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第一章
第四道中 どうしてこうなった…
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はっきり言って気に入らなかった──。
明らかに権力を傘に威張り散らしている小僧如きに大の大人が情けない、と──。
だから──ちょいとお灸を据えてやろうかしら。
───……。
「………はい?」
紅の唐突な宣戦布告に耳を疑ったカーティスは間抜け面で聞き返した。
それは村人達も同じ様子だったようで、隣人と顔を合わせたりしてその場から静かに騒めき立てている。
「コ、コウ…?」
「あー…は、ハハハッ! 御婦人は冗談のセンスがかなりおありのようですね!」
「冗談? いいえ、私は本気よ」
「………御婦人、先程の私の話しを聞いていなかったのですか? 私は今はまだ召喚士の端くれとは云えど、か弱き淑女を痛ぶる趣向は持ち合わせ──」
「か弱き? 今私を…見下したわね?」
再び冷笑を浮かべながらカーティスへ一歩迫る。
異様な威圧に一瞬たじろいだカーティスだったが、またすぐに気持ちを強引に持ち直しては片腕を前にかざした。
「まま、待ってくれ!! ほ、本当にするのか!? 戦うにしても武器は!? まさかアンタ魔法使いなのかっ!?」
「“まほうつかい”というモノが何なのかは知らないけど、強いて云うのであれば“私自身”が武器よ。それに私のいた世界では『強者こそ果敢に挑め、そして地に這いつくばらせ泥水を舐めさせよ』と云う教えがあるのよ」
「なんだその恐い教え!? あ、いや、そうではなく……」
「──。…ではこうしましょう。もし貴方が勝ったら私は貴方の宿に泊まり──それだけではなく伴侶にもなり、生涯掛けてご奉仕しますわ」
「はっ──伴侶ッッ!!?」
彼女から衝撃の好条件を提案され、カーティスどころか、聞いていた村人達全員にも驚愕が走り、アベルも慌てて彼女の袖を引いた。
「おいおいおいコウ!! いきなり何言ってるんだよ!?」
「だってこうでもしなきゃ受けてくれないと思って」
「だからってそんな条件突きつけることもないでしょ!? 負けたらどうすんのさ!」
「あら、もしかしてあんな小僧に私が負けるとでも?」
「……いや、全然思ってないけど…」
そんな返答をしたアベルに紅は彼の頭に手を置いた。
「私が勝つわ」
たった一言だけ告げてカーティスへ向き直る。向こうは既に準備万端らしく妙な構えを取りながら待っているようだ。
「ふっ……準備はいいですか?」
周囲は固唾を飲んで見守る中──
「いつでも来なさい」
開戦の合図が下された。
カーティスは即座に両手を重ね、精神を集中させて詠唱を始めた。するとすぐに変化が訪れ、彼の周囲に魔法陣が広がり、淵を濃淡な橙の光が舞い続けている。
予測出来ない危険を察しらしく、村人達は距離を離したり、家の中に逃げて被害が及ばぬ距離から観戦することにしたようだ。
「───。さぁ出ろ!! 《フレイムハウンド》ッ!!」
詠唱を完了させ《対象者》を喚ぶ──彼の頭上に漆黒の渦が広がり、囲っていた魔法陣の光がそこへ吸い込まれる。
そして、瞬時に“何か”がカーティスの目の前に降り、衝撃波が周囲に拡散。砂煙が巻き上がり、中から真っ赤な双眸が光る。
砂塵が晴れ、顕れたのは──全身を覆う体毛はまさに揺れ動く火炎の如く、そして威嚇に無数の牙を剥き出し、さらには隙間から炎を吐き散らす魔犬──《フレイムハウンド》。
「へぇ……何とも面妖な犬ね」
グオオオォォォォォォーーー!!!
