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18・外から見た故国
しおりを挟む国境は、予想していたよりもずっと容易く超えることが出来た。
特に何も問題もなく、誰に止められることもなく。
このまま私と父は、隣国アンセニース大王国にいる、母の実家へと身を寄せる予定となっている。
そちらには余っている爵位もあるだとかで、流石にこれまでのように宰相だとか公爵位だとかいうわけにはいかないが、子爵家として、過ごせる予定となっていた。
以前からずっと準備し続けてきたことで、叶わなかったのは偏に、私がシュネス殿下の婚約者のままであったから。
それさえなくなれば。
否、可能な限り王妃様のご不興を買わずに国を出たかったのである。
今回はシュネス殿下の方から口にされた婚約破棄と国外追放で、少なくとも私達の方から申し出るよりはずっと、王妃様のご不興を買わずに済んだことだろうと判断した。
なにせ気に食わないものに刺客を差し向けることばかりに苦心する王妃様なのだ。
ご自身の思う通りにならないことをお許しにはならず、ご不興を買うことはすなわち、命を狙われることを意味している。
これは周辺諸国にまで有名なことで、そもそも我が国は以前より、そういった王妃様ご自身の態度も相俟って、外交も何もなく、周辺諸国からはいっそ存在しない国か何かのような扱いを受けていた。
流石に商人や個人単位でまで出入国出来ないだとかそう言ったことはなかったけれど、国と国としてのやり取りなどまるでない。
何なら商人たちも心ある者であればあるほど、見切りをつけてはどうかと言われることさえしばしばだったとか。
よそより税も高く、国に留まり続ける利点もなく。
それでも今日まで国が国であれたのは父をはじめとした一部の貴族や官僚たちが、なんとか苦心して、体裁を保っていたに過ぎない。
そして我が家のように他国に伝手のある者は皆、相手から、早く国を出た方がいいと勧められているような始末だった。
幸いなのは、コリデュア出身だと知られても、同情されることの方が多いことぐらい。
なにせいったい誰がよろしくないのかが、誰の目にもあまりにも明白だったので。
あのような国に生まれて気の毒だ、というのが、大方の見方なのだそうだ。
実際に、辿り着いた母の実家では、
「よく無事に逃げてきた」
などと、そのような言葉で労われた。
誰も、私や父を責める者などなく、これまでよく耐えた、よく逃れられたとそう。
皆の温かな厚意に、私は泣きそうになるばかりだった。
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