産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生2学期

12月1日(水)雨のち晴れ 清水夢愛の夢探しその11

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 月は移り変わり12月。今年は雪が降りやすい年らしいのでこの月に入ると冬休みに入るまでにどこか雪景色を見ることになるかもしれない。ただ、寒いのは苦手なのでそれを見てテンションが上がることはないと思う。

 そんなことを考えながら今日も寒さを感じている中、1時間目の終わりに1つのメッセージが届く。

――今日、誕生日!

 僕が今まで生きてきた中でこれほどストレートな誕生日の伝えられ方はなかったかもしれない。ホーム画面を確認すると、確かに清水先輩の誕生日であることが表示されていた。
 しかし、今から用意できるのはお祝いの言葉くらいしかないので、僕は「お誕生日おめでとうございます」の言葉とそれっぽいスタンプを送る。
 すると、すぐに返信が返ってきた。

――感謝する。ちなみにプレゼントは遅れてでも受け付けるぞ

 思考を読まれたのか、それとも元から貰う気満々だったのか。そう言われてしまったので、僕は少し考えた後、購買で何か買うことに決めた。本当はもっときちんとしたプレゼントを期待されていたのかもしれないけど、こういうのは当日に祝うからこそ意味があると思ったからだ。

 それから昼休み。前の休み時間で確保したシュークリームをプレゼントとして僕は2年生の教室へ向かう。本当なら呼び出したいところだけど、今日の主役に動いて貰うわけにはいなかったので仕方ない。

「で、俺はプレゼントとか何も持ってないんだけど」

「別に大丈夫だよ。お祝いの言葉さえあれば」

「いや、むしろ渡したい方なんだよ! 清水さんのポイント稼いでおきたいじゃん!」

 何のポイントなんだと思いつつ僕は松永をなだめる。さすがに一人で行くのは勇気がいるので、事情を話して付いて来て貰った。松永も遠からず知り合いではあるから祝わわれて嬉しくないことはないだろう。

 そして、清水先輩の2組の教室に着くと、僕と松永は少しだけ扉を開けて中の様子を窺う。

「清水さん、おめでと~」

「これ良かったら食べてー」

 その時はちょうど清水先輩がクラスの女子に祝われているところだった。あまり長く見ても怪しまれるので僕と松永は一旦扉から離れる。

「あちゃー タイミング悪かった」

「しょうがない。今日のところは引き上げるか……」

「えっ? せっかく持ってきたのに? こうなったら呼び出そうぜ」

「いや、よく考えたら2年生の教室まで来て誕生日プレゼント渡しに来た後輩の男子ってだけで相当な感じなのに、これで呼び出したら変な噂になるの確定じゃないか」

「むしろ聞いた時にりょーちゃんがそういうの狙ってるのかと思ってたくらいなんだけど」

「何でその時に言ってくれなかったんだよ!?」

「ええっ、理不尽!? それ抜きにしてもお祝いに行くことは別に悪くないし……」

 今日ばかりは僕の方が悪いんだけど、気付いたら恥ずかしくなってきたのでついそう言ってしまった。最近は積極的に行動できていると思っていたけど、変に自信を付け過ぎたのかもしれない。

「何やってるの?」

 そんな僕と松永の間に入ってきたのは桜庭先輩だった。

「あっ、副会長さんだ」

「あら、選挙の時に受付してくれた……松永くんだっけ?」

「はい。いや~ 副会長に覚えて貰って光栄です」

「ふふっ、そんなに偉いものじゃないから。それで二人は……もしかして夢愛の誕生日をお祝いしに来てくれた感じ?」

「そうなんですよー でも、今は中で取り込み中みたいでりょーちゃん……こいつが引き上げようって言い出して」

 普通に会う分にはほぼ初対面のはずなのに松永はそれを気にすることなく桜庭先輩に絡んでいく。こういう時のコミュ力強者は本当にうらやましい。

「なるほどね。じゃあ、りょーちゃんくんは帰るってことでいいのかしら?」

「なんですか、その呼び方は……あっ、そうだ。これ清水先輩へ渡して貰えませんか? 大した物じゃないんですけど、生ものなので早めに食べて貰えたら……」

「自分で渡さなきゃ意味ないと思うけど?」

「そ、それはそうですけど……邪魔はしたくないので」

「……わかったわ」

「だったら俺もお誕生日おめでとうございますって言ってたと清水さんに伝えてください! もしかしたら……名前覚えて貰ってないかもしれませんけど」

「松永くんからって伝えておくから安心して。わざわざありがとう、二人とも」

 桜庭先輩はそう言って2組の教室へ入って行った。

「本当に良かったの、りょーちゃん?」

「うん。また直接会う機会はあるから。それまでにもっとちゃんとしたプレゼントを考えておくよ」

「会える余裕がある奴は違うなぁ」

 うらやましそうに言う松永に「そんなのじゃないよ」と言い返しながら自分たちの教室へ戻って行った。



 放課後。僕は同じくテスト期間で部活がない松永と帰ろうとすると、狙ったようなタイミングでメッセージが送られて来る。

――良助、まだ帰ってないな?
――今から中庭来てくれ

 有無を言わさずといった感じだけど、昼間の件のお礼をわざわざ言ってくれるのだと僕は思ったから行くしかない。

「松永、清水先輩から呼ばれたから帰るついでに行かないか? 直接お祝いもできるし」

「へぇー……いや、俺はいいや」

「えっ? 昼間はポイントがどうとか言ってたのに。それに直接言った方が……」

「それをりょーちゃんが言うのかよ。まー、ここはりょーちゃんが呼ばれたんだから一人で行くべき。先に帰っとくから早く終わったら追い付きな!」

 それだけ言い残して松永はさっさと帰ってしまった。今更そこを遠慮することはないのにと思いながら僕は中庭へ向かう。
 そして、到着すると……松永を連れて来なくて良かったと思った。なぜなら待っている清水先輩の顔が物凄く不機嫌そうに見えたからだ。

