トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”

ajakaty

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外国には・・・外国の事情がある物ですよね? 58

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     第一章  五四話

 それは・・・王弟ソルダート公爵が、王宮内の執務室としている、王宮南東区の一室での様子だった。

 元々、ソルダート公爵には王宮の外に別邸があり、王都に投宿する際はそちらに滞在する事が殆どだそうだ。今は肝心の王が、それこそ何時“崩御”するか判断出来ない以上、寸毫も王宮を離れる訳にはいかず、南東区の区画を一部自らの拠点として“ロビー活動”に勤しんでいた。まあ、この状況でこの男の立場なら、不自然な事では無い。

 そんな活動の谷間、ちょうど空白となって一人きりになった時、その“人物”は現れた。ここであえて“人物”と表現したのは、タップリとした外套に“仮面”をつけて居た為、男女の判別が付かなかったからだ。

「随分、精力的に活動しておるようだな?」

 突然、方向から声を掛けられ驚くソルダート公爵。くぐもった声音はこれまた性別を判然とさせない。

「貴様! 良くと私の前に姿を表せたな! 」

「ほう?何か問題でも?」

「抜かせ! 現在の王のは貴様の仕業であろうが! 」

「くくくくっ、語るに落ちるとはこの事よ。我等のを目の当たりにして、を願ったのはおぬしではないか?」

「馬鹿な! だけならまだしも・・・誘拐など頼んでおらんわ! それにワシが依頼したのはで、けして暗殺などでは無い! 」

「そう、よ。まぁ信じる必要は無いが・・・今回の事は、我等は預かり知らぬ事。必要も無かろうが、一応知らせておくぞ。」

「なんだと? 貴様らでなければ、やはり王太子スクルージの仕業か?」

「それは知らぬな、興味も無い。必要な事は告げた、さらばだ。」

「待て! 話はまだ半分・・・! 」

 ソルダートが言い終わらないうちに、くだんの人物は、一瞬光ったかと思うと・・・その姿はもう影も形も無かった。

「おのれ・・・! どいつもこいつも! 」

ーーーーーーーーーー

 “謁見の間”は静まり返っていた。僕のスキル“テンプオーダー”を応用して、何もない空間に、大きなスクリーンを展開し“盗撮”したソルダート公爵の証拠映像を流したのだが・・・

 殆どの人間は、内容もさることながら・・・映像を記録するなど想像のだった様で呆然としている。まぁ実際は魔法では無くミネルヴァのの一端なのだが・・・

「ソルダート公爵、何か言いたい事が有れば聞こうか?」

 まるで、声に弾かれた様に・・・その身を震わせて公爵が振り向く。これまでせっせと作ってきた派閥の取り巻き達は、を恐れて距離を取り始めていた。

「・・・兄上、こうなったのは・・・のせいなのだ! 私は、この見た目は“美しく豊か”だが、その豊かさに胡座をかき、誰も! 彼もが! 好き勝手に振る舞い、国民から搾取する“汚職国家”をまとめる為・・・あなたの代わりに仕事を引き受けてきた!  我等は 何故? 私だけが薄汚れねばならん! 」

 なんと、双子である。二人とも健康的とは言い難い状態(方向性は真逆)ゆえ気付けなかった。当然王国の人々はそんな事で驚く事はなく、じっと聞き入っている。

「・・・もう終わりかの? 」

「・・・なんだと? 言うに事欠いて“終わりか?”だと! 他に言う事は無いのかぁ!! 」

「ふん! そんなに同情して欲しいか? 情けない! おぬしが、の代わりになれなんだのはわしの方が“優秀で図太かった”からに過ぎん。先代が血縁の順番で後継者を指名する様ななら・・・わしも、もっとをさせて貰えたわい!」

「なんだと!」

 逆上するソルダート公爵を、子飼いの護衛が素早く押し包む。四人の剣士、一人の魔法使いが公爵を守る形に陣形を組み、

「ソルダート公! 最早ここ迄! 引きます!」

 剣士の一人が、素早く最低限のをして・・・有無をいわさず公爵を謁見の間から連れ出そうとする。

 衝撃的な映像に続いて・・・王と公爵の余りにも“明け透け”な舌戦に、毒気を抜かれた謁見の間では、誰も公爵が出て行こうとするのを止める事が出来なかった。それこそ王太子スクルージの近衛兵も、どうすべきか迷ってしまい、王と王太子の顔を交互に見て行動を起こせずにいる。

 肝心の王は公爵が出て行こうとするのを敢えて止めず、謁見の間の様子を眺めている。一応このの予定も打ち合わせ済みではあるのだが・・・

 出口に辿り着いた公爵は・・・最早その叛意を隠そうともせず振り返り、

「王・・・いや! 待っているがいい! 私は戻ってくるぞ!」

 セルディック4世は、猛烈な激情でその身を震わせて宣言するソルダート公爵を・・・詰まらなさそうに眺めて、

「いや、そなたと会うのはが最後・・・この場が“今生の別れ”となろうな。さらばだよ。」

 王のセリフに公爵の表情が更に歪む、最早何も言わず扉より出ていった公爵一行だが・・・

「カナタよ・・・問題ないか?」

「ええ、“公爵御一行”には、扉の向こうで。」

 実は扉の外にはミネルヴァがあらかじめ“低酸素結界”を張っていた。

「全く・・・お主は“自分の事”をどう考えておる? わしに限らず・・・どんな王でもを持ったお主は・・・この世の法のにおる。何者もお主を止め得ないならば・・・お主は何を望む?」

 今のいままで・・・飄々としていたセルディック4世が不意にで問い質してくる。思わずビットナー伯爵との初対面の時を思い出した。

「陛下・・・どうも“権威のいただきに近い方々”は、僕の事を誤解される様ですね・・・正直に申し上げますが、王の“お持ちの物”も“背負われている物”も僕にとっては無用の長物です。僕は・・・ただ“日々の平穏”を取り戻す為に・・・に帰りたいの“憐れな迷子”ですよ・・・」

 セルディック4世は何も言わず・・・じっと僕の瞳を覗きこむ。このの人間は、今までの人生の中でもに居た。ある人は飄々と、また、ある人は粛々と、タイプは違えど共通しているのは、“自分は見せず”に“他人を見逃さない”だ。

「・・・ふう、アローナよ!」

「!はい、陛下。」

「わしとカナタの約定は! 最早、是非も無い! 直ちにと共に戻ってそのための全権を預ける。」

「・・・ハッ! 陛下の御心のままに! 」   

 そこで・・・不意に視線をアローナに向けて、

「アローナよ、今まで・・・そなたには不自由をかけた。故に褒美を与える! ・・・今度の仕儀を・・・そなたの最後のつとめとする。カナタのを叶えた後は戻るも良し。カナタにも良し! そなたの好きにするがいい。」

 ・・・何を言い出しやがるんですか陛下? アローナさんも・・・何をモジモジしてる? 誤解されるからしなさい!

「・・・陛下、今は時が惜しいので・・・
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