贖罪の救世主

水野アヤト

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第八話 ヴァスティナ連合軍

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 戦場の最前線。
 突撃してきた敵軍団に対し、戦のやり方を無視したと言える、無茶苦茶な殴り込みをかけたリックは、開戦前のライオネスとの会談を思い出していた。
 敗軍の将とは思えない、堂々とした立ち振る舞い。その眼には闘志を燃やし、王国の奪還のために兵を率いる戦士。王国を憎んでいたリックも、彼に対しては敬意を払っていた。
 女王がいる関係上、他国の将に対して、丁寧に対応したという理由もあるが、言葉を交わす事によって、リックはライオネスという男を尊敬した。帝国を恨まず、寧ろ自国に非があったと潔く認め、国家の敵と言える自分に対しても、怒りを表す事がなかったライオネス。
 元は敵国の戦士であるが、今は共に戦える事を誇りに思っている。戦士として尊敬できる人物と、同じ敵を相手に肩を並べるというのは、とても頼もしく感じるのだ。

「ジエーデルは女王陛下の敵だ!いいか、一匹たりとも奴らを生かして返すなよ!!」

 戦場で暴れまわるリック。
 彼の声を聞き、益々士気を向上させていく帝国軍部隊。彼らの猛攻によりジエーデル軍は、徐々に後退を余儀なくされていた。
 帝国軍兵士はよく訓練されているだけあり、実戦慣れしたジエーデル軍兵士と、互角以上に渡り合っている。その士気の高さもまた、彼らの戦闘能力を向上させ、勢いを味方につけて、戦局を有利に進めていた。
 士気の高さと勢いを作り出しているのは、軍団の先頭で戦うリック自身。
 殴り、蹴り、また殴る。素手で戦い続けるだけでなく、敵や死体から奪い取った武器も使い、次々と敵兵を血祭りに上げていく。戦闘では、勝つためにどんなものでも使えと、尊敬する騎士団長メシアに教わっている。
 剣で斬りつけ、槍を投てき。武器は全て戦場で調達し、手当たり次第に敵兵を襲う。ジエーデル軍の兵士たちは、そんなリックの暴れる様に恐怖を感じながらも、前線指揮官の指示に従い、戦闘を継続する。
 指揮命令系統がしっかりと作られているため、突然の襲撃にも、それほどの混乱はない。態勢を立て直し、帝国軍の迎撃のために、前線指揮官の命令が飛ぶ。
 だが、ジエーデル軍は帝国軍の恐ろしさをまだ知らない。弓も魔法攻撃も届かない遠距離から、前線指揮官へと狙いを定める存在に、彼らはまだ気付かないでいた。
 前線指揮官の男が馬上から叫び、兵士たちに、的確な指示を出していた瞬間。それは突然やって来た。
 指揮官の男の眉間に、何かが直撃。眉間に指が入るほどの穴を作り、それは一直線に、後頭部から抜け出る。直撃を受けた男は、何が起こったのか理解できないまま、次第に意識を失っていき落馬。地面に横たわり、もう動く事はない。

(流石天才狙撃手だ。あの距離から頭に一発なんて、そうそう出来るもんじゃない)

 この一部始終を見ていたリックは、後方より敵軍兵士の命を狙う、無慈悲な狙撃手に感嘆する。
 彼女・・・・・・いや彼は、遠距離からスコープを覗き、指揮官と思しき敵兵に、躊躇ない銃撃を加えた。そう、今のは後方からの狙撃である。剣や槍、弓や魔法が主武器のこの戦場で、これほど強力な武器はないだろう。
 何故なら、攻撃の届かない距離から、一方的に死を与える事ができるのだ。狙撃の技術さえあれば、まさにチートと言っても過言ではない。
 前線指揮官を突然失い、混乱するジエーデル軍。しかし、無慈悲な狙撃は、まだ終わりではない。
 指揮官、もしくは隊長と思しき敵兵へ、次々と弾丸が撃ち込まれていく。放たれた弾丸は全弾、狙い撃った頭部へと命中し、敵兵を容赦なく、一方的に殺しまわる。
 ジエーデルの兵士たちからすれば、見えない所からの、謎の攻撃が襲ってきているのだから、異常さと恐怖を感じずにはいられない。指揮系統がやられた事も重なり、次第に混乱を大きくしていった。

「いいぞ、凄くいい!楽しくなってきたぞ、あっはははははは!!」

 狙撃の支援を受けながら、帝国軍は参謀長のリックを筆頭に、敵軍団の中央へと猛攻をかけていった。
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