「お、お疲れ様です。清水先輩……」

「良助、昼間の件はありがとう。だが、それはそれとして言いたいことがある」

「は、はい? 何でしょうか……」

「なぜ顔を見せずに帰ったんだ。呼んでくれたら私だって顔を見せたのに」

「それはその……邪魔をしたら悪いと……」

「小織もそう言っていたが、邪魔なんてことはないぞ」

「いえ、僕が邪魔するって言いたいわけじゃなくて……」

 清水先輩がクラスの人達から祝われているという状況を崩したくなかったと言うのが正しい。それは以前の清水先輩ならあり得なかった話で、それだけクラスにも馴染めるようになったということだ。だからそれが終わるまでは僕が割り込んで中断させるのは悪いと思った。
 それを包み隠さず伝えると、清水先輩の表情は少し和らぐ。

「まぁ、確かに私もびっくりしたよ。少し前に誕生日を知った子もいたというのにわざわざ祝ってくれるなんて思ってなかった」

「僕は今日知ったばかりですし、プレゼントも取り急ぎの物だったから話すのはまた今度でもいいかと思ったんです」

「またとはなんだ。私の誕生日は今日しかないんだぞ」

「そ、そうですよね、すみません」

「あ……いや、怒るつもりはないんだが……うーむ、何と言ったらいいんだろうか。せっかく祝ってくれる気持ちがあったのに気を遣わせたのは私が悪かったというか、本当にプレゼント貰えるとは思ってなかったというか……」

「えっ? でも、プレゼントは遅れてでも受け付けるって……」

「冗談で言ったわけじゃないが、別にプレゼントが絶対欲しいわけじゃない。ただ、誕生日アピールしたかっただけ」

「そうだったんですか」

「ああ。まぁ、とりあえず顔を見せなかった件はお互い悪かったということで終わりにしよう。さてと……」

 そう言った清水先輩は鞄を漁り始めると、僕が買ったシュークリームを取り出す。

「まだ食べてなかったんですね。賞味期限は今日中なので……」

「貰った本人から何も言われてないのに食べるわけにはいかないだろう」

「そんなことは……あっ」

 清水先輩がそのシュークリームを僕に返却したところで、清水先輩の意図がわかった。だけど、面と向かって言うとなると、何だか緊張してしまう。

「なんだ。随分と焦らすな?」

「いえ……お誕生日おめでとうございます、清水先輩」

「ありがとう、良助」

 満面の笑みと共に清水先輩はシュークリームを受け取る。時間をかけたから大事のように見えるけど、実際やってみればこんなに簡単なことだった。

「せっかくだし、良助も半分食べるか?」

「いや、シュークリームを半分にするのはちょっと……それに誕生日の主役なんですから遠慮せず食べてください。」

「誕生日ケーキだって分けて食べるじゃないか。ほら、こぼれないうちに」

 清水先輩は豪快にシュークリームを半分にして、その片方を僕へ差し出す。食べ方としては綺麗じゃないけど、主役が満足するなら受け取るしかない。
 そして、僕と清水先輩はシュークリームを頬張る。放課後のこの時間には少し物足りない量と裏切らない程よい甘さ。だけど、いつか食べた時よりも何だか美味しく感じる。

「そういえば良助の誕生日っていつなんだ?」

「えっと……今月の5日です」

「ええっ!? めちゃくちゃ近いじゃないか!? なんで言ってくれなかったんだ!?」

「僕が清水先輩の誕生日を知らなかったから今まで誕生日の話が出てなかったんですよ」

「そういうことか……私も何かプレゼントを用意しないとな」

「そんなしっかり用紙するような物じゃなくて大丈夫ですよ。それよりも僕が先にちゃんとした物をあげないと……」

「シュークリームだってちゃんとしてるだろう。それと、誕生日なんだから遠慮することはないぞ」

「いや、今日誕生日なのは清水先輩の方ですけど」

「だから、私は遠慮せずに言ってるんだ。誕生日は1年で一番わがままを言っても許される日だからな」

「そうでしたっけ……?」

「ああ。少なくとも私は……子どもの頃からずっとそうだった」

 清水先輩はどこか懐かしそうに言う。その理屈から考えれば……清水先輩がいきなり誕生日を主張したのも納得できる気がする。そのわがままが僕にも誕生日を祝って欲しいと思うのは少し自惚れいるかもしれないけど。

「あ、良助。今、私が誕生日以外でもわがままを言っていると思っただろ」

「全然そんなこと思ってませんよ!? 僕の誕生日は……同じようにシュークリームをおごって貰ったら十分です」

「そうか? 別に今日のと値段を合わるとかは考えなくても……」

「遠慮してるわけじゃありません。今日のシュークリームが何だか美味しかったのでまた食べたいと思ったんです」

 それは僕からすれば十分なわがままだけど、清水先輩が気付いてくれたかはわからない。

 その後、清水先輩は桜庭先輩を待たせていると言って、その場で解散することになった。1年一度しかない貴重な誕生日の時間を僕に割いてくれたのはやっぱり申し訳ないと思ってしまうけど、それが清水先輩のわがままの一部ならくすぐったい気持ちも出てくるような気がした。
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