39 / 45
第39話 月華
しおりを挟む
◆
(坊ちゃんが気を引いてくれている、今なら――)
「――うっ!」
アヴァル達を少し離れた場所で様子をうかがっていたメイドだったが、その頬に裂けるような痛みと強い衝撃が襲う。そのまま身体は宙に浮き、飛ばされた先で樹の幹にぶつかった。
「さっきはよくもやってくれたわねぇ、メ・イ・ド・さん」
「くっ……!」
さっき殺したはずの女が、一本鞭を持って笑っている。
(ということは……)
「あぁ、当然俺もいるさ」
女の後ろから戦斧をかついだ熊のような人影が歩いてきた。
「色々後悔してる? でも、まあ仕方ないんじゃないかしら。あなたたちはとっても優秀な暗殺者よ? でも相手が悪かっただけ」
「そうさぁ、俺たちにはでっけーバックがいるからな」
「グラーグ、余計なことを言うんじゃないわよ」
「おめえだって俺の名前バラしてんじゃねぇか、ジール」
(念入りに刺した、首も落とした、火で焼いた……なのになぜ……?)
状況を理解しようと努めるが、現状を打開できるきっかけが見つからない。
「誰に殺されたかも分からないなんて、悲しいでしょ?」
「それもそうだ……あぁ、分かるぜぇ」
無駄話をしている二人の隙をついて、針を投げるも軽くかわされてしまう。
「早めに死にたいらしいぜ?」
「こんな世界だもの。早く殺してあげましょう」
鎖のついた巨大斧が地を削り、メイドに迫った。
大地の破片を避けるために大きく避けるも、高速の鞭が地を這う蛇のように噛みつく。
「あぁッ!」
凄まじい破裂音ともに、服が裂け、皮膚が切れ、あばらが何本か折れた。
しかし、メイドはすぐに立ち上がり、周囲の木々や岩を盾に動き回る。
「ひゅ~ッ! 早く殺すんじゃなかったのかよぉ!」
「焦らないで」
「まあ俺はどっちでもいいんだが……なぁッ!!」
大男が先読みして投げつけた斧の衝撃は凄まじく、メイドは吹き飛ばされ、地面に転がった。そして、致命の鞭がその喉元に食らいつく――
「自由の風牙」
――その瞬間、空気を裂く音と共に、不可視の牙が鞭を嚙み千切った。
「おいら、人を痛めつける自由は嫌いにゃ――」
――放ったのは猫の獣人だった。
ソーニャが猫然とした着地をすると、すぐに大きな声がする。
「メイドさんッ! 大丈夫ですのッ!? まあ、こんなに傷ついて……ひどいですわ……!!」
月の光を受けて輝く髪が揺れる。
リゼはその目に涙を浮かべてメイドに抱きついていた。
それを横目に、レディナがソーニャの隣に駆け寄る。
「ニャっちゃん、えらい……よくやった!」
「おいしいご飯くれにゃ」
「今度ね。今は……みんな、あたしの後ろに隠れて! ニャっちゃんは自由に潜伏して!」
「にゃ」
レディナは二人を見据えて両刃の剣を構えた。
斧男と鞭女は相変わらず楽しそうに笑っている。
「いやぁ、楽しかったな……そろそろ退散するか?」
「そうね、収穫もあったし――」
彼らは後退する気配を見せ、余裕の笑みを浮かべたが、すぐに沈黙する。
彼らの視線の先にいたのは、レディナでもなく、ソーニャでもなかった。
「あなたたちが……メイドさんを傷つけたんですの……?」
月の令嬢が静かに呟く。
その静けさには、先頭に立っていたレディナも振り向きかけるほどの気迫があった。
「どうなんですの」
リゼはレディナの横を歩き、そのまま先頭に入れ替わる。
「……リゼ」
レディナは目を見開くばかりで、それ以上何も言えなかった。
先ほどまで陽気だったジールとグラーグが、黙って武器を構える。
「わたくしのおともだちを……傷つけたのはあなたたちですのッ!!!」
朦朧とする意識の中で、メイドは主の叫びを聞いた。
薄く目を開くと、そこにライナザル家の象徴たる輝きを見つける。
「お嬢……様――」
――意識が遠のいてゆく中、主の手の甲に輝く一輪の花の模様を目に焼き付けながら、メイドは意識を失った。
(坊ちゃんが気を引いてくれている、今なら――)
「――うっ!」
アヴァル達を少し離れた場所で様子をうかがっていたメイドだったが、その頬に裂けるような痛みと強い衝撃が襲う。そのまま身体は宙に浮き、飛ばされた先で樹の幹にぶつかった。
「さっきはよくもやってくれたわねぇ、メ・イ・ド・さん」
「くっ……!」
さっき殺したはずの女が、一本鞭を持って笑っている。
(ということは……)
「あぁ、当然俺もいるさ」
女の後ろから戦斧をかついだ熊のような人影が歩いてきた。
「色々後悔してる? でも、まあ仕方ないんじゃないかしら。あなたたちはとっても優秀な暗殺者よ? でも相手が悪かっただけ」
「そうさぁ、俺たちにはでっけーバックがいるからな」
「グラーグ、余計なことを言うんじゃないわよ」
「おめえだって俺の名前バラしてんじゃねぇか、ジール」
(念入りに刺した、首も落とした、火で焼いた……なのになぜ……?)
