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「……お前には色々偉そうなこと言ったけど、いざ自分のこととなると、情けないもんだなぁ」
自嘲は隠し切れなくて、気遣ってくれている良に申し訳なかった。
「……俺の親の話?」
察しのいい青年に、裕司は微笑む。良の手が膝に乗せられて、その手のひらから穏やかな温もりが伝わってきた。
「俺、あんたのお姉さんのことはよく知らないけど、別に仲は悪くないんだよね?」
「まあ、悪くはないな……」
「仲悪くないから、悪くなるようなことしたくないんじゃないの? 俺は親に会うの怖かったけど、連絡取るのも予定立てるのも全部あんたがやってくれて、連れて行ってくれたの、…………今考えると、嬉しかったよ。あんなに色々やってくれるなんて思ってなかったし、母さんと話せてよかったって思う。あんたがあんなふうにしてくれたのはさ、あんたがあんたの家族のこと大事だと思ってるからだって思ってたんだけど、違う?」
良の瞳の色が真摯であることを認めて、裕司は振り返る。良にとっての家族と、裕司にとっての家族は別物だと感じてきた。良の抱えている感情も、良に対する母親の態度も、裕司には理解できない部分が多くて、それは裏を返せば良は裕司を理解できないということだとも思っていた。
──わからないことと、考えないことは別だな。
良は裕司への興味と関心を隠そうとしなくて、思えばそれは裕司にとってとても有り難いことだった。彼は常に裕司を知ろうとしてくれる。それは好意の表出に思えたし、関係をより深める試みにも見えた。
「……そこまでは考えてなかったなぁ」
呟いてから、良の言葉の方が正解だという気がしてきた。肉親にセクシャリティを明かせないのも、良をわざわざ母親のところへ連れて行ったのも、家族が壊れて断ち切られるということに裕司が恐怖を覚えるからだ。
「考えてなかったけど…………俺のせいで家族がぎくしゃくすんのは嫌だな……」
言葉にするのは少し勇気が必要で、口に出してからやはり恥ずかしいと感じた。良を対等なパートナーとして扱いたいという気持ちと、彼の前では格好をつけていたいという気持ちが矛盾を起こして、胸のあたりがざわざわとした。
良の反応を見るのは少し怖かったが、そっと目を向けてみると、良は間違ったものを飲み下してしまったような妙な顔をしていた。
「……どういう顔だよ、それは」
黙っている方がいたたまれなくて、苦笑まじりに言うと、良は首をひねってみせてから、口を開いた。
「俺の考え方がヘンなのかもしれないけど……それはあんたのせいなの?」
「へ?」
「あんたは俺と住んでることじゃなくて、あんたが男を好きってことを家族に知られたくないんだなって思って聞いてたんだけど……それも違った?」
裕司は息を飲む。また彼の聡さを侮っていた、と思った。
良がこの家にいることを隠さなくていいと言ったのは裕司だったが、それは代案があるからではなくただ良にそうさせたくないからだった。しかしそこに大きな躊躇が伴わなかったのは、問題の核心はそこではないと半ば無意識に考えていたせいだ。
親元にいられない青年一人を居候させることぐらい、取り繕うことはできないことではなかった。けれど、平穏のためとはいえ、良との関係を偽って語ることには抵抗があった。それどころか、すべてを馬鹿正直に白状してしまう己すら予感していた。
そしてその結果として裕司が本当に恐れるのは、良を家族間の揉めごとに巻き込んでしまうこと以上に、これまで欺き続けていたものを暴かれることと、落胆されることだった。
真正面から見つめれば、なんと後ろ向きで非現実的なことだろう。事の重大さで言うなら、良との関係を批難されることの方がよほど深刻なはずなのに、裕司の恐怖心はそれよりも三十余年隠していたものが露見することに向いていたのだ。
「……違わない、な……」
「それはさぁ、あんたのせいじゃなくない? 男とか女とか、好きになろうと思ってなれるもんじゃないじゃん」
「……」
