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第十八話 正義の味方
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そして再び、話は戦場へと戻る。
「オレの名前はライガ・イカルガだ!バンデス国に傭兵として雇われた戦士で、帝国の狂犬を倒すためにやって来た!宜しくな!!」
(((((聞いちゃいねぇよそんな事・・・・・・)))))
兵士達一同、武器を構えて同時に思う。
突然現れた、たった一人の襲撃者。名前を聞いたわけでもないのに、急に自己紹介を始める青年ライガ。取りあえず、無駄に声がでかい。しかも、かなり馬鹿っぽい奴だ。
「勝負しようぜ!オレはいつでも準備万端だ、リクトビア・フローレンス!!」
「・・・・・・」
「駄目です参謀長!ここは我らが!!」
身に付けていた、武器や防具をその場に捨て出したライガは、丸腰の状態となって拳を構える。この人数相手に、素手で立ち向かおうと言うのだ。
「武器は使わないのか?」
「雇われ者の兵士だったから、装備は無理やり持たされただけだ。オレの本当の武器は、オレ自身の身体だぜ!」
「無駄に暑苦しいですわね・・・・・・」
ミュセイラの言う通り、とにかく無駄に暑苦しい。声はでかいし、テンションも高い。しかも、正義だの悪だのと大声で叫ぶのだ。どう考えても、面倒くさい相手だろう。
「いくぞリクトビア・フローレンス!オレの正義の拳がお前達の悪の野望を--------」
「ふんっ」
ライガが言い終わる前に、一気に距離を詰めて、先制攻撃をかけた男が一人。
兵士達ではない。距離を詰め、油断していたライガの顔面目掛け、勢いを付けた拳を放った男。その正体は、やはり参謀長リックである。
ライガを己の拳で殴り飛ばし、一発で黙らせる。宙を舞い、三十メートル以上は殴り飛ばされたライガの身体。地面に叩きつけられ、後頭部を思いっきり地面に打ち付ける。
「ごふっ!!!??」
リックの驚異的な身体能力から来る、一撃必殺の拳で殴られたのだ。もう、起き上がる事はないだろう。
「容赦ないですわね。せめて、全部言い終わるまで待ってもいいのではなくて?」
「油断している奴が悪い。それに、先手必勝とも言うだろ」
まさかの、いや、予想は出来たはずだ。参謀長であるリック自身が、自ら襲撃者を撃退して見せた。驚き半分、呆れ半分で、自分達の指揮官を見つめる兵士達。完全に呆れているのは、新軍師ミュセイラだ。
リックの言う事は尤もだが、何も、最高指揮官である彼が自ら手を下す必要はない。それでも彼が、自分から進んで敵を倒すのは、仲間を危険に晒したくない気持ちの表れである。
「もういいですわ。あれを受けては立ち上がれないでしょう。これで終わり--------」
「まだだあああああああああっ!!」
あれだけ威力のある攻撃を受けて、立ち上がる事が出来る人間など普通はいない。故に誰もが、もう終わったと思っていた。
だがしかし、青年は雄叫びを上げて立ち上がったのである。殴られたせいで流れ出た鼻血を左手で拭いながら、彼は真っ直ぐリックを見据える。その目の闘志は、未だ消えてはいない。
「ちょっと油断しちまった。やっぱり、悪党だけあってやる事が卑怯だな!!」
「油断してたお前が悪い」
「負けない!オレはお前に絶対負けないからなああああああああああっ!!!!」
超熱血なこの青年。ライガと名乗った彼は、戦場に響き渡る程の声で、大声で叫ぶ。
あれだけ威力のある攻撃を受けても、彼は全く堪えていない。寧ろ、戦意を漲らせ、戦う気満々である。
「正義は決して折れはしない!改めて勝負--------」
「それっ」
