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第九話 悪魔の兵器
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気を失う前の事は、何とか思い出せた。
殴られた後頭部が痛み、体中の至るところが、痛みに悲鳴を上げている。エギルに斬られた傷や、擦り傷と切り傷も多い。傷は治療されていない、そのままの状態だ。
あの時、戦場で一人の兵士が、私を生け捕りにしろと叫んでいた。何の目的があったのかはわからない。恐らく、帝国軍の情報を得るためか、カラミティルナ隊の一人を殺した者を、普通に殺すだけでは駄目だと考えての事だろう。
だから私は、こんな場所で、縄で縛られている。気を失った私は、ジエーデル軍の捕虜となってしまったらしい。
縄は丈夫で、しっかりと結ばれている。逃げ出す事は出来そうにない。
「お目覚めかな?」
私が捕らわれている、敵軍のこの天幕の中に、数人の男たちが入って来た。
「この女兵士か。魔法もなしで、カラミティルナの一人を殺したというのは」
「はい将軍。兵たちの話によれば、相当な実力者のようです。捕まえるのも苦労したと聞きました」
「ふむ、帝国軍は猛者が多いな。魔法に頼ったカラミティルナ隊よりも、実力がありそうだ」
将軍。このジエーデル軍の指揮を執っているのは、将軍である名将ドレビン。
今、私の眼前にいるのは、敵軍の最高指揮官であるというのか。ここでこの男を討ち取れば、連合軍の勝利であるというのに、身動きができない以上、私には何もできない。
精々できる事は、帝国の情報を漏らさないよう、口を閉じている事だけだ。
「教えて貰おうか。帝国軍が使用した例の武器、あれは何だ?」
「・・・・・」
「死体を調べ、話も聞いた。大方、大砲を小型化した兵器なのだろう。ならば、弾にも限りがあるのだろう?」
名将と呼ばれるだけはある。帝国軍が使用している武器の正体を、もう突き止めているようだ。
驚きはしたが、表情に出すわけにはいかない。私が反応すれば、帝国の軍備の秘密が露見してしまう。その可能性がある以上、何を聞かれても反応してはいけない。
「やはり何も話さないか。仕方ない、後は任せる」
「お任せ下さい将軍。明日の朝までには、全て吐かせてご覧に入れます」
名将ドレビンだけが天幕を後にした。
残った者たちは、天幕の中で何やら動きまわり、様々な道具を用意している。鉄製の工具の様なものに、薬品の数々。すぐにわかった。この男たちは、私を拷問する気なのだと・・・・・・。
「おっ、こいつ怯えてやがる」
「・・・・・・!!」
自分でも気付かなかった。言われて初めて、表情が強張っているのがわかる。
拷問されるとわかり、あの時の記憶が蘇った。誰の助けも来ず、男たちに凌辱され、何もかもを汚された、あの時の忌まわしい記憶。
あの時と同じ事が、私を襲おうとしている。誰の助けも来ない。将軍が居るという事は、ここは敵軍陣地の中心だ。敵軍の本陣に、一兵士を助けようとやって来る者など、いるはずはない。
「拷問された経験があるのかもな。さっきまでだんまりだった癖に、急に反応したぞ」
「こりゃあ楽そうだ。すぐに洗いざらい吐いちまうんじゃないのか?」
「それじゃあ面白くない。せっかく器具を用意したんだから、楽しませて貰わないとな」
男たちは六人。全員拷問担当なのだろう。慣れた手つきで用意しているし、間違いない。
記憶が蘇り、恐怖が私を支配していく。体の震えが止まらず、息が苦しい。またあの時のように、弄られ汚され、絶望の中へと落とされるのか。
それでも、部下たちのためにとった行動を、後悔はしていない。私が犠牲になる事で、彼らの命を守る事ができた。
あの時とは違う。何もかも守れず、希望すら見えなかった、あの時とは・・・・・・。
部下たちは私を嫌っていた。私がいなくなった事で、今頃は喜んでいるだろう。後は、隙を見てこの者たちから刃物を奪い、自ら命を絶てば、情報を引き出されずに済む。
「よーし、手始めに服を脱がすぞ」
「俺に任せろ」
「服は破くなよ。帝国軍の軍服なら、工作員が潜入するのに使えるかもしれん」
「わかってるって。おい女、大人しく----」
「!?」
恐い。男が私の服を脱がしていく。
戦場では問題ないのだ。でも今は、男に触れられる事が、たまらなく恐ろしい。あの時以来、私は男が恐い。抵抗したいのに、縄で縛られていて身動きができない。
「相当恐がってるぞ。もしかして、男が苦手なんじゃないのか?」
「前に拷問された恐怖が忘れられないとかだろ。よくいるんだよな、そう言う奴」
男たちに取り囲まれ、容赦なく服を脱がされていく。
男たちは笑みを浮かべていた。悪巧みを考える、下衆な笑みだ。あの時の野盗の男たちと同じ、忘れたくとも忘れられない笑み。
(参謀長・・・私はもう・・・・・・)
絶望しかない。もう、私には死ぬ以外、この地獄から助かる道はない。
それでも、あの人の事を考えてしまう。あの時私を助け、帝国で再会したあの人を。一緒に街で過ごした、忘れたくない幸福な時間を。
願わくば、最後にもう一度・・・・・・。
「とりあえず、爪を二枚ぐらい剥がすか」
「最初は鞭だろ。外の奴らにも聞こえるように、大きな悲鳴上げさせようぜ」
男たちは拷問器具を握っている。彼らの浮かべる笑みが、恐ろしい。
これから再び、私にとっての地獄が始まろうとしている。
(嫌・・・・・っ!!誰か・・・・助けて・・・・・!)
殴られた後頭部が痛み、体中の至るところが、痛みに悲鳴を上げている。エギルに斬られた傷や、擦り傷と切り傷も多い。傷は治療されていない、そのままの状態だ。
あの時、戦場で一人の兵士が、私を生け捕りにしろと叫んでいた。何の目的があったのかはわからない。恐らく、帝国軍の情報を得るためか、カラミティルナ隊の一人を殺した者を、普通に殺すだけでは駄目だと考えての事だろう。
だから私は、こんな場所で、縄で縛られている。気を失った私は、ジエーデル軍の捕虜となってしまったらしい。
縄は丈夫で、しっかりと結ばれている。逃げ出す事は出来そうにない。
「お目覚めかな?」
私が捕らわれている、敵軍のこの天幕の中に、数人の男たちが入って来た。
「この女兵士か。魔法もなしで、カラミティルナの一人を殺したというのは」
「はい将軍。兵たちの話によれば、相当な実力者のようです。捕まえるのも苦労したと聞きました」
「ふむ、帝国軍は猛者が多いな。魔法に頼ったカラミティルナ隊よりも、実力がありそうだ」
将軍。このジエーデル軍の指揮を執っているのは、将軍である名将ドレビン。
今、私の眼前にいるのは、敵軍の最高指揮官であるというのか。ここでこの男を討ち取れば、連合軍の勝利であるというのに、身動きができない以上、私には何もできない。
精々できる事は、帝国の情報を漏らさないよう、口を閉じている事だけだ。
「教えて貰おうか。帝国軍が使用した例の武器、あれは何だ?」
「・・・・・」
「死体を調べ、話も聞いた。大方、大砲を小型化した兵器なのだろう。ならば、弾にも限りがあるのだろう?」
名将と呼ばれるだけはある。帝国軍が使用している武器の正体を、もう突き止めているようだ。
驚きはしたが、表情に出すわけにはいかない。私が反応すれば、帝国の軍備の秘密が露見してしまう。その可能性がある以上、何を聞かれても反応してはいけない。
「やはり何も話さないか。仕方ない、後は任せる」
「お任せ下さい将軍。明日の朝までには、全て吐かせてご覧に入れます」
名将ドレビンだけが天幕を後にした。
残った者たちは、天幕の中で何やら動きまわり、様々な道具を用意している。鉄製の工具の様なものに、薬品の数々。すぐにわかった。この男たちは、私を拷問する気なのだと・・・・・・。
「おっ、こいつ怯えてやがる」
「・・・・・・!!」
自分でも気付かなかった。言われて初めて、表情が強張っているのがわかる。
拷問されるとわかり、あの時の記憶が蘇った。誰の助けも来ず、男たちに凌辱され、何もかもを汚された、あの時の忌まわしい記憶。
あの時と同じ事が、私を襲おうとしている。誰の助けも来ない。将軍が居るという事は、ここは敵軍陣地の中心だ。敵軍の本陣に、一兵士を助けようとやって来る者など、いるはずはない。
「拷問された経験があるのかもな。さっきまでだんまりだった癖に、急に反応したぞ」
「こりゃあ楽そうだ。すぐに洗いざらい吐いちまうんじゃないのか?」
「それじゃあ面白くない。せっかく器具を用意したんだから、楽しませて貰わないとな」
男たちは六人。全員拷問担当なのだろう。慣れた手つきで用意しているし、間違いない。
記憶が蘇り、恐怖が私を支配していく。体の震えが止まらず、息が苦しい。またあの時のように、弄られ汚され、絶望の中へと落とされるのか。
それでも、部下たちのためにとった行動を、後悔はしていない。私が犠牲になる事で、彼らの命を守る事ができた。
あの時とは違う。何もかも守れず、希望すら見えなかった、あの時とは・・・・・・。
部下たちは私を嫌っていた。私がいなくなった事で、今頃は喜んでいるだろう。後は、隙を見てこの者たちから刃物を奪い、自ら命を絶てば、情報を引き出されずに済む。
「よーし、手始めに服を脱がすぞ」
「俺に任せろ」
「服は破くなよ。帝国軍の軍服なら、工作員が潜入するのに使えるかもしれん」
「わかってるって。おい女、大人しく----」
「!?」
恐い。男が私の服を脱がしていく。
戦場では問題ないのだ。でも今は、男に触れられる事が、たまらなく恐ろしい。あの時以来、私は男が恐い。抵抗したいのに、縄で縛られていて身動きができない。
「相当恐がってるぞ。もしかして、男が苦手なんじゃないのか?」
「前に拷問された恐怖が忘れられないとかだろ。よくいるんだよな、そう言う奴」
男たちに取り囲まれ、容赦なく服を脱がされていく。
男たちは笑みを浮かべていた。悪巧みを考える、下衆な笑みだ。あの時の野盗の男たちと同じ、忘れたくとも忘れられない笑み。
(参謀長・・・私はもう・・・・・・)
絶望しかない。もう、私には死ぬ以外、この地獄から助かる道はない。
それでも、あの人の事を考えてしまう。あの時私を助け、帝国で再会したあの人を。一緒に街で過ごした、忘れたくない幸福な時間を。
願わくば、最後にもう一度・・・・・・。
「とりあえず、爪を二枚ぐらい剥がすか」
「最初は鞭だろ。外の奴らにも聞こえるように、大きな悲鳴上げさせようぜ」
男たちは拷問器具を握っている。彼らの浮かべる笑みが、恐ろしい。
これから再び、私にとっての地獄が始まろうとしている。
(嫌・・・・・っ!!誰か・・・・助けて・・・・・!)
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