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マンドレイクの春
97 冒険者①
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俺たちがたどり着いた頃には、凶刃キャルによって、恋茄龍マンドラゴラスは無残に切りつくされていた。今となっては龍の形は見る影もない。
「キャハハハハ! おっそーい♪」
キャルは双剣を後ろ手に振り向くと、じとりと俺の目を見てくる。
「キャルさんが、はっやーい……のかと思います」
俺がそう言うと、にこりと笑う少女。一瞬どこの美少女かと思ったが、キャルだった。
ミリア、ネリス、ウォロクの顔をうかがうと、三人ともぽかんとした表情を浮かべている。やはり、三人にも別人みたいに見えたのだ。
と、アルメリゼが「みなさん!!」と飛んでくる。「行方不明者13名、全員生きているのです!!」
それを聞いたネリスがダンジョンの遥か上――天井を見上げて大笑いした。
「我々の勝利だ!!! あーっはっはっは!!!」
まったくもって、ネリスという人は緊張をほぐす天才だった。深刻な顔をしている面々が、思わず顔をほころばせるのだから。
「――はっはっはっはぁ……まあ、私は全然活躍していないがな。キャルと違って」
「鎧なんて着てるからじゃん♪ 盾も邪魔でしょー♪」
「あっはっは! 毎度キャルを救うのはこの盾なのだが」
ネリスとキャルが明るい調子でいる。明るいと言えば、シルヴィアとスーシーもどちらかと言えば明るい。
「あらやだスーシー!! これってマンドレイクかしら!? 抜いていいかしら!?」
「奥様……抜きましょう!!」
ただの草か、マンドレイクを抜こうとしているらしい。明るいというよりは変態的だ。
と、変態が駆け出す。
「マンドレイクッ!! 僕も抜くッ!!」
「ひぃ」アルメリゼがさっと俺の方に避難してきた。「もう嫌なのです……マンドレイクも変態も……!」
無理もない。
「のっほっほっほ……なんちゅう精神力じゃ」ウォロクが変態達を見ながらあご髭を撫でた。「わしも見習わんとな」
俺はそんなウォロクを慰める。
「多分、忘れているだけだと思いますよ。変態だから」
「そういうもんかの?」
俺はウォロクの耳元でそう言って苦笑しつつ、ミリアの方を見た。銀色の瞳を淡く光らせ、独り言を呟くように小さく口を動かしている。
(お願いします、ミリアさん)
俺は心の中でそう呟き、みんなに呼びかける。
「……さあみなさん!! 倒れた冒険者たちと一緒にダンジョンを出ましょう!!」
と、シルヴィアとスーシーが「せーの!」と何かの草を引き抜いた。
「ペギゥイウ゛ェア゛アァウエオォ゛ォオ゛オ゛オオヴェアイ゛エェェ゛ッ!!!!」
領域内にマンドレイクの悲鳴が響き渡る。が、対策済みなので倒れる者はいない。
「奥様、採れたてほやほやの生マンドレイクです」
「あらかわいい」
◆
――ルウィンたちの死角にうごめく影があった。暗闇の中、影はじっと身を潜め、自分を追い詰めた人間たちのことを考える。
(ヤハリ、効カナイ)
いつもなら発狂するか気絶するはずの人間が、マンドレイクの叫びを浴びてなお歩き、声を発していた。それは影にとって、初めての経験だった。間違いなく、罠を看破した人間がいる。それは、最初の攻撃の時から分かっていたことだが、改めて確信した。そして、その事実が面白くてたまらない。
(学バセテモラッタ――)
――影は考える。もし、完全に叫びを防ぐ手段を手に入れたというのであれば、すぐにでも別の狩りの方法を考えなくてはならない。
(移ルカ……)
影にとって、草のダンジョンはひとつの拠点に過ぎなかった。火、氷、どこへだって行けるのだ。十分に力もつけた今、この場所にこだわる必要もない。
(ダガ――)
しかし、自分をここまで追い詰めた人間に興味があった。どんな姿をしているのだろうか、さらに追い詰める算段を立てているのか。
(――知リタイ)
影は、人間たちが発する『冒険者』という言葉の意味を知っていた。それは、『愚者』という意味に相違ない。無策で死地に挑み、自分に喰らわれる者たち。あるいは、人間を助けようとして、助けようとした人間もろとも死ぬ者たちだ。
しかし、今その冒険者が自分の正体に近づこうとしている。
(アア、ソウカ――)
影は……恋茄龍マンドラゴラスは、ようやく理解する。
冒険者とは、危険を冒してでも戦いに挑み続ける、諦めの悪い者たちなのだと。そして、自分の罠を見破った何者かは、これからも自分と同じように成長していくに違いない。
(――今、喰ラウベキダ。イヤ、殺サナケレバナラナイ)
焦りでもなく、好奇心に負けたのでもなかった。もちろん、欲望に目がくらんだわけでも、慢心があったわけでもない。
警戒したのだ。
今ここで、この草の牢獄の中で、自分を追い詰めた冒険者を殺さなくてはならない。そうでなければ、いつか必ず、自分自身が殺される。その確信を得たのだ。
