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第2話・過去と今
2-02・エッちゃん
しおりを挟む踏切を超えて回り込み、商店街に差し掛かる。
駅周辺は、それなりに人波があるが、しかしそこから離れれば離れるほど、次第に周囲から人が減っていく。
学生の、ましてや子供の姿などほとんど見かけない。
過疎化の波は、この辺りにも押し寄せてきているということなのだろう。
ちょうど、書店へと続く角を曲がろうとしたところだった。
「玄夜くん!」
後ろから掛けられた、聞き覚えのある声に振り返った。
「え?」
そこにいたのは、やはり近隣にある公立中学の制服であるありふれたセーラー服を身にまとった少女。
ちなみに玄夜の通っている高校の男子生徒の制服は学ランなので、今、玄夜が身に纏っているのも勿論、学ランである。
「ああ、エッちゃん」
エッちゃん、は、少女のあだ名だ。顔見知りの少女だった。
確か名前はエツコだったはず。
陽が落ちてきて、赤くなり始めた景色の中で、少女はにこと微笑んだ。
「お久しぶりですね。今帰りですか?」
言いながら近づいてくるのへと頷く。
「うん。そういうエッちゃんも今帰り? てゆっか、もう中学生なんだねぇ」
数年前から知っているので、制服姿がなんだか感慨深かった。
「やだなぁ、玄夜くんったら。前会った時と同じこと言ってる。私もう二年なんですよ? 中学入ったのは去年! 今更です!」
怒ったような口調を装って入るが、表情は笑っていて、ただの軽口だと知れる。
玄夜も笑った。
少しだけ申し訳なさそうに。
「ええ? そうだっけ? ごめんね、もっと小さいイメージがあって……」
玄夜がエツコと初めて会ったのは数年前。
勿論、彼女はヨウコへの依頼に関係している人物だった。
「それって、依頼した時ってことですか?」
「そう」
厳密には依頼人は彼女ではなかったけれど。
「確か、その時の君は10歳だったはずだ」
まだほんの子供だった。
中学二年となる今も充分、子供だけれども。
「ってことは、そこから計算すると、4年前ってことになるんですね。うわ、なんだか懐かしいな」
懐かしい、というには近い気がしたが、それはエツコがまだ十代だからなのだろう。
十代の4年は長い。
「その時を思うと、ほんと大きくなったよね。髪も伸びて……」
あの時、一度短くなったはずの、少し茶色みを帯びたエツコの髪は、今は腰に届くほどにの長さで。
「っ、そう、ですね……もうそろそろちょっと切ろうかなって思ってますよ?」
「ええ? キレイに伸ばしてるのに。もったいないな」
返事を一瞬、躊躇ったエツコに気付かず、玄夜はおどけたように軽く笑った。
なんとなく、二人並んで書店の方へと歩き出す。
エツコは多分、こちらに用はないと思うのだけれども、久しぶりだしもしかしたらヨウコの顔を見てから帰るのかもしれないと思い至った。
彼女の家は、ここからごく近いのだ。
ただし、書店の辺りには近づくことなく暮らしていけるような場所だったはずなのだけれども。
「その後はどう? 弟さんは元気?」
依頼人はその彼女の弟だったはずだ。
思い出しながらの玄夜からの問いかけに、エツコはにこと微笑んだ。
「何も心配ありませんよ? みんな元気です」
「そう。よかった」
そんな他愛ない言葉を少し交わす間に、すぐにも書店へと辿り着いてしまう。
なんとなく名残惜しくなった玄夜は、彼女に、よければ寄って行かないかと声をかけようとした。
その時だ。
「あれ?」
エツコが何かに気付いたように目を見開く。
何に驚いたのかわからなかった玄夜は、だけど次の彼女の言葉に、ぎょっとして振り返っていた。
なぜなら、彼女の言葉が、
「あれ? ヨウコさん、お子さんを何処かから預かってるんですか?」
そんな、全く玄夜には心当たりなどないようなものだったからだった。
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