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第2話・過去と今

2-03・みぃちゃんとみぃちゃん

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 とは言えここで、ヨウコの子供だとか、玄夜の親戚だとかいう言葉が出て来ない辺り、エツコは二人のことをよく知っていると言えるだろう。
 とにかく、玄夜にとって、意味が分からなかったのは間違いなく、そしてエツコの視線を追った先にいたのは、なるほど確かに子供だった。
 書店の奥、住居部との境目にある引き戸からこちらを覗いているのは見覚えのある少女。

「え?」

 肩を少し超すぐらいの、癖のある柔らかそうな髪をした、4歳か5歳ぐらいに見える少女は、つい先日の依頼人。

「みぃ、ちゃん……?」

 ヨウコが親元へと帰したはずのその姿に、玄夜は一瞬固まってしまう。
 だけど次の瞬間、その少女が、にしゃとどうにも少女らしからぬ顔で笑うのを見て、玄夜は今度は別の意味で驚いていた。

「いや、違う、君は……」

 いったい誰なのか。
 笑い方だけで、少女が、玄夜の知っているみぃちゃんじゃないことがわかる。
 否、多分きっと少女ですらない、それぐらいに今の笑みは、到底、幼い少女が浮かべるとは思えないようなものであり、言葉を飾らず言ってしまうと、無邪気どころか、どうにも邪気に満ちていた。
 警戒する玄夜に、今度は面白がるように少女は声を立てて笑った。

「あっはっは。なんじゃ小童、わしがわからんのか。なんと察しの悪い奴よ」

 まるでからかうような言い草に、玄夜はきゅっと眉根を寄せる。
 エツコは、玄夜と少女を交互に見て、ただただ驚いているばかり。
 わかる、わからない。そんな言い方をするということは、玄夜は少女を知っているということだ。
 だけど玄夜には心当たりなどないし、表情や仕草、口調はともかく、少女の顔の造作などに関してだけは、本当に先日の依頼人である、みぃちゃん……――満香ちゃんにしか見えないのである。
 なのに違う、それだけはわかって。
 険しい顔をする玄夜の目の前で、中途半端に開いていた引き戸がすっと更に押し開かれる。
 ぬぼっ、面倒くさそうな溜め息と共に顔を出したヨウコは、目を細めて少女を見たかと思うと、

「ちょっと、おいた・・・しすぎ」

 言いながら無造作に少女の頭を掴み少女を後ろへと追いやったのだった。

「えぇっ?! ちょ、ヨウコさんっ?!」

 あまりに乱暴に見える少女の扱いに、エツコが悲鳴のような声を上げる。

「ああ、大丈夫大丈夫、問題ないから。」

 そんな風に適当に取りなしているヨウコを見ながら、驚いたのは玄夜も同じだが、あの少女の様子を見てしまうと、ヨウコの行動が、おかしいとも思えなかった。
 ただ、ヨウコがそんな風に無操作に誰かを扱うのはひどく稀で、それぐらいヨウコとあの少女は親しいのかと思うと、なんとなく面白くない気分になって、そんな自分に気付いて、玄夜は内心首を傾げた。
 とは言え、今は先ほどの少女のことである。
 玄夜のように驚いていないということは、ヨウコはあの少女を知っているということだ。

「ヨウコさん、今のは、」

 訊ねようとした玄夜に、ヨウコはまたしても溜め息を吐いた。

「ああ、玄夜くん、ほんとにわかんないんだ」

 ヨウコにまで少女と同じようなことを言われむっとする。
 わかるわけがない。
 言い返す前にヨウコは応えを口にしていた。

「あれ、みぃちゃんだよ」
「え?」

 玄夜は混乱した。
 確かに、みぃちゃんだ。そうにしか見えない。
 だが、みぃちゃんがあんな表情をするとはとても思えなくて。
 理解できない玄夜をちらと見て、ヨウコは次いで部屋の中の、おそらく少女の方にだろう、視線をやって、そして改めて玄夜の顔を見た。
 どこまでも面倒くさそうに。
 仕方ないなぁとでも言いたげに。

「だからぁ、みぃちゃん。こないだから居ついてるでしょ?」

 居ついている。
 そう表現される対象など一つだけ。
 それはつまり……――。

「猫又のみぃちゃん。わかった?」

 ヨウコの呆れかえった声に、

「えっ?」

 玄夜はやはり、目を丸くして驚くことしか出来なかった。
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