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「社交界の目」+一挙一動の小話
しおりを挟むそれからは早かった。
いや、寧ろ追い付かないぐらい。
貴族の婚約は色々ややこしくて時間がかかるだろうと思っていたのにウォルターときたら、たった三日で破棄してきた。私はまだ恋人と会ってすらなかったのに。
なんとか事情を説明してお別れして、先日、結婚した。好意を伝えられ僅か一週間後のことだった。
(アリアちゃんに元恋人を引き渡したのは言うまでもない)
婚約破棄から異例のスピードでの新たな婚約と結婚。
社交界では激震が走ったらしい。元恋人で王立騎士団所属のジョージが教えてくれた。ジョージもアリアもカレンも興味津々にあれこれ聞いてくるのだ。悪い奴らめ。きっと今日の事も根掘り葉掘り聞いてくるのだろう。
貴族には公式行事というものがあるらしく、忌引や病気等の理由以外は絶対参加。私も結婚してしまったから出ねばならない。
(それが終わるまで待ってくれれば良かったのに……なんてものはウォルターには通じないか……)
結婚式も後回しで一先ず基本的な挨拶やマナーを学んだ。
なるべく傍から離れないから、とウォルターは言ったけど、本当にそれでいいのだろうか。
「ミア、ああミア。とても綺麗だよ」
「ん、ありがとう」
「ミア……、本当に綺麗だ」
「うん。一度言えば分かるから」
重いダイヤのジュエリー、瞳と同じ紫のドレス。ウォルターもドレスと同じ生地のクラバットを身に着けていた。
本当ならば踏み入れてはいけない身分。周りの視線が痛かったけど、ウォルターが隣に居れば何も言ってくる人はいない。
「皆に君を見せたくない。こんなに綺麗なのだから他の男が無視するわけ無い……」
「それは無いと思うけどちょっとだけ離れてくれる? ただでさえ見世物なのに余計に恥ずかしいから」
「嫌だ」
「何で」
「皆に俺のものだと解らせたいから」
「それは見せたくないのか見せたいのかどっちなのよ」
「……難しい質問だな」
「本当、未だに意味が分からないし面倒な人ね」
グイ、と耳をつねると嬉しそうに笑う。こういう人を変態というのだろう。
公式行事が始まってからは私達に挨拶しに来る人もいたけれど、ウォルターが全てリード(という名の独占欲)してくれたので醜態は晒さずに済みそうだ。
二時間が経った頃には仕事仲間なのか込み入った話をするようになり、私は邪魔だろうと思いその場から離れると、待ってましたと言わんばかりにフェリシア伯爵令嬢一派に囲まれた。フェリシアとはウォルターの元婚約者である。リリアナより若い16歳だった。
「あらあらまあまあ! よく顔を出せたこと! ねぇ皆さんそう思わなぁい?」
「フェリシア様の仰る通りですわぁ」
「ねぇ? 本当ですわよねぇ。身分も考えずあの御方の隣に並んで!」
「気品も染み付いていない卑しい女ですから身体でも使ったんでしょ!?」
「決まってますわ! そうでもなきゃウォルター様がフェリシア様と婚約を破棄するはずありませんもの!」
義母や義妹となったリリアナとそっくりに人を罵って見下している御令嬢方。
己のプライドを守るために人を傷付けている姿がなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。
「ッ! 何が可笑しいの!?」
「ふっ、いや、ごめんなさい、初々しいなぁと思いまして」
「はぁ!? 貴女、誰に向かって口を利いているの!? 烏滸がましいにも程があるわ……!」
「ふふっ、本当にロマンス小説のようなやり取りがあるなんて。社交界って意外と面白いのですね。これは酒の肴です」
「不敬だわ! 平民のくせにわたくし達を馬鹿にして……!」
わなわなと扇子を握り締め顔を真っ赤にして怒るフェリシア。
恋人を盗られて悔しいのは解るけれどあまりにもやり方が幼稚である。リリアナと一緒で経験が足りないのだろう。
因みにリリアナは結婚して早々に黙らせた。今まで一線を引いていたけどその必要がなくなったから言ってやるのは簡単だったな。
(その話はまた別の機会にでも話そう)
「フェリシア様。一つ訂正しますと私は結婚したので身分的には侯爵夫人ですね」
「自慢のつもりかしら!!?」
「それと言わせていただきますが、その様に集団になってアレヤコレヤと申されても一人暮らしもしたことない、生きるために働きに出たこともない方に精神面で負ける気がしないのですが」
「なッ……!」
「男女の別れを一度味わったぐらいでネチネチと。拗らせてるのですか? 面倒だからさっさと処女なんて捨てちゃえばいいのですよ」
「あああああ貴女ねぇ……! しょっ、処女だなんてはしたない言葉こんなところで言うものではありませんよ……!?」
「まあ、たかだか処女ぐらいで……。いざセックスするときどうするのですか。相手に任せてたら自分が苦痛を味わうだけですよ?」
「な、なにを……!?」
「本当ですよ? 私の二番目の恋人なんかはね、童貞のくせして勉強した知識をひけらかそうと乳首を強く抓ったりやたら指をナカで掻き回したり酷いものでしたよ。そうならないためにもキチンと勉強して正しい知識を……」
「あわわわわわわわわわわ」
「…………あら?」
気付けば目の前に壊れた人形のような御令嬢方が出来上がっていたのだった。
私は、何かマズイ事でもしたのだろうか。
そもそもフェリシアは本当にウォルターのことが好きならば、私に絡んでないでウォルターに絡め、という話である。どうせ私が逃げても奴が追いかけてくるのだから。
全く。これから先が思いやられるな。
「ミア……! 探したんだぞ……! 俺を置いて行くな……!」
「あぁ。ごめんなさい」
「フェリシアに何かされたのか!?」
「いいえ、何も。というか寧ろ私がした側かも……見ての通り……」
「………………何をした?」
「っんーー……それはぁ、男のひとには、ナ・イ・ショ」
「っミア……俺を煽らないでくれ……」
「……は?」
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