贖罪の救世主

水野アヤト

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第三話 集う力

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 行きとは違い帰りは馬がある。このおかげで帝国には、思いのほか早く到着できた。
 大森林を迷わないよう、里長が持たせてくれた森の地図や、シャランドラの道案内のおかげもあり、予想以上の早さで到着できたのである。
 ちなみに、レイナとクリスが、三日と言う早さで隠れ里を見つけられたのは、行きの途中までを、帝国兵士から借りた馬で疾走し、あの大森林を気合と根性で走破したからである。偶々二人が走破した道は、里への迷わない道のりで、リックのように迷うことなく、ここまで辿り着けたのだ。
 借りたにもかかわらず、馬は途中で乗り捨てたために、行方知れず。途中遭遇した獣などの敵は、全て倒してきたと言う。このことを知ったシャランドラは、二人のリックへの忠誠心に驚愕し、帝国軍の馬を、二頭も失くしたことを知ったリックは、「帝国軍の財政事情を考えろ!貴重な戦力を失くしてくるな!」と二人に説教を行なった。二人は大いに反省させられ、後で騎士団長メシアに謝罪するよう厳命される。
 そんなことはあったが、それ以外特に何事もなく、帝国へと到着し、門番に帰りを告げて帝国内へと進む一行。
 見るもの全てが新鮮なシャランドラは、辺りを見まわし、好奇心で瞳を輝かせている。帝国の街、そこに住む人々、帝国の象徴ヴァスティナ城など、気になったことは何でも質問する彼女だが、帝国に住むようになって、まだ一か月も経っていない三人は、彼女の質問に答えられることが少なく、正直困り果てていた。

「おっ!ようやくお帰りですかい隊長。ちょうどよかったですぜ」

 四人がまず向かったのは、ヴァスティナ帝国軍本部である。里の物資輸送任務を頼むためにも、まず向かわなければならないのは、ここであったのだが、着いて間もなく、見知った顔がリックの前に現れた。

「久しぶりだなヘルベルト。なにかあったのか?」
「隊長の噂を聞いた奴らが集まってきたんですよ、俺らを軍に加えろとか言って。意外と使えそうな奴らが集まって来たはいいんすが・・・・」
「なんかやばい奴でもいたのか?」
「見て貰えりゃあわかりますぜ」

 ヘルベルトに案内され、少し歩くと帝国軍演習場へと辿り着く。
 そこには、何人かの帝国軍兵士たちが集まっていたのだが、彼らはあるものを取り囲んでいた。
 高さは軽く二メートルを超えている。なんと、それはものでなく人であった。
 取り囲まれている大きな人影。身長は二メートル以上で、もしかすると、三メートルはあるのかも知れない。体はまるで力士の様に、太く、丸く、大きい。とにかく全てが大きいのだ。同じ人間とは思えない。

(・・・・・・・世紀末に出てくる脂肪の塊の人じゃないのか)

 とても同じ人間とは思えない巨体。力士のような体であるが、比較にならない程の高さを持っているこの男。ヘルベルトの言っていたことを考えれば、恐らくこの巨体の男こそが、現在問題となっている存在なのだろう。

「でかい・・・・・。この巨体だと熊とかの獣も真っ青だろうな」
「れっ、冷静だなリック。俺も色々旅をしてきたけどよ、こんな馬鹿でかい奴は見たことないぜ・・・・」
「わっ、私もこんな巨体は初めて見ました・・・・」
「でか過ぎやで。どれぐらいの体重あるんか気になるやないか」

 四人は巨体の男に近付き、それぞれ感想を述べた。
 とにかく、太く、丸く、大きい。言わば巨大力士である。最大の疑問は、男が服を着ている点だ。明らかに特注品のこの服を、一体どうやって手に入れたのか疑問である。

「この巨体の男が雇ってくれって言うんですよ。やる気があるのはいいんすけど、流石にこんだけでかいのは・・・・・・」
「あー、確かに。まあとりあえず話を聞いてみよう。もしもーし、お前は一体何者なんだ?」
「オラのことだか?オラはゴリオン。オラ、ここに仕事欲しくてきただよ」

 喋り方が田舎者風ではあるが、この人間離れした巨体と、言葉が通じることはわかった。
 ゴリオンと名乗るこの男。見かけ倒しでなければ、この場の誰よりも、いや・・・・大陸最強のパワーの持ち主かも知れない。
 二メートルではなく、二メートルを軽く超える巨体であるから、この巨体から発揮される力は計り知れない。

「俺の名前はリックだ。仕事が欲しいみたいだけど、お前はなにができるんだ?」
「オラ、不器用でなにもできないだよ。でも、雇って欲しいだよ」
「なにもできないけど雇って欲しいか。でも、お前の体格なら力仕事は得意だろ?」
「隊長、確かにこいつ力だけはあるんすけど・・・・」

 ヘルベルトが語る、ゴリオンについての話。
 リックたちが到着する少し前、このゴリオンと名乗る男は現れ、偶然遭遇したヘルベルトらが対応したのだという。仕事が欲しいと言うので、色々やらせてみたはいいものの、とにかく不器用であったらしい。
 荷物運びをやらせみると、確かに力はある為、どんな重い物でも運ぶことができる。それはいいのだが、細かな手作業は出来ず、要領も悪い。学問も満足に学んでいないらしく、言葉は喋れても文字は書けずで、計算なども苦手なのだ。
 田舎育ちで、学校などに通ったことはなく、ずっと農作業をして生活していたのだという。

「ふむふむ、なるほどな。力だけしか当てにならないわけか」
「おまけに争いごとは苦手だって言うんです。これじゃあ兵士として雇うこともできねぇですぜ」
「そうなのか・・・・・。なあゴリオン、お前は本当に戦えないのか?兵士とかなら、お前にも仕事をやれるんだけど」
「オラ、争いは好きじゃないだよ。でも、兵士ならなったことあるだよ」
「なんでだ?争いが嫌いなら普通兵士なんかやらないだろ」
「オラ、村のみんなと農業して暮らしてただよ。でも、オラたちが暮らしてた村、どっかの国の兵士がきて、オラたちを徴兵しただよ」
「徴兵されて兵士になったのか。なら今は、そのどっかの国の兵士じゃないのか?」
「オラ、国の兵士になってただよ。でも、村のみんなは戦いで死んじゃっただよ。オラはのろまだから外されただけど、みんなは戦いに連れていかれて焼け死んだって聞いただよ」

 戦いに強制的に連れて行かれた村人が、全員焼け死んだと言う。このゴリオンと言う男は、つい最近まで、とある国の兵士であった。その国の兵士として、何度か小規模な戦闘を経験し、村人たちもまた、同じように戦ったのだ。
 しかし、村人たちはともかく、ゴリオンはその巨体故に、酷い扱いを受けていた。巨体のおかげで動きが遅く、その体のせいで、大量のエネルギーを消費する。つまり大食漢なのだ。
 ゴリオン自身は温厚な性格であったため、周りの兵士たちの悪質な扱いにも、何も言わなかった。どんなに馬鹿にされようと、どんなに乱暴なことをされようとも、彼が他の兵士たちに手を出したり、言い返したりすることもなかったのだ。
 そんな酷い扱いを受けていたゴリオンだが、その国の大事に関わる戦争出兵時、兵士たちが彼を使えないと考え、編成から外したため、彼は従軍することはなく、その国に残っていた。
 戦争が終わり、帰還した兵士たちの口から、彼は敗戦と村人たちの死の事実を聞かされたのだ。その後、国の兵士たちに、居場所を追い出された彼は、とりあえず南を目指して渡り歩き、現在に至る。

(焼け死んだだって・・・・?まさか・・・・・)
「どうしたんやリック?なんか考え事かいな」
「いや、なんでもない。それよりヘルベルト、この男が使えるかどうかわかればいいんだろ?」
「そりゃあそうなんですけど。まさか隊長・・・・・」

 レイナもクリスもヘルベルトも、そして新たな仲間シャランドラですら、これからリックがやろうとしていることの、予想が出来た。いつも通りである。

「ゴリオン、俺と力比べしようか」

 自分の興味ある人間と、戦わずにはいられない。
 予想していた四人は思った。帝国一番の危険人物が誰かと聞かれれば、自分たちは間違いなく、リックの名前を挙げるだろうと。
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