魔犬から咆哮と熱波が発せられる──その気迫にアベルや村人達は萎縮してしまうが、紅は逆だ。肌に感じる熱波に闘争心を滾らせ、不敵な笑みを浮かべ、魔犬に嬉々として向き合っている。
「マジか…アイツ、あんなの喚べるのかよ…!?」
《フレイムハウンド》は初級召喚士が喚び出す《対象者》としては難易度が高い。それを難なく顕現させた彼の実力は確かなモノなのであろう。
──アベルは静かに拳を握りしめた。
「どうです? この《フレイムハウンド》は並大抵の敵ならばいとも簡単に焼き尽くす程の炎を保持しているのですよ! まぁ今回は私の実力を知らしめる為に喚んだだけですのでご安心ください。私としては御婦人の綺麗な肌を爛れさせたくはありません。降参するなら今のうちに──」
「はーはっはっはっ!!!」
紅が天に向かって盛大にして高らかに笑った──。
唐突な笑い声に誰もが唖然とし、あろうことか《フレイムハウンド》も威嚇を鈍らせ、瞬きを繰り返す。
そして彼女が笑い止めると再び正面を向き──挨拶がわりの覇気を相手にぶつけた。
「──ッッッ!?!?」
今まで感じたことの無い怖気にカーティスの足腰は急激に力が抜け落ち、その場に崩れて座り込んだ。《フレイムハウンド》も彼女に圧倒され、半歩退いでは身を低くして耳を伏せている。
おまけに漏れた気配に当てられた村人達も同様に震え上がり、中には怯えて涙を浮かべてしまった者もいた。
「降参? 笑わせるな下郎!! その程度の炎で私を焼こうと? 温い…温すぎるわ!! あべる!!」
「は、ハイィッ!?」
「“あれ”は強いのか!? 少し前に屠った“大熊”よりも強いか!? 申せっ!!」
「え…? えっと、ぐ──《グレートバグベア》よりは下…」
「………下、ですって?」
気迫そのままで振り返り、期待はずれの返答に思いっきり眉を顰めてアベルを睨んだ。
その形相にはアベルも身の危険を感じて彼女から大きく距離を開け、両手を前にかざして大仰に慌てふためく。
「あああの魔物と比べるのがそもそも間違ってるんだよッ!! そ、それでも《フレイムハウンド》は初級召喚士にとっては高度な《対象者》なんだよっ!」
「どうでもいいわ。はぁ……一気にやる気が無くなってきたわぁ」
と、先程までの覇気が嘘のように消え、紅は大きく肩を落とす。
それを見てカーティスは急いで立ち上がり、ズボンに着いた土を手早く払い落として紅を指差した。
「ど、どうした!! こここ、この《フレイムハウンド》に恐れをなしたかッ!? あ!?」
何とも見苦しい虚勢を恥も外聞もなく振る舞う小僧の姿は、滑稽を通り越して憐れ──そう半目で彼を一瞥し、すっかり相手するのも馬鹿らしくなった紅は深く溜息を吐きながら雑に歩き出し《フレイムハウンド》の元へ向かう。
「お、おい、何をしているんだ…? コイツのあまりの恐ろしさに気でも狂ったか?」
「黙りなさい」
「───ッッッ!!!」
「もう興醒めよ……こんな張り合いの無い勝負、さっさと終いにするわ」
「っ、こ…ゃ──やれッ《フレイムハウンド》ォォッ!!」
主人の命令に応じて《フレイムハウンド》は口を大きく開き、炎熱の業火を紅に放出。
近距離で放たれ、紅はそれを避けようとするどころか、無謀にも立ち止まった。
「コウッッッ!!?」
炎が彼女の眼前にまで迫った──その時である。
紅は大きく息を吸い始め、魔犬の炎を瞬く間に呑み込んでいく──。
「んなッッ?!」
「何だってぇッ!!?」
相対する二人の驚きはごもっとも。それどころか、その光景を見ている全ての者達が驚愕の叫声を上げた。
目の当たりにした“異常”に誰もが目を大きく見開いて紅から離さずに凝視している。
そしてあっという間に吐き出された炎をを呑み込むと、紅は妖しく笑みを浮かべては舌舐めずり。
「……不思議ね…若い《鬼火》と同じくらいの“味”だったわよ」
自慢の火炎を最も容易く呑み込まれた──これには《フレイムハウンド》も驚きを隠せず、口を半開きのまま微動だにしない。それどころか、腰も引けている始末だ。
闘争心を根刮ぎ削がれた魔犬が、最早『ただのおっきな犬』に成り下がった瞬間である。
「ば…バ……」
「今度はこちらの番ね」と、再び《フレイムハウンド》近づく。
戦意などとうに失っている魔犬は、距離を保ちながら後退り──しかしだんだんと腰も引けていく。
後ろに控えていたカーティスも同じく後退りするが、自分を棚上げ、みっともない醜態を晒す《対象者》に向かって眉を大きく吊り上げた。
「な、何をしているっ!! 早く次の攻撃をしろッ!! 何でもいいからするんだッ!!」
「あらあら。貴方のご主人様は酷い御方ねぇ…それで、どうするのかしら?」
浮かべている笑みはそのまま、それに加えて眼光に淡い朱色を宿らせた。
命令と恐怖の板挟みにとうとう魔犬も観念したのか立ち止まり、根性を振り絞って再び威嚇し始める。
「ふふふ、勇ましいわね。でもそれは蛮勇よ。戦う相手をこれ以上見誤るのはおよしなさい」
『グウウゥ…』
「いい? 相手の力量を正しく見極め、そして己を熟知している者こそ一人前よ。死に急ぐ事なかれ。其方はまだ若い…須く精進しなさいな」
「ええい、そんな言葉に耳を傾けるな《フレイムハウンド》!! いいからやれぇぇッ!!!」
「──…さぁ、異界の獣よ…どうしますか?」
目と鼻の先まで最後の一歩を踏む。辿り着き、紅は魔犬を見つめたまま片手を差し向けた。
最早どうなってしまうのか。カーティスを除く全員が固唾を飲んで見守る最中──彼女の手が《フレイムハウンド》の喉元に触れ、優しく撫で回し始めた。
『グゥゥ…』
初めての心地良さにうっとりと目を閉じ、自然に生じた脱力によってその場へ伏す。
紅の勝利が確定した瞬間だった。
明らかに権力を傘に威張り散らしている小僧如きに大の大人が情けない、と──。
だから──ちょいとお灸を据えてやろうかしら。
───……。
「………はい?」
紅の唐突な宣戦布告に耳を疑ったカーティスは間抜け面で聞き返した。
それは村人達も同じ様子だったようで、隣人と顔を合わせたりしてその場から静かに騒めき立てている。
「コ、コウ…?」
「あー…は、ハハハッ! 御婦人は冗談のセンスがかなりおありのようですね!」
「冗談? いいえ、私は本気よ」
「………御婦人、先程の私の話しを聞いていなかったのですか? 私は今はまだ召喚士の端くれとは云えど、か弱き淑女を痛ぶる趣向は持ち合わせ──」
「か弱き? 今私を…見下したわね?」
再び冷笑を浮かべながらカーティスへ一歩迫る。
異様な威圧に一瞬たじろいだカーティスだったが、またすぐに気持ちを強引に持ち直しては片腕を前にかざした。
「まま、待ってくれ!! ほ、本当にするのか!? 戦うにしても武器は!? まさかアンタ魔法使いなのかっ!?」
「“まほうつかい”というモノが何なのかは知らないけど、強いて云うのであれば“私自身”が武器よ。それに私のいた世界では『強者こそ果敢に挑め、そして地に這いつくばらせ泥水を舐めさせよ』と云う教えがあるのよ」
「なんだその恐い教え!? あ、いや、そうではなく……」
「──。…ではこうしましょう。もし貴方が勝ったら私は貴方の宿に泊まり──それだけではなく伴侶にもなり、生涯掛けてご奉仕しますわ」
「はっ──伴侶ッッ!!?」
彼女から衝撃の好条件を提案され、カーティスどころか、聞いていた村人達全員にも驚愕が走り、アベルも慌てて彼女の袖を引いた。
「おいおいおいコウ!! いきなり何言ってるんだよ!?」
「だってこうでもしなきゃ受けてくれないと思って」
「だからってそんな条件突きつけることもないでしょ!? 負けたらどうすんのさ!」
「あら、もしかしてあんな小僧に私が負けるとでも?」
「……いや、全然思ってないけど…」
そんな返答をしたアベルに紅は彼の頭に手を置いた。
「私が勝つわ」
たった一言だけ告げてカーティスへ向き直る。向こうは既に準備万端らしく妙な構えを取りながら待っているようだ。
「ふっ……準備はいいですか?」
周囲は固唾を飲んで見守る中──
「いつでも来なさい」
開戦の合図が下された。
カーティスは即座に両手を重ね、精神を集中させて詠唱を始めた。するとすぐに変化が訪れ、彼の周囲に魔法陣が広がり、淵を濃淡な橙の光が舞い続けている。
予測出来ない危険を察しらしく、村人達は距離を離したり、家の中に逃げて被害が及ばぬ距離から観戦することにしたようだ。
「───。さぁ出ろ!! 《フレイムハウンド》ッ!!」
詠唱を完了させ《対象者》を喚ぶ──彼の頭上に漆黒の渦が広がり、囲っていた魔法陣の光がそこへ吸い込まれる。
そして、瞬時に“何か”がカーティスの目の前に降り、衝撃波が周囲に拡散。砂煙が巻き上がり、中から真っ赤な双眸が光る。
砂塵が晴れ、顕れたのは──全身を覆う体毛はまさに揺れ動く火炎の如く、そして威嚇に無数の牙を剥き出し、さらには隙間から炎を吐き散らす魔犬──《フレイムハウンド》。
「へぇ……何とも面妖な犬ね」
グオオオォォォォォォーーー!!!
魔犬から咆哮と熱波が発せられる──その気迫にアベルや村人達は萎縮してしまうが、紅は逆だ。肌に感じる熱波に闘争心を滾らせ、不敵な笑みを浮かべ、魔犬に嬉々として向き合っている。
「マジか…アイツ、あんなの喚べるのかよ…!?」
《フレイムハウンド》は初級召喚士が喚び出す《対象者》としては難易度が高い。それを難なく顕現させた彼の実力は確かなモノなのであろう。
──アベルは静かに拳を握りしめた。
「どうです? この《フレイムハウンド》は並大抵の敵ならばいとも簡単に焼き尽くす程の炎を保持しているのですよ! まぁ今回は私の実力を知らしめる為に喚んだだけですのでご安心ください。私としては御婦人の綺麗な肌を爛れさせたくはありません。降参するなら今のうちに──」
「はーはっはっはっ!!!」
紅が天に向かって盛大にして高らかに笑った──。
唐突な笑い声に誰もが唖然とし、あろうことか《フレイムハウンド》も威嚇を鈍らせ、瞬きを繰り返す。
そして彼女が笑い止めると再び正面を向き──挨拶がわりの覇気を相手にぶつけた。
「──ッッッ!?!?」
今まで感じたことの無い怖気にカーティスの足腰は急激に力が抜け落ち、その場に崩れて座り込んだ。《フレイムハウンド》も彼女に圧倒され、半歩退いでは身を低くして耳を伏せている。
おまけに漏れた気配に当てられた村人達も同様に震え上がり、中には怯えて涙を浮かべてしまった者もいた。
「降参? 笑わせるな下郎!! その程度の炎で私を焼こうと? 温い…温すぎるわ!! あべる!!」
「は、ハイィッ!?」
「“あれ”は強いのか!? 少し前に屠った“大熊”よりも強いか!? 申せっ!!」
「え…? えっと、ぐ──《グレートバグベア》よりは下…」
「………下、ですって?」
気迫そのままで振り返り、期待はずれの返答に思いっきり眉を顰めてアベルを睨んだ。
その形相にはアベルも身の危険を感じて彼女から大きく距離を開け、両手を前にかざして大仰に慌てふためく。
「あああの魔物と比べるのがそもそも間違ってるんだよッ!! そ、それでも《フレイムハウンド》は初級召喚士にとっては高度な《対象者》なんだよっ!」