再び一気に距離を詰め、今度はライガの腹部目掛け、同じように拳を放つリック。今度こそ、この青年を黙らせようと、必殺の一撃が放たれる。
「!」
「二度も同じ手は食わない!!」
二度目の攻撃は防がれた。拳は命中したのだが、ライガは腕を交差させ、防御の姿勢を取り、リックの一撃を完全に防いだのである。しかもライガは、常人を超えたリックの一撃を、その場で受け止め切ったのだ。その場から吹き飛ばされず、地に足をついて、避けずに受け止め切った。
こんな事が出来る人間は、帝国軍内でも極僅かしかいない。恐ろしい事にライガは、リックの驚異的一撃を、気合と根性と底力で受け止め切ったのである。
「思ったよりやるな」
「そっちもな!!」
反撃のため、今度はライガが攻撃を仕掛けようとした瞬間、リックはすぐさま距離を取る。反撃を受けないために、一瞬で後退を判断したのだ。
「指揮官でありながら、自ら最前線で戦う狂犬。そう言う噂は聞いていた!」
「そうか」
「まさかここまで強いとは思わなかった!正直油断してたぜ!!」
元気過ぎる。たった一人で、この敗北した戦いを逆転させようとしている。常人の元気さではない。しかも彼は、自棄になっているわけではなく、大真面目で戦っているのだ。
ある意味、鉄のメンタルと言えるだろう。
「次は本気でいく。殺されても恨むなよ」
次にリックが放とうとしている攻撃は、全力を込めた一撃である。先程までの一撃は、六割程度と言ったところだ。確実に息の根を止める一撃を、ライガ相手に放とうとしている。
先程までとは違う、リックが纏い出した圧倒的な殺気。その殺気に動じないライガは、殺気ではなく戦意を漲らせ、彼に応えて見せる。
「オレも本気を出す。勝負だ、リクトビア・フローレンス!!!」
ライガは大声で叫ぶと、右手を自分の胸に当て、目を瞑る。
「装備!!」
彼が一言そう言った瞬間、彼の周りに異変が起こる。
戦場の土が舞い上がり、ライガを中心に、風が舞い上がった。さらに、ライガがその場に捨てた装備や、兵士の屍が身に付けていた装備が、突如として形を崩し、砂の様になって、彼の周りへと集まっていく。
主に、鉄製の装備品が突然分解されて、砂鉄に姿を変えたのだ。砂鉄となって舞い上がったそれは、同じように舞い上がった砂と混じり合い、ライガの身体に付着していく。
付着した砂が形となっていき、ライガの身体を包み込んでいく。腕や脚、胸や頭に、形を成した砂が纏う。砂は銀色の鉄板に姿を変えて、ライガの鎧となった。
そう、これは鎧なのだ。彼だけが身に纏う事の出来る、彼だけの鎧。
「!?」
「装備完了!!」
ライガの全身は、銀色に輝く、如何にも分厚そうな鎧に包まれた。重装甲の騎士とも言える、その姿。彼は自分の周りの物質から、新しい鎧を作り上げたのである。
「・・・・・・魔法だな。しかも、特殊魔法の一種か」
「そうだ!オレはこれを変身魔法って呼んでるぜ!この全方位絶対防御アーマーが、お前を倒す切り札だ!!」
言うだけあって、見た目は弱点の無さそうな、完全防御の鎧である。
自分を鉄壁の重装騎士と変え、技を披露したライガは、これを変身の魔法と呼んだ。彼は、ローミリア大陸でも珍しい魔法の使い手であり、魔法の基本属性に当てはまらない、特殊魔法の使い手である。
変身の魔法と呼ばれたこの能力は、確かにライガの姿を変えた。先程までの無防備な状態とは真逆で、見た目はとても堅そうで強そうだ。
ただ・・・・・・。
(何だか、色々とダサいですわね・・・・・・)
率直なミュセイラの意見。
変身の掛け声や、鎧の名前が、彼女的にはダサいと感じたのである。
(何か、ア〇〇〇マンのプロトタイプみたいな格好だな・・・・・・・)
ライガの変身後の姿を見て、こんな感想を抱いたのはリックである。