状況を理解しようと努めるが、現状を打開できるきっかけが見つからない。
「誰に殺されたかも分からないなんて、悲しいでしょ?」
「それもそうだ……あぁ、分かるぜぇ」
無駄話をしている二人の隙をついて、針を投げるも軽くかわされてしまう。
「早めに死にたいらしいぜ?」
「こんな世界だもの。早く殺してあげましょう」
鎖のついた巨大斧が地を削り、メイドに迫った。
大地の破片を避けるために大きく避けるも、高速の鞭が地を這う蛇のように噛みつく。
「あぁッ!」
凄まじい破裂音ともに、服が裂け、皮膚が切れ、あばらが何本か折れた。
しかし、メイドはすぐに立ち上がり、周囲の木々や岩を盾に動き回る。
「ひゅ~ッ! 早く殺すんじゃなかったのかよぉ!」
「焦らないで」
「まあ俺はどっちでもいいんだが……なぁッ!!」
大男が先読みして投げつけた斧の衝撃は凄まじく、メイドは吹き飛ばされ、地面に転がった。そして、致命の鞭がその喉元に食らいつく――
「自由の風牙」
――その瞬間、空気を裂く音と共に、不可視の牙が鞭を嚙み千切った。
「おいら、人を痛めつける自由は嫌いにゃ――」
――放ったのは猫の獣人だった。
ソーニャが猫然とした着地をすると、すぐに大きな声がする。
「メイドさんッ! 大丈夫ですのッ!? まあ、こんなに傷ついて……ひどいですわ……!!」
月の光を受けて輝く髪が揺れる。
リゼはその目に涙を浮かべてメイドに抱きついていた。
それを横目に、レディナがソーニャの隣に駆け寄る。
「ニャっちゃん、えらい……よくやった!」
「おいしいご飯くれにゃ」
「今度ね。今は……みんな、あたしの後ろに隠れて! ニャっちゃんは自由に潜伏して!」
「にゃ」
レディナは二人を見据えて両刃の剣を構えた。
斧男と鞭女は相変わらず楽しそうに笑っている。
「いやぁ、楽しかったな……そろそろ退散するか?」
「そうね、収穫もあったし――」
彼らは後退する気配を見せ、余裕の笑みを浮かべたが、すぐに沈黙する。
彼らの視線の先にいたのは、レディナでもなく、ソーニャでもなかった。
「あなたたちが……メイドさんを傷つけたんですの……?」
月の令嬢が静かに呟く。
その静けさには、先頭に立っていたレディナも振り向きかけるほどの気迫があった。
「どうなんですの」
リゼはレディナの横を歩き、そのまま先頭に入れ替わる。
「……リゼ」
レディナは目を見開くばかりで、それ以上何も言えなかった。
先ほどまで陽気だったジールとグラーグが、黙って武器を構える。
「わたくしのおともだちを……傷つけたのはあなたたちですのッ!!!」
朦朧とする意識の中で、メイドは主の叫びを聞いた。
薄く目を開くと、そこにライナザル家の象徴たる輝きを見つける。
「お嬢……様――」
――意識が遠のいてゆく中、主の手の甲に輝く一輪の花の模様を目に焼き付けながら、メイドは意識を失った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる