召喚鬼 異世界冒険噺

悠遊

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第一章

休息其の一  ようやく休める…?

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 ウオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!!!!


 予想だにしなかった決着に一際盛大な歓声が湧き上がった。
「はぁぁぁ…見た目からは想像出来なかった程に滑らかで、とても暖かな毛感触けざわりねぇ」
『クゥゥン♪』
「おーよぉしよし、良い子良い子。あべるも来なさい、とても気持ち良いわよー」
「いや…遠慮する」
 調子に乗って紅は《フレイムハウンド》を抱き寄せた。着物越しからでも、そして頬にも伝わる程良い熱が彼女に一時の至福を与えてくれる。
「───ッッッ!!! えぇいもういい!! 戻れ、役立たずがぁッ!!!」
 魔力供給を強制的に解除、退散の命令を下すと《フレイムハウンド》の身体は瞬時に消えた。
 それにより折角の憩いを邪魔された紅はカーティスを無言で睨み付ける。
「な、何だよ…! オマエいったい何なんだよ!! 《フレイムハウンド》の炎を吸い込む!? ありえねぇだろがぁ!! いったいどんな手品をしやがったんだ、あぁんっ!? 大体オマエ何者──!!」
 敗北と云う耐え難い屈辱に加えて常識はずれの彼女の行動に、とうとう化けの皮が剥がれたカーティスは彼女に向かって唾を飛ばしながら激昂している。
 それによりさらに不愉快になった紅は、素早く カーティスに手心のあるデコピンを食らわせた。
「ガふぁっ?! ──………」
 強力な脳震盪により意識はあっさりと何処かへ吹き飛び、仰向けに昏倒。一瞬の沈黙が流れた。
「私が何者か? それは貴方がもっと強くなった時に教えてあげるわ──まぁ、聞いてないでしょうけどね」
 彼女が用も無しとアベルへ振り返った時だ。

 周囲からが生まれ、瞬く間に周囲へ伝播。所彼処ところかしこで「ひっ!?」と、小さな悲鳴に加えて密やかな騒めきも囃し立っている。
 当然と云えば当然の反応だ。
 それは遥か以前に何度も体験したこと。今更何を気にするものか。と、紅は敢えて無視を選ぶ。
「…いこう」 
「ええ。それではお騒がせしました」
 奇異の視線に変わった村人達は無言で頷く人もいれば、そそくさとその場を去る者もいた。これも見慣れたモノ。特に気にも留めず紅はアベルの後を歩く。
 ──それほど時間も掛からず一軒の木造家屋、アベルの家が見えてきた。
 途中やはり紅を見てこそこそと何かを喋っている人達を何度か見かけ、それがアベルには不愉快に思い、玄関の扉を開ける前に紅へ振り向いた。
「……あのさ」
「何かしら?」
「──…気にしないでね」
「ん?」
「だから、村の人達が陰でこそこそと話してるとこ…たまに余所者が来るとさ、あーいった感じになっちゃうんだよ。此処まで来る人なんて中々いないし、それにさっきカーティスをコテンパンにしたから余計に、さ」
「………ふぅん」
 と、紅はにんまりと笑みを浮かべ、アベルに顔を近付ける。
「な──何だよ…?」
「私のこと、心配してくれたのねぇ? ふふ、可愛い子」
 そう言い──アベルの額に口付けた。
 突然の行為に驚いた彼は大きく後退り、背中に扉を強く打ち付け、口付けされた箇所に手を当てる。
「ななななななな、ハァ──!? な、何するんだよッ!?」
「何って、ちょっとしたお礼よ。『心配してくれてありがとう』って意味。あらら、お顔真っ赤にしちゃって。もしかして初めてだったのかしらぁ?」
 明らかにからかっている眼差しだ。そうとは分かっていても恥ずかしさを隠しきれず、余計に顔を赤く染めてしまう。
「だ──ッ! そそそんな事どーでもいいだろォッッ!! ったく、心配して損──」
 続きを言いかけた時、玄関の扉が開いてアベルにコツンとぶつかる。中からアベルの母“レミーラ”が顔を覗かせた。
「アベル? 何して──あら?」
 紅と目が合い「こんばんは」と、軽く会釈。
「こんばんは。私、紅と申します。旅で仲間とはぐれてしまい、困っているところをあべる殿に手助けをしていただいた次第です」
「………」
「? どうしたの母さん?」
「ぁ…あ、ま、まぁ旅のお方ですか? ご丁寧にどうも。アベルの母レミーラです。さぁどうぞ、中に入ってください」
 見つめられてしまったことに少し違和感はあったが、特に何も聞かされずに割とすんなりと中へ招かれた事に思わず立ち尽くしてしまった。
 何故か棒立ちしている彼女にアベルは「ほら」と手招く。
「どうかなさいました?」
「あ、いえ。何でもありません…お邪魔いたしますわ」
 抱いた疑念は一旦隠し、畏まって家に入る。
 中は思いのほか明るい。入ってすぐ調理場が見え、使い込まれた器が棚にいくつも並んでいる。加えて小さな鍬や陶器の鉢などの数少ない家具もきちんと整理されていた。
「……綺麗にされているのね」
「ありがとうございます。家は貧しいですが、せめて綺麗にしておけば過ごしやすいですから」
「そうそう。結構まめに掃除はしてるもんね」
「良い心掛けですわ。住処は過ごしやすいのが一番ですわ」
「住処って…」
「どうぞお掛けになって。今お茶を淹れますね」
 調理台の前に立ち、小声で一言詠唱。すると指先にが生まれ、それを釜戸の薪に着火させる。
「!!? えっ!? あ、あなた今…何をしたの?」
 彼女を何気無く見ていた紅は予期せぬ技に大きく見開いて思わず聞いてしまった。
「あぁ、使。昔の杵柄と云うものです。驚かせてしまったかしら?」
 そう言いながら戸棚に手を伸ばして古びた金属のポッドと茶葉の入った筒を手に取り、茶筒は調理台の上へ。ポッドには備え付けの蛇口を捻って中を水で満たし、ごとくの上に置いて沸かす。
「驚いたわ…だって──あべる、ちょっといいかしら?」
「何だよ──ぅお!?」
 アベルが隣に立つと腕を引いて顔を近付ける。
「もしかしてこの世界の人間って、皆があんな芸当が出来るの?」
「魔法のこと? 違うよ。母さんは昔“魔法使い”をしていたからなんだ。その時はそこそこ名も馳せていたみたいだよ」
「こら、そんなことはどうでもいいの。アベルもさっさと手を洗いなさい。あと試験はどうだったの? 今回はうまくいった?」
「あー……その…」
 返事に歯切れも元気も無く、黙ってしまった息子に振り向く。
「もしかして、駄目だった?」
「いや、そうじゃない、んだけど…」
 そう言いながら母の隣に立ち、蛇口を捻る。両手を流水に晒しながらどう答えようか考えるも、すぐに良い案は浮かばない。
 背中越しにそも様子を感じ取った紅は小さくため息を漏らす。
「……正直に答えればいいのよ。それと先に謝っておくわ。、一旦破るわね」
「え?」
 紅は立ち上がり、レミーラと向き合う。
 雰囲気の変わった彼女に並ならぬ気配を感じ、無意識に「下がっていなさい」と口にした。

