イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
77 / 87
いぬぐるい編

家族とは

しおりを挟む

「は? 殺したも同然、ですって? 馬鹿言わないで。私が殺した?」

 実の息子、第二王子レイドの言葉が引っ掛かったのか、蒼松国王妃レベッカは灰色グレーの瞳をギロリと向けた。
 挑戦的なレベッカのその言葉に、唇をグッと噛み締め堪える大使。皆に緊張が走った。

「母上、すみません、私の言い方が悪かったです」

 レイドはまた暴走する前にと、己の言葉を訂正した。
 彼自身も、舞台での母の言葉に驚き、そして後悔していた。
 自分が見て見ぬ振りをしていたから、きっとここまで大事になってしまったんだと。

 『美』に執着するほど精神が崩壊しているとは思いもせず、無視し続けた。自分の母親なのに、反論もせず従って、ただただ人形だった。ちゃんと話を聞いて、寄り添って支えていれば、今頃は違ったかも知れない。
 それを今更思ったことで過去は変えられないが、未来なら、変えられる。

 「当然よ!」と、澄ました顔で言い放つレベッカ。
 そんな母を見て、気の毒になった。母も、ちゃんとした人間に変われるだろうかと。
 しかしレイドが考えるよりずっと、母レベッカの心の闇は深そうだった。

「私が殺したのは後にも先にもこの世でたったの一人よ!? 他に誰かを殺すだなんて有り得ないわ!」

 そう、堂々と述べるのだから。
 どこの王族がそんなこと包み隠さず言うのか。たとえ邪魔者を消すにしても、王族は通常自分の手を汚すことはない。誰かに指示をして、殺すのだ。
 王妃になる前だとしても剣すら習った事のないレベッカが本当に人を殺せるのか。
 しかしレベッカは、殺したと、自分の手で殺したと言う。

「…………誰を……殺したというのですか?」

 恐る恐る聞いたのは、今まで黙りこくっていた王女のレイチェルだった。まるで真実を確かめるよう聞く様に、レイドも生唾を飲んだ。

「お前の父親よ」

 王妃レベッカの言葉に、誰もが目を見開いて注目したが、唯一人、娘のレイチェルは目を背けた。
 レイチェルの父親、それはレベッカの元夫であるケイドン伯爵だった。

「な、は、母上は何を仰っているのですか……?」
「何をって、殺したと言っているじゃないの」
「は……?」
「ッやめろレイド……」

 ぜぇぜぇとまだ荒い息、兄である陵は弟の言葉を止める。
 チラリと兄弟目が合うが、レイドは真実が知りたかった。

「何故、殺したのですか……」
「レイドッ……!」
「何故? そんなの、ジェイミーが私の侍女と浮気したからよ」
「侍女と、浮気……?」

 今まさに、王妃レベッカの髪やメイクを直しているのは、レベッカが伯爵家に嫁いだときから長年専属で付いているその侍女だった。
 直す手は、ブルブルと恐怖で震えている。

「私より若いからって何が良かったのかしら。信じられないわ。私の方が美しいのに」
「何故、侍女は……」

 殺さなかったのかと後ろに続く言葉を分かっていたのか、レベッカは侍女に「だって、ねぇ?」とにっこり笑ってみせる。
 王妃と侍女を交互に見て、娘のレイチェルは己を落ち着かせるためか、深く深呼吸をした。吸う息も吐く息も震えている。

「……わたくしは、お母様の子ですか……」

 レイチェルの扇子を持つ手も、侍女と同じくブルブルと震えていた。

「は? 姉さん、何言ってんだよ……?」
「やめるんだ……!」
「そんな馬鹿な質問してどうすんだよ……!」

 レイドが動揺する理由は、姉のレイチェルが何か根拠があって、そう問うているのだと感じたからだ。

「いいえ」

 ──その根拠が、確かな事実となった。
 私の子供じゃないわと、レベッカの口が、そう言った。

「は!? なっ、なに、なんで……!」
「レイド、もういい……」
「何で……、じゃあ誰の……! ッ、まさか──」
「レイドッ……!」
「この侍女の子よ」

 やっぱりそうなんだと、言葉も紡げず、レイチェルは床に崩れ落ちる。

「な、侍女の子!? そしたら、俺と、姉さんは、血が繋がって無いっていうのか……!? そんな訳無いだろ……!! だって、そしたら、王族の……」
「レイド!! もういい……!」
「兄さん……」
「……それ以上は言うな」
「……………………はい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...