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追放
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いわゆる才能というものは僕には残されておらず、兄上たちに持っていかれた。
父上が僕たち兄弟のことを他のお偉い様方に聞かれた時には決まってこう評価する。
『アレフ(長兄殿)は頭が切れる』
『ギメール(次兄殿)は腕が立つ』
『ダレット(三男、僕)は謙虚だ』
謙虚――僕に唯一残された美徳だった。持たざる者が至る境地である。もっとも、僕は別に謙虚になろうとしているわけではない。肩身が狭いから控え目に生きているだけだった。
そんな大して褒めるところがない僕ですら、この世界では持てる者の側であるということを忘れてはいけない。
貴族だけが唯一受けられるという『天与の儀』が近かった。
Sacred Key In Luminous Love――いわゆるSKILLというものを受け取れる儀式なわけだが、この儀式は実に恐ろしい。
受け取ったスキルが素晴らしいものであれば、その後の人生はバラ色街道だ。三男の僕にも領地をいただけるかもしれない。
平凡なスキルだった時は……どこかの貴族に騎士として雇ってもらうか、聖職者として生きていくしかないだろう。
酷い話なのだが、父上からはよくこう言われていた。
『ダレットには聖職者が向いている』
あの人たちは何も分かっていない。僕のような見せかけだけの謙虚人間が精霊に仕えるべきではないということを。かといって、騎士になりたいわけでもないし……。
そんなことを考えながら時間を潰しているうちに、ついに僕も20歳になってしまった。
天与の儀は聖教国の城の中にある『空の玉座』の前で行われるのだが、この儀式の酷いところは、大勢の貴族たちの立ち合いのもとで行われることにある。
価値が高いスキルを受け取った貴族たちは賞賛され、価値が低いスキルを授かった貴族は影で笑い者にされる。この世の地獄だ。
これまでに何度もそうした光景を見てきたが、何度見てもげんなりしてきた。精霊の寵愛に貴賤はないだろうに。
……などと考える余裕もなくなってしまった。僕の番だ。
「ダレット=マクガイル殿、玉座の前へ」
「はい」
僕は司祭の言葉に従い、歩き出す。
ああ、腹が痛い。
父上、母上、兄上方、姉上、妹が期待に目を輝かせている。そんな目で見ないでください。
他の貴族たちは値踏みをするように僕を見ている。見世物じゃないぞ。
玉座の前にひざまずき、僕は運命の時を待った。
「目を閉じなさい」
僕は目を閉じる。
暗闇の奥底に、小さな星のような光。
それが複雑な形の鍵となって、自分の体の中に入ってきた。
……はずだった。
司祭の言葉を待っているのに、一向に声が聞こえてこない。スキル授与の後は「スキル『~』が授与されました」という言葉があるのに。
「スキル……消失……?」
司祭の言葉はこれまで聞いたことのないものだった。
「ど、どういうことでしょうか!」
僕は思わず尋ねたが、司祭は首を振るばかり。彼は控えていた他の司祭たちのもとに駆け寄って何やら相談事を始める。
しばらくして、司祭が声を張り上げた。
「スキルの授与は行われませんでした。天与の儀はこれにて終了とします――」
そこから先のことはよく覚えていない。家族の顔を見るのも、他の貴族たちの顔を見るのも怖かった。
それから一年、21歳の成人を迎えるまで僕はずっと無気力だった。勉学や戦闘訓練は愚か、聖典を読むことすらもしなくなった。
僕が伯爵家の子であったとしても、三男坊だからまずもって土地の相続はない。だとすれば、僕に残された選択肢は聖職者か騎士。
だが僕は、精霊様から見放されたのだ。そのことはあまりにも、致命的だった。
精霊様に嫌われた僕を教会が聖職者として認めるはずがない。かといって、そんな僕を騎士として雇う貴族がいるはずもない。
もう終わりだ。おしまいだ。
と、部屋をノックする音が聞こえてきた。
「ダレット様。ガウロス様がお呼びです」
ついに、この時が来た。
城の大広間に向かう間、僕は顔を上げなかった。
大広間に着いても、顔を上げなかった。
「ダレット。お前もついに成人だな」
「はい、父上」
父の声がする。もう一年もの間、父上の顔は見ていない。見られるわけがない。僕がスキルを授かれなかったせいで父上の伯爵としての格は著しく下がり、広大な領地の半分が没収されたのだから。
それはつまり、長兄殿がいただくはずだった領地が、半分になったということでもある。
母上は出自が下級貴族だったこともあって、『母親のせいで三男にはスキルが与えられなかった』などというあらぬそしりを受けているらしい。
姉上の婚約も破棄されてしまった。ずっと相手が見つからないでいた姉上がようやく掴んだ第三王子との婚約だったのに。
王直属の近衛になれるはずだった次兄殿も、その資格をはく奪されてしまった。
妹だってただでさえ病弱なのに、僕のせいで今後貰い手が見つかるかも分からない……!