「俺は、あんたに会うまで本気で人を好きになったことがなかったからさ、なんとなく周りがみんな女の子がいいって言うからまぁそうかなぐらいに思ってたし、あんたみたいに女の子と付き合うの嫌だとかは思わないけど、でも、あんたを好きになろうと思って好きになったんじゃないよ。あんたとキスしたいとかセックスしたいって思うのは、理屈じゃないし、自分でコントロールできる気持ちじゃないもん。……あんたがこれまで男しか好きにならなかったのも、そういう感じだったんじゃない?」
うん、と頷きながら、裕司は喉に痛みを覚えていた。良の言葉は愛の言葉でもあり、かつての裕司が殺した言葉でもあった。
良は若くて、聡くて、そして裕司に寄り添ってくれている。それが肌から染み入るように実感された。
お前を好きになってよかった、と言いたかったが、今声を出したら涙声になるとわかっていて、裕司は唇を結んだまま、良の手をただ撫でていた。
自嘲は隠し切れなくて、気遣ってくれている良に申し訳なかった。
「……俺の親の話?」
察しのいい青年に、裕司は微笑む。良の手が膝に乗せられて、その手のひらから穏やかな温もりが伝わってきた。
「俺、あんたのお姉さんのことはよく知らないけど、別に仲は悪くないんだよね?」
「まあ、悪くはないな……」
「仲悪くないから、悪くなるようなことしたくないんじゃないの? 俺は親に会うの怖かったけど、連絡取るのも予定立てるのも全部あんたがやってくれて、連れて行ってくれたの、…………今考えると、嬉しかったよ。あんなに色々やってくれるなんて思ってなかったし、母さんと話せてよかったって思う。あんたがあんなふうにしてくれたのはさ、あんたがあんたの家族のこと大事だと思ってるからだって思ってたんだけど、違う?」
良の瞳の色が真摯であることを認めて、裕司は振り返る。良にとっての家族と、裕司にとっての家族は別物だと感じてきた。良の抱えている感情も、良に対する母親の態度も、裕司には理解できない部分が多くて、それは裏を返せば良は裕司を理解できないということだとも思っていた。
──わからないことと、考えないことは別だな。
良は裕司への興味と関心を隠そうとしなくて、思えばそれは裕司にとってとても有り難いことだった。彼は常に裕司を知ろうとしてくれる。それは好意の表出に思えたし、関係をより深める試みにも見えた。
「……そこまでは考えてなかったなぁ」
呟いてから、良の言葉の方が正解だという気がしてきた。肉親にセクシャリティを明かせないのも、良をわざわざ母親のところへ連れて行ったのも、家族が壊れて断ち切られるということに裕司が恐怖を覚えるからだ。
「考えてなかったけど…………俺のせいで家族がぎくしゃくすんのは嫌だな……」
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黙っている方がいたたまれなくて、苦笑まじりに言うと、良は首をひねってみせてから、口を開いた。
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「へ?」
「あんたは俺と住んでることじゃなくて、あんたが男を好きってことを家族に知られたくないんだなって思って聞いてたんだけど……それも違った?」
裕司は息を飲む。また彼の聡さを侮っていた、と思った。
良がこの家にいることを隠さなくていいと言ったのは裕司だったが、それは代案があるからではなくただ良にそうさせたくないからだった。しかしそこに大きな躊躇が伴わなかったのは、問題の核心はそこではないと半ば無意識に考えていたせいだ。
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そしてその結果として裕司が本当に恐れるのは、良を家族間の揉めごとに巻き込んでしまうこと以上に、これまで欺き続けていたものを暴かれることと、落胆されることだった。
真正面から見つめれば、なんと後ろ向きで非現実的なことだろう。事の重大さで言うなら、良との関係を批難されることの方がよほど深刻なはずなのに、裕司の恐怖心はそれよりも三十余年隠していたものが露見することに向いていたのだ。
「……違わない、な……」
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「……」
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