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第43話 面影
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「あっ! みんなおかえりぃ!」
寮のドアを開けると、エフティアが興奮した犬のように駆け寄ってきた。
「おかえりー」レディナは読書をし、
「にゃー」ソーニャは机にもたれかかっていた。
「みんなただいま。ところで……ソーニャ、帰るとか言ってなかった?」
「帰って戻ってきたにゃ」
「あっそう……」
「そうにゃ」
ソーニャらしいな。
まあ、ソーニャがいてくれるのは僕としても嬉しい。
結局、事件に直接関与した面々全員で食事をすることになり――
料理隊:アヴァル、ソーニャ、レディナ
待機隊:エフティア、リゼ、メイド
――以上の組み分けとなる。
待機隊は遊んでおくようにレディナから命令が下された。
「にゃあ、リゼっちとメイドと一緒に帰ってきたけど、何の話してたにゃ?」
調理場でソーニャが質問してくる。
「事件のことについて知りたいことはないかと聞かれたから、聞いたんだ――」
大まかな内容を伝えると、レディナは明るい声を出す。
「まあ、メイドちゃんは隠し事が多そうだけど、おおよそ人となりは見えてきたわね」
「ずっとうさん臭いけどにゃ」
「僕も……最初は好きになれなかったけど、今はなんというか、変わった知り合いっていう感覚かな」
「アルちゃん、けっこう好き嫌い激しいもんね」
「にゃー、顔に出るもんにゃ」
「えっ……そんなに出てた……? 教えてよ……」
「アルちゃんが感情の隠し方上手くなったら、あたし余計に心配になっちゃうな」
「おいらも余計な心労が増えるにゃ」
「なんだよそれ……」
心配か――
「――二人に聞きたいことがあるんだ。二人から見て、僕が異常に見えることはあるかい?」
「にゃー、どうした急にー」
「ソーニャ、以前……僕の記憶が曖昧だって言ってたよね」
「そういうことはしっかり覚えてるんにゃ」
「それに、レディナさんがわざわざ僕にカウンセリングを受けるように促した」
「そうだね」レディナは淡々と応える。
「エフティアは時々よく分からないことを言っては、理由を尋ねても教えてくれない」
やはりそうだ。
「ミルラとイルマに言われたんだ。僕に殺されるかと思ったって。僕は……そのことを覚えていなかった」
そう言うと、二人がこちらをじっと見つめた。
「冷静に考えてみると……やはり何かがおかしいんだ。それも、他の誰でもなく……僕がおかしい――そういうことなんだろう?」
僕の言葉を聞いた二人の顔が、そう言っている。
「アルちゃんそれは……」
「そうにゃ」
「にゃっちゃん……!」
「ヴァルっちがここまで自分で気づいたんにゃ、ごまかす方がかわいそうにゃ」
レディナは「もう少し先になると思ってたの」と言って包丁を持つ手を止めた。
「二人の見解を聞きたいんだ――」
僕の言葉に対して、二人は真剣に答えてくれた。僕の様子が時々おかしくなることや、理性を失ったかのように見える瞬間があったということ。それらは、僕にとっては衝撃的で――けれど、腑に落ちるものがあるのも確かだった。
「――ありがとう、二人とも。よく……分かったよ」
そうだった。そもそも、父さんと母さんを失ったあの日からずっと――僕はおかしかったんだ。
「ヴァルっち、おいらはお前を責めてるわけじゃないし、お前を怖がっていもいないにゃ。もしそうにゃら、ずっと一緒にいるわけにゃい……ヴァルっちなら、分かるにゃ?」
「うん、分かるよ」
「アルちゃん、あたしはあんたを他人に押し付けようと思ったわけじゃないんだよ? ただ、あんたが抱えるものを軽くするきっかけが掴めるかもしれないと思ったから……本当だよ」
「レディナさんも、分かってるよ」
どうして今、思い出すんだろう。
「小さい頃、皿を割って指を怪我をして……その時、母さんをすごく心配させてしまったことがあるんだ。母さんは剣使で、そんな怪我なんて山ほどしてきたはずなのに……それこそ竜に咬まれたぐらいに心配したんだ――」
あぁ、そうか。
「――二人とも、その時の母さんと同じ表情をしてる」
◆
エフティアは頬を膨らませて三人を見ていた。
「ヴァルっち、ほら、おいらのを食うにゃ」
「えぇ……いいよ……」
「アルちゃん、あーん」
「やめて……ほんとに……」
なんか、ずるい。
にゃっちとディナばっかり、アル君に食べさせようとして。
エフティアは何だか腹が立ってきたので、目を輝かせてその様子を見ているリゼの口に、ニンジンのソテーを突っ込んだ。
「はふっ、エフティアさん!?」
「いいもん、リゼちゃんにするから」
きっと、むずかしい話を三人でしたんだ。
アル君たちは頭がいいから。
「リゼちゃん、わたし達も負けないよ」
「今日はエフティアさんに一回も勝てていませんわ……」
「そういうことじゃないよぉ」
「そうですの……?」
ディナがこっちを見て、よくわかんない顔してる。よくわかんないけど、わたしを気遣ってるのはわかった。
エフティアがそっぽを向くと、メイドと目が合う。
「エフティア様」
「ふぇ?」
「失礼します」
「もがっ」
メイドがエフティアの口に何かを突っ込んだ。
「なにこぇ……?」
「ゴキゲンナオールです」
「おいしぃ……」
それにしても――
「獣人の施しを断ると災いが降りかかるにゃ」
「えぇ……理不尽すぎる……」
「どんな災いなんですの?」
「全身の毛が抜けるにゃ」
――アル君、よかったね。
全員で食後の片づけをした後、ソーニャが帰ろうとするのをアヴァルが引き留める。
「ソーニャ、僕を一人にする気か」
「なに言ってるにゃ。甘えるにゃ」
いつものように、ソーニャに断られてがっかりした姿を見せていた。
「アル君! 今日も一緒に訓練しようよ! 」
「今日はごめん」
「えぇーッ!」
「明日、一緒にしよう」
そん……な……。
アヴァルに誘いを断られたのは初めてだった。
エフティアはショックで石になり、その場で固まる。
「ほらほら、エフティア。一回振られたくらいで落ち込まないの。あたしとやろうねー」
レディナに脇を抱えられるエフティアだったが、その時、申し訳なさそうにするリゼの顔を一瞬だけ見た。
「微力ながら、私もお手伝いいたします」
メイドがリゼの前に出てそう言うと、三人はそのまま特待生寮付属の小訓練場に出て行った。
「――エフティア、あんたまた強くなったじゃない」
「えへへ、そうかなぁ」
訓練を終えて帰ってくると、不思議な光景がそこにあった。
「アル君? リゼちゃん?」
アヴァルとリゼが、あからさまに距離を置いている。アヴァルはダイニングテーブルの椅子に座り、リゼは窓の外の月を見上げている。
「けんか、したの……?」
そう聞いても、二人から返事はない。
やがてリゼとメイドは特待生寮を出てゆき、残された三人も就寝することにした。
寝静まった空気が漂う中、アヴァルが寝室を出てゆく気配があり、エフティアはそれに気づく。しばらくしてから、二段ベッドから降りて誰もいないリビングに行くと、エフティアはどすんとソファに座った。
「アル君のばぁか」
そんなことを一人呟くと、寝室のドアが開く音がする。
レディナが起きてきたのだ。黙ってエフティアの隣に座り、呟くように言う。
「行かないんだ」レディナがエフティアの横顔を見る。
「どこに?」
「アルちゃんのとこ」
「……いかない」
しばらく沈黙があった。
「あたしは行こっかな」
「……………………ずるいっ!」
寮のドアを開けると、エフティアが興奮した犬のように駆け寄ってきた。
「おかえりー」レディナは読書をし、
「にゃー」ソーニャは机にもたれかかっていた。
「みんなただいま。ところで……ソーニャ、帰るとか言ってなかった?」
「帰って戻ってきたにゃ」
「あっそう……」
「そうにゃ」
ソーニャらしいな。
まあ、ソーニャがいてくれるのは僕としても嬉しい。
結局、事件に直接関与した面々全員で食事をすることになり――
料理隊:アヴァル、ソーニャ、レディナ
待機隊:エフティア、リゼ、メイド
――以上の組み分けとなる。
待機隊は遊んでおくようにレディナから命令が下された。
「にゃあ、リゼっちとメイドと一緒に帰ってきたけど、何の話してたにゃ?」
調理場でソーニャが質問してくる。
「事件のことについて知りたいことはないかと聞かれたから、聞いたんだ――」
大まかな内容を伝えると、レディナは明るい声を出す。
「まあ、メイドちゃんは隠し事が多そうだけど、おおよそ人となりは見えてきたわね」
「ずっとうさん臭いけどにゃ」
「僕も……最初は好きになれなかったけど、今はなんというか、変わった知り合いっていう感覚かな」
「アルちゃん、けっこう好き嫌い激しいもんね」
「にゃー、顔に出るもんにゃ」
「えっ……そんなに出てた……? 教えてよ……」
「アルちゃんが感情の隠し方上手くなったら、あたし余計に心配になっちゃうな」
「おいらも余計な心労が増えるにゃ」
「なんだよそれ……」
心配か――
「――二人に聞きたいことがあるんだ。二人から見て、僕が異常に見えることはあるかい?」
「にゃー、どうした急にー」
「ソーニャ、以前……僕の記憶が曖昧だって言ってたよね」
「そういうことはしっかり覚えてるんにゃ」
「それに、レディナさんがわざわざ僕にカウンセリングを受けるように促した」
「そうだね」レディナは淡々と応える。
「エフティアは時々よく分からないことを言っては、理由を尋ねても教えてくれない」
やはりそうだ。
「ミルラとイルマに言われたんだ。僕に殺されるかと思ったって。僕は……そのことを覚えていなかった」
そう言うと、二人がこちらをじっと見つめた。
「冷静に考えてみると……やはり何かがおかしいんだ。それも、他の誰でもなく……僕がおかしい――そういうことなんだろう?」
僕の言葉を聞いた二人の顔が、そう言っている。
「アルちゃんそれは……」
「そうにゃ」
「にゃっちゃん……!」
「ヴァルっちがここまで自分で気づいたんにゃ、ごまかす方がかわいそうにゃ」
レディナは「もう少し先になると思ってたの」と言って包丁を持つ手を止めた。
「二人の見解を聞きたいんだ――」
僕の言葉に対して、二人は真剣に答えてくれた。僕の様子が時々おかしくなることや、理性を失ったかのように見える瞬間があったということ。それらは、僕にとっては衝撃的で――けれど、腑に落ちるものがあるのも確かだった。
「――ありがとう、二人とも。よく……分かったよ」
そうだった。そもそも、父さんと母さんを失ったあの日からずっと――僕はおかしかったんだ。
「ヴァルっち、おいらはお前を責めてるわけじゃないし、お前を怖がっていもいないにゃ。もしそうにゃら、ずっと一緒にいるわけにゃい……ヴァルっちなら、分かるにゃ?」
「うん、分かるよ」
「アルちゃん、あたしはあんたを他人に押し付けようと思ったわけじゃないんだよ? ただ、あんたが抱えるものを軽くするきっかけが掴めるかもしれないと思ったから……本当だよ」
「レディナさんも、分かってるよ」
どうして今、思い出すんだろう。
「小さい頃、皿を割って指を怪我をして……その時、母さんをすごく心配させてしまったことがあるんだ。母さんは剣使で、そんな怪我なんて山ほどしてきたはずなのに……それこそ竜に咬まれたぐらいに心配したんだ――」
あぁ、そうか。
「――二人とも、その時の母さんと同じ表情をしてる」
◆
エフティアは頬を膨らませて三人を見ていた。
「ヴァルっち、ほら、おいらのを食うにゃ」
「えぇ……いいよ……」
「アルちゃん、あーん」
「やめて……ほんとに……」
なんか、ずるい。
にゃっちとディナばっかり、アル君に食べさせようとして。
エフティアは何だか腹が立ってきたので、目を輝かせてその様子を見ているリゼの口に、ニンジンのソテーを突っ込んだ。
「はふっ、エフティアさん!?」
「いいもん、リゼちゃんにするから」
きっと、むずかしい話を三人でしたんだ。
アル君たちは頭がいいから。
「リゼちゃん、わたし達も負けないよ」
「今日はエフティアさんに一回も勝てていませんわ……」
「そういうことじゃないよぉ」
「そうですの……?」
ディナがこっちを見て、よくわかんない顔してる。よくわかんないけど、わたしを気遣ってるのはわかった。
エフティアがそっぽを向くと、メイドと目が合う。
「エフティア様」
「ふぇ?」
「失礼します」
「もがっ」
メイドがエフティアの口に何かを突っ込んだ。
「なにこぇ……?」
「ゴキゲンナオールです」
「おいしぃ……」
それにしても――
「獣人の施しを断ると災いが降りかかるにゃ」
「えぇ……理不尽すぎる……」
「どんな災いなんですの?」
「全身の毛が抜けるにゃ」
――アル君、よかったね。
全員で食後の片づけをした後、ソーニャが帰ろうとするのをアヴァルが引き留める。
「ソーニャ、僕を一人にする気か」
「なに言ってるにゃ。甘えるにゃ」
いつものように、ソーニャに断られてがっかりした姿を見せていた。
「アル君! 今日も一緒に訓練しようよ! 」
「今日はごめん」
「えぇーッ!」
「明日、一緒にしよう」
そん……な……。
アヴァルに誘いを断られたのは初めてだった。
エフティアはショックで石になり、その場で固まる。
「ほらほら、エフティア。一回振られたくらいで落ち込まないの。あたしとやろうねー」
レディナに脇を抱えられるエフティアだったが、その時、申し訳なさそうにするリゼの顔を一瞬だけ見た。
「微力ながら、私もお手伝いいたします」
メイドがリゼの前に出てそう言うと、三人はそのまま特待生寮付属の小訓練場に出て行った。
「――エフティア、あんたまた強くなったじゃない」
「えへへ、そうかなぁ」
訓練を終えて帰ってくると、不思議な光景がそこにあった。
「アル君? リゼちゃん?」
アヴァルとリゼが、あからさまに距離を置いている。アヴァルはダイニングテーブルの椅子に座り、リゼは窓の外の月を見上げている。
「けんか、したの……?」
そう聞いても、二人から返事はない。
やがてリゼとメイドは特待生寮を出てゆき、残された三人も就寝することにした。
寝静まった空気が漂う中、アヴァルが寝室を出てゆく気配があり、エフティアはそれに気づく。しばらくしてから、二段ベッドから降りて誰もいないリビングに行くと、エフティアはどすんとソファに座った。
「アル君のばぁか」
そんなことを一人呟くと、寝室のドアが開く音がする。
レディナが起きてきたのだ。黙ってエフティアの隣に座り、呟くように言う。
「行かないんだ」レディナがエフティアの横顔を見る。
「どこに?」
「アルちゃんのとこ」
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