全部、僕のせいだ。これまで清廉潔白で名声が高かったマクガイル家が、僕という汚点のせいで……!
「久しぶりに、お前の声を聞いた気がするよ」
父上の声……やはりお疲れのようだ。覇気がない。
ですが、すぐに元気にして差し上げます。21歳になったら伝えると決めていた言葉を、お伝えします――
「――僕を追放してください! これ以上マクガイル家の恥さらしを……精霊に見捨てられた悪魔を、この城に放置しないでください!」
はは……言ってやった。言ってやったぞ……!
これでもう、この地獄から解放される……!
自分の乾いた笑い声ばかりが大広間に響くようだった。
「ダレット……うぅ……ぐすっ……ダレットよ……」
「……父上?」
父が嗚咽している。それほどまでに、僕という存在が重荷だったのだろう。
「いかんいかん……ダレットよ、顔を上げなさい。顔を上げて、もう一度同じ言葉を言って御覧なさい。言えるものならな」
父上がどうしてそんなことを言うのかが分からなかった。
だが、顔を上げた時、愚かな僕はその意味をようやく理解した。
父ガウロス、母ロザリー、長兄アレフ、長女ヴェート、次兄ギメール、妹リーラ。
家族全員勢ぞろいだった。
そして全員、表情が重たい。
「やはり、それほどまで僕が重荷だったんですね……」
「馬鹿なことを言うんじゃありません!!!」
「は、母上?」
声を荒げたことなど一度もない母上が、こんな大声を出すなんて。
「ここにいる全員の顔を、もっとよく御覧なさい」
「よくと言われましても……」
う、嘘だろ……? 長兄のアレフ兄さんが男泣きしている。常に冷静で感情を表に出さない人なのに。
長兄殿が一歩前に出た。
「ダレットッ!」
「はいっ!」
「貴様はもう少し賢い人間だと思っていた!」
「はっ! 愚かで申し訳ございませんっ!」
「貴様ぁっ!!!」
僕は歯を食いしばる。
きっとアレフ兄さんは日頃の長兄としての重圧を貯めこんできたはずだ。それに加えて僕という汚点にして重荷。
僕は殴られるべきだろう。
「私がお前を重荷に思うことなどあるわけがないだろう! 私は、長男なんだぞ……!」
「……え?」
アレフ兄さんにしては、あまりにも非論理的な言葉。だが、だからこそ、なにか熱いものが感じられた。
今度は長女であるヴェート姉さんが前に躍り出る。いつの間にか、涙は拭われていた。
「愚弟」
「はっ!」
「お前のせいで、わたくしの婚約が破棄されたのはもちろん知っていて?」
「……はい」
「言い換えましょう」
「……はい?」
「お前のおかげで、あんな器の小さい男と結婚せずに済みましたわ。わたくしから言いたいことはそれだけ」
「ね、姉さん……?」
そんな馬鹿な。第三王子との婚約だぞ!? なのに『おかげ』って……。いくら気の強いこの人でも、こんな風に冷静でいられるわけが……。
「ダレット!」今度は次兄殿の声だ。「剣を抜け!」
筋肉の塊のような次兄のギメール兄さんが剣を投げ渡してきた。
「すっぞおら!」
「え? はい!」
言われるがままに剣を抜く。が、王直属の近衛に選ばれるほどの実力を持つこの人に叶うはずもない。
……もっとも、僕のせいでその道も絶たれたのだが。
僕の怠惰な剣はあっけなく弾き飛ばされた。
「どうだ……! オレは強いだろう……!」
「……はい」
「本当に強い奴ってのはな、誰かを重荷なんて思うことはねえんだよ! 分かるか!」
「は、はい……?」
「つまりな……つまり、えっと……」
言葉に詰まった次兄殿の代わりに、アレフ兄さんが口を開く。
「つまり、我々は弟がスキルを授かれなかったことなど、まったく気にしていないということだ」
「おう、そういうことだ! さすがアレフの兄貴!」
「兄上と呼べ」
……何を言っているんだ。この人たちは。僕は、精霊様の祝福を得られなかったんだぞ? 精霊の祝福を得られないということは、貴族ではないということなんだ。
どうして、そんな言葉をかけてくれるんだ。
「お兄様ッ!」妹のリーラが駆け寄ってくる。「追放なんて嫌ですッ!」
「リーラ……」
「ずっとリーラのおそばにいてください……!」
「けど……僕は……」
僕が抱きしめ返すことができないでいると、父の声が聞こえてくる。
「ダレット。これで分かっただろう。マクガイル家の人間に、誰一人として家族を見捨てるような愚か者は存在しない」
「い、いえ……むしろ愚かですッ! 父上たちがどうお考えであろうと、僕が重荷であることに代わりはないはず! 追放するべきです!」
「よし。分かった。追放しよう」
「そうです。それが正しい選択……」
「我が領の城にな」
「そう城に――」
――城ぉ!?