彼は間違っていない。確かにライガの姿は、ア〇〇〇マンのプロトタイプ以外の、何者でもない。銀色に輝く鎧・・・・・・、いや、装甲と呼んだ方が正しいだろう。全身装甲化されたライガは、マ〇〇ルコミックのヒーローに変身した。ツッコミどころ満載である。
何が何だか理解できず、立ち尽くしてしまった兵士達。意外と冷静なミュセイラ。切り札を出したライガは、やる気十分で戦闘態勢に入る。
「オレの正義が光って唸る!お前を倒せと輝き-------」
「黙ってろ」
これで三度目だ。
やはり、ライガが台詞を言い終わらぬ内に、空気を読まず、一瞬で距離を詰めての攻撃。リックは右手の拳を、装甲で覆われたライガの顔面目掛け、殺気を込めて放った。
この展開は流石に三度目であるし、次もまた、リックの一撃を見切って、すぐに防御の体勢を取るライガ。装甲化された両腕を、顔の目の前で交差させ、リックの一撃に備える。
リックの一撃は、完全に装甲に阻まれてしまう。誰もがそう思った瞬間。
「!?」
放たれた拳は、ライガの装甲に衝突しなかった。気が付くと、迫っていたリックの拳が、目の前から消えている。攻撃を待っていたライガは、腕を交差させる防御の姿勢だったために、視野が狭められていた。そのせいで、気付くのが遅れてしまったのである。
リックの放った一撃が、ライガを騙す為のフェイントであった事に。
「遅い」
気付いた時は手遅れだった。
殺気を放ち、渾身の一撃を放つかの様に見せたのは、ライガの防御を顔面にのみ集中させる為の、上手い芝居だったのである。放つ直前で拳を戻し、体勢を変えて、無防備となったライガの腹部へと、拳ではなく脚を放ったリック。
右足に力を込めて、必殺の足技を放つ。蹴りは狙い通り、ライガの腹部に直撃し、彼の身体がくの字に曲がる。ライガ自身が体験した事のない、凄まじい衝撃が彼を襲う。全身装甲化された彼の身体が、何十メートルも先に蹴り飛ばされた。
「ぐはっ!!?」
全力疾走の軍馬に撥ねられる以上の、何もかも規格外な、必殺の一撃。
その蹴り方は、例えるならば、赤い彗星の一撃そのものであった。
「酷い・・・・・・」
「絶対死んだな、あれ・・・・・・」
「参謀長、明らかに本気だったよな」
「あの身体の曲がり方は即死だろ」
蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられ、次は起き上がれない。一部始終を見ていた兵士達は、「次こそ絶対に死んだ」という共通の感想を抱きながら、念のため確認に向かう。
死んでいるかどうか、兵士達が確認のため、倒れたライガのもとへと向かって行く。予想も出来なかった、とんでも襲撃者との戦いは、これで終わった。
「ふう・・・・・・」
「馬鹿で助かりましたわね。特殊魔法の使い手でしたから、もっと苦戦するかと思いましたの」
確かにミュセイラの言う通り、ライガは単純な男だった。諸突猛進、熱血一直線と呼んでもいい、そんな男である。
リックの事を大悪党と呼び、自分の正義がどうのと言っていた、特殊魔法の使い手ライガ・イカルガ。彼はバンデス軍に雇われたと、自ら公言していた。恐らく傭兵であったのだろうが、バンデス国に関する情報を、少なからず持っていたかも知れない。生かしたまま捕縛しても良かったが、もう手遅れだ。
常人を超えた身体能力を持つ帝国の狂犬の、必殺の一撃を受けた以上、彼が二度と立ち上がる事はないだろう。
「楽じゃなかった」
「えっ?」
「馬鹿で、隙だらけで、無駄に五月蠅かった。でも奴は、決して弱くない」
戦ったからこそわかる。戦いを見ていたミュセイラ達からすれば、ライガはリックに為す術なく、簡単に倒されてしまったと映るだろう。しかし、戦った本人であるリックは、決してそうは思わない。
