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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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アーレンツ国内は、未だ帝国軍の砲撃に晒されていた。軍事施設は破壊され、情報局本部は瓦礫と化し、砲撃に巻き込まれた戦傷者の数は増え続けるばかりだ。
緒戦から、アーレンツは帝国軍に劣勢を強いられていた。アーレンツが想定していた戦闘予測は既に崩壊しており、対帝国軍戦に計画していた作戦は、そのほとんどが役に立たなくなってしまったのである。
こうなると、アーレンツに残された戦術は一つしかなくなる。それは、国防軍と情報局の全戦力を投入し、帝国軍へとぶつける。命令系統を失い、防衛戦略が破綻した今、これ以外に勝利するための戦術はない。しかしそれは、単純な力技以外に選択肢を失った事を意味する。
(恐らくこれは、帝国軍がジエーデルとの戦争で使った兵器の音だ。音が途切れないという事は、外は今頃・・・・・)
帝国軍による砲撃が続く、アーレンツ国内。国家保安情報局の施設の一つである、第二特別収容所。そこに彼女の姿はあった。
薄暗い牢獄の中に捕らわれている、右眼を眼帯で隠す一人の少女。彼女の名はヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ。国家反逆罪でここに捕らわれている、情報局大尉である。
(収容所内も慌しい。どうやら外は、情報局と軍の想定を遥かに超えた事態の様だな)
彼女が監禁されている、第二特別収容所の牢獄にも、帝国軍による砲撃の轟音と、地面を揺らす振動は伝わっている。また、彼女が捕らわれている収容所内は、先程から局員や警備兵が慌しく走りまわっており、悲鳴や怒号は止まない。
牢獄内にいるため、外で一体何が起こっているのか、その正確な情報を彼女は得る事はできない。だが、現在アーレンツが危機的状況に陥っている事だけは、彼女からすればこの程度の情報だけでも、瞬時に予想できる。
(元々、情報局も軍も帝国軍を甘く見ていた。ジエーデル戦で使われたあの兵器をもっと警戒していれば、こんな事にはならなかっただろう・・・・・・)
ヴァスティナ帝国の調査を行なっていたヴィヴィアンヌは、過去に帝国軍がジエーデル国との戦闘で使用した、試作型の榴弾砲についての情報を集められるだけ収集し、上層部に報告を行なっていた。しかし上層部は、彼女の報告を聞きはしたものの、その兵器はまだ試作段階であり、本格的な実戦配備や量産は、数年後になるだろうと予想したのである。
だが実際、帝国軍の榴弾砲は高い完成度を誇っており、量産もされていた。性能についても、ジエーデル戦で使用された以上のものである。もし榴弾砲への対策を練っていたならば、緒戦からこのような事態にはならなかっただろう。結局、ヴィヴィアンヌが祖国のために集めた情報は、何も活かされなかったのだ。
(一人の愛国者として、祖国に忠を尽くす・・・・・。たとえ我が祖国が、愚かな道を突き進んでいようとも、か・・・・・・)
そう心の中で思った彼女は、自分自身が今思ってしまった事へ、驚愕してしまった。愛国者にして、情報局の番犬とまで言われている彼女自身が、祖国へ忠を尽くす事に対して、疑問を覚えてしまったのである。
今までの彼女であったなら、絶対にあり得ない事であった。ヴィヴィアンヌが疑問を抱いてしまったのは、感情的となり、あの男と言葉を交わし続けた故である。
「リクトビア・フローレンス・・・・・・」
ヴィヴィアンヌを感情的にさせ、今も尚苛立たせる、ヴァスティナ帝国軍参謀長の名前。リクトビアのせいでヴィヴィアンヌは、怒りと殺意に加え、押し寄せる迷いに、今も苦しめ続けられている。
この牢獄の中で彼女は、リクトビアと交わした言葉の数々を思い返していた。彼の言葉を否定し、彼を嫌い続ける彼女が、交わした言葉を思い返してしまうのは、今の生き方に迷いを抱いている事の表れだ。
「何が、自分の心に問い続けろだ・・・・・!」
こんな感情は邪魔だ。自分は国のため、その命を捧げるだけでいい。国を守るために戦う兵士に、心などいらない。そう自分に言い聞かせ続けてきたヴィヴィアンヌだったが、最早彼女はその事に疑問を抱いてしまっていた。
もう戻れない。何も考えなくていい、国のために戦う感情を失くした兵士には戻れない。これも全て、リクトビアのせいだった。彼の存在が、ヴィヴィアンヌを狂わせたのである。
最後に彼にかけられた言葉を吐き捨て、彼女は右手を握りしめる。彼女の怒りの矛先は、彼女を狂わせたリクトビアと、簡単に狂わされてしまった自分自身に向けられていた。
「許さない・・・・・!」
怒りと殺意が宿るその言葉は、彼と彼女自身に向けられている。
ヴィヴィアンヌは悟った。自分を狂わす存在と、未だ人であろうとする自分自身を殺さぬ限り、この怒りは決して静まる事はないと・・・・・。
緒戦から、アーレンツは帝国軍に劣勢を強いられていた。アーレンツが想定していた戦闘予測は既に崩壊しており、対帝国軍戦に計画していた作戦は、そのほとんどが役に立たなくなってしまったのである。
こうなると、アーレンツに残された戦術は一つしかなくなる。それは、国防軍と情報局の全戦力を投入し、帝国軍へとぶつける。命令系統を失い、防衛戦略が破綻した今、これ以外に勝利するための戦術はない。しかしそれは、単純な力技以外に選択肢を失った事を意味する。
(恐らくこれは、帝国軍がジエーデルとの戦争で使った兵器の音だ。音が途切れないという事は、外は今頃・・・・・)
帝国軍による砲撃が続く、アーレンツ国内。国家保安情報局の施設の一つである、第二特別収容所。そこに彼女の姿はあった。
薄暗い牢獄の中に捕らわれている、右眼を眼帯で隠す一人の少女。彼女の名はヴィヴィアンヌ・アイゼンリーゼ。国家反逆罪でここに捕らわれている、情報局大尉である。
(収容所内も慌しい。どうやら外は、情報局と軍の想定を遥かに超えた事態の様だな)
彼女が監禁されている、第二特別収容所の牢獄にも、帝国軍による砲撃の轟音と、地面を揺らす振動は伝わっている。また、彼女が捕らわれている収容所内は、先程から局員や警備兵が慌しく走りまわっており、悲鳴や怒号は止まない。
牢獄内にいるため、外で一体何が起こっているのか、その正確な情報を彼女は得る事はできない。だが、現在アーレンツが危機的状況に陥っている事だけは、彼女からすればこの程度の情報だけでも、瞬時に予想できる。
(元々、情報局も軍も帝国軍を甘く見ていた。ジエーデル戦で使われたあの兵器をもっと警戒していれば、こんな事にはならなかっただろう・・・・・・)
ヴァスティナ帝国の調査を行なっていたヴィヴィアンヌは、過去に帝国軍がジエーデル国との戦闘で使用した、試作型の榴弾砲についての情報を集められるだけ収集し、上層部に報告を行なっていた。しかし上層部は、彼女の報告を聞きはしたものの、その兵器はまだ試作段階であり、本格的な実戦配備や量産は、数年後になるだろうと予想したのである。
だが実際、帝国軍の榴弾砲は高い完成度を誇っており、量産もされていた。性能についても、ジエーデル戦で使用された以上のものである。もし榴弾砲への対策を練っていたならば、緒戦からこのような事態にはならなかっただろう。結局、ヴィヴィアンヌが祖国のために集めた情報は、何も活かされなかったのだ。
(一人の愛国者として、祖国に忠を尽くす・・・・・。たとえ我が祖国が、愚かな道を突き進んでいようとも、か・・・・・・)
そう心の中で思った彼女は、自分自身が今思ってしまった事へ、驚愕してしまった。愛国者にして、情報局の番犬とまで言われている彼女自身が、祖国へ忠を尽くす事に対して、疑問を覚えてしまったのである。
今までの彼女であったなら、絶対にあり得ない事であった。ヴィヴィアンヌが疑問を抱いてしまったのは、感情的となり、あの男と言葉を交わし続けた故である。
「リクトビア・フローレンス・・・・・・」
ヴィヴィアンヌを感情的にさせ、今も尚苛立たせる、ヴァスティナ帝国軍参謀長の名前。リクトビアのせいでヴィヴィアンヌは、怒りと殺意に加え、押し寄せる迷いに、今も苦しめ続けられている。
この牢獄の中で彼女は、リクトビアと交わした言葉の数々を思い返していた。彼の言葉を否定し、彼を嫌い続ける彼女が、交わした言葉を思い返してしまうのは、今の生き方に迷いを抱いている事の表れだ。
「何が、自分の心に問い続けろだ・・・・・!」
こんな感情は邪魔だ。自分は国のため、その命を捧げるだけでいい。国を守るために戦う兵士に、心などいらない。そう自分に言い聞かせ続けてきたヴィヴィアンヌだったが、最早彼女はその事に疑問を抱いてしまっていた。
もう戻れない。何も考えなくていい、国のために戦う感情を失くした兵士には戻れない。これも全て、リクトビアのせいだった。彼の存在が、ヴィヴィアンヌを狂わせたのである。
最後に彼にかけられた言葉を吐き捨て、彼女は右手を握りしめる。彼女の怒りの矛先は、彼女を狂わせたリクトビアと、簡単に狂わされてしまった自分自身に向けられていた。
「許さない・・・・・!」
怒りと殺意が宿るその言葉は、彼と彼女自身に向けられている。
ヴィヴィアンヌは悟った。自分を狂わす存在と、未だ人であろうとする自分自身を殺さぬ限り、この怒りは決して静まる事はないと・・・・・。
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