トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”

ajakaty

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外国には・・・外国の事情がある物ですよね? 59

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      第一章  五五話

 カナタがギルムガンに赴いていた頃・・・時を同じくして、トライセン王国の王都オゥバーシュタインでは、ヒルデガルドの父ブランデル・フォン・ビットナー伯爵が王宮の離門より出立しようとしていた。

 必要最低限の供回りだけでの隠密行の為、見送りも最低限だが、その中には望外の大物の姿が見えた。

「致し方ないとは言え・・・慌ただしい事だな、ビットナー卿。」

 そこには、王国宰相ゴルディアス・フォン・パウルセン公爵がいた。

「見送りとは恐縮です。でありますれば・・・ここは拙速を貴ぶべきかと・・・」

「確かにな・・・くだんが卿の所にもたらした情報を考えれば・・・な、まったく・・・陛下に具申するのはが折れたわい。」

「・・・御尽力痛み入ります。しかし此度の策が成れば、近隣国のも多少は和らぐかと思われます。ならば無理の一つ二つは年嵩者の仕事でしょう。」

「わしからすれば卿に押し付けているわけだが・・・」

「なに、娘は言わずもがな、に至ってもまだまだ若輩なれば・・・それに、パウルセン公には、王都にてのもおありでございましょう。現場の事など些事ですわい。」

「まったく・・・は変わらんのぉ。まあいい、事はワシの仕事よ。若輩共を頼むぞ。」

「お任せあれ! それでは参ります! 」

 挨拶を済ませた伯爵と供回りが、騎馬を駆って遠ざかって行く。

「まったく、幾つになっても慌ただしい男よな。まこと物か・・・」

ーーーーーーーーーーー

 ビットナー伯爵が王都を出立した日、その娘であるヒルデガルド伯爵令嬢もカナタからの情報とを受け、極秘にある人物と接触するべく、帝都の西方10kmにある地点に赴いていた。供回りは、僅かな護衛とシドーニエのみで、ほぼ同数の供回りのみを連れた、メッテルニヒ子爵が案内をつとめている。

 生憎の小雨の中・・・しばらく森の中の小道を進むと、小振りながらもしっかりした作りの猟師小屋が現れる。

「此処です、伯爵令嬢レディ・ビットナー。」

 初めて会った時から一貫して口数の少ない男だ。帝国も良くこんな男を交渉役にあてた物である。端々に現れる言説には確かな知性は感じられるが・・・それにしても言葉が少な過ぎる。

「案内、感謝致します。」

 とりあえずそう答える。無言で頷いた子爵は小屋の入り口をノックし、小さく開いたドアの中へ二言三言小声で何かを告げる。

「中へ・・・供回りは、お一人でお願いします。」 

 子爵の案内にこちらも無言で頷き、シドーニエだけを伴い入り口に向かう。カナタからの連絡で屋内の人物の事は分かっているが・・・この接触は、事によれば帝国に叛意ありとされても仕方ないものだ。

 必然的に緊張が伴う。だが、これから行うは周辺各国の今後のを占う上で極めて重要だ。

「行こうシドーニエ。カナタ殿が開いてくれた道だ。」

ーーーーーーーーーーー

 さほど広くない室内、その奥の窓際に、粗末な椅子に座した人物と、傍らに立つ壮年の男性がいた。シドーニエと共に二人の前に静かに進み、騎士の礼節として膝を折る。

「お初にお目にかかります、マルグリット殿下。トライセン王国ブランデル・フォン・ビットナー伯爵が一子、ヒルデガルドであります。」

「・・・私を殿下と呼んで頂けますのは誠に有り難く存じます。ですが、今の私はその呼び名にあたう者ではありません。出来れば、ただのマルグリットとお呼び下さい。」

「それでは・・・マルグリット様、早速ですが“明日あしたからのお話“をさせて頂きましょう。」

「ええ、よろしくお願い致します。伯爵令嬢レディ・ビットナー
 
ーーーーーーーーーーーー

 もし・・・後生の歴史家が、この数日の間にあった事を無く知り得たならば・・・たった数日で起こった事の数々に間違い無く狼狽しただろう。それは、“運命を司る神の気まぐれ”とするには余りに偶然が過ぎるタイミングだったからだ・・・だが、当然ながらを正確に知り得る者は皆無であった。

 こうして、後にビッグ転換コンヴァージョンと呼ばれる、周辺各国の“政治的大方針転換”を引き起こした人物の存在は・・・結局秘匿される事となる。

ーーーーーーーーーーー

 ギルムガン国王セルディック4世からのを取り付けた後、アローナを連れてローランドさんの村に転移した僕は、まず従軍していたギルムガン兵を解放し、グラブフットさんの後を追って領都に向かって貰う様に指示した。

 勿論アローナやグラブフットには後々“矢面”に立って貰うから、領都では行動を慎む様に厳命した。

「任せなさい! 陛下の事が問題なくなった今、私に枷は無いわ。恩に報いる為にも存分に働かせてもらうわよ!」

 ・・・やる気満々なのはいいのだが、何故僕の左腕に絡みついているのか? まさかセドリック4世が言っていた事を鵜呑みにしてる訳でもあるまい・・・とりあえず無言で腕から引き剥がし、

「ええ、宜しくお願い致します。引き続き僕はグローブリーズ帝国に向かってに当たります。問題があればドローンオウルミニミネルヴァを通して連絡を・・・」

「分かったわ! でも気をつけてねカナタ。私も会った事は無いけど、フリードリヒ皇帝は冷徹な判断をする人物として有名よ。あなたに限って甘く見積もったりはしていないと思うけど・・・用心に越した事はないわ。」

 なる程、周辺各国が認識しているならば・・・皇帝フリードリヒは随分と人物なのだろう。

「ええ、了解しました。では、僕は行きますので後は頼みます。“ムーヴ!”」

ーーーーーーーーーーー

 帝都ベルギリウスにある迎賓館、その控え室に転移した僕は、ヒルデガルドが滞在している筈の私室まで隠蔽フルカーテンを駆使して移動する。迎賓館の職員に見つかるのを防ぐ為だ。

{ミネルヴァ、彼女は部屋に居るかい?}

{はい、在室されています。シドーニエ様も在室されています。}

{ありがとう。}

 そうこうしている内に私室の前に到着する。周辺に人影がない事を確認してフルカーテンを解除し、ノックをする。暫くするとシドーニエが・・・

「どなたですか?」

「コウサカです。今戻りました。」

 そう答えた途端、凄い勢いでドアが開いたと思うとジャケットの袖を掴まれ、部屋に引き込まれる。シドーニエは凄い形相で僕の体を

「あなたと言う人は! 三首の神獣ギドルガモンに手を出すなんて!! 一体何を考えているんです!!! 」

 とんでもない勢いで怒られた・・・

「落ち着いて下さい! シドーニエさん。」

 とりあえず落ち着いて貰おうと、シドーニエの肩を抱いて引き離そうとしている所へ、

「シドーニエ、来客か? 今日は、特に予定はなかったと思うが・・・ カナタ殿!!! シドーニエの体をなっ、何をしようとしているのだ!? 」

 ・・・・この後、誤解を解くのに四苦八苦する事になる。まったく・・・勘弁して欲しい。
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