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えっちで可愛い俺のもの【イーサン視点】
しおりを挟む「え、な、なんで……?」
「何でって、エミリーったら面白いことを言うんだね」
「へ?」
「結婚初夜だよ。ま、ほんとの初夜はとっくの前だったんだけどさ」
「しょ、しょや……!? しょやって、あのしょや……!?」
「他にどんな初夜があるのか聞きたいとこだけど今はいいや。さあ、君の可愛い身体を俺に晒してご覧」
グレーのドレスのフロント釦を、ぷち、ぷちと外していけば、あわあわと見るからに慌てる彼女。
その姿のなんと愛らしいことか。
俺としたことが。もっと前に味わっておくべきだった。失った時間が惜しいったらもう。
硝子に映る顔があまりにも唆るからもう一度首筋を舐めた。
エミリーはまた愛らしく啼いて、釦を外す俺の手を止める。
「どうしたの? 恥ずかしいのかい?」
「恥ずッ……! そ、そりゃ! だって! え!? はっ、裸に!? 裸になるの……!?」
仕事のときはあんなにしっかりしてるのに。まさかエミリー……。こんなに恥ずかしがるってことはまさか……、まさか……。
「裸にならなきゃ始まらないだろう?」
「そッ、そうだけどでもッ……! 平民でいうとこの“恋人”と、貴族での“婚約者”って意味が違うでしょ!? まさかイーサンと“そういうコト”するつもりなかったって言うか……!! そりゃいつかはしなきゃいけなかったんだろうけど、でもでももっとずっと先のことだと思ってたしッ……! 普通に結婚式の段取りとかして式挙げて覚悟決めるものだと思ってたからッ……!!」
「…………え?」
「この前だって“婚約者”だからッ、他の令嬢に押し付けるんだとか言うから我慢して頑張ったのにっ……!」
この前とはアレか。可愛い可愛い俺のエミリーが“俺のために”ご奉仕してくれたことか。
って。いやいやいや。
え? 何?
まさか俺ってエミリーで言うとこの“恋人”として見られてなかったってこと??
貴族での“婚約者”って……。まさか、エミリー、つまりは俺のこと仕事相手的なノリで接してたってこと!??
「エミリー……変なことを聞いて申し訳ないけど、恥ずかしがっているのは処女だからじゃ……」
「はっ!? そんなわけないでしょッ!? わたしっ、高貴で可憐で美しいルイーザ様とは違うもの!」
だよなー。
だってご奉仕慣れてたもんなー。
そうかそうか。分かったぞ。
エミリーったら仕事ばかりしてるからそんなに仕事頭になっちゃうんだね。サプライズが苦手なんだねエミリー。
悪いが俺に段取りってものは無いんだよ。
可愛い俺のエミリー。
まったく全く。
しかしどう足掻いたって慌てたって君は俺の奥さんだからね。
仕事相手的な妻でも“責務”ってものがあるんだよ。
それに。
伯爵家のこんなプレイボーイと持て囃された男が妻から初夜を拒絶されるなんて、そんな馬鹿な話があっていいわけないだろう?
「エミリー。君がどういう人生を歩んできてどんなものが君にとって“普通”だったかなんて俺にはわからないけれど。ただ、いま言えることは一つ。君も貴族に仲間入りを果たしているんだろう? 俺と結婚してようがしてまいが、君は貴族だ」
「そッ、そうだけど今関係あるの……っ!?」
「もちろんあるさ。……で、俺と婚約した。格上の伯爵家とね。エミリーは持病があって身体が弱いかい?」
「いいえ……健康そのものだけど……? だっ、だから一体何の関係があるっていうのよっ……!」
耳元で囁く声を引き離すように俺の腕の中で暴れるエミリー。
でももう逃げられないんだよ。可哀想だねエミリー。
「当事者すぎてあまり現実味が無いようだからハッキリ言うけどさ。エミリー、貴族ってのは血を残さなきゃいけないんだよ。分かるかい?」
「ッ!」
「血族を残すのは俺達にとってとても重要なこと。此処まで言えば分かるだろう?」
「!! !? !!?」
言葉にならぬ声で驚くエミリー。
そうだよ。どんなに嫌でもやらなければいけないこと。
「エミリー。もう一度言うけど……俺はそんなに人を不快にする見た目ではないと思うけどね」
「それはっ……」
「結婚して素敵な初夜を過ごせるようにと殿下も気を使って下さったのに……」
「ぐっ……」
「作法とか所作とか、ダンスとか礼儀とか、そんなのはエミリーに強要はしないけど……初夜は…………世継ぎは……伯爵家に生まれ、次男でも出来る親孝行……でもエミリーが嫌なら仕方無いかな……いち男として、夫としてはショックだけど……だけど強要はしたくないから……。父には、俺から上手く言っとくからさ…………」
「まっ! 待って!! わッ、わわわわわかったわ……ッ! 私っ、自分のことばかりで、よっ、世継ぎとか……! そ、そんなの全く頭になくてッ! どこか遠い世界のお話だとっ、勝手に思ってた……! 本当にごめんなさい……!」
「エミリーが謝る必要なんて……」
「いいえ! いいえいいえ……!! 私ったら自分の店や家族のことばかり心配して……っ! イーサンにだって使命があるのにっ……!」
「エミリー……」
「そうよね……この前だって、いっ、挿れさせてってお願いして……全てにおいて強要はしなかったもの……。それなのにわたしッ……! 本当にごめんなさいイーサン……」
「良いんだよ。むしろ君と分かり合えたってことのほうがずっと嬉しいよ。ありがとうエミリー」
「イーサン……」
ぎゅっと、ただ抱きしめると、眉尻を下げ俺の腕にそっと手を添える。
全く。まったく全くエミリーったら。
素朴で頑張りやさんでちょっぴり天然で本当に可愛いんだからもう。
早くに結婚しておいて良かったよ。
こんな調子ならあれよあれよと悪い男に言いくるめられてしまうじゃないか。
「エミリー、取り敢えず電気を消そうか? それなら身体もあまり見えないだろう?」
「え、ええ……そうね……」
暗闇に包まれる前に小さく唾をのんだ彼女。「やっぱり緊張する?」ととびきり優しい声で語り掛けると、「そりゃあ……まぁ……」なんていじらしく答える。
「もし君が安心できることが他にあるならするけど……エミリーはどうしたい?」
「えっ……あの……その……えっと……。……目隠し……してもらっても、良いかしら……」
「目隠し……??」
「ん、やっぱりちょっと、暗くても見られるのは恥ずかしいかな……誘導はするから」
「いいよ。それで安心してもらえるなら。でもなにで目を隠すの?」
「ありがとうイーサン。ドレスの装飾のリボンと、今度新しいの返すからネクタイ、借りても良い……?」
「ははっ、絶対見えないように二重にするってこと? いいよ、このネクタイだってグレイスター商会のものだしね」
そうしてエミリーはドレスのスカート脇のリボンを解き、ぐるりと俺の目元に巻いていく。しっかりずれないことを確認すると、今度は俺のネクタイを首から外し目元に当ててぎゅっと縛った。
「あの……脱ぐから……そのまま待ってて」
布の擦れる音が聴こえる。
ぱさ、とさ。床に服が落ちる音。
これからの期待からか自身の下半身に熱が集まってゆく。
嗚呼エミリー。
俺たち初めての行為なのになんて背徳的なんだ。
俺に目隠しをして自分で服を脱いでいるのかい?
たまらないなぁ。えっちだよ。果てしなくえっちだよエミリー。
エミリー、やっぱり君はえっちで可愛い俺の“奥さん”だ。
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