ライガのタフさは、常人の域ではない。恐らく彼の身体は相当鍛えられているのだろう。重装甲の鎧を纏っても、その重さに耐えられる身体や、リックの一撃を受けても尚、立ち上がる事の出来るタフさは、常人の域ではない。
リックは彼を称賛しているのだ。あっさり勝利したが、だからと言って、ライガの事を馬鹿にはしない。
「参謀長!この野郎生きてます!!」
ライガの生死を確認していた兵士達の一人が、驚きの余り叫んでしまう。
誰もが、彼は死んだと思っていた。しかし実際は、リックの一撃により蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた、二つの衝撃により、気絶していただけであった。
纏っていた鎧の蹴られた部分は、完全に破壊されてしまっていたが、彼は生きている。リック渾身の一撃は、確かにライガに直撃した。普通の人間ならば、間違いなく死んでいる。だが、彼は生存していた。
重装甲の鎧が彼を守っていたが、リックの蹴りは、その装甲を破壊している。攻撃は、ライガの身体に通っていたはずだ。それでも尚、彼は生きている。
「気絶してるだけだ。まだ息がある」
「しかもこいつ、ほとんど無傷だぞ。あり得ねぇ・・・・・・」
兵士達が、信じられない生き物を見たような、そんな目で気絶したライガを見ている。ミュセイラも、開いた口が塞がらない状態だ。しかし、彼らと違う反応を見せた者が、この場にただ一人だけいる。
「面白い・・・・・・」
兵士達に聞こえない声で、そう呟いたのはリックだった。
そして彼は、ほんの一瞬だけ、口元に笑みを浮かべた。彼が狂った時に見せる、邪悪な笑みを。
その一瞬の笑みを、ミュセイラは見逃さなかった。
(笑えるのですわね、貴方も・・・・・・)
彼女は彼の、笑った顔を見た事がない。この邪悪な笑みを見るのも、これが初めてだった。
ミュセイラが驚いている中、倒れて気絶しているライガに近付き、彼を見下ろして、リックは兵士達に命令を下す。
「こいつを捕縛しろ」
「オレの名前はライガ・イカルガだ!バンデス国に傭兵として雇われた戦士で、帝国の狂犬を倒すためにやって来た!宜しくな!!」
(((((聞いちゃいねぇよそんな事・・・・・・)))))
兵士達一同、武器を構えて同時に思う。
突然現れた、たった一人の襲撃者。名前を聞いたわけでもないのに、急に自己紹介を始める青年ライガ。取りあえず、無駄に声がでかい。しかも、かなり馬鹿っぽい奴だ。
「勝負しようぜ!オレはいつでも準備万端だ、リクトビア・フローレンス!!」
「・・・・・・」
「駄目です参謀長!ここは我らが!!」
身に付けていた、武器や防具をその場に捨て出したライガは、丸腰の状態となって拳を構える。この人数相手に、素手で立ち向かおうと言うのだ。
「武器は使わないのか?」
「雇われ者の兵士だったから、装備は無理やり持たされただけだ。オレの本当の武器は、オレ自身の身体だぜ!」
「無駄に暑苦しいですわね・・・・・・」
ミュセイラの言う通り、とにかく無駄に暑苦しい。声はでかいし、テンションも高い。しかも、正義だの悪だのと大声で叫ぶのだ。どう考えても、面倒くさい相手だろう。
「いくぞリクトビア・フローレンス!オレの正義の拳がお前達の悪の野望を--------」
「ふんっ」
ライガが言い終わる前に、一気に距離を詰めて、先制攻撃をかけた男が一人。
兵士達ではない。距離を詰め、油断していたライガの顔面目掛け、勢いを付けた拳を放った男。その正体は、やはり参謀長リックである。
ライガを己の拳で殴り飛ばし、一発で黙らせる。宙を舞い、三十メートル以上は殴り飛ばされたライガの身体。地面に叩きつけられ、後頭部を思いっきり地面に打ち付ける。
「ごふっ!!!??」
リックの驚異的な身体能力から来る、一撃必殺の拳で殴られたのだ。もう、起き上がる事はないだろう。
