら、珍しいわねローランさんミズ・ローラン。発言を許します」

エフティア……!? 今まで一度だって質問すらしたことがないのに、反論を……よりにもよってこの先生に。
教室もざわつき、ソーニャも獣人《ファウナ》特有の感情が読めない顔をしていた。多分驚いている。
ずっと窓の外をぼんやりと眺めていたレディナも、今だけは目を見開いてエフティアを見ていた。

「まず、先生が言ってる『ばか』ってどういう意味ですか!」
「最初に言葉について指摘するのはいい心掛けね。教えてあげましょう。
本質が見えていない――という意味を込めて、今日はばかという言葉を使っているわ」

「……本質って何ですか」
「そのもののあるべき姿よ」

「じゃあ、アル君はばかじゃないです!」
「では答えてもらえるかしら、ディアストラさんミスター・ディアストラがばかではないという理由を」

「わたしが! 未来の剣使《バアリ―シュ》だと言ってくれたからです! ふん!」

思い切り胸を張るエフティアに教室全体がのけぞる。
誰かが小さな物音を立てると、堰《せき》を切ったように爆笑が起こった。

〈おいおいドジティアが剣使って!〉
〈冗談だろ!〉
〈さすがにエフティアが剣使ってのは、ねぇ〉
〈あはは、面白いからいいじゃん〉
〈でも嘘はよくないよー〉

エフティアの自信満々の表情が曇り始める。

「静かになさいっ!!」

僕が声を上げるよりも先生の方が早かった。
学生というのは教師のたった一言で押し黙るらしい。もっとも、本能的にキルナ先生を怒らせるべきではないということが分かっているからだろうが。

「ということですが、どうなのです? ディアストラさんミスター・ディアストラ

今度は簡単な質問だった。

「ええ、彼女は未来の剣使――バアリ―シュになる人です」

先生はいつも通りそっけなく、それでいていつもよりは柔らかい声で「そう」とだけ言う。

「ミズ・ローラン、反論した以上は証明することです! さて、この教室内のいったい誰が馬鹿のままで終わるのか……実に見ものね。では授業に――」

「先生! お待ちになって!」

落ち着く暇もなく、月華の令嬢が手をまっすぐ伸ばして上げた。

「――発言を許します。ライナザルさんミズ・ライナザル
「わたくし、この世で最も大切にすべきものが分かりましたの!」

リゼさん?

〈にゃんか今日はいつにもまして賑やかにゃ〉
〈どうか、言い負かされないで……〉

「よろしい。言ってみなさい」
ですわ! かけがえのない友への想いこそが、わたくしの世界を美しくすると魂で感じましたの! 今のエフティアさんとアヴァルさんの言葉を聞いて、確信いたしましたわ!」

「そう」
「はい!」

リゼは満足そうにして座ると、子どものように首を左右に振って長い髪を揺らす。
エフティアとレディナは相当驚いた様子で、リゼのことをかなり長い時間見つめていた。

〈どうしたのかな〉
〈さあ〉
〈でも、あれがリゼ=ライナザルって感じだよね〉
〈真似できないわー〉

教室全体の空気も懐かしいものになっていた。

「にゃあ……」
「僕も安心した……ちょっと驚いたけど」

その後の授業は、いつものキルナ節で一方的に討論に持ち込まれる教室だった。ただ、教室全体が授業開始前よりも明るくなったと感じるのは、リゼが前を向き始めたからかもしれない。
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