「正気ですか!?」
「ああ、正気だとも。城は一つだけではないからな」
……正気なものか。みんな、僕という存在が負債にしかならないことを理解していないのか? 悪魔の子として追放しても、誰にも責められないほどの存在なんだぞ。
「お兄様……?」
僕はリーラに顔を見られないようにそっと離れ、家族たちに背を向ける。
この人たちは愚かだ。こんな重荷を背負うことに、なんの得もないというのに。
本当に……本当に愚かだ……。
「もっとも辺境にある、客観的に見て一番価値の低い城でお願いします。それだけは、譲れません」
本来ならば、長兄以外が城を持たせてもらえること自体、異例なのだ。ましてや、僕のような重荷に明け渡す城などあってはならない。
「ダレット。やはりお前は、謙虚だなあ」
謙虚なものですか。なぜなら僕は、心に誓っていることがあるのですから。
僕は落ちている剣を手に取り、だらしなく伸びきった髪をばっさり切った。
(この汚名……いつか必ず返上してみせます……!)
父上が僕たち兄弟のことを他のお偉い様方に聞かれた時には決まってこう評価する。
『アレフ(長兄殿)は頭が切れる』
『ギメール(次兄殿)は腕が立つ』
『ダレット(三男、僕)は謙虚だ』
謙虚――僕に唯一残された美徳だった。持たざる者が至る境地である。もっとも、僕は別に謙虚になろうとしているわけではない。肩身が狭いから控え目に生きているだけだった。
そんな大して褒めるところがない僕ですら、この世界では持てる者の側であるということを忘れてはいけない。
貴族だけが唯一受けられるという『天与の儀』が近かった。
Sacred Key In Luminous Love――いわゆるSKILLというものを受け取れる儀式なわけだが、この儀式は実に恐ろしい。
受け取ったスキルが素晴らしいものであれば、その後の人生はバラ色街道だ。三男の僕にも領地をいただけるかもしれない。
平凡なスキルだった時は……どこかの貴族に騎士として雇ってもらうか、聖職者として生きていくしかないだろう。
酷い話なのだが、父上からはよくこう言われていた。
『ダレットには聖職者が向いている』
あの人たちは何も分かっていない。僕のような見せかけだけの謙虚人間が精霊に仕えるべきではないということを。かといって、騎士になりたいわけでもないし……。
そんなことを考えながら時間を潰しているうちに、ついに僕も20歳になってしまった。
天与の儀は聖教国の城の中にある『空の玉座』の前で行われるのだが、この儀式の酷いところは、大勢の貴族たちの立ち合いのもとで行われることにある。
価値が高いスキルを受け取った貴族たちは賞賛され、価値が低いスキルを授かった貴族は影で笑い者にされる。この世の地獄だ。
これまでに何度もそうした光景を見てきたが、何度見てもげんなりしてきた。精霊の寵愛に貴賤はないだろうに。
……などと考える余裕もなくなってしまった。僕の番だ。
「ダレット=マクガイル殿、玉座の前へ」
「はい」
僕は司祭の言葉に従い、歩き出す。
ああ、腹が痛い。
父上、母上、兄上方、姉上、妹が期待に目を輝かせている。そんな目で見ないでください。
