27 / 37
第一章 王国動乱篇
第二十話 耐性②
しおりを挟む
瞬時に視界が切り替わり、私たちは広い空間にいた。
魔大国の修練場と同等か、それ以上か。それ程までに広大な場所だった。
そして、それは不意に現れた。
何もいない空間。いや、何もいないはずだった空間に、突如として巨大な獣が姿を現した。
見下ろすように向けられた二つの眼は、魔眼だろうか、歪に光を放っている。
鋭い鉤爪は私達を切り裂かんとばかりにこちらを向いていた。
逆立った鱗、自身の体躯程の長い尻尾。どれか一つをとっても、人を容易に殺し得る兵器となる。
「バジリスク系か」
「なんの魔眼ですかねー」
「あんな低級のモノ、食らわんだろ」
バジリスク系の魔物の特徴は、一様に魔眼を持ち合わせている事だ。
石化だったり、魅了だったり、麻痺だったり。人間にとっては多大な危険を伴う相手だろう。
しかし、元から魔力に対する耐性を十分に備えている私達にとって、そんなものはただの光る眼に過ぎない。
それでは、殴ってみるとするか。
強化のレベルは、九割。ほとんど全力と言っても差し支えない程の力だ。
足に力を入れ、踏み込む。
地面が抉れ、土煙が巻き上がる。
一瞬にしてバジリスクとの距離をゼロにすれば、がら空きの腹部へ向かって腕を振りぬいた。
鈍い音と共にバジリスクが一歩後退、身体を丸めるようにして衝撃を受け流そうとしていた。
が、完全には威力を殺せなかったようだ。鱗が数枚剥がれ、わずかに足元がふらついている。
「痛い」
殴った拳には、いくつかの切り傷、そして血が流れていた。鱗の強度は想像以上か。ゴーレムより硬い鱗って何事だ。
「いや、いやいや。普通あんなの殴りませんってー」
「魔術が効きにくいのなら、殴ってみるのが普通だろう」
「めっちゃ痛そうじゃないですかー、あの鱗ー」
このまま殴り続けてもどうにかなるのだろうが、相手がどのくらい耐えるのか分からない以上得策ではない。
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
殴られた痛みからか、雄たけびを上げてこちらへ突っ込んでくる。
巨体からは想像もつかないくらいの速度だ。
しかし、この程度に当たる私達ではない。
当然のように【短距離転移】で背後へと回り込む。
標的を見失ったバジリスクは、ノータイムで尻尾を縦横無尽に振り回す。だが悲しきかな、上空にいる私達には当たらんのだよ。
「これ相手に接戦をする、というのものな」
「体力が多いだけの的ですよー」
「それじゃあ、お前たちがやった方法でいこう。私とライラの、合成魔術だ」
「わかりましたー。何使いますー?」
「そうだな…………いや、待て。流石に詠唱の妨害くらいはしてくるだろう。ここは安全に、幻獣に時間を稼いでもらう」
以前にも言ったが、私が使えるのは魔術だけではない。幻界、というこの世界の裏側に同時に存在している世界から幻獣を呼び出す、召喚術も扱える。
正確には契約を結んだ結果なのだが、意味合いは同じだ。
「まおーさまってー、そんなこともできるんですねー」
「召喚術を最初に作ったのも、私だからな」
「…………はえー」
「じゃあ、数秒時間稼ぎ頼んだぞ」
「やったりますー」
悠々とバジリスクの前に躍り出るライラを横目に、詠唱を開始する。
懐かしいな、誰を呼び出そうか。
この程度の魔眼が効く奴はいないし、誰でもいいと言えばいいが…………よし。
展開された 魔法陣は、八重。
封印から覚めて以降、行使した魔術の中で最も質の高い魔術。
『----幻界に座する神速の王よ、この声に応えてくれるか。盟約の友に、親愛の証を』
「来い、【召喚術:白狼ヴェルフェール】」
世界を繋ぐ、真なる召喚術。
現界と幻界を引き合わせる、神話の魔術。
一言一言、慎重に魔力を練り上げる。
体内の魔力がごっそり削られる感覚に、思わず苦笑いを漏らしてしまう。
足元の魔法陣から眩い光が放たれる。そこから、圧倒的な存在感が生まれた。
正真正銘、生物としての格が違う、存在。
「随分とみっともなくなったモノだなぁ、ノア」
「は、余計なお世話だヴェルフェール。貴様こそ、眠りすぎて運動不足じゃあないのか?」
「たわけ」
内包する魔力も、溢れ出るオーラも、規格外。
くつくつと笑うその姿は、誰もが見惚れる美しい毛並み持った、巨大な白狼であった。
後にライラは語ったという。
仲良く笑うお二方の姿は正に、御伽噺の出来事だった、と。
