20 / 23
いつの間にかの新婚さん
しおりを挟む一通りの話を聞いた。
信じられない。これは驚愕。
婚約して一年経ったらやる儀式だと言ったのに。騙された。
「だっ、騙したのね!?」
彼を問いただしてみたが、「婚約している身でありながら騙すも何も無いしそもそも騙されたと思ってるなら騙される方が悪い。君は商人だからそれぐらいは解るだろう?」とあんまりにも饒舌に真剣に言うものだから、そうかと納得。
確かに。結婚したくなかったなら婚約をなしにして貰うべきだった。そんなコト出来るはずもないけど、それが貴族。そうか。何も騙されてない。だって私も貴族。
「イーサンったら……本当にもっと別の場所で活かしてほしいよ……」
「なんの事ですか」
ぽつり呟く殿下に、イーサンはキョトンととぼけている。私も何の話かは分からなかった。
さて。尊いデザートの時間は終わった。
あとは結果を待つのみ。やれることはやった、伝えたかったことも伝えた。
とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
そしてそのまま私たちは王宮のそばに構える高級ホテルへと向かう。殿下が気を使ってくださり、わざわざ部屋を取ってくださったのだ。しかも三日間も。一体何故だろう。
「──って何でイーサンまで……ッ!?」
「何言ってるの。これでも幼馴染だからね。結婚祝みたいのものさ。殿下だって仰っていたろう? 夫婦水入らずで、って」
「夫婦、み、水入らず……?」
「はは。エミリー、“そういうコト”だ」
「!!?」
「まさかエミリー、殿下からの祝いを受け取らないわけ、ないよなぁ?」
「ッ……!!」
(そ、そんな大層なものッ……受け取らぬワケにはッ……!)
いかぬ、となった。
元々商談に合わせ店の定休日をずらしていたし、今月の納品はほぼほぼ終わらせた。父も、この商談に向けての心労がどっと出てはいけないから、一週間は休んでも大丈夫なように調節してくれた。
(その分父娘で今週は徹夜で何度もゾーンに入ってたけど……。それにそんなに休むつもりもないしね)
乗り込んだエレベーターは最上階で停まる。そのフロアの宿泊客はただ一組。部屋に入り、商談で使った荷物を置き、ふう、と一息。
随分と眺めの良いホテルだ。王都が一望できる。
こんなホテルに私が足を踏み入れるなんてどこの誰が想像しただろう。
夕影が落ちる街を眺め、染み染みと庶民だった頃に想いを馳せていれば、後ろからぬうっと手が出てきて身体に腕が巻き付いてきた。
思わず「ひっ!?」と声を上げる。
「嗚呼……エミリー……君は本当に今まで頑張ってきたね」
「へ!?」
「父娘二人でこんな醜い貴族の世界に飛び込んで……様々な視線に晒され裏切られ、本当に本当によく耐えてきたよ」
「っ、イーサン……」
「正直に言うと……君との婚約は非常に不本意だった。親が勝手に持ってきた縁談、しかも新興貴族」
「……」
後ろから抱きしめられ、耳元で多くの女性が惑わされる声が囁く。
最近のイーサンは気持ち悪いはずなのに、なぜか今は振りほどけない。
たぶん、彼が真剣に何かを伝えようとしてるから。
「最初の頃は冷たくあたっていたね。色々順番が間違ってるけど、今更ながら謝りたいと思う。本当に、申し訳なかった」
「そんなこと……」
「君がね、あまりにも輝いていたから、自分の醜い陰の部分がよりハッキリ見えて……だから、見たくなかったんだ」
「醜いなんて、」
「いいや。醜いんだよ。前にも言ったろ? 貴族なんてもの、美しくもなんとも無い。ただ着飾ってるだけ。エミリーは知らないだろうけど、君たちが初めてパーティーに参加したとき、結構噂になってたんだよ」
「そう、なの……?」
「ああ。商人如きが社交界に足を踏み入れて生意気だって、露骨に言う人もいれば、心の奥底で思ってる人が大多数じゃないかな。……俺もそう思ってた」
「っ、」
「でも君ったら瞳をキラキラさせて、ダンスや所作のいちいちに、素直に、純粋に、皆を尊敬するんだもの。そんな君に惹かれた人が多く居たのも事実だ。己の噂を己で覆したんだ。思えば俺も、あのとき……惹かれてしまったのかな」
「えっ?」
(あのとき惹かれた、って……それってまさか、婚約する前にはもう……?)
私は婚約するまでイーサンのことなど1ミリも知らなかったのに。
なんだか物凄く申し訳無いような気がして、必死にあのときの事を思い出そうと頑張ってみた。が、やっぱりイーサンが居たかどうかも分からない。
「ふふ、一生懸命思い出してくれてるの? 可愛いね」
「!?」
窓に映るイーサンと目が合う。
途端に恥ずかしくなって、思わず顔を背けた。
白い肌に、ピンクがかったブロンドヘアとペリドットの瞳。本当に女性にモテそうな甘いマスクだ。
今更ながら、身分不相応。
「んー……、エミリー? これじゃ食べてと言っているようなものだよ」
「ッ、ひゃあ──!?」
何を言い出したかと思えば、ちゅ、と首筋を吸われた。
下から上へ上へと口づけがのぼっていって、唇が耳に触れたと同時にきゅんと子宮が疼いてしまった。何たる不覚。
「ふふ。さあ、エミリー。初夜をはじめようか」
・・・・・・・暫しの間。
「は??」
27
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる