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話をしよう、と言われたことが嬉しかったのか、良は買い物をしながらよくしゃべった。
喜ばれるような話ではないと言ったのに、彼の心の琴線はやはり裕司には見えないところにあるようだった。そして彼のそういう面を見るにつけ、だからこそ彼に惹かれるのだ、と思う。
裕司の思い通りになどならなくていいから、彼が嬉しいと思うことや楽しいと思うこと、美しいと感じるものを知りたかった。
「そういえばあんたって、家ではビールとかチューハイ? とかそんなのばっかり飲んでない?」
発泡酒が積まれた一角を過ぎるなり、良はそんなことを言ってきた。
「……最近はちょっと減らしてるだろ」
良の前であまり飲むと体の心配をされるし、酒くさいと言われるのも地味に応えた。摂生せねばならない歳であるのも確かで、近頃は量も頻度もずいぶん減ったと思う。
「そうじゃなくて──ほら、外で食べるときとかさ、焼酎とかカクテルとか色々飲むじゃん。牧さんとこでも頼んでたし……。俺お酒とか全然わかんなかったけど、最近、お店にあるお酒の瓶と同じやつ、スーパーでもけっこう置いてあるんだなって思って……。ああいうの家では飲まないの?」
良はそう言って、洋酒売り場を指してみせた。
「あー……あれば飲むんだけどな。家で飲むのは缶が楽なんだよなぁ」
「作るのってやっぱ面倒?」
「いや、瓶だと使いさしが残るだろ。空き瓶が増えるのも邪魔くさいし……。まあ、外で飲むからうまいっていうのもあるんだけどな」
良はよくわからなさそうな顔で首をひねってから、やや遠慮がちに声を小さくして言った。
「俺がお酒作れるようになったら家でも飲む?」
裕司は良の窺ってくる目を見返した。それは彼が二十歳になったら、という意味かと考えると、少なからず胸が躍るものがあった。
「お前が作ってくれるんならもちろん飲むが……あと二年かぁ」
「べ、別に作るだけならいいんじゃないの」
「ばか、お前が作るならお前も飲めよ」
むう、と良は唇を曲げたが、言い返してはこなかった。裕司にとっては二年などすぐだが、彼にはきっともっと遠い未来に感じられていることだろう。
良はその後しばらく黙り込んで、裕司が何か言っても生返事だった。それは機嫌を損ねたというよりも、考え事をしているふうに見えた。
店内をひとしきり物色して、レジに並ぶと、良は真横からこう訊いてきた。
「あんたも俺が早く二十歳になった方がいい?」
見返すと、周りの音など聞こえていないような黒い瞳が裕司をじっと見つめていた。まさか酒売り場からずっとそれを考えていたのか、と思いながら、裕司は会計のために財布を出す。
「……俺もって、俺以外の誰がそんなこと言ったんだ?」
「都筑さん。あの人お酒好きだから、早く飲めるようになれって」
裕司の脳裏に、無機質さのある白い顔が浮かんだ。牧の店で働く彼は、元バーテンダーだと言っていたから、それは当然酒が嫌いなはずがない。
「ああ……」
相槌を打ちながら、都筑と良が会話をしているのを想像しようとして、裕司はつい笑ってしまった。おそらく性格は似ていないのだろうが、裕司の中で二人の外見はほとんど同じ部類だった。
「何笑ってんのぉ」
良はむっとした顔をしながら、レジを通ったカゴをサッカー台に運んでいった。腹を立てたそぶりを見せるくせにやることは勤勉で生真面目だ。彼に不足を言っては罰が当たるし、彼に大きな顔ができるほど自分を大人だとも思わなかった。
「良」
追いかけて袋詰めを手伝う裕司を、良は唇を尖らせて横目に見ただけだった。こういう顔をしているときの彼は、怒っているというよりも、うまくコミュニケーションを取れない自分に焦れているだけだ。
「俺は別に、お前に早く大人になってほしいなんて思ってねぇぞ」
「……」
「お前が二十歳過ぎたらできることが増えるのは実際そうだし、そうなったらお前と行ってみたいとことかやってみたいことはあるよ。でも十代ってのは、それ以上に貴重なもんなんだから、急いで過ぎるのはもったいねぇよ」
良は眉と口を曲げて妙なものを噛んだような顔をしてから、空になったカゴを置き場に戻して歩き出した。
「それ、十代のうちはわかんないやつでしょ」
いささか拗ねた声で言われて、裕司は苦笑する。良は人の話をよく聞くが、頭がいい分鵜呑みにしてはくれなかった。
「まあ、俺の思い出補正があるのも認めるけどな」
「貴重って言われても、学生とかじゃないし、有意義な過ごし方とかよくわかんないよ」
そう言った横顔が少し寂しげにも見えて、思い過ごしかもしれないと思いつつ、裕司は良の背中を叩いた。
「お前にどうしろって話じゃねえよ。今のお前にしか見えないものとか、感性とか、そういうのがあるんだから、それをスルーして大人になるなっつってんだよ」
