七欲の王~封印から覚めた魔王は再び神殺しを目指す~

シロサギ

文字の大きさ
25 / 37
第一章 王国動乱篇

第十九話 迷宮

しおりを挟む
 迷宮の内部は、十分先が見える程度には明かりが灯されていた。

 ライラによると、これは迷宮特有のモノらしい。どんな理由があって設置されているか、詳しい事はまだ解明されていないという。不思議現象もあったものだ。

 壁は上質な石、のようなものだろうか。滑らかな質感を持っており、それなりの力を込めて殴っても傷一つ付くことはなかった。破壊不能というのは本当らしい。
 道幅は人が十数人は横に並んで歩けるほどに、広い。戦闘するのであれば好都合だ。


「ここまで来てから言うのもなんだが、迷宮はどうやって進むものなんだ? 各階層の最奥に階段でもあるのか?」

「えーっとー、私が攻略した迷宮もー、魔大国の六大迷宮もー、全て階層の奥に魔法陣が設置されていましたー」

「ああ、なるほど」


 場所を固定した転移魔法陣か。なるほど、などと言ったがこれは相当な代物だ。
 各階層、という事は少なくともこの迷宮には18以上存在することになる。

 そもそも転移という魔術が非常に希少価値の高いモノである。三千年前でも、今でも変わらない。
 確かに転移する手段も魔術も存在するが、扱える者は極めて少ない。

 と考えると、やはりこの「迷宮」という場所には人知を超えた何かが関わっていると考えて間違いないだろう。世界のルール、なんて馬鹿げた事すらあり得る。アレの仕業なら、なおさらだ。


 私もライラも、この迷宮に関する知識はない。そのため、分かれ道は感覚で進んでいくしかない。非常に面倒だが虱潰しだ。


 二つ目の分かれ道を右に曲がったところで、視界の先に一つの影が映る。

 あれは、ゴーレムの類か?


「見たことの無い種類だな」

「この迷宮独自のモノですかねー?」


 ゴーレムは基本的に魔力核を媒体にして動く存在だ。明確には生物、というくくりには入らない。
 そのため、動力源である核を潰してしまえばそれで終わりだ。

 だが、種類により物理抵抗だったり魔術抵抗だったり、またはその両方を兼ね備えている場合がある。

 私の三倍はあるだろう、巨大な体躯。それに見合わない速度で襲い掛かってきた。


「分からないのであれば、殴ってみればいい」


 物は試しだ、初見の相手など殴れば大抵のことは分かる。力は、ぱわー。力こそ正義である。

 魔力強化は対グラトリアの時と同程度。七割の力で、降り注ぐ巨大な拳に向かって、真っ向勝負を仕掛ける。

 華奢な腕と、謎の魔力物質でできたゴーレムの剛腕がぶつかる。常人であればいとも容易く弾けるであろう、強烈な威力。

 力負けしたのは、剛腕の方だった。小さな拳が抉る様にめり込み、そのまま腕を砕いてしまった。

 うむ、やはり殴れば壊れる。世の道理だな。


 しかし、想像以上に、やるな。

 核ごと粉々に砕く勢いで殴ったと思ったが、ゴーレムの強度は私の予想を上回った。


「堅いな」

「物理耐性でしょーかー」

「なら魔術も試すか。【弾けろ】」


 殴り合いで自身の腕が押し負けた事が信じられないのか、こちらへの歩みを止めたゴーレム。しかしそんなことは知らない、念じた魔術はもう片方の手へと向けられている。

 内部からの爆発をイメージしたそれは、先ほどと同じように七割の力で放たれた。

 腕が砕け散る、または身体ごと吹き飛ぶ。そんな姿を想像していた。


 しかし。またもや予想に反し、ゴーレムの腕は健在だった・・・・・


「ほう」

「あー……これ魔術耐性ですねー。わたくしと相性悪いですー。もしかしたらどちらも備えているのかもー?」


 もちろん無傷というわけではなく、今にも崩れそうな様子である。

 しかし、耐えきったというのもまた事実。

 いくら最も威力の低い形式とはいえ、仮にも私が七割で放った魔術である。
 それを耐え抜くというのは、並大抵のことではない。少なくとも、メリウスレベルで致命傷で済めばいい方だ。


「これは、確かに人間では相当に厳しいな」

「よく十八階層まで行けたものですねー。十階層毎に割と強いのがいたと思うんですがー」

「それは初耳だ」


 軽く話してはいるが、一応戦闘中である。ただ、両腕がほとんど使えないデカブツなど恐るるに足らず。万全でも同じことだが。

 ただ目の前のゴーレムよりも、十階層ごとに出てくる割と強いの、という存在に注意が向いてしまう。

 ようやく襲い掛かってきたゴーレムの核を飛び蹴りで粉々に砕きながらライラへ問いかける。


「魔大国の六大迷宮ではどんな奴だった?」

「デカい蛇みたいなやつでー、そこら辺の家を丸呑みできそうなサイズでしたー」

「苦戦したか」

「グラトリアとエニディアが抑え込んでる間にー、他五人でー合成魔術を使って仕留めましたー。巻き添えで二人が瀕死になりましたけどー、一撃ですー」


 ああ、うん。そうか。

 過去のグラトリアと、それからいまだ姿を見ていないエニディアへ、せめてもの合掌を送った。


 さて、初戦も無事終わった事だ。強い事には強いが、この程度であれば集団で襲い掛かってこられたとしても問題はないだろう。


 まだまだ先は長い。
 私とライラは迷宮の中を、ひたすら駆け続ける。


 背後に感じた嫌な気配は、今も消えないままでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...