他の貴族たちは値踏みをするように僕を見ている。見世物じゃないぞ。
玉座の前にひざまずき、僕は運命の時を待った。
「目を閉じなさい」
僕は目を閉じる。
暗闇の奥底に、小さな星のような光。
それが複雑な形の鍵となって、自分の体の中に入ってきた。
……はずだった。
司祭の言葉を待っているのに、一向に声が聞こえてこない。スキル授与の後は「スキル『~』が授与されました」という言葉があるのに。
「スキル……消失……?」
司祭の言葉はこれまで聞いたことのないものだった。
「ど、どういうことでしょうか!」
僕は思わず尋ねたが、司祭は首を振るばかり。彼は控えていた他の司祭たちのもとに駆け寄って何やら相談事を始める。
しばらくして、司祭が声を張り上げた。
「スキルの授与は行われませんでした。天与の儀はこれにて終了とします――」
そこから先のことはよく覚えていない。家族の顔を見るのも、他の貴族たちの顔を見るのも怖かった。
それから一年、21歳の成人を迎えるまで僕はずっと無気力だった。勉学や戦闘訓練は愚か、聖典を読むことすらもしなくなった。
僕が伯爵家の子であったとしても、三男坊だからまずもって土地の相続はない。だとすれば、僕に残された選択肢は聖職者か騎士。
だが僕は、精霊様から見放されたのだ。そのことはあまりにも、致命的だった。
精霊様に嫌われた僕を教会が聖職者として認めるはずがない。かといって、そんな僕を騎士として雇う貴族がいるはずもない。
もう終わりだ。おしまいだ。
と、部屋をノックする音が聞こえてきた。
「ダレット様。ガウロス様がお呼びです」
ついに、この時が来た。
城の大広間に向かう間、僕は顔を上げなかった。
大広間に着いても、顔を上げなかった。
「ダレット。お前もついに成人だな」
「はい、父上」
父の声がする。もう一年もの間、父上の顔は見ていない。見られるわけがない。僕がスキルを授かれなかったせいで父上の伯爵としての格は著しく下がり、広大な領地の半分が没収されたのだから。
それはつまり、長兄殿がいただくはずだった領地が、半分になったということでもある。
母上は出自が下級貴族だったこともあって、『母親のせいで三男にはスキルが与えられなかった』などというあらぬそしりを受けているらしい。
姉上の婚約も破棄されてしまった。ずっと相手が見つからないでいた姉上がようやく掴んだ第三王子との婚約だったのに。
王直属の近衛になれるはずだった次兄殿も、その資格をはく奪されてしまった。
妹だってただでさえ病弱なのに、僕のせいで今後貰い手が見つかるかも分からない……!
全部、僕のせいだ。これまで清廉潔白で名声が高かったマクガイル家が、僕という汚点のせいで……!
「久しぶりに、お前の声を聞いた気がするよ」
父上の声……やはりお疲れのようだ。覇気がない。
ですが、すぐに元気にして差し上げます。21歳になったら伝えると決めていた言葉を、お伝えします――
「――僕を追放してください! これ以上マクガイル家の恥さらしを……精霊に見捨てられた悪魔を、この城に放置しないでください!」
はは……言ってやった。言ってやったぞ……!
これでもう、この地獄から解放される……!
自分の乾いた笑い声ばかりが大広間に響くようだった。
「ダレット……うぅ……ぐすっ……ダレットよ……」
「……父上?」
父が嗚咽している。それほどまでに、僕という存在が重荷だったのだろう。
「いかんいかん……ダレットよ、顔を上げなさい。顔を上げて、もう一度同じ言葉を言って御覧なさい。言えるものならな」
父上がどうしてそんなことを言うのかが分からなかった。
だが、顔を上げた時、愚かな僕はその意味をようやく理解した。
父ガウロス、母ロザリー、長兄アレフ、長女ヴェート、次兄ギメール、妹リーラ。
家族全員勢ぞろいだった。
そして全員、表情が重たい。
「やはり、それほどまで僕が重荷だったんですね……」
「馬鹿なことを言うんじゃありません!!!」
「は、母上?」
声を荒げたことなど一度もない母上が、こんな大声を出すなんて。
「ここにいる全員の顔を、もっとよく御覧なさい」
「よくと言われましても……」
う、嘘だろ……? 長兄のアレフ兄さんが男泣きしている。常に冷静で感情を表に出さない人なのに。
長兄殿が一歩前に出た。
「ダレットッ!」
「はいっ!」
「貴様はもう少し賢い人間だと思っていた!」
「はっ! 愚かで申し訳ございませんっ!」
「貴様ぁっ!!!」
僕は歯を食いしばる。
きっとアレフ兄さんは日頃の長兄としての重圧を貯めこんできたはずだ。それに加えて僕という汚点にして重荷。
僕は殴られるべきだろう。
「私がお前を重荷に思うことなどあるわけがないだろう! 私は、長男なんだぞ……!」
「……え?」
アレフ兄さんにしては、あまりにも非論理的な言葉。だが、だからこそ、なにか熱いものが感じられた。
今度は長女であるヴェート姉さんが前に躍り出る。いつの間にか、涙は拭われていた。
「愚弟」
「はっ!」
「お前のせいで、わたくしの婚約が破棄されたのはもちろん知っていて?」
「……はい」
「言い換えましょう」
「……はい?」
「お前のおかげで、あんな器の小さい男と結婚せずに済みましたわ。わたくしから言いたいことはそれだけ」
「ね、姉さん……?」
そんな馬鹿な。第三王子との婚約だぞ!? なのに『おかげ』って……。いくら気の強いこの人でも、こんな風に冷静でいられるわけが……。
「ダレット!」今度は次兄殿の声だ。「剣を抜け!」
筋肉の塊のような次兄のギメール兄さんが剣を投げ渡してきた。
「すっぞおら!」
「え? はい!」
言われるがままに剣を抜く。が、王直属の近衛に選ばれるほどの実力を持つこの人に叶うはずもない。
……もっとも、僕のせいでその道も絶たれたのだが。
僕の怠惰な剣はあっけなく弾き飛ばされた。
「どうだ……! オレは強いだろう……!」
「……はい」
「本当に強い奴ってのはな、誰かを重荷なんて思うことはねえんだよ! 分かるか!」
「は、はい……?」
「つまりな……つまり、えっと……」
言葉に詰まった次兄殿の代わりに、アレフ兄さんが口を開く。
「つまり、我々は弟がスキルを授かれなかったことなど、まったく気にしていないということだ」
「おう、そういうことだ! さすがアレフの兄貴!」
「兄上と呼べ」
……何を言っているんだ。この人たちは。僕は、精霊様の祝福を得られなかったんだぞ? 精霊の祝福を得られないということは、貴族ではないということなんだ。
どうして、そんな言葉をかけてくれるんだ。
「お兄様ッ!」妹のリーラが駆け寄ってくる。「追放なんて嫌ですッ!」
「リーラ……」
「ずっとリーラのおそばにいてください……!」
「けど……僕は……」
僕が抱きしめ返すことができないでいると、父の声が聞こえてくる。
「ダレット。これで分かっただろう。マクガイル家の人間に、誰一人として家族を見捨てるような愚か者は存在しない」
「い、いえ……むしろ愚かですッ! 父上たちがどうお考えであろうと、僕が重荷であることに代わりはないはず! 追放するべきです!」
「よし。分かった。追放しよう」
「そうです。それが正しい選択……」
「我が領の城にな」
「そう城に――」
――城ぉ!?
「正気ですか!?」
「ああ、正気だとも。城は一つだけではないからな」
……正気なものか。みんな、僕という存在が負債にしかならないことを理解していないのか? 悪魔の子として追放しても、誰にも責められないほどの存在なんだぞ。
「お兄様……?」
僕はリーラに顔を見られないようにそっと離れ、家族たちに背を向ける。
この人たちは愚かだ。こんな重荷を背負うことに、なんの得もないというのに。
本当に……本当に愚かだ……。
「もっとも辺境にある、客観的に見て一番価値の低い城でお願いします。それだけは、譲れません」
本来ならば、長兄以外が城を持たせてもらえること自体、異例なのだ。ましてや、僕のような重荷に明け渡す城などあってはならない。
「ダレット。やはりお前は、謙虚だなあ」
謙虚なものですか。なぜなら僕は、心に誓っていることがあるのですから。
僕は落ちている剣を手に取り、だらしなく伸びきった髪をばっさり切った。
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