ポンコツ能力は使いよう!?~戦術で最強を凌駕する~

シロクロ

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7 ザ・ポンコツパーティー

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 昨日の晴天から一転、空は曇天に覆われ雨粒が音を立てていた。
 本日は雨。
 そんな外してほしかった天気予報は的中し朝早くから降り続けていた。
 そこまで強くはないが好きな人なら兎も角、濡れるのが嫌な人にとっては朝からうんざりするだろう。
 
 その中の一人であるアサギ。朝から早々に目が死んだ魚の目と成り果てため息をもらす。
 「あぁ、なんかダルっ」
 ガーディアンのフロア二階。いつもの席で頬杖をついた。
 そんなアサギのもとへ三人が集合する。
 「アサギ、揃いましたよ?」
 あくびをしながら言葉通りダルそうにするアサギに兼拍が言う。
 「んじゃ、移動するか」
 席から立つとうーっと今にも死にそうな声を出しながら背伸びすると上のフロアへ向かう。


 ガーディアン三階。トレーニングフロア。
 ここでは三つの箱のような部屋と二階と同じような戦闘訓練用の部屋が並ぶ。
 箱のような部屋はどれもかなり大きく人百人近く入っても余裕があるほど。この箱はガーディアン隊員からはトレーニングボックスとそのままの名前で使われている。
 今回アサギたちの用があるのはそのトレーニングボックスだ。
 機能としては戦闘訓練用のルームと同じだがその機能に加え魔法が無限に使えるというルームだ。そのため連携、魔法のコンボ当の練習に使われる事が多い。
 
 「始めるぞ」
 さっそくトレーニングボックスに入る。人は朝のためか全然居らずほぼ貸し切り状態だった。
 今回やることは勿論魔法。
 「約二ヶ月後の団体戦に向けて頑張ってくれよ」
 
 団体戦
 ガーディアンにはチームを組むと団体戦への参加を認められ、ランクに分けられ三巴、四巴で戦い自分たちの順位を上げどんどん強くなろう、という目的のもとに開催される。ランクと順位は近いチームと当たり勝てば上へ、負ければ下へ下がる。ランクは上からABCDEまでありアサギたちは現在Dランク。

 三ヶ月に一回、年四回あるこの大会は毎回接戦につぐ熱戦で盛り上がっている。
 アサギたちもその大会に参加の条件を満たしているため参加可能となる。
 そのための特訓、という形で今回。
 「今日は個人練習してもらおうかと思う」
 大会は二ヶ月ある。その大会は団体戦。そのための特訓で来ているのに個人練習。アサギの矛盾とも捉えられる発言に三人は困惑する。
 「まずは一人である程度戦えるようになってもらう。それから連携とか、ってわけ」
 なるほど、と三人は納得。戦えないのに集まったところで、という訳だ。
 「なにをすればいいの?」
 具体的に、と宮越。
 「それは今から指示する」
 トレーニングボックスではいろいろな設定で出来る中、通常のモードに設定。
 「今回から一週間は個人練習にする。一人一枚プリント作ったからそれ見てやって」
 A4のプリントを渡す。
 受け取った三人はそれぞれ自分の練習メニューを確認する。その練習メニューに目を通した瞬間三人は一斉に声を上げた。
 「え!?」
 「これが!?」
 「ん!?」
 プリントは一枚。難しいことなど書いてはいない。むしろ簡単過ぎるのだ。
 まず、兼拍。
 
 一、魔力を放出。それを一定の大きさ、流れに保つ
 二、これを先ほどの用量で体の一部だけで行う。最終的に一本指だけで行えるようにらする
 三、放出した魔力で自分が思い描いた形に変形させる
 四、これを出来るだけ小さく、細かくする
 五、数センチ程度に抑え、小さな丸を作る
 六、これらを複数同時に作る
 七、自分の体から切り離し、周囲に漂わせる
 八、漂わせたものを自分の体を軸に回転させる。これらを複数同時で行う
 九、逆回転、大きさをバラバラ、軸をずらすなどを出来るようにする