魔大国の修練場と同等か、それ以上か。それ程までに広大な場所だった。
そして、それは不意に現れた。
何もいない空間。いや、何もいないはずだった空間に、突如として巨大な獣が姿を現した。
見下ろすように向けられた二つの眼は、魔眼だろうか、歪に光を放っている。
鋭い鉤爪は私達を切り裂かんとばかりにこちらを向いていた。
逆立った鱗、自身の体躯程の長い尻尾。どれか一つをとっても、人を容易に殺し得る兵器となる。
「バジリスク系か」
「なんの魔眼ですかねー」
「あんな低級のモノ、食らわんだろ」
バジリスク系の魔物の特徴は、一様に魔眼を持ち合わせている事だ。
石化だったり、魅了だったり、麻痺だったり。人間にとっては多大な危険を伴う相手だろう。
しかし、元から魔力に対する耐性を十分に備えている私達にとって、そんなものはただの光る眼に過ぎない。
それでは、殴ってみるとするか。
強化のレベルは、九割。ほとんど全力と言っても差し支えない程の力だ。
足に力を入れ、踏み込む。
地面が抉れ、土煙が巻き上がる。
一瞬にしてバジリスクとの距離をゼロにすれば、がら空きの腹部へ向かって腕を振りぬいた。
鈍い音と共にバジリスクが一歩後退、身体を丸めるようにして衝撃を受け流そうとしていた。
が、完全には威力を殺せなかったようだ。鱗が数枚剥がれ、わずかに足元がふらついている。
「痛い」
殴った拳には、いくつかの切り傷、そして血が流れていた。鱗の強度は想像以上か。ゴーレムより硬い鱗って何事だ。
「いや、いやいや。普通あんなの殴りませんってー」
「魔術が効きにくいのなら、殴ってみるのが普通だろう」
「めっちゃ痛そうじゃないですかー、あの鱗ー」
このまま殴り続けてもどうにかなるのだろうが、相手がどのくらい耐えるのか分からない以上得策ではない。
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
殴られた痛みからか、雄たけびを上げてこちらへ突っ込んでくる。
巨体からは想像もつかないくらいの速度だ。
しかし、この程度に当たる私達ではない。
当然のように【短距離転移】で背後へと回り込む。
標的を見失ったバジリスクは、ノータイムで尻尾を縦横無尽に振り回す。だが悲しきかな、上空にいる私達には当たらんのだよ。
「これ相手に接戦をする、というのものな」
「体力が多いだけの的ですよー」
「それじゃあ、お前たちがやった方法でいこう。私とライラの、合成魔術だ」
「わかりましたー。何使いますー?」
「そうだな…………いや、待て。流石に詠唱の妨害くらいはしてくるだろう。ここは安全に、幻獣に時間を稼いでもらう」
以前にも言ったが、私が使えるのは魔術だけではない。幻界、というこの世界の裏側に同時に存在している世界から幻獣を呼び出す、召喚術も扱える。
正確には契約を結んだ結果なのだが、意味合いは同じだ。
「まおーさまってー、そんなこともできるんですねー」
「召喚術を最初に作ったのも、私だからな」
「…………はえー」
「じゃあ、数秒時間稼ぎ頼んだぞ」
「やったりますー」
悠々とバジリスクの前に躍り出るライラを横目に、詠唱を開始する。
懐かしいな、誰を呼び出そうか。
この程度の魔眼が効く奴はいないし、誰でもいいと言えばいいが…………よし。
展開された 魔法陣は、八重。
封印から覚めて以降、行使した魔術の中で最も質の高い魔術。
『----幻界に座する神速の王よ、この声に応えてくれるか。盟約の友に、親愛の証を』
「来い、【召喚術:白狼ヴェルフェール】」
世界を繋ぐ、真なる召喚術。
現界と幻界を引き合わせる、神話の魔術。
一言一言、慎重に魔力を練り上げる。
体内の魔力がごっそり削られる感覚に、思わず苦笑いを漏らしてしまう。
足元の魔法陣から眩い光が放たれる。そこから、圧倒的な存在感が生まれた。
正真正銘、生物としての格が違う、存在。
「随分とみっともなくなったモノだなぁ、ノア」
「は、余計なお世話だヴェルフェール。貴様こそ、眠りすぎて運動不足じゃあないのか?」
「たわけ」
内包する魔力も、溢れ出るオーラも、規格外。
くつくつと笑うその姿は、誰もが見惚れる美しい毛並み持った、巨大な白狼であった。
後にライラは語ったという。
仲良く笑うお二方の姿は正に、御伽噺の出来事だった、と。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる