贖罪の救世主

水野アヤト

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第三十六話 衝撃、ウエディング大作戦

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 完全に陽は沈み、月と星々が輝く夜がやって来た。
 仕事を終えた人々が帰り、家族と夕食を食べたり、友人と飲みに行ったりする中、ヴァスティ城内の様子は、城が攻撃されたかのような慌てようであった。

「こいつはどこに持ってけばいいんだ!」
「知らないわよ!私達は飾りつけで忙しいんだから!」
「それは謁見の間の方じゃなかったか!?」
「違う!!そこに届けようとしたらここじゃないって言われたんだ!」
「おい誰か、木材と鋸がどこにあるか知らないか!?」
「知るか馬鹿!この糞忙しい時になにしようってんだ!」
「テーブルの数が足りないから今から作るんだよ!ぶっ殺すぞ!!」
「喧嘩しないで!!もう、男ってこれだから!」

 怒号が飛び交う城内は、まさに戦場のような状態であった。
 兵士達とメイド達が、荷物を持って城内を駆け回り、それぞれの作業を進めている。急な非常招集と作戦展開のため、どうしても現場は混乱してしまい、様々な問題が発生していた。作業者同士の喧嘩など、常に発生している始末である。

「喧嘩はダメよ~。あんまり騒がしいと、お姉さん怒っちゃうわよ」

 この場の喧嘩を治めようと現れたのは、帝国メイドの一人、フラワー部隊のノイチゴであった。死神の如き大鎌を操る百合の女王も、今日は結婚式のために忙しく働いている。

「せっかくの結婚式なのよ~。みんな笑顔でいなくちゃ、ゴリオン様が悲しんじゃうわ」
「っんなこと言ったって、こんな状況じゃ―――――」
「喧嘩する悪い子は、お姉さんがお〇ん〇ん切り落としちゃうぞ?」
「うっ!!」
「あなた達もよ。真面目に仕事しないと、後でメイド長に怒られちゃうわよ?」
「でっ、でもノイチゴさん――――――」
「言う事聞かない女の子は、後でお姉さんが食べちゃうぞ♡」
「ひっ!!」

 フラワー部隊のノイチゴと言えば、得物である大鎌で敵の男を残酷に殺しまわる、重度の女好きの同性愛者である。彼女を怒らせた場合、男は冷酷無残に殺され、女は天国を見せられる事になる。つまり彼女は、皆が恐れる非常に危険な人物なのだ。
 ノイチゴの言葉と悪魔のような笑みで、兵士の男達は急いで作業に戻り、メイド達は黙々と作業を再開した。発言の内容はともかく、見事喧嘩を治めたが、彼女は疲れた様に溜め息を吐く。

「はあ~、これで注意するのは何度目かしら⋯⋯⋯」

 こんな調子でノイチゴは、作戦が開始されてから起きている揉め事を、現場に赴いて解決している。彼女のお陰もあって、準備は何とか進んではいるものの、各現場での口論は絶える事はなかった。

「ノイチゴ、少し休んだ方がいい⋯⋯⋯」
「あら、ラベンダー?こんなところで何してるの?」
「皆のための夜食運び。ノイチゴも食べる⋯⋯⋯?」

 後ろから声をかけられたノイチゴが振り向くと、そこには同じくフラワー部隊の一人、ラベンダーの姿があった。大鋏を得物としている処刑執行人の彼女だが、今は大鋏ではなく、大きな皿を持って立っていた。
 ラベンダーが両手で持つ大皿の飢えには、パンやサンドイッチやおにぎりなどの、手で持って食べられる物が沢山並べられている。皿の上の食べ物を見て、お腹が空くのを感じたノイチゴは、取り敢えずサンドイッチ手に取った。

「差し入れはありがたいわ。お腹が空くと、余計に怒りっぽくなるもの」
「そうだと思って、イヴ様が用意してくれた⋯⋯⋯」
「えっ!これイヴ様の手作りなの!?」
「そう。調理の仕込みの合間に、みんなのために作ってくれた⋯⋯⋯」

 式の準備を頑張っているみんなのためにと、調理場で明日の用意を進めているイヴが、自分も大変でありながら手作りした夜食。偶然調理場に居合わせたラベンダーは、イヴに頼まれ、この夜食を運んできたのである。

「イヴ様やシャランドラ様が、みんながお腹を空かさないようにって⋯⋯⋯」
「もう⋯⋯⋯。そんな話聞かされちゃ、もっと頑張るしかないじゃない」

 二人の会話に聞き耳を立てていた周りの者達も、ノイチゴと同じ気持ちを抱いた。
 全員が一丸となる必要がある中、喧嘩などしてる場合ではない。イヴやシャランドラの気持ちと優しさは、この場の全員に届いた。皆、作業の手を止め、夜食を取ることにした。この後より一層作業に集中するため、空いた腹を満たしておくために⋯⋯⋯。

 しかしここに、やっと生まれた良き雰囲気をぶち壊す、厄介で危険な存在が一人。

「⋯⋯⋯ねぇ、ラベンダー。この夜食、イヴ様とシャランドラ様の手作りって言ったわよね?」
「言った。だからなに?」
「イヴ様とシャランドラ様の手作り⋯⋯⋯⋯⋯、手作り⋯⋯⋯⋯、私のために手作り⋯⋯⋯⋯⋯」
「別にノイチゴのためじゃ――――――」
「二人の温もりがいっぱい詰まった夜食⋯⋯⋯⋯。あ~やばい、濡れちゃいそう♡」
「⋯⋯⋯⋯一回死ねばいいのに」
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