グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人

文字の大きさ
30 / 45

第30話 黒……!

しおりを挟む
リゼは、硬貨が入っているであろう袋をまがい物の友達に手渡そうとしている。

「リゼさん、その人たちに何をしようとしてるんですか」
「何って、約束していたお金をお渡ししようとしていましたの」
「その二人がさっき言っていたことの意味が、分からないんですか!」

本当に、分かっていないのか?

「うーわ、特待生君まで巻き込んでうちらを付け回してたわけ?」
「性格わるすぎ?」
「先生にチクっちゃおっか」
「だねー」

二人は全く悪びれていない。

「にゃー、お前らいい加減にするにゃあ」
「ソーニャ……」

いつもより低い声色をさせて、彼も表に姿を見せた。

はぐれ獣人カルアハまでいんじゃん」
「特待生のだぁ。レディナはの保育園でも開くつもり?」

飼い猫……?
何を言っているんだ、この人たちは?
なんだあの顔は?
何を笑っているんだ?

「やめるにゃッ!!」

ソーニャの声が聞こえた時には、手にはその感触があった。

「ひぃっ!」
「イルマ!」

腰を抜かした女に、もう一人が駆け寄っている。
あれ、どっちがどっちだっけ?

「やめて!!」

レディナが剣《エイドス》を持って立ちはだかるが、意味はなかった。押さえてこようとする彼女をあっさり抜き去り、そのまま二人を見据える。

右、左の順でいいか。
殺そう――そう思った時には、偽者達の首を切り裂こうと剣を振りかぶっていた。

「剣に想いを――」

凛とした静かな声が聞こえた。
確かに振り抜いた剣の刃は、二人の頭上を通り過ぎる。
何を、されたんだ。

「アヴァルさん、やめてくださいまし。わたくしのおともだちを、傷つけないでくださいな」

二人の前に、リゼが膝をついてしゃがんでいた。

「……リゼさんが止めたんですか」
「あなたに教わった剣のかわし方ですわ。わたくしのこと、見えていませんでしたの?」

胸の奥が静かになった。さっきまでの恐ろしいほどの冷たい気持ちは、どこに行ったのだろう。

何かが地面を引きずるような音がする。二人組が逃げるように地面を蹴っては、滑ってもたついているだけだった。

「リゼさん、その二人はおともだちなんかじゃありません。偽物だ。何も渡す必要なんてない」
「偽物……?」

リゼは何かを噛みしめるように一度口を閉じた後、ゆっくりと開いた。

「どうして、そんな悲しいことをおっしゃるの……?」

リゼは震える両手で自分の胸を抑えている。

「わたくし、みなさんとおともだちになれると思って、とっても楽しみにしておりましたのに」
「それは……! 君のために……」

薄っぺらい言葉が自分の口から出そうになり、吐き気がした。
足が、彼女から離れていく。

「偽物だなんておっしゃらないでくださいまし……誰が何と言おうと、神が仰ろうと、お二人が声をかけてくれたあの瞬間――わたくしは忘れませんわ。わたくしにとって、お二人は本物……本物のですわ……!」

リゼは立ち上がり、離れた僕を逃がさないように一歩近づいた。

「お二人がお金に困ってると聞いて、初めておともだちのために何かできないか考えましたわ……慣れないお仕事は大変でしたけれど、店長さんやお客様のお役に立ててとっても嬉しかったですし、ミルラさんとイルマさんの力になれると思うと、もっと頑張ろうという気持ちになれましたの。その時間だって本物でしたわ!」

本物……?。

「それに……いきなりみなさんが喧嘩をなさっているのを見ても、わたくし、何も分かりませんわ。だって、ミルラさんもイルマさんも、普段からとってもお口が悪いんですもの。レディナさんに何かを言われて、売り言葉に買い言葉で言い返したようにしか見えませんでした……それで引っ込みが効かなくなったのですわ」

