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出逢い2

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「さて、そろそろお義姉さまを探しに行くかな……」

 サービスに甘えてしこたま飲んでみたけどお義姉さまの姿はどこにも見えず。あんなに目立つ人なのに不思議よねぇ。

 バーカウンターの男性スタッフに散々接客してもらったから最後に挨拶でもしようと思い声を掛けると、私の顔を見るなり焦ってボトルを開けようとしている。

「あっ、もういいのよ。そろそろパーティーに戻ろうかと思って」
「さ、左様でございますか、そうですかそうですか。それは良かった!」

 あからさまにホッとする姿にちょっとだけ申し訳なく思ったり。
 おいコラ正直者めと肘で小突けば、「あははスンマセン」とはにかむスタッフ。小一時間前に女性スタッフと交代してすぐ私が来たから、とにかく忙しかったようだ。
(うん。なんかごめん……)

 じゃあまた何処かでねと言いその場を去って、少し歩けば「あの、」と横から声を掛けられた。
 しっかり目が合ったけど知らない人だしこんな場所で私を知る人も居ないだろうと目が合いながらも通り過ぎようとすれば、「いえあの貴女です」と眼鏡をかけた女性。

「え、私?」
「はいそうです。エマ様……ですよね」
「そうですけど」

 はて。こんな真面目そうな方と知り合いだったかしら。もしレストランに来られた方だとしたら港町では浮くから忘れないと思うのだけど。

「すみません突然お声掛けしてしまって……。その、初めまして。わたくしブリナー男爵家長女のモーラと申します。王立学園では歴史の教師をしておりまして、ルブラン公爵家では臨時講師もしております」
「あ、どうも、初めまして。えと、どうして私のことを……?」
「それがお恥ずかしい話、先程存じ上げたばかりで……。その、クリスティーヌ樣とのやり取りを……」
「あらそれはお恥ずかしいところを」
「いえ恥ずかしいだなんてそんな! 恥ずかしいだなんて恥ずかしいだなんてそんなそんなッ!! むしろその逆ですわ!」
「ぎゃ、逆……?」
「ええ! わたくしそれはもう大変に感銘を受けました!」
「…………何に」
「貴女に!」
「…………私に?」

 何故なにゆえ……? とそんな顔をしていたのだろう。改めて謝られてしまった。
 まぁでもやっぱり感銘を受けるとこなど何も無いと思う。

「えっと……先程のお話を聞いた限り……ジョセフ様のご結婚相手がエマ様で、クリスティーヌ様は不倫相手……ということですよね……?」
「あぁ。そうですね、そうなりますかね」

 すんなりと肯定すればモーラさんはヒクリと顔を強張らせる。
 いつ知ったんですかと聞かれたから、あった事をそのまま話した。
 嫁いで初夜ったら恋人が居るから愛せない、と言われたこと。そうしたら余計に強張ってしまった。
 ナンダソイツクソヤローダナって笑ってくれるかと思ったのに。

「どうして……笑っていられるのですか……?」
「え? どうしてって言われても……う~~ん」
「実は、似たような経験をしまして……愛する人が出来たから婚約を破棄してほしいと言われたことが……」
「まぁ! そうなんですか!? クソヤローですね!」
「ふふっ、ええ。本当にね。……もう、七年も前のことなんです……。穏やかに過ごせる彼と、永遠の愛を誓うのだと、安心しきっていました。あの言葉を伝えられたときはもう…………酷い焦燥感に襲われ、物凄く怒りが湧いてきて、何処がいけなかったのかと自分を責めて、とにかくショックでした。それから恐くて未だ結婚も出来ずもう27。嫁げないなら働くしかない。馬鹿みたいでしょう?」
「そうなんですね。でも馬鹿とは思いません」
「え……?」
「だって結婚してたら教師にもならなかったんじゃないですか?」
「それは……そうですね。少なくとも今の地位ではなかったはずです」
「なら全く馬鹿じゃないです。そのまま何も出来ずに立ち止まる方がよっぽど馬鹿です」

 半年ぐらいはウジウジしてても許すかもだけど、さすがに一年以上もウジウジしてたらそんな奴は冷たい冬の海に放り込んでやるってやんでい。
 過去に固執してたって何にも良いことなんて無いんだから。

「ふふふ、まさかそんなふうに言ってくれるなんて思ってもみなかったです。“可哀相”って言葉はもう聞き飽きてたんですよね」

 彼女は言う。自慢出来る家柄の方だったと。
 顔も割と整っていて、彼の愛する人ってのが自分の一番の親友だったんだと。

「今考えると最初から奪うつもりだったんでしょう。友達だと思って仲良くしてた他の友人も慰めるふりして心の中では私を馬鹿にしてました。私って昔から地味で真面目だったから。陰で釣り合ってないって言ってるの聞いちゃって。それからお友達とも距離を置くようになってしまって、結局お友達も居なくなってしまいました。だからパーティーも弟に同伴してもらって。本当に何やってんだろって感じで」
「そりゃひでぇや。つーかそんな奴は友達と言えねーんで居なくても変わんねぇっす」
「あっはは! なんだかエマ様とお話してると元気が湧いてきますね!」

 そう思ったからそのまま言葉にしたのだが、モーラさんの少し驚いた顔から笑いが吹き出すところを察するに、どうやら喋り方がまたテヤンデイになってたくせぇ。
 いけねぇ。折角話し掛けて下さったのにこんなんじゃ友達が出来ねぇじゃねぇか。

「あの、ところでそのドレスってサウンズゴールドのですよね? わたくしブルーの方は好みでよく着てるのですがゴールドの方は勇気が無くって……」
「あーー、いやぁ~~~そのぉ~~、それがつい最近辺境から嫁いできたもので、ブランドとか流行りに疎くって……。このドレスもメイドのが選んでくれて……」
「まぁ! そうなんですか! センスの良いメイドさんですね!」
「いや誠にありがてぇ限りで……」
「そうだ! もし宜しければですが……今度一緒にお茶でもしませんか? 王都にオススメのカフェがあるんです。エマ様ともっとお話がしたいし……仲良くさせていただけたらなぁと……。お、烏滸がましいでしょうか」
「お茶に誘ってくれてるだと!?? それはお友達っつーことですか!!? モチロンです! お友達ですね! 嬉しいです!! やる事なくて釣りばっか行って怒られてたとこなんで!!」
「つ、釣り?? えと、あの、でしたら今度、侯爵家エマ様宛にお手紙を送りますので詳細はそちらに記入いたしますね。とても有意義な時間でした。本当に本当に久し振りに」
「此方こそ最初に無視して申し訳ねぇ!!」
「ふふっ、いいえいいえ、とんでもないことでございます。ではお義姉さまがお待ちのようなので私はこれで」
「お義姉さま!?」

 モーラさんの視線の先を追うと太陽のアデレードがひらひらと手を振っている。
 やっと現れやがったか踊り子め。あんなに眩しいのに何故見えぬ。
 ともあれ嫁いでから初めてのお友達も出来たことだし、パーティーってのもなかなか悪くないもんだと思った今日此の頃だった。

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