「容赦ないですわね。せめて、全部言い終わるまで待ってもいいのではなくて?」
「油断している奴が悪い。それに、先手必勝とも言うだろ」
まさかの、いや、予想は出来たはずだ。参謀長であるリック自身が、自ら襲撃者を撃退して見せた。驚き半分、呆れ半分で、自分達の指揮官を見つめる兵士達。完全に呆れているのは、新軍師ミュセイラだ。
リックの言う事は尤もだが、何も、最高指揮官である彼が自ら手を下す必要はない。それでも彼が、自分から進んで敵を倒すのは、仲間を危険に晒したくない気持ちの表れである。
「もういいですわ。あれを受けては立ち上がれないでしょう。これで終わり--------」
「まだだあああああああああっ!!」
あれだけ威力のある攻撃を受けて、立ち上がる事が出来る人間など普通はいない。故に誰もが、もう終わったと思っていた。
だがしかし、青年は雄叫びを上げて立ち上がったのである。殴られたせいで流れ出た鼻血を左手で拭いながら、彼は真っ直ぐリックを見据える。その目の闘志は、未だ消えてはいない。
「ちょっと油断しちまった。やっぱり、悪党だけあってやる事が卑怯だな!!」
「油断してたお前が悪い」
「負けない!オレはお前に絶対負けないからなああああああああああっ!!!!」
超熱血なこの青年。ライガと名乗った彼は、戦場に響き渡る程の声で、大声で叫ぶ。
あれだけ威力のある攻撃を受けても、彼は全く堪えていない。寧ろ、戦意を漲らせ、戦う気満々である。
「正義は決して折れはしない!改めて勝負--------」
「それっ」
再び一気に距離を詰め、今度はライガの腹部目掛け、同じように拳を放つリック。今度こそ、この青年を黙らせようと、必殺の一撃が放たれる。
「!」
「二度も同じ手は食わない!!」
二度目の攻撃は防がれた。拳は命中したのだが、ライガは腕を交差させ、防御の姿勢を取り、リックの一撃を完全に防いだのである。しかもライガは、常人を超えたリックの一撃を、その場で受け止め切ったのだ。その場から吹き飛ばされず、地に足をついて、避けずに受け止め切った。
こんな事が出来る人間は、帝国軍内でも極僅かしかいない。恐ろしい事にライガは、リックの驚異的一撃を、気合と根性と底力で受け止め切ったのである。
「思ったよりやるな」
「そっちもな!!」
反撃のため、今度はライガが攻撃を仕掛けようとした瞬間、リックはすぐさま距離を取る。反撃を受けないために、一瞬で後退を判断したのだ。
「指揮官でありながら、自ら最前線で戦う狂犬。そう言う噂は聞いていた!」
「そうか」
「まさかここまで強いとは思わなかった!正直油断してたぜ!!」
元気過ぎる。たった一人で、この敗北した戦いを逆転させようとしている。常人の元気さではない。しかも彼は、自棄になっているわけではなく、大真面目で戦っているのだ。
ある意味、鉄のメンタルと言えるだろう。
「次は本気でいく。殺されても恨むなよ」
次にリックが放とうとしている攻撃は、全力を込めた一撃である。先程までの一撃は、六割程度と言ったところだ。確実に息の根を止める一撃を、ライガ相手に放とうとしている。
先程までとは違う、リックが纏い出した圧倒的な殺気。その殺気に動じないライガは、殺気ではなく戦意を漲らせ、彼に応えて見せる。
「オレも本気を出す。勝負だ、リクトビア・フローレンス!!!」
ライガは大声で叫ぶと、右手を自分の胸に当て、目を瞑る。
「装備!!」
彼が一言そう言った瞬間、彼の周りに異変が起こる。
戦場の土が舞い上がり、ライガを中心に、風が舞い上がった。さらに、ライガがその場に捨てた装備や、兵士の屍が身に付けていた装備が、突如として形を崩し、砂の様になって、彼の周りへと集まっていく。
主に、鉄製の装備品が突然分解されて、砂鉄に姿を変えたのだ。砂鉄となって舞い上がったそれは、同じように舞い上がった砂と混じり合い、ライガの身体に付着していく。
付着した砂が形となっていき、ライガの身体を包み込んでいく。腕や脚、胸や頭に、形を成した砂が纏う。砂は銀色の鉄板に姿を変えて、ライガの鎧となった。
そう、これは鎧なのだ。彼だけが身に纏う事の出来る、彼だけの鎧。
「!?」
「装備完了!!」
ライガの全身は、銀色に輝く、如何にも分厚そうな鎧に包まれた。重装甲の騎士とも言える、その姿。彼は自分の周りの物質から、新しい鎧を作り上げたのである。
「・・・・・・魔法だな。しかも、特殊魔法の一種か」
「そうだ!オレはこれを変身魔法って呼んでるぜ!この全方位絶対防御アーマーが、お前を倒す切り札だ!!」
言うだけあって、見た目は弱点の無さそうな、完全防御の鎧である。
自分を鉄壁の重装騎士と変え、技を披露したライガは、これを変身の魔法と呼んだ。彼は、ローミリア大陸でも珍しい魔法の使い手であり、魔法の基本属性に当てはまらない、特殊魔法の使い手である。
変身の魔法と呼ばれたこの能力は、確かにライガの姿を変えた。先程までの無防備な状態とは真逆で、見た目はとても堅そうで強そうだ。
ただ・・・・・・。
(何だか、色々とダサいですわね・・・・・・)
率直なミュセイラの意見。
変身の掛け声や、鎧の名前が、彼女的にはダサいと感じたのである。
(何か、ア〇〇〇マンのプロトタイプみたいな格好だな・・・・・・・)
ライガの変身後の姿を見て、こんな感想を抱いたのはリックである。
彼は間違っていない。確かにライガの姿は、ア〇〇〇マンのプロトタイプ以外の、何者でもない。銀色に輝く鎧・・・・・・、いや、装甲と呼んだ方が正しいだろう。全身装甲化されたライガは、マ〇〇ルコミックのヒーローに変身した。ツッコミどころ満載である。
何が何だか理解できず、立ち尽くしてしまった兵士達。意外と冷静なミュセイラ。切り札を出したライガは、やる気十分で戦闘態勢に入る。
「オレの正義が光って唸る!お前を倒せと輝き-------」
「黙ってろ」
これで三度目だ。
やはり、ライガが台詞を言い終わらぬ内に、空気を読まず、一瞬で距離を詰めての攻撃。リックは右手の拳を、装甲で覆われたライガの顔面目掛け、殺気を込めて放った。
この展開は流石に三度目であるし、次もまた、リックの一撃を見切って、すぐに防御の体勢を取るライガ。装甲化された両腕を、顔の目の前で交差させ、リックの一撃に備える。
リックの一撃は、完全に装甲に阻まれてしまう。誰もがそう思った瞬間。
「!?」
放たれた拳は、ライガの装甲に衝突しなかった。気が付くと、迫っていたリックの拳が、目の前から消えている。攻撃を待っていたライガは、腕を交差させる防御の姿勢だったために、視野が狭められていた。そのせいで、気付くのが遅れてしまったのである。
リックの放った一撃が、ライガを騙す為のフェイントであった事に。
「遅い」
気付いた時は手遅れだった。
殺気を放ち、渾身の一撃を放つかの様に見せたのは、ライガの防御を顔面にのみ集中させる為の、上手い芝居だったのである。放つ直前で拳を戻し、体勢を変えて、無防備となったライガの腹部へと、拳ではなく脚を放ったリック。
右足に力を込めて、必殺の足技を放つ。蹴りは狙い通り、ライガの腹部に直撃し、彼の身体がくの字に曲がる。ライガ自身が体験した事のない、凄まじい衝撃が彼を襲う。全身装甲化された彼の身体が、何十メートルも先に蹴り飛ばされた。
「ぐはっ!!?」
全力疾走の軍馬に撥ねられる以上の、何もかも規格外な、必殺の一撃。
その蹴り方は、例えるならば、赤い彗星の一撃そのものであった。
「酷い・・・・・・」
「絶対死んだな、あれ・・・・・・」
「参謀長、明らかに本気だったよな」
「あの身体の曲がり方は即死だろ」
蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられ、次は起き上がれない。一部始終を見ていた兵士達は、「次こそ絶対に死んだ」という共通の感想を抱きながら、念のため確認に向かう。
死んでいるかどうか、兵士達が確認のため、倒れたライガのもとへと向かって行く。予想も出来なかった、とんでも襲撃者との戦いは、これで終わった。
「ふう・・・・・・」
「馬鹿で助かりましたわね。特殊魔法の使い手でしたから、もっと苦戦するかと思いましたの」
確かにミュセイラの言う通り、ライガは単純な男だった。諸突猛進、熱血一直線と呼んでもいい、そんな男である。
リックの事を大悪党と呼び、自分の正義がどうのと言っていた、特殊魔法の使い手ライガ・イカルガ。彼はバンデス軍に雇われたと、自ら公言していた。恐らく傭兵であったのだろうが、バンデス国に関する情報を、少なからず持っていたかも知れない。生かしたまま捕縛しても良かったが、もう手遅れだ。
常人を超えた身体能力を持つ帝国の狂犬の、必殺の一撃を受けた以上、彼が二度と立ち上がる事はないだろう。
「楽じゃなかった」
「えっ?」
「馬鹿で、隙だらけで、無駄に五月蠅かった。でも奴は、決して弱くない」
戦ったからこそわかる。戦いを見ていたミュセイラ達からすれば、ライガはリックに為す術なく、簡単に倒されてしまったと映るだろう。しかし、戦った本人であるリックは、決してそうは思わない。
ライガのタフさは、常人の域ではない。恐らく彼の身体は相当鍛えられているのだろう。重装甲の鎧を纏っても、その重さに耐えられる身体や、リックの一撃を受けても尚、立ち上がる事の出来るタフさは、常人の域ではない。
リックは彼を称賛しているのだ。あっさり勝利したが、だからと言って、ライガの事を馬鹿にはしない。
「参謀長!この野郎生きてます!!」
ライガの生死を確認していた兵士達の一人が、驚きの余り叫んでしまう。
誰もが、彼は死んだと思っていた。しかし実際は、リックの一撃により蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた、二つの衝撃により、気絶していただけであった。
纏っていた鎧の蹴られた部分は、完全に破壊されてしまっていたが、彼は生きている。リック渾身の一撃は、確かにライガに直撃した。普通の人間ならば、間違いなく死んでいる。だが、彼は生存していた。
重装甲の鎧が彼を守っていたが、リックの蹴りは、その装甲を破壊している。攻撃は、ライガの身体に通っていたはずだ。それでも尚、彼は生きている。
「気絶してるだけだ。まだ息がある」
「しかもこいつ、ほとんど無傷だぞ。あり得ねぇ・・・・・・」
兵士達が、信じられない生き物を見たような、そんな目で気絶したライガを見ている。ミュセイラも、開いた口が塞がらない状態だ。しかし、彼らと違う反応を見せた者が、この場にただ一人だけいる。
「面白い・・・・・・」
兵士達に聞こえない声で、そう呟いたのはリックだった。
そして彼は、ほんの一瞬だけ、口元に笑みを浮かべた。彼が狂った時に見せる、邪悪な笑みを。
その一瞬の笑みを、ミュセイラは見逃さなかった。
(笑えるのですわね、貴方も・・・・・・)
彼女は彼の、笑った顔を見た事がない。この邪悪な笑みを見るのも、これが初めてだった。
ミュセイラが驚いている中、倒れて気絶しているライガに近付き、彼を見下ろして、リックは兵士達に命令を下す。
「こいつを捕縛しろ」
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