スーパーを出ると外はもう夜の色で、空気だけが蒸したままだった。良は店の明かりを浴びながら振り返って、はにかんだ顔をしてまた歩き出した。
喜ばれるような話ではないと言ったのに、彼の心の琴線はやはり裕司には見えないところにあるようだった。そして彼のそういう面を見るにつけ、だからこそ彼に惹かれるのだ、と思う。
裕司の思い通りになどならなくていいから、彼が嬉しいと思うことや楽しいと思うこと、美しいと感じるものを知りたかった。
「そういえばあんたって、家ではビールとかチューハイ? とかそんなのばっかり飲んでない?」
発泡酒が積まれた一角を過ぎるなり、良はそんなことを言ってきた。
「……最近はちょっと減らしてるだろ」
良の前であまり飲むと体の心配をされるし、酒くさいと言われるのも地味に応えた。摂生せねばならない歳であるのも確かで、近頃は量も頻度もずいぶん減ったと思う。
「そうじゃなくて──ほら、外で食べるときとかさ、焼酎とかカクテルとか色々飲むじゃん。牧さんとこでも頼んでたし……。俺お酒とか全然わかんなかったけど、最近、お店にあるお酒の瓶と同じやつ、スーパーでもけっこう置いてあるんだなって思って……。ああいうの家では飲まないの?」
良はそう言って、洋酒売り場を指してみせた。
「あー……あれば飲むんだけどな。家で飲むのは缶が楽なんだよなぁ」
「作るのってやっぱ面倒?」
「いや、瓶だと使いさしが残るだろ。空き瓶が増えるのも邪魔くさいし……。まあ、外で飲むからうまいっていうのもあるんだけどな」
良はよくわからなさそうな顔で首をひねってから、やや遠慮がちに声を小さくして言った。
「俺がお酒作れるようになったら家でも飲む?」
裕司は良の窺ってくる目を見返した。それは彼が二十歳になったら、という意味かと考えると、少なからず胸が躍るものがあった。
「お前が作ってくれるんならもちろん飲むが……あと二年かぁ」
「べ、別に作るだけならいいんじゃないの」
「ばか、お前が作るならお前も飲めよ」
むう、と良は唇を曲げたが、言い返してはこなかった。裕司にとっては二年などすぐだが、彼にはきっともっと遠い未来に感じられていることだろう。
良はその後しばらく黙り込んで、裕司が何か言っても生返事だった。それは機嫌を損ねたというよりも、考え事をしているふうに見えた。
店内をひとしきり物色して、レジに並ぶと、良は真横からこう訊いてきた。
「あんたも俺が早く二十歳になった方がいい?」
見返すと、周りの音など聞こえていないような黒い瞳が裕司をじっと見つめていた。まさか酒売り場からずっとそれを考えていたのか、と思いながら、裕司は会計のために財布を出す。
「……俺もって、俺以外の誰がそんなこと言ったんだ?」
「都筑さん。あの人お酒好きだから、早く飲めるようになれって」
裕司の脳裏に、無機質さのある白い顔が浮かんだ。牧の店で働く彼は、元バーテンダーだと言っていたから、それは当然酒が嫌いなはずがない。
「ああ……」
相槌を打ちながら、都筑と良が会話をしているのを想像しようとして、裕司はつい笑ってしまった。おそらく性格は似ていないのだろうが、裕司の中で二人の外見はほとんど同じ部類だった。
「何笑ってんのぉ」
良はむっとした顔をしながら、レジを通ったカゴをサッカー台に運んでいった。腹を立てたそぶりを見せるくせにやることは勤勉で生真面目だ。彼に不足を言っては罰が当たるし、彼に大きな顔ができるほど自分を大人だとも思わなかった。
「良」
追いかけて袋詰めを手伝う裕司を、良は唇を尖らせて横目に見ただけだった。こういう顔をしているときの彼は、怒っているというよりも、うまくコミュニケーションを取れない自分に焦れているだけだ。
「俺は別に、お前に早く大人になってほしいなんて思ってねぇぞ」
「……」
「お前が二十歳過ぎたらできることが増えるのは実際そうだし、そうなったらお前と行ってみたいとことかやってみたいことはあるよ。でも十代ってのは、それ以上に貴重なもんなんだから、急いで過ぎるのはもったいねぇよ」
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そう言った横顔が少し寂しげにも見えて、思い過ごしかもしれないと思いつつ、裕司は良の背中を叩いた。
「お前にどうしろって話じゃねえよ。今のお前にしか見えないものとか、感性とか、そういうのがあるんだから、それをスルーして大人になるなっつってんだよ」
スーパーを出ると外はもう夜の色で、空気だけが蒸したままだった。良は店の明かりを浴びながら振り返って、はにかんだ顔をしてまた歩き出した。
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