 次に宮越。

 一、剣技の習得、鍛練
 二、回復の速度、範囲の上昇に向け連続使用
 三、繰り返し

 最後に茅世弥。
 
 一、弓の練習
 二、対魔力弾の対策。距離五十センチでガードの練習
 四、ワイヤートラップの使い方、練習
 五、それらの応用、対策

 こんな感じだ。
 到底魔法のどうのこうのの話ではない。プリントにはもっと詳しく図まであるためわかりやすい。が、それよりもである。
 「あの、どういうことですか?」
 とても戦えそうにはない練習と意味のあるのかすらわからない。
 兼拍を筆頭に次々に不満と撤回の要請。
 「…………私に関しては三つしか無いんだけど…………」
 宮越の目が死んでゆく。
 「私の練習方は何だか初のことばかりなのだけど?」
 無表情のアサギ。
 この練習メニューはアサギが百パーセント考えたやつであり勿論強くなってもらうためのもの。
 この練習メニューは三人の要望にしっかりと答えていた。
 兼拍は杖で魔法を自在に使いたい、魔法を上手くコントロールしたいと。宮越は太刀で戦えつつも回復役として成長したい。茅世弥は今は短剣のみだがその内遠距離でも戦えるようになりたい、と。
 アサギからはこれが最善だと思った。
 「まぁ待て。まずはやってみろ」
 いつにもまして真面目な顔で答えるアサギ。そんなアサギの表情に圧されてかしぶしぶとプリント通りに進めることにする。
 
 その間にも一人、また一人と増えていく人。いつの間にか数人増えていた。誰でも使えるため周りの人も何かしらの鍛練を行っている。
 「お前らも頑張れ」
 無責任な一言を置いてアサギはトレーニングボックスから出ていった。
 「あ、ちょっ、」
 勝手とも言えるような行動に兼拍が止めようとするも既に遅し。アサギはとっくに行ってしまった。
 仕方ないので続けることにした。


 時は流れて一時間。
 兼拍は一、二を終え現在三にまで到達。ここまでは簡単だったが三がこれほどになく難しいのだ。

 三、放出した魔力で自分が思い描いた形に変形させる

 この三の自分が思い描いた形に変形するのが恐ろしく難しかった。
 魔力を放出、可視化出来るほど放出した後体の部分的な所まで持ってくる。ここまではものの数分もかからずにクリア。次がなかなか上手くいかない。形にしようともまずならない。思った通りに動きもしない。
 宮越は素振り、構え、初動の確認など繰り返し回復の連続発動を繰り返していた。
 茅世弥は弓がないので二人の様子を見ていた。
 「はぁ、何度やっても出来ない。どうしたら…………」
 繰り返すごとに嫌になる。
 「大丈夫よ。まだ始めたばかりだし、これからだよ」
 優しく言ってくれるのは茅世弥。暇だからかもしれないがずっと見守ってくれることや彼女なりにアドバイスをくれるので前よりはひたむきに出来る。


 一方アサギは何かの買い物を済ませ戻っているところだった。すると案の定がいた。
 「…………おい、本当に大丈夫か?」
 知り合いってほど言えるような仲ではない。ただ通りすがった裏路地にボロボロの彼女が座り込んでいたのだ。
 年齢はおそらく宮越ぐらい。ボロボロ、傷だらけの体はとても大丈夫そうには見えなかった。
 来る時も通ったので不憫に思ったアサギは何となく声をかけた。しかし返ってきたのは、
 「うるさい、話しかけるな」
 この一言。
 そして今も声を掛ければこれだ。
 かすれた、弱々しい声で虚勢を張るように。本当は大丈夫じゃあないだろうに。
 「……………」
 来るために通った時はこの一言で会話は終了、アサギはそっ、と場を離れた。
 しかし今回はそうもいかなかった。
 
 ただ、何となく。

 困っている人がいてもアサギは進んで手を差しのべるできた人間ではない。勿論それは自分が一番よくわかっていた。柄でもないことも。
 気まぐれだった。本当にただ〝何となく〟。
 「………本当は大丈夫なんかじゃないんじゃないか?」
 彼女の目の前にしゃがみこむ。
 「………………」
 そんなアサギを目をしたに向け剃らす。そして小言で何かを呟いたが何を言っているかは聞き取れなかった。
 「お前、ガーディアンだろ?」
 これも何となくそう感じた。
 この切りだしかたにはさすがに下を向いた彼女も驚きの様子で顔をあげる。
 が、すぐに我にへと返りまた暗い表情で。
 「うるさい、どっかいって」
 今度は睨み付けるように。そう言った。
 「お前はこんな所で何してる?」
 ガン無視。
 周りに人などいないがそれはちょっと、と誰もが思うであろう。
 「無視するな、お前なんか…………」
 「なら俺の話も聞け。そしたら勝手にどっか消えるさ」
 まるで始めからこうするつもりだったとも思えるほど単純な言い回し。
 ぐっ、と詰まる彼女だったがゆっくり、ポツリポツリと話始めた。

 親から捨てられ、兄妹(話では兄がいるそうな)からは見放され、元々柄の悪い家族で警察の世話になることも少なくないらしい。
 働く所も見つからずこれまでの出来事から誰も近寄らず最終的にはガーディアンに入ったと。
 しかし悲劇となるのはそこからだった。ロクに使えなかった魔法。戦うにも戦い方も知りはしない。そんな状況でただ一人。もはや戦いは孤独との戦争になっていった。
 友達も作れず生きるためにも危ないことにまで手を出した。ヤバめの人から目をつけられそれで稼いだ金も消えていく。周りは助けてはくれない。
 
 「元々やって来た事だろ?」
 「バチが当たったんだよ」
 「、てか何も出来ないんだろ?」
 「無能だな」
 「社会のゴミめ、消えてしまえ」
 
 周りで見ていた人は更に追い討ちをかけるように罵声を浴びせた。
 殴られ体は次第にボロボロ、いつしか生きたいという感情は死んでいた。
 新たに生まれたのは死にたいという願望。そして虚無感に浸りながら自分の死を待っていたようだ。
 ここからはアサギ自身の予測になるが栄養のあるものなどほとんど食べなかっただろう。

 これらを自らの口で話すには重すぎた。
 話はじめてから泣き始めてしまった。弱々しく自分が何をしたのか、わからないまま。
 怒った。なぜこんな酷いことをするのか。
 殺してくれ、と願った。こんな残酷な世界は嫌だと。
 悲しんだ。なぜ誰も助けてはくれないのか。
 アサギは何も言わず話を聞いた。何も言えなかった。何も知らない自分が口を挟めるほど軽いものではない。
 名前は自然と彼女から話した。
 死ぬ前に当て付けだけど知っていてほしかったと。
 名前は南 波留みなみ はると言うらしい。
 誰も愛を込めてはくれなかった名前。
 
 彼女は散々というほどに泣いた後、意を決したかのように立ち上がる。そんな彼女は笑顔だった。明らか不自然な。
 「もういい。もう、いい。最後にあなたに会えて良かった、どうか私のことは忘れてほしい。」
 いつもの小声で。しかしはっきりとしていた。彼女は死ぬらしい。そんなのはアサギにでもわかった。
 彼女は裏路地の更に闇深く、奥へと歩み始めた。

 パシンッ

 響いた音の正体はアサギが彼女の手をつかんだ音だった。
 振り返り見たアサギの表情は無。慰める顔だも同情する、また悲しむ顔でもない。何も考えていないような顔だった。
 「いや、ちょっと待てよ。このまま死なれたら夢に出そうなんだけど。どうしてくれんだよ忘れられねーよ」
 怖いからやめろ。ただその一言だった。
 「離して、もう嫌だ」
 歩く力がこもる。しかしアサギの非力そうな腕からどうやって出ているのか全く動かすことはかなわなかった。
 「お前、本当に死にたいのか?」
 死ぬ前の人に言うことではなかった。
 決心はついている
 「当たり前じゃん。死にたいんだよ」
 「ああ、そう。ならさ。なんでお前はここで待ってた?誰か救ってくれる人を待ってたんだじゃないのか?なんでそんなにもなんだよ?」
 アサギの言葉は図星か。彼女の頬には涙が伝う。熱い、そして大粒の。
 アサギはあのときと表情は一切かわってはいない。むしろ死ぬなら止めはしない。そんな関わらないような表情。
 そう思ったが死ぬことは全く伝わって来なかった。
 生きたい、けどそんな希望はないと言っているような気がした。
 「なら、どうすれば?」
 「お前、ガーディアンだろ?俺のチームに加われ。後一席空いてたしこの際ポンコツが一人増えたところで変わらんしな」
 そっ、と腕から手を離す。
 彼女の腕がダランと力が抜けたように下がる。そして膝をついた。
 「本当、に?私が必要?」
 「知らねーよ。
 本当に無責任だ。生きたいんじゃないのかと言いながら必要かはわからないと。しかし彼女にとってチームとして迎え入れてくれることはとても嬉しかった。
 恐らく彼女は始めて受け入れてくれる人を見つけたのだ。
 「うん、うんうん」
 アサギの言葉に泣きながら、鼻をすすりながらみっともなく頷いた。

 こうして一時間数分後にアサギは南を連れ戻ってきたのだ。
 「ただいま」
 存在がないかように静かにそしていきなり現れるアサギ。
 「!?あ、アサギ?びっくりしました」
 「え?脅かすつもりはなかったけど?」
 本当に脅かすつもりはなかった。
 そんなに影薄いかな?と真面目に考え始めてしまう前に茅世弥が止めた。
 「あ、そうだ。私進まなかったんだけど?」
 最初にありもしない弓の練習から書かれてあり、順番を入れ換えるのはダメとも書かれていたのでどうすることも出来なかった。
 「それについては解決済みさ」
 アサギが持っていた包みを渡す。
 その中に入っていたものは組み立て式の短弓だ。それもなかなか高そうなもの。
 「うわぁ」
 そんな物を投げて渡すアサギ。慌てて受けとる茅世弥はキャッチしたときに安堵した。
 「ふう、じゃなくていきなり投げないで」
 「ああ、そんなことより…………」
 「そんなこと?」
 無視して続ける。
 「朗報と悲報。どちらから聞きたい?」
 腕を組ながら言うアサギ。
 兼拍と宮越は絶賛特訓中だったのでその手がピタリと止まる。
 「悲報、からがいいかな?」
 気分を上げてから下げるのではなく下げてから上げたい派の宮越。
 兼拍はどちらでもいいと素っ気ない。
 茅世弥は「ちょっと?話聞いてる?」とまだ続けているので無視。
 強制的に宮越の意見が通る。
 「おう、まず悲報だが…………金がまたなくなりまして………」
 アサギを見るめが段々と冷たいものへと変わっていく。
 「短弓を買ったせいで」
 その言葉で茅世弥だけ視線を泳がせる。
 「それで、朗報とは?」
 はぁ、とため息をつきながらもいつものアサギだと呆れたようすを見せるが動じない。
 「あー、それなんだけど…………もう一人仲間が増えました。これで全員そろったな」
 紹介する南。照れ臭いのか斜め横に視線を逃がし動かない。
 「お前らとだよ」
 その言葉に三人は?と首を傾げるがすぐに理解した。
 ポンコツであると。
 「五人目だね。これからよろしくね?」
 名乗り出た陽キャは宮越。
 心の中でこっそりアサギは
 (こいつは誰でも仲良くなれそうだな)
と、人関係の面倒事は宮越に押し付けることが確定した。
 テレテレとあまり馴染めないかと思われたが宮越の明るさに救われた。
 すぐに心を開き互いのことを話合う。
 「おーい、楽しくなるのはいいがこれから特訓だぞ?」
 思い出したかのように三人は「「「ああっ!」」」と言いながらも楽しそうにしている。
 「よし、これからこのパーティーで行くからな。困難も覚悟しとけよ?それがわかったら早速戦い方を学んでもらう」
 本当だったらポンコツとか御免とか考えていたが弱い手札で戦うの面白そうだなぁとか変なことを考えもう諦めた。
 せっかくだし勝ち進んでやろうと、決意するのであった。
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