「どうでもいいわ。はぁ……一気にやる気が無くなってきたわぁ」
と、先程までの覇気が嘘のように消え、紅は大きく肩を落とす。
それを見てカーティスは急いで立ち上がり、ズボンに着いた土を手早く払い落として紅を指差した。
「ど、どうした!! こここ、この《フレイムハウンド》に恐れをなしたかッ!? あ!?」
何とも見苦しい虚勢を恥も外聞もなく振る舞う小僧の姿は、滑稽を通り越して憐れ──そう半目で彼を一瞥し、すっかり相手するのも馬鹿らしくなった紅は深く溜息を吐きながら雑に歩き出し《フレイムハウンド》の元へ向かう。
「お、おい、何をしているんだ…? コイツのあまりの恐ろしさに気でも狂ったか?」
「黙りなさい」
「───ッッッ!!!」
「もう興醒めよ……こんな張り合いの無い勝負、さっさと終いにするわ」
「っ、こ…ゃ──やれッ《フレイムハウンド》ォォッ!!」
主人の命令に応じて《フレイムハウンド》は口を大きく開き、炎熱の業火を紅に放出。
近距離で放たれ、紅はそれを避けようとするどころか、無謀にも立ち止まった。
「コウッッッ!!?」
炎が彼女の眼前にまで迫った──その時である。
紅は大きく息を吸い始め、魔犬の炎を瞬く間に呑み込んでいく──。
「んなッッ?!」
「何だってぇッ!!?」
相対する二人の驚きはごもっとも。それどころか、その光景を見ている全ての者達が驚愕の叫声を上げた。
目の当たりにした“異常”に誰もが目を大きく見開いて紅から離さずに凝視している。
そしてあっという間に吐き出された炎をを呑み込むと、紅は妖しく笑みを浮かべては舌舐めずり。
「……不思議ね…若い《鬼火》と同じくらいの“味”だったわよ」
自慢の火炎を最も容易く呑み込まれた──これには《フレイムハウンド》も驚きを隠せず、口を半開きのまま微動だにしない。それどころか、腰も引けている始末だ。
闘争心を根刮ぎ削がれた魔犬が、最早『ただのおっきな犬』に成り下がった瞬間である。
「ば…バ……」
「今度はこちらの番ね」と、再び《フレイムハウンド》近づく。
戦意などとうに失っている魔犬は、距離を保ちながら後退り──しかしだんだんと腰も引けていく。
後ろに控えていたカーティスも同じく後退りするが、自分を棚上げ、みっともない醜態を晒す《対象者》に向かって眉を大きく吊り上げた。
「な、何をしているっ!! 早く次の攻撃をしろッ!! 何でもいいからするんだッ!!」
「あらあら。貴方のご主人様は酷い御方ねぇ…それで、どうするのかしら?」
浮かべている笑みはそのまま、それに加えて眼光に淡い朱色を宿らせた。
命令と恐怖の板挟みにとうとう魔犬も観念したのか立ち止まり、根性を振り絞って再び威嚇し始める。
「ふふふ、勇ましいわね。でもそれは蛮勇よ。戦う相手をこれ以上見誤るのはおよしなさい」
『グウウゥ…』
「いい? 相手の力量を正しく見極め、そして己を熟知している者こそ一人前よ。死に急ぐ事なかれ。其方はまだ若い…須く精進しなさいな」
「ええい、そんな言葉に耳を傾けるな《フレイムハウンド》!! いいからやれぇぇッ!!!」
「──…さぁ、異界の獣よ…どうしますか?」
目と鼻の先まで最後の一歩を踏む。辿り着き、紅は魔犬を見つめたまま片手を差し向けた。
最早どうなってしまうのか。カーティスを除く全員が固唾を飲んで見守る最中──彼女の手が《フレイムハウンド》の喉元に触れ、優しく撫で回し始めた。
『グゥゥ…』
初めての心地良さにうっとりと目を閉じ、自然に生じた脱力によってその場へ伏す。
紅の勝利が確定した瞬間だった。
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