奇しくも今、これまで見下してきた冒険者たちと同じように、龍は冒険を始めた。誰の目にもとまらないひっそりとした闇――それこそ闇のダンジョンよりも深い闇の中を、龍が這いずり上がる。
「キャハハハハ! おっそーい♪」
キャルは双剣を後ろ手に振り向くと、じとりと俺の目を見てくる。
「キャルさんが、はっやーい……のかと思います」
俺がそう言うと、にこりと笑う少女。一瞬どこの美少女かと思ったが、キャルだった。
ミリア、ネリス、ウォロクの顔をうかがうと、三人ともぽかんとした表情を浮かべている。やはり、三人にも別人みたいに見えたのだ。
と、アルメリゼが「みなさん!!」と飛んでくる。「行方不明者13名、全員生きているのです!!」
それを聞いたネリスがダンジョンの遥か上――天井を見上げて大笑いした。
「我々の勝利だ!!! あーっはっはっは!!!」
まったくもって、ネリスという人は緊張をほぐす天才だった。深刻な顔をしている面々が、思わず顔をほころばせるのだから。
「――はっはっはっはぁ……まあ、私は全然活躍していないがな。キャルと違って」
「鎧なんて着てるからじゃん♪ 盾も邪魔でしょー♪」
「あっはっは! 毎度キャルを救うのはこの盾なのだが」
ネリスとキャルが明るい調子でいる。明るいと言えば、シルヴィアとスーシーもどちらかと言えば明るい。
「あらやだスーシー!! これってマンドレイクかしら!? 抜いていいかしら!?」
「奥様……抜きましょう!!」
ただの草か、マンドレイクを抜こうとしているらしい。明るいというよりは変態的だ。
と、変態が駆け出す。
「マンドレイクッ!! 僕も抜くッ!!」
「ひぃ」アルメリゼがさっと俺の方に避難してきた。「もう嫌なのです……マンドレイクも変態も……!」
無理もない。
「のっほっほっほ……なんちゅう精神力じゃ」ウォロクが変態達を見ながらあご髭を撫でた。「わしも見習わんとな」
俺はそんなウォロクを慰める。
「多分、忘れているだけだと思いますよ。変態だから」
「そういうもんかの?」
俺はウォロクの耳元でそう言って苦笑しつつ、ミリアの方を見た。銀色の瞳を淡く光らせ、独り言を呟くように小さく口を動かしている。
(お願いします、ミリアさん)
俺は心の中でそう呟き、みんなに呼びかける。
「……さあみなさん!! 倒れた冒険者たちと一緒にダンジョンを出ましょう!!」
と、シルヴィアとスーシーが「せーの!」と何かの草を引き抜いた。
「ペギゥイウ゛ェア゛アァウエオォ゛ォオ゛オ゛オオヴェアイ゛エェェ゛ッ!!!!」
領域内にマンドレイクの悲鳴が響き渡る。が、対策済みなので倒れる者はいない。
「奥様、採れたてほやほやの生マンドレイクです」
「あらかわいい」
◆
――ルウィンたちの死角にうごめく影があった。暗闇の中、影はじっと身を潜め、自分を追い詰めた人間たちのことを考える。
(ヤハリ、効カナイ)
いつもなら発狂するか気絶するはずの人間が、マンドレイクの叫びを浴びてなお歩き、声を発していた。それは影にとって、初めての経験だった。間違いなく、罠を看破した人間がいる。それは、最初の攻撃の時から分かっていたことだが、改めて確信した。そして、その事実が面白くてたまらない。
(学バセテモラッタ――)
――影は考える。もし、完全に叫びを防ぐ手段を手に入れたというのであれば、すぐにでも別の狩りの方法を考えなくてはならない。
(移ルカ……)
影にとって、草のダンジョンはひとつの拠点に過ぎなかった。火、氷、どこへだって行けるのだ。十分に力もつけた今、この場所にこだわる必要もない。
(ダガ――)
しかし、自分をここまで追い詰めた人間に興味があった。どんな姿をしているのだろうか、さらに追い詰める算段を立てているのか。
(――知リタイ)
影は、人間たちが発する『冒険者』という言葉の意味を知っていた。それは、『愚者』という意味に相違ない。無策で死地に挑み、自分に喰らわれる者たち。あるいは、人間を助けようとして、助けようとした人間もろとも死ぬ者たちだ。
しかし、今その冒険者が自分の正体に近づこうとしている。
(アア、ソウカ――)
影は……恋茄龍マンドラゴラスは、ようやく理解する。
冒険者とは、危険を冒してでも戦いに挑み続ける、諦めの悪い者たちなのだと。そして、自分の罠を見破った何者かは、これからも自分と同じように成長していくに違いない。
(――今、喰ラウベキダ。イヤ、殺サナケレバナラナイ)
焦りでもなく、好奇心に負けたのでもなかった。もちろん、欲望に目がくらんだわけでも、慢心があったわけでもない。
警戒したのだ。
今ここで、この草の牢獄の中で、自分を追い詰めた冒険者を殺さなくてはならない。そうでなければ、いつか必ず、自分自身が殺される。その確信を得たのだ。
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