 ───嫌な予感がする。

「──改めて自己紹介するわね。私は紅。古来より泣く子も黙る《鬼》にして“灼炎姫しゃくえんき”の異名を持つ者也」
 隠していた角を現し、凛として堂々とその場に佇む。
 レミーラは驚愕のあまり言葉が出ず、後ろにいるアベルは正体を見せた彼女の突拍子もない行動に唖然と口を開けていた。
「これが、私の“本当の姿”よ。私は、そこの御子息によって此処ではない国【日の本】から招かれた者──で合っているのかしら? とにかくどんな因果かは知らないけど、奇縁妙縁で此処にやって来たわけよ」
「こここ、コウッ!! なんで角見せちゃうんだよ!? 村では隠してるって約束しただろッ!?」
「だから先に謝ったじゃない。それに、私の直感で『この者の前に隠し事は無用』と判断したまでよ」
「そうね……賢明な判断だと思うわ」
 そう言い放ち、両手に雷を宿した。
 臨戦体制も予測していたのか、紅は目を細め、薄ら笑いを浮かべる。
「か、母さん!?」
「名前はたしか“コウ”でいいわよね? 《魔鬼ディアボルス》である貴女が、この子に何か用でもあったのかしら」 
「特に何も。それに今言った事が真実よ」
「──信じられないわ。そうやって騙して、村を乗っ取ろうと言うの?」
「ち、違うよ! コウは本当に僕が喚んじゃったんだ!!」
「アベル、彼女の魔力は量った? とてもじゃないけれど…とされる程の魔力を持っているわ」
「え…」
 脳裏に《グレートバグベア》を葬った時の光景が蘇る──。
「上級、召喚士……たしか、かーてぃすなる者もそんなことを口走っていたような?」
「彼を知っているの?」
「ここに来る前に、どうしてか手合わせすることになりまして。ただあまりにもみっともない子坊主でしたので軽くお灸を据えてやりました」
「…さっき外が騒がしかったのはそのせいね。彼は無事なの?」
「気絶はさせたけど、命を奪った覚えはないわ」
「本当だよ」
 と、今度こそアベルは対峙する二人の間に立ち、母親に静止を促した。
「アベル…」
「母さん一旦落ち着いて。コウはずっと本当の事しか言ってないよ。まぁ…デコピン一発で倒しちゃった後どうなったか──」
「待ちなさい。デ…デコピン…? 魔法とか“見たことも無い技”とか、そういった事ではなくて?」
 両手に纏っていた雷を解除。信じられない事を聞いたらしく、瞬きを繰り返した。
「あー……それだとカーティスが喚んだ《フレイムハウンド》の炎を呑み込んだってバカみたいな事をしたくらい、かな」
「ひどい言い草ねぇ。あんな生意気小僧相手には、軽ぅく小突いて、それでおしまい。めでたしめでたし」
「いや、めでたくはないでしょ」
「何よ『天狗の高鼻』を折ってあげたんだから少しは感謝しなさい」
「『テングノタカハナ』って、何だよそれ」
「まぁそんな事も知らないの? いいこれはねぇ──」
 と、まるで友達と会話しているようなやり取りが始まった。目の前でそんな光景を眺めつつ、息子より聞かされた内容に絶句し、そのまま暫く紅とアベルを交互に注視。
 見つめられている彼女はそれに気付き、何故か少し得意げに笑みを浮かべて上半身を反らした。
 その時、静寂を破る形でお湯が沸騰するといち早く気付いたレミーラは、慌てて水の簡易魔法を詠唱すると指先から一塊の水玉を構成し、薪の火を鎮火させる。
「………………アベルはこんな時に冗談を言う子ではないものね…分かったわ。一応信じましょう」
 とりあえず信じてくれたことによって最悪の事態は避けられた。その事にアベルは緊張の糸が切れたようで大きなため息を吐き、肩を落とす。
「信じてくれてありがとう母さん。コウは、これまでの《魔鬼ディアボルス》とは全然違う。だから心配しないで大丈夫だよ」
「……ここまでのご無礼、大変失礼しました」
「いいわよ。ただし──」
 レミーラは一瞬体を震わせ再度臨戦体制に入ろう──としたが、それは一瞬で杞憂だと分かった。
 彼女は笑顔でポッドを指差していたからである。
「その《でぃあぼるす》の事を詳しく教えてくれるかしら? もちろん、淹れてくれたお茶を飲みながら、ね♪」
 



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