令嬢が歩み寄ってくる。

「だけど二人は……! リゼさんを馬鹿にして、笑っていた……」
「それも間違っていましてよ。お二人はわたくしを馬鹿にしていたのではなく、したから笑ったのですわ。わたくしが誰かの言葉に流されて、おともだちを手放したりしないことに……!」

彼女は僕の剣を持った左手を握ってきた。握る手は温かく、一瞬金色に輝いたように見えた。。

「アヴァルさんも、わたくしの、おともだちでしてよ……?」

その言葉に、剣を握る力を失い、剣《エイドス》が消える。
リゼは微笑み、二人に呼び掛けた。

「ミルラさん、イルマさん、わたくしを信じてくださいまし。お二人がほんの少し悪いことをおっしゃったからって、わたくし、何も変わりませんわ」

リゼが二人の顔を覗こうとしたが、二人はリゼを見ようとしていなかった。

「うちらは……」
「ねぇ、ミルラ……」

さっきから声も出せなかった二人が何か言いかけたが、口をつぐんでしまった。生まれた沈黙を破る気力も僕にはない。
ソーニャはいつの間にか僕の側に立っていたけれど、動こうとはしなかった。
レディナさんは、笑っている……?

レディナが口を開こうとした時、この場にはなかったはずの声が先に沈黙を切り裂いた。

「ばかみたい!」

薄暗い夕闇に新たな影が差す。
降り立ったのはエフティアだった。

「ディナ、自分が悪者になろうとした!?」

ずかずかと音を立ててレディナに詰め寄った。

「な、何言ってんの……それにあんたどうしてここに?」
「言わないとだめなの!?」
「別に……いいけど。いや、そうじゃなくて!」
「ねえ、二人はそのまま黙ってるつもりなの! 言わないとわかんないよ!」

矛先が変わり、睨みつけられたイルマは立ち上がる。

「……急に現れたかと思えば、《どじティア》じゃん。お前には関係ないだろ!!」
「うるさいばかぁ! 二人が話さないからディナが嘘をつこうとするんだ!」
「ばかだって……!? なめてんじゃねぇぞ!」
「ばぁかばぁか! 喋れるじゃんばぁか!」
「こんのぉ……!」

イルマは剣《エイドス》を手にしたが、ミルラが制止した。
レディナも興奮するエフティアを落ち着かせようとする。

「エフティア! 落ち着いて! あたしも悪かったんだ……!」
「嘘つきッ!!」エフティアは叫んだ。

「ディナは嘘ついてる!! なんでそんな嘘をつくの! なんでディナが悪いの! 悪いのはそこの黙ってる二人でしょ!
本当のことを言ってるのはリゼちゃんしかいない!!」

エフティアは両手を強く握りしめ、この場にいるリゼ以外を睨みつけた。

「エフティアさん……」

リゼも突然の第三者の登場に困惑している様子だった。

「悪いんだけどさ……うちらだけにしてもらえないかな」

ミルラが静かに立って言うと、エフティアが嚙みついた。

「いやだッ!! 今話して! 陰でこそこそディナの悪口を言うつもりだ!」

頑として動かない意志を示したが、両脇をソーニャとレディナに抱えられる。

「フテっち落ち着くにゃあ!」
「あの子たちはもう悪口なんて言わないって!」

二人の力をもってしても、怪力少女をその場から引きはがせなかった。

「ヴァルっち……足を持ってくれにゃ!」
「いや、足って言われても……」
「お願い……!」

請われるがままにエフティアの足首を持ち上げる。
それぞれの足は大いに暴れ、まさに罠を抜け出そうとする獣だった。

「エフティア! 暴れると見えそうだよ――」

――下着が!

「やだああぁぁ! 離してよ!」

黒……!

「うにゃぁ……エッチにゃ。ヴァルっちの表情」
「何がだよ!?」
「言ってる場合じゃない! 今のうちに運ぶよ!」

スカートに気を取られて力の向きが下半身に集中しているうちに、黒い少女を林から運び出すことに成功した。

「おろしてーッ!!」


それからというものの、彼女のことを三人で必死になだめ続けたため、リゼたちがどうなったのかをそれから数日の間